音楽ナタリー Power Push - Charisma.com
OL引退であらわになったカリスマの本質
あきらめの意味で「運命」って言う人にイライラする
──アルバムは「#hashdark」での「これこそ運命って勘違いの名言」というワードから始まりますが、これがすごくCharisma.comっぽいなと。Charisma.comは曲を聴く限り、以前から「運命」のようなモノを信用してないし……。
いつか まったくしてない!
ゴンチ 即答(笑)。
──運命は切り開くものというのが、Charisma.comの一貫した思想ですよね。そして運命に従うような「受け身」な人に対する、「もっとしっかりしてよ」というイズムは変わらないなって。
いつか 「希望」を抱くことや「夢」を見ることは全然いいと思うんですよ。でも、それを逃げる方向で使ったり、あきらめの意味で「運命」って言う人にイライラするというか、単純に嫌いですね。「何言っちゃってんの?」って(笑)。
ゴンチ 私はどっちでもないですね。「運命は切り開ける」と思わないどころか、運命自体、信じてないんで。
──それも哲学的ですね(笑)。今作ではトラックメーカーにさまざまなアーティストを迎えられていますが、西寺郷太(NONA REEVES)さんは「unPOP」でもタッグを組み、今回も「Lunch time funk」を一緒に制作しています。
いつか 郷太さんとの作業では、具体的に「このワードはこうしたほうが伝わりやすいよ」みたいな明確な指示があるんです。「Lunch time funk」は「OLはお昼にピンクの財布を持ってランチに行く」っていう郷太さんの出したイメージからリリックが膨らんでいったし。だから共同作業をした感覚が一番強いですね。
──その意味では「Lunch time funk」はCharisma.comのOLとしてのキャリアよりも、パブリックイメージとしての、キャラクター化されたOL像を元にしてると。
いつか そうそう。そういう人のイメージに乗ったり、キャラクター性を改めて形にするのも面白いなって。
王子様を待ってるより、婿をもらっちゃったらいいじゃん
──西寺さんやチボ・マット、社長(SOIL & "PIMP" SESSIONS)など、バンドマンとのセッションは、Chance The Rapperなどの現在のUSヒップホップシーンにおけるサウンドクリエイトの方法論からの流れを感じるし、そこは時代性を感じる部分でもあって。そしてこの作品の中で楽器とのセッション性をもっとも感じさせるのは「classic glasses」ですね。
いつか チャレンジとして、究極に音数を削いだ作品を作ろうと思ったときに、これはラップとベースのみで作ろうと。そのときにベーシストとして浮かんだのがハマ・オカモトくん(OKAMOTO'S)だったんですよね。それで、お互いにイメージを出しつつ、構想が固まったら「せーの!」で録って。その意味でも、セッション感が一番強いですね。
──ラップ自体も、メッセージ性よりもラップしたときの“口気持ちよさ”が言葉の中心になっていていますね。
いつか それを優先しつつ、聴いた人もちょっと真似して言ってみたくなるような言葉にしましたね。内容に意味がないほうが自分的には得意なので。
──「婿においで」にはすごく批評性を感じました。
いつか 加山雄三さんの「お嫁においで2015 feat. PUNPEE」の逆バージョンを書きたいというのが原点だったんですよ。
──「お嫁においで2015 feat. PUNPEE」も、加山さん世代の結婚観に対して、PUNPEEくん世代や彼自身の結婚観を込めた内容に構成したとPUNPEEさんが言っていたんですが、「婿においで」もいつかさん自身の世代の結婚観がリリックに反映されてますね。女性の結婚が「永久就職」と言われた時代はもう過去のことだし、共働きが普通の状況である現在において、対等な結婚観を提示するのは、すごくリアルだなって。
いつか そういうリアルが書けたらいいなと思ったし、自分にとって、しっくりくる結論がこの曲なんですよね。やっぱり「嫁に行きたい願望」を持ってる人が多いし、この曲を受け入れられない人も、少なくはないと思うんです。
ゴンチ 私はそのタイプですね。嫁に行くっていうのが当然だと思ってるし、前提にあるから「婿においで」なんて考えたこともなくて。
いつか でもこの曲で言ってるのは、迎えに来てくれる王子様を待ってるよりは、結婚したいなら婿をもらっちゃったらいいじゃんってことなんですよね。
今まで消去法的にビジュアルに逃げてたけど、サウンド勝負のライブにしたい
──ヒップホップオリエンテッドなアーティストにはKO-NeyやROMANCREWのALI-KICKが迎えられています。
いつか ALI-KICKさんからラップのディレクションも受けて、まだラップの伸びしろが自分にはあるんだなって、テンションが上りましたね。
──アルバムの表題曲である「not not me」は蔦谷好位置さんがプロデュースを手がけられています。
