ナタリー PowerPush - チャットモンチー
しなやかな「変身」の道のりを振り返る
並大抵のことでは誰も驚かないだろう
──楽器の面では、1曲目の「変身」や7曲目の「初日の出」はギターレスで橋本さんがドラムを叩いて、福岡さんが再びベースを弾いていて。6曲目の「Yes or No or Love」では橋本さんがベースを弾き、11曲目の「ウタタネ」ではギターを弾かずにエレピを弾いている。そうやってどこまでも自由な発想を貫きながら、パートの概念さえも取っ払っていますね。
福岡 いろんなことに手を伸ばして、それがやりすぎだなと後で思ったら軌道修正しようとも思っていたんですけど、もっとやってやろうという思いのほうが強くなっていきましたね。絵莉子がドラムを叩いた曲も後半にレコーディングしたものなんですけど。シンプルですっごく大変だったけど、すっごく楽しかったんですよね。大変ではあるんだけど、息が詰まるような感じは全然なくて。
──うん、音楽の楽しさを体現しているアルバムだと思う。
福岡 絵莉子も「悲しい曲をやっても、誰も聴いてくれないよね」ってよく言うんですけど。とりあえず今はそっちはいいやと思って。
橋本 不安になったらキリがないもんね。
──福岡さんがドラマーに転向して、基本的にベースレスのバンドにすることから、全てが始まった。
福岡 そう、大きな冒険を最初にしたから、並大抵のことでは誰も驚かないだろうと思って(笑)。
橋本 うん。あっこちゃんがドラマーになったことが私たちにとって一番大きな変化だったから。それが許されるんやったら、どこまでも攻めの気持ちでいけるなという思いはありました。
こう見えて少しは歯止めを利かせている
──楽器編成やサウンドがオルタナティブな発想や遊び心に満ちているからこそ、中心にある歌の強さも活きていますね。
福岡 そう、とにかく歌に対してどういうサウンドプロデュースができるかという考えが最初からあって。歌に対してストイックな気持ちを貫くことがチャットの強さだと思うから。だからあんまり自分が弾く楽器がどうこうは考えなかったんです。スリーピース時代はプレイのテクニックを伸ばしたり、それを見せたいという気持ちがあったけど、今は何より歌が一番良く聴こえるための楽器は何かという発想から全てが始まっているから。
──改めてベースを弾いても感慨深くなることもなかった?
福岡 全くなかったですね。逆に「ああ、自分はもうベーシストじゃないんだな」って思いました。かと言ってドラマーという感じでもなくて。ホントに絵莉子の歌を大事にして、歌をカッコよく聴かせるために楽器を選んで弾くことが自分の役割だと思っていて。私はそれしかできないし、それがすごく楽しいんです。なんとなく楽器に呼ばれるんですよ。スタジオにギターとドラムとベースと鍵盤といろんな打楽器を並べて、絵莉子と2人でその周りをグルグル回りながら、「これじゃないな、これだ!」って選んでいくんですけど(笑)。
──その作業を曲ごとに繰り返していった。
福岡 そう。ツーピースバンドをやろうと思って始まったバンドとは意識が違うから、楽器を選んでいくこともどんどん自然になっていったし。最初はどうしても3人から2人になったことを背負っていた部分があったんです。でも、その意識は長続きしなかったですね。途中から過去を背負わなくても2人でいけるなって思えたから。
橋本 うん、そうね。
──でもね、男のバンドだったらこんなにしなやかに気持ちの切り替えをして、自由で快活な遊び心やクリエイティビティは体現できないと思う。
福岡 あははははは(笑)。
橋本 そうですかねえ?
──いや、ホントに。
福岡 でも、男の人の頑なカッコよさに憧れもするんですけどね。それは一生マネできないところでもあるから。
橋本 そうね。タバコをフーッって吹かすだけでカッコいいみたいな(笑)。
──(笑)。
福岡 あと、どんどん自由にやってやろうと思ったけど、こう見えて少しは歯止めを利かせているところもあるんですよ。
──そうなんだ。
福岡 曲芸の域に達してるみたいなこともあったし。
──例えば?
福岡 ドラムの上にキーボードを乗っけて、キックを踏みながら弾いたりとか(笑)。それは今後やってもいいかなって思うんだけど、とりあえず音はいいとしても見栄えがちょっとダサいなって思ったり(笑)。夏フェスでは、タムを取って、足で踏んだりしましたけど、それもギリギリだなと。ちゃんと見栄えも良くないとヤだなと思って。
──なるほどね。そういう審美眼もまたチャットらしさですよね。
福岡 そこはバンドを7年やってきた経験が活きたと思いますね。
橋本 経験を活かしたさじ加減やね(笑)。
- ニューアルバム「変身」 / 2012年10月10日発売 / Ki/oon Music
- ニューアルバム「変身」
- ニューアルバム「変身」初回限定盤 [CD+DVD] 3500円 / KSCL-2150~2151
- ニューアルバム「変身」通常盤 [CD] 3059円 / KSCL-2152
CD収録曲
- 変身
- ハテナ
- テルマエ・ロマン
- 少女E
- コンビニエンスハネムーン
- Yes or No or Love
- 初日の出
- 歩くオブジェ
- きらきらひかれ
- ふたり、人生、自由ヶ丘
- ウタタネ
- 満月に吠えろ
DVD収録内容
- きらきらひかれ [Studio Live]
- 初日の出 [Studio Live]
- コンビニエンスハネムーン [Studio Live]
- Yes or No or Love [Studio Live]
- ウタタネ [Studio Live]
チャットモンチー
2000年4月、橋本絵莉子を中心に徳島で結成。2002年3月、橋本の高校の同級生だった福岡晃子が、翌2004年4月に福岡の大学でサークルの先輩だった高橋久美子が加入し、以降はこの3人体制で地元徳島を中心に活動を展開する。2005年11月、ミニアルバム「chatmonchy has come」で、Ki/oon Musicよりメジャーデビューを果たす。2006年春には初の全国ツアー「smoke on the ご当地'06」を開催し、同年1月には初のフルアルバム「耳鳴り」をリリース。この作品はオリコンウィークリーチャート10位を記録した。2008年春、初の日本武道館ワンマンライブを2日間にわたって開催。チケットは2日間とも完売し、大成功を収めた。その後も精力的な活動を繰り広げるが、2011年9月29日の地元・徳島でのライブを最後に高橋が脱退。その後は橋本と福岡の2人体制で活動を継続し、同年11月からは対バンツアー「チャットモンチーの求愛ツアー」を行う。2012年2月には初のベストアルバム「チャットモンチー BEST ~2005-2011~」をリリース。その後、7カ月間で計5枚のシングルを次々と発表。同年10月、2人体制となって初のフルアルバム「変身」を発売する。