「伝えたいこと」で伝えたかったこと

──「伝えたいこと」というナンバーにも新しいchayさんの匂いを感じました。この曲は先行配信されていましたし、アルバムの1曲目に配置されていることからも大事な楽曲なんじゃないかなと予想したのですが。

そうですね。自分の作ったデモの段階ではギターの弾き語りで、ミディアムバラードみたいな雰囲気だったんです。でもアレンジに移る段階で、武部さんから「洋楽っぽいサウンドにしてみたらどうかな」と提案していただいて。最初はちょっとイメージが湧かなかったんですけど、やってみたら面白そうだと思えたので挑戦しました。それで私の中で洋楽っぽい今どきのサウンドを作る方という印象のあったYaffleさんにアレンジをお願いすることにして。何度も何度もやり取りして手直ししていただいた結果、仕上がったアレンジはものすごく素敵なものになりました。歌詞の面でも、まさに今の私が伝えたいことを言葉にできた気がします。

──普通に聴けば終わった恋を歌うラブソングだと思うんです。でも、その裏にはもっと強い思いが込められているような気もして。

すごいですね。その通りなんです。実はこの曲を作るきっかけになったのは私の大切なスタッフさんが亡くなってしまったからで。そのときに感じた自分の後悔から生まれた曲なんですよね。とは言え、暗くネガティブな感じの曲にはしたくなかったので、リアリティをもって描くというよりは、聴いてくださる方の受け取り方によって形が変わっていくような普遍的な内容にしました。単純にラブソングとして捉えていただいてもいいですし、家族や友達、ペットや恋人といった大切な方のことを当てはめて聴いてくださってもいいかなと思います。この曲で私が一番伝えたかったのは「大切な人との大切な時間はいつなくなってしまうかわからないもの、だからこそ伝えたいことがあるなら今、伝えるべきなんだよ」ということです。そういった経緯と思いで書いた曲だったので私自身ものすごく思い入れが強い曲になりました。

30代に向けて

──chayさんの持つ魅力を改めて突き詰めると同時に、未来につながる挑戦もたっぷり詰め込まれた本作を聴くと、ここから先の活動への期待が膨らみますよね。そのあたりご自身ではどうですか？

そうですね。年齢的に言えば29歳から30歳になるって人生の大きな節目の1つだと思うんですよ。でも、身近にいる方が「30代が一番楽しいよ」と言ってくれたりもするので、私自身もこの先の未来に対しては楽しみな気持ちが大きいです。年齢を重ねれば重ねるほど人間としての深みも出るだろうし、素敵な出来事もきっとたくさんあるはずだから。音楽面に関しても今回の制作で変わってきた部分もたくさんあったんですよ。

──どんな変化がありましたか？

スタッフの中で自分より年下の方が増えてきたこともあって、さまざまな場面で私に委ねられることが多くなってきたんですよね。昔からそうなることを望んでいたんですけど、実際その立場になってみると迷ってしまうことも多くて（笑）。今回は、そんな私を武部さんが引っ張ってくださったところがありましたけど、きっとこの先は私がその役割をすることになるんだろうなって。

──現場をハンドリングして、ご自身がchayをプロデュースしていく感じで。

そうですね。今回の制作を通して、そうなっていかなきゃと強く思いました。そもそも自分はそういう役割をやりたいタイプだし、デビューの頃からこうしたいという意思ははっきり言うほうだと思うんです。それに加えてこれからはもうちょっと自分を客観視できるようにもなることも必要なんじゃないかな。それはすごく難しそうだし、正直大変そうではあるけど、すごく楽しみでもありますね。

──来年2月には全4公演のツアーも控えています。アイデンティティクライシスを乗り越え、不安や焦りを浄化したchayさんがどんなパフォーマンスを見せてくれるかが楽しみです。

今までと変わらず、耳だけじゃなくて目でも楽しめるようなライブ、非日常的な世界に連れ行けるようなライブがしたいです。ただ「Lavender」というアルバムは、いつも以上に届けたいメッセージが詰まった作品になったので、より歌を届けられるステージにしなきゃなっていう思いもあって。だから今までと比べると、ちょっと引き算したライブになるような気もします。

──シンプルに歌を届けることに重点を置いて。

そういう場面があってもいいかなって。ただ、今回のアルバムの曲はライブで再現するのがけっこう難しそうなんですよね。「砂漠の花」なんかは、そもそも「どうやってやるんだ？」って感じでもあるし（笑）。私含めて、5人編成のバンドになるので、そのあたりはいい形でお見せできるよう、ここからじっくり考えていこうと思います。