いつか まだ先があるな、可能性があるなというのは、「not not me」を制作したときに一番強く感じました。蔦谷さんに書いていただいたトラックとメロディに歌詞とラップを乗せたとき、自分でも震えるぐらいダサい曲になってしまって。「こんな素敵な曲がこんなことになるの!?」って驚きました(笑)。それで朝から晩まで書いて直して、録ってディレクションしてもらってまた書いて直して……を2週間以上繰り返したんです。それだけやって、出来には満足はしてるけど、それでも正直100%ハードルを超えられたかと言えば、その感触はなくて。でも逆に、だからこそまだ先はある、やれることはあるなって思えたんですよ。だから次への手応えを一番感じる曲になりましたね。
──3月25日からはワンマンツアーが行われます。これまでのワンマンではオフィス風や、「サプリミナル・ダイエット」のミュージックビデオの流れを汲んだ、フィットネスを題材にした舞台セットが組まれましたが、今回はそういったコンセプトがない分、どんな舞台になるのか予想が付かないです。
いつか 今までは聴かせることよりも、コンセプトが先行してたと思うし、逆にそれしかないと思ってたんですよね。消去法的にビジュアルに逃げてたかもしれない。だけど、このツアーは音楽を聴かせる「サウンド勝負のライブ」にしたいです。
──それは、このアルバムでこれまで以上にCharisma.comの音楽に自信が付いたということにつながるような気がします。自分たちの音楽を聴かせたいという欲望を持てる作品でなければ、もっとビジュアルに逃げたり、コンセプチュアルな内容になるかと思うので。
ゴンチ 四つ打ちが基本ではなくなってるし、私が使う機材もちょっと変わるので、見せ方や聴かせ方も変わると思いますね。
収録曲
- #hashdark
[作詞:いつか / 作曲:PABLO a.k.a. WTF!?、いつか / サウンドプロデュース:PABLO a.k.a. WTF!?] - Like it
[作詞:いつか / 作曲:KO-ney、いつか / サウンドプロデュース:KO-ney] - YAJIUMA DANCE
[作詞・作曲:いつか、チボ・マット / サウンドプロデュース:チボ・マット] - 意地easy
[作詞:いつか / 作曲:いつか、ALI-KICK / サウンドプロデュース:ALI-KICK] - Lunch time funk
[作詞・作曲:いつか、西寺郷太 / サウンドプロデュース:西寺郷太] - classic glasses
[作詞:いつか / 作曲:ハマ・オカモト、いつか / サウンドプロデュース:ハマ・オカモト] - だったらshow me
[作詞:いつか / 作曲:Tokyo Recordings、いつか / サウンドプロデュース:Tokyo Recordings] - 婿においで
[作詞:いつか / 作曲:社長、いつか / サウンドプロデュース:社長] - メキメキmore
[作詞:いつか / 作曲:岩渕マサル、いつか / サウンドプロデュース:岩渕マサル] - Chicken boom
[作詞:いつか / 作曲:荒木真樹彦、いつか / サウンドプロデュース:荒木真樹彦] - not not me
[作詞:いつか / 作曲:蔦谷好位置、いつか / サウンドプロデュース:蔦谷好位置]
Charisma.comワンマンツアー2017「not not me」
- 2017年3月25日(土)北海道 Sound Lab mole
- 2017年4月1日(土)愛知県 ElectricLadyLand
- 2017年4月7日(金)大阪府 BIGCAT
- 2017年4月9日(日)宮城県 enn 2nd
- 2017年4月22日(土)広島県 HIROSHIMA BACK BEAT
- 2017年4月30日(日)福岡県 BEAT STATION
- 2017年5月3日(水・祝)東京都 赤坂BLITZ
Charisma.com(カリスマドットコム)
いつか(MC)とゴンチ(DJ)による、2011年に結成された女性2人組ラップユニット。YouTubeに投稿した動画がきっかけとなり、卓越したラップスキルと毒気の強いリリックで話題を呼ぶ。2013年7月に初の音源となるミニアルバム「アイアイシンドローム」をリリースすると、同作は「iTunes BEST OF 2013」に選出され、また「CDショップ大賞2014」の関東ブロック賞を受賞。LOUIS VUITTON主催の特別展のレセプションパーティに唯一の日本人アーティストとしてホログラムで出演したり、PARCOのバレンタインキャンペーンのメインビジュアルに起用されたりと幅広い活動を展開する。2015年7月にワーナーミュージック・ジャパンよりメジャーデビューし、OLをテーマにしたミニアルバム「OLest」を発表。2017年3月にメジャー初のフルアルバム「not not me」をリリースした。