最後は2人が納得できる作品を
──そしてラストアルバムの「誕生」では“チャットモンチー・メカ”というコンセプトを掲げ、打ち込みをメインにした制作を行いました。
菊池 まさかチャットモンチーが最終的にすべて打ち込みでアルバムを作り上げるとは、まったく予想してなかったです。10周年の武道館ライブ(2015年11月)が終わったあと、その次の方向性がなかなか見えてこなかったんです。彼女たちのキャリアの中でも初めてだったと思うんですが、半年以上の悩みの期間を経て「打ち込みでやろう」ということになって。当然、2人とも打ち込みのスキルはないわけで、「マニュピレーターの人に入ってもらう方法もあるよ」と提案したんですが、「それは違う」と拒否されて(笑)。最終的にあっこが自分で打ち込みをやることになったんです。AbletonのLiveというソフトを買って、イチから勉強しはじめて。本当のDIYですよね。
古賀 ソフトのインストールとセットアップをお手伝いしたのですが、僕もLiveを使いこなせるわけではなくて。「使えるの?」と聞いたら「使えん。これから勉強する」って。
菊池 (笑)。同じソフトを使っていたPOLYSICSのハヤシくんに毎日のように連絡してたみたいです。どんな質問にもすごく丁寧に答えてくれたそうで。
古賀 いい先輩ですね。「誕生」は最初から7曲入れる予定だったんですか?
菊池 いや、最初は5曲くらいしかなかったんです。「もうちょっとがんばろうよ」という話をして、終盤かな、さらに2曲ができて。初めて打ち込みをやったので、1曲作るのにすごく時間がかったんです。ミックスを30回くらいやり直した曲もあるし、制作時間は今までで一番長いんじゃないかな。
古賀 なるほど。「誕生」はすごく音がいいアルバムですよね。
菊池 2人がすごくこだわってましたからね。エンジニア佐藤さんと、自分たちが今聴きたい音のクオリティに到達するまで、何度も何度もやり直して。
──音に徹底的にこだわる橋本さん、福岡さんをサポートするのが菊池さんの役割だった、と。
菊池 そうですね。エンジニアさん、スタジオを含め、できるだけいい環境をセッティングしてあげるといいますか。「誕生」は“完結”を決めてから制作に入ったアルバムなので、「最後の武道館のワンマンライブまでに、2人が納得できる作品をリリースしてほしい」というのが僕からの唯一のリクエストでした。
これ以上ない“完結”
──2人から“完結”という言葉を聞いたときは、どう感じました?
菊池 そうですね……「誕生」の制作の前に「機械仕掛けの秘密基地ツアー」という打ち込みを導入したツアーを行ったんです。これまでの楽曲を“メカットモンチー”としてリアレンジしたツアーだったんですが、浜松公演(2017年3月24日の静岡・Live House 浜松 窓枠)の楽屋でメンバーの間でそういう話になったみたいで。僕はその公演をたまたま観に行っていたのですが、それがすごくいいライブだったんです。その数日後にマネージャーから「こういう結論になりました」という連絡を受けたときは、そんなに驚かなかったですね。いろんなドラマを経てきたバンドだし、「いつ終わってもおかしくない」と常にどこかで覚悟していたので。もともと続けることを目的したバンドではないと思うんですよ。そのときに興味があること、やりたいことを叶えることで進んできたバンドだから、本人たちが山を登り切ったと感じたのなら、そうなんだろうなと。
古賀 僕も同じですね。完結発表の直前にホームページで“LAST ALBUM”という言葉を見たときに「これで終わりなんだな」となぜか確信しました。菊池さんから連絡を受けたときも冷静でしたね。久美子さんが抜けたときはすごくショックで、しばらく立ち直れないくらいだったんですけど、その経験があったから「何があってもおかしくない」という覚悟ができていたのかもしれないです。
菊池 その後は「どういう終わらせ方がいいんだろうね」というミーティングを重ねて。しばらくして、2人から“完結”というワードが出て来たときに「やっぱりチャットモンチーはすごいな」と思ったし、いい終わらせ方ができると確信しました。あとは最後の武道館のワンマンと徳島のフェス(「チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2018 ~みな、おいでなしてよ!~」)に向けて、どんな新しいこと、どんな面白いことをやれるだろう?と考えていった半年間でした。
──ラストの武道館ライブも本当にチャットモンチーらしい内容でした(参照:チャットモンチー、完結直前に“変身”!みんなが感涙した最後の日本武道館公演)。
古賀 実は僕、ステージを直接観てないんですよ。最後にライブを観たのは「YOU MORE」のツアーの中野サンプラザ公演(2011年6月)で、その後はmixmix.というライブレコーディングチームとして、ライブの録音にも関わるようになったので。
菊池 ライブの録音をお願いしていたから、いつもバックステージにいて、客席からライブを観ることができないんですよね。
古賀 そうなんです。武道館のアンコールのときは、レコーディングスタッフも全員泣いてました。最後の徳島「こなそんフェス」のときは、録音のブースがPA卓のすぐ横だったから、ひさしぶりにステージを観ることができました。一緒に作業していたエンジニアの上條さんと「これはご褒美だね」と言いながら、でもやっぱり最後は号泣するっていう(笑)。
──菊池さんは最後の武道館ライブをどんな思いで観ていましたか?
