音楽ナタリー Power Push - Charisma.com

OL引退であらわになったカリスマの本質

明らかに変わったっていうことをみんなに見せたかった

──そういった、実は明快ではない部分に、リスナーが惹き付けられるのかなとも思いました。そして徐々に離れつつあったエレクトロ路線から大きく舵を切って、今作ではバンドサウンドやオーセンティックなヒップホップビートなど、非常に多様なビートを採用したことで、よりラップ自体、言葉自体も伝わりやすくなったと思います。このようにビートのバラエティを増やした理由は?

Charisma.com

いつか 一昨年の「OLest」の段階で、自分のラップをどうにかしたいと思ったんですよね。手癖を直したい、一辺倒なラップスタイルを変えたい、って。そして、「エレクトロ×高速ラップ=Charisma.com」っていう路線も、もうそろそろいいのかなって。自分のラップ技術向上のために、そしてそれをリスナーに受け入れてもらうためにも、「愛泥C」を出した直後に「エレクトロから方向転換したい」ってスタッフと話し合って。

──その結果、今回は「OL」「エレクトロ」「高速ラップ」という、一般的にイメージされるCharisma.com像を削ぎ落とした作品になっています。そこに不安はなかったですか?

いつか 単純に「この方向でやりたい!」ってことが見えてたから不安はなかったし、みんなにも明らかに変わったっていうことを見せたかったんですよね。だから、これだけの振れ幅があることが正解なのかなって。

ゴンチ 私もそんなに恐怖感はなかったですね。バラエティに富んだ曲がたくさんあれば、聴くほうも今までと感触が違うと思うし、楽しみが増えるんじゃないかなって。

スキルを高めて見せびらかすのは、Charisma.comでは必要ない

──今回のアルバムで改めて思ったのは、いつかさんはラップが本当にうまいということで。

いつか ありがとうございます。

──でも、そこに世間の評価が伴ってないと思うんですね。

いつか それはあんまりよくないですね(笑)。

──非ラップリスナーにとっては、高速ビートに乗せて畳みかけるような早口のラップができるとうまいと思われがちです。それも1つのうまさではあるのだけど、ラップリスナーが感じるうまさって、ビートに対するアプローチの妙だったり、ラップの譜割りのし方だったりして、そこに温度差はあると思うんですね。

いつか そうですね。

──正直に言えば、いつかさんのソロ名義・メリヤス♀であったり、参加しているユニット・C.R.E.A.M SODAZの作品では、ラップ好きが感じるラップのうまさを志向していたけど、Charisma.comでは早口的なうまさが強調されていたので、その齟齬に、ラップリスナーがCharisma.comに対して違和感を持つ部分でもあったと思うんです。だけど今作ではラップリスナーが感じるラップのうまさも、非ラップリスナーが楽しめるようなラップのうまさも、同時に表現しようとしていると感じました。

いつか

いつか でも「ラップスキルを見せびらかしたい」というよりは、自分のラップスキルの伸びしろがどこまであるのかを確認したかったんですよね。ラップの巧拙という基準を抜きにして、Charisma.comの曲は世間的に多くの人に聴いてもらいたい。その意味では、世間のラップを聴かない人たちにまずは届けたいんですよ。

──だからこそ押し付けがましいラップスキルの提示にはなっていない。

いつか 今作でのラップスキルに関しては、自分が自分に課したハードルを超えたいっていう意識はありましたね。そこでうまいと感じてもらえたんならうれしいです。スキルを高めて、それを見せびらかしたいって気持ちもわかるし、それも1つのチャレンジだと思うけど、Charisma.comではそれは必要ないなって。Charisma.comはちゃんと広まってなんぼだから。

──ある種、ポップグループとしての矜持というか。

いつか そうですね。

不倫してる人はだいたい「いや、私は違うから」って言う

──では、そのアルバムに「not not me」というタイトルを付けた理由は?

いつか 今まで通り、造語でタイトル付けがしたかったのと、私は斜に構えてるんで、否定から入りがちなんですね。それで「not」から入ったんですけど、同時に肯定のイメージも込めたくて、二重否定で「not not」になったんですよね。

──ベタに訳せば「私じゃない、じゃない」ですね。

いつか 例えば去年は不倫が話題になりましたけど、私の周りにも不倫してる人がいて。でもだいたいみんな「いや、私は違うから」って言うんですよね。「私の場合は違う、いつか結ばれる」とか「私の場合は違う、相手が本気だから」とか。でもそういう言葉を聞くたびに、「いやいや、違くないよ」って思ってて。否定したい気持ちもわかるけど、本当は自分の中では同じことだってわかってるから、余計に否定することで、希望を見出そうとしてるのかなって。そういうものに対して、「あなたもですよ」って言いたい。

ゴンチ

ゴンチ 「気付けよ」っていう。でも私もそっち側の人間だと思うし、私自身「私は違う」って言いがちで、この曲の気持ちを受け入れるって大変だな……って(笑)。

──ただ、心理的な防御反応としては当然な部分もありますよね。

いつか うん。でもそれを乗り越えたほうがいいんじゃない?って気持ちですよね。

ゴンチ 「not not me」っていうタイトル通り、1枚聴くと、受け入れられない自分だったり、理想と現実の狭間で葛藤したり、っていう自分の気持ちについて、考えることになるのかなって。これまでOLとして、職場のストーリーみたいなものが曲のテーマの基本になってたけど、今はもっと身近なモノや自分自身についての曲をやりたいっていう気持ちが強いですね。だから、もっといろんな人に届くだろうなって。

メジャー1stアルバム「not not me」
2017年3月22日発売 / 2800円 / WARNER MUSIC JAPAN / Atlantic Japan / WPCL-12530
収録曲
  1. #hashdark
    [作詞:いつか / 作曲:PABLO a.k.a. WTF!?、いつか / サウンドプロデュース:PABLO a.k.a. WTF!?]
  2. Like it
    [作詞:いつか / 作曲:KO-ney、いつか / サウンドプロデュース:KO-ney]
  3. YAJIUMA DANCE
    [作詞・作曲:いつか、チボ・マット / サウンドプロデュース:チボ・マット]
  4. 意地easy
    [作詞:いつか / 作曲:いつか、ALI-KICK / サウンドプロデュース:ALI-KICK]
  5. Lunch time funk
    [作詞・作曲:いつか、西寺郷太 / サウンドプロデュース:西寺郷太]
  6. classic glasses
    [作詞:いつか / 作曲:ハマ・オカモト、いつか / サウンドプロデュース:ハマ・オカモト]
  7. だったらshow me
    [作詞:いつか / 作曲:Tokyo Recordings、いつか / サウンドプロデュース:Tokyo Recordings]
  8. 婿においで
    [作詞:いつか / 作曲:社長、いつか / サウンドプロデュース:社長]
  9. メキメキmore
    [作詞:いつか / 作曲:岩渕マサル、いつか / サウンドプロデュース:岩渕マサル]
  10. Chicken boom
    [作詞:いつか / 作曲:荒木真樹彦、いつか / サウンドプロデュース:荒木真樹彦]
  11. not not me
    [作詞:いつか / 作曲:蔦谷好位置、いつか / サウンドプロデュース:蔦谷好位置]
Charisma.comワンマンツアー2017「not not me」
  • 2017年3月25日(土)北海道 Sound Lab mole
  • 2017年4月1日(土)愛知県 ElectricLadyLand
  • 2017年4月7日(金)大阪府 BIGCAT
  • 2017年4月9日(日)宮城県 enn 2nd
  • 2017年4月22日(土)広島県 HIROSHIMA BACK BEAT