菊池 平日の公演だったんですが、夕方、お客さんが集まってきた時点ですごく雰囲気があったんです。チャットを好きな人たちだけが集まって、メンバーに対する気持ちが充満していて。その時点で「いいライブになる」という確信がありましたね。ステージの後ろまで360度お客さんを入れて、皆さんに見守られるようなステージだったのも印象的でした。一見シンプルなんだけど、2人や楽器が登場するリフターが前後に2つあって、展開も多かったんですよ。メカ、アコースティック、ストリングス、3ピース、3ピース+ストリングス、そして最後に弾き語りでピアノが出てくるという、ちょっとしたフェスのような状態で。
古賀 そうですよね。
菊池 それもすべてうまくいったし、チャットモンチーの挑戦の歴史を2時間半に凝縮したようなライブでしたね。「全国ツアーをやってほしい」という声も多かったんですが、1本のライブに集中したからこそ成し得たステージだったと思います。徳島の「こなそんフェス」もすごくよかったし、これ以上ない“完結”でしたね。
とにかく自由に音楽を続けてほしい
──菊池さん、古賀さんにとって、チャットモンチーとはどんなバンドだったと言えますか?
菊池 いつもやりたいことを探して、それを達成することで進んできたバンドですよね。過去のやり方を繰り返すのではなく、毎回、新しいフォーマットを作るところから始めて。3人時代もそうだったんですけど、とにかく好奇心が強い人たちなんですよ。見たことがない、聴いたことがないものを常に目指していたし、13年間一緒にやってきましたが、こんなにいろいろ変身を遂げてきたバンドはいないと思います。
古賀 これは僕だけではなく、彼女たちに関わった全スタッフがチャットモンチーの大ファンなんですよ。チャットの一番のファンはあっこさんですけど、歴代のエンジニア、ライブのスタッフも含めて、本当にみんなチャットが大好きで。だからこそ自然に「どうすればもっとよくなるか」と考え続けられたんじゃないかなと。メンバーに背中を押されているような感じもありました。バンドが新しい可能性を提示するたびに「僕らももっとがんばらないと」と思ったので。
──最後にこの先の橋本さん、福岡さんにどんなことを期待したいか教えてもらえますか?
菊池 バンドでもずっと自由にやってきましたけど、チャットモンチーの看板を下ろしたことで、もっと自由にやれるような気がするんですよね。これからも興味があること、面白いと感じることをやってほしいです。歌詞も書き続けてほしいですね。特に三十代になってからの歌詞は、さらに深く人生に寄り添っていると言うか、本当にいい歌詞ばかりなんです。僕自身もこれから彼女たちが書く歌を聴いてみたいですね。
古賀 僕もまったく同じで、とにかく自由に音楽を続けてほしいと思います。チャットモンチーは下の世代のバンドにもすごく影響を与えていて。そういう人たちが「もっと自由でいいんだ」と思えるような存在でこれからもいてほしいです。
菊池 既成概念、固定観念にまったく捉われない人たちですからね。「まずはやってみよう」という精神にはいつも驚かされたし、刺激的でした。本当に濃密な13年間でしたね。
- 菊池則行氏 思い出の1作
- 常に自己ベストを更新してきたバンドだと思うのですが、一番高いところまで行けたのが「誕生」かなと。古賀さんやエンジニア佐藤さんにも相談しながら、「2018年における良い音とは?」ということを意識してましたね。そういう発想はたぶん初めてだったし、この先10年くらいは風化しないサウンドになっていると思います。
- 古賀健一氏 思い出の1作
- 思い出に残っているのは「変身」ですが、一番好きなのは「誕生」かもしれないです。音のクオリティも高いし、歌詞もすごく好きなんですよ。三十代になって、さらに深い歌詞を書くようになったと言うか。偉そうにすいません。久美子さんが書いた歌詞(「砂鉄」)も素晴らしいんですよね。
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クリエイター5人がつづるチャットモンチー
- チャットモンチー「BEST MONCHY 1 -Listening-」
- 2018年10月31日発売 / Ki/oon Music
-
完全生産限定盤 [CD3枚組]
3996円 / KSCL-30067~70 -
期間生産限定通常盤
[CD2枚組]
3456円 / KSCL-30071~3
- 収録曲
-
DISC 1 [2005-2011]
- ハナノユメ
- サラバ青春
- 恋の煙
- 恋愛スピリッツ
- 東京ハチミツオーケストラ
- シャングリラ
- 女子たちに明日はない
- バスロマンス
- とび魚のバタフライ
- 世界が終わる夜に
- 橙
- 親知らず
- ヒラヒラヒラク秘密ノ扉
- 風吹けば恋
- 染まるよ
- Last Love Letter
- 8cmのピンヒール
- ここだけの話
- バースデーケーキの上を歩いて帰った
DISC 2 [2012-2018]
- 満月に吠えろ
- テルマエ・ロマン
- ハテナ
- きらきらひかれ
- コンビニエンスハネムーン
- 変身
- こころとあたま
- いたちごっこ
- ときめき
- 隣の女
- きみがその気なら
- majority blues
- 消えない星
- Magical Fiction
- I Laugh You
- たったさっきから3000年までの話
Disc 3 Remixies & Rare Tracks(※完全生産限定盤のみ)
- Shangrila(Takkyu Ishino Remix)
- あいまいな感情(Dub Mix)
- 変身(GLIDER MIX)by group_inou
- Last Love Letter(Koji Nakamura Remix)
- やさしさ -seb remix-
- 砂鉄(golmol Remix)
- 恋の煙(同期ver.)with 小出祐介(Base Ball Bear)
- お調子者
- マイネオムーン イズ ヒア
- 夢心地
- BETSUBARA
- 息子(Cover)
- かわいいひと(Cover)
- きっきょん
- とまらん
- チャットモンチー「BEST MONCHY 2 -Viewing-」
- 2018年12月26日発売 / Ki/oon Music
-
完全生産限定盤
[Blu-ray2枚組]
5940円 / KSXL-265~7 -
完全生産限定盤 [DVD4枚組]
5400円 / KSBL-6317~21
- Blu-ray収録内容
-
DISC 1 Music Video [2005-2018]
- ハナノユメ
- 恋の煙
- 恋愛スピリッツ
- シャングリラ
- 女子たちに明日はない
- とび魚のバタフライ
- 世界が終わる夜に
- 橙
- ヒラヒラヒラク秘密ノ扉
- 風吹けば恋
- 染まるよ
- Last Love Letter
- バスロマンス
- 春夏秋
- three sheep
- ここだけの話
- バースデーケーキの上を歩いて帰った
- 満月に吠えろ
- テルマエ・ロマン
- ハテナ
- きらきらひかれ
- コンビニエンスハネムーン
- こころとあたま
- いたちごっこ
- ときめき
- 隣の女
- きみがその気なら
- majority blues
- 消えない星
- Magical Fiction
- たったさっきから3000年までの話
DISC 2 Live [2005-2018]
※下記日程の公演から楽曲をセレクトして収録
- 2005
徳島・徳島JITTERBUG(2005.10.15) - 2006
東京・新宿LOFT(2006.04.01) 東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO(2007.07.02) - 2007
東京・日比谷野外大音楽堂(2007.07.07@) - 2008
東京・日本武道館(2008.04.01) - 2009
東京・Zepp Tokyo(2009.07.05) - 2010
東京・Billboard Live TOKYO(2010.11.23) - 2011
大阪・Zepp Osaka(2011.06.18)
東京・中野サンプラザ(2011.06.22)
徳島・徳島club GRINDHOUSE(2011.09.29) - 2012
東京・西早稲田AVACO Creative Studio(2012.08.28) - 2013
東京・Zepp DiverCity(2013.01.14) - 2015
東京・Zepp Tokyo(2015.07.01)
東京・日本武道館(2015.11.11) - 2016
徳島・アスティとくしま(2016.02.28) - 2017
東京・EX THEATER ROPPONGI(2017.07.09) - 2018
東京・渋谷WWW X(2018.06.25)
徳島・アスティとくしま(2018.07.21)
徳島・アスティとくしま(2018.07.22)
- DVD収録内容
-
DISC 1 Music Video [2005-2011]
- ハナノユメ
- 恋の煙
- 恋愛スピリッツ
- シャングリラ
- 女子たちに明日はない
- とび魚のバタフライ
- 世界が終わる夜に
- 橙
- ヒラヒラヒラク秘密ノ扉
- 風吹けば恋
- 染まるよ
- Last Love Letter
- バスロマンス
- 春夏秋
- three sheep
- ここだけの話
- バースデーケーキの上を歩いて帰った
DISC 2 Music Video [2012-2018]
- 満月に吠えろ
- テルマエ・ロマン
- ハテナ
- きらきらひかれ
- コンビニエンスハネムーン
- こころとあたま
- いたちごっこ
- ときめき
- 隣の女
- きみがその気なら
- majority blues
- 消えない星
- Magical Fiction
- たったさっきから3000年までの話
DISC 3 Live [2005-2011]
※下記日程の公演から楽曲をセレクトして収録
- 2005
徳島・徳島JITTERBUG(2005.10.15) - 2006
東京・新宿LOFT(2006.04.01)
東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO(2007.07.02) - 2007
東京・日比谷野外大音楽堂(2007.07.07@) - 2008
東京・日本武道館(2008.04.01) - 2009
東京・Zepp Tokyo(2009.07.05) - 2010
東京・Billboard Live TOKYO(2010.11.23) - 2011
大阪・Zepp Osaka(2011.06.18)
東京・中野サンプラザ(2011.06.22)
徳島・徳島club GRINDHOUSE(2011.09.29)
- 2012
東京・西早稲田AVACO Creative Studio(2012.08.28) - 2013
東京・Zepp DiverCity(2013.01.14) - 2015
東京・Zepp Tokyo(2015.07.01) 東京・日本武道館(2015.11.11) - 2016
徳島・アスティとくしま(2016.02.28) - 2017
東京・EX THEATER ROPPONGI(2017.07.09) - 2018
東京・渋谷WWW X(2018.06.25)
徳島・アスティとくしま(2018.07.21)
徳島・アスティとくしま(2018.07.22)
DISC 4 Live [2012-2018]
※下記日程の公演から楽曲をセレクトして収録
- チャットモンチー「CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE ~I Love CHATMONCHY~」
- 2018年10月24日発売 / Ki/oon Music
-
[Blu-ray]
5724円 / KSXL-271 -
[DVD]
5184円 / KSBL-6325
- 収録内容
-
- Opening~CHATMONCHY MECHA
- たったさっきから3000年までの話
- the key
- 裸足の街のスター
- 砂鉄
- クッキング・ララ feat. DJみそしるとMCごはん
- MC
- 惚たる蛍
- 染まるよ
- チャットモンチー 2005~2018 ヒストリー映像
- majority blues
- ウィークエンドのまぼろし
- 例えば、
- MC
- 東京ハチミツオーケストラ
- さよならGood bye
- どなる、でんわ、どしゃぶり
- Last Love Letter
- 真夜中遊園地
- ハナノユメ
- Encore
- シャングリラ
- 風吹けば恋
- MC
- サラバ青春
- Ending
- チャットモンチー
- 2000年4月、橋本絵莉子を中心に徳島で結成。2002年3月、橋本の高校の同級生だった福岡晃子が、翌2004年4月に福岡の大学でサークルの先輩だった高橋久美子が加入し、以降はこの3人体制で地元徳島を中心に活動する。2005年11月、ミニアルバム「chatmonchy has come」でメジャーデビュー。2006年1月には初のフルアルバム「耳鳴り」をリリースした。2008年春、初の東京・日本武道館ワンマンライブを2日間にわたって開催。その後も精力的な活動を繰り広げるが、2011年9月の徳島でのライブを最後に高橋が脱退。その後は橋本と福岡の2人体制で活動を継続する。2012年2月には初のベストアルバム「チャットモンチー BEST ~2005-2011~」を、同年10月にはフルアルバム「変身」をリリース。2015年11月に日本武道館公演「チャットモンチーのすごい10周年 in 日本武道館!!!!」を開催した。2016年2月には地元徳島にて2DAYSイベント「チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2016~みな、おいでなしてよ!~」を行った。2017年11月に活動を完結させることを発表。2018年6月にラストアルバム「誕生」をリリースし、7月に最後のワンマンライブを日本武道館にて実施。7月21、22日に地元徳島で開催した「チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2018 ~みな、おいでなしてよ!~」をもって活動を完結させた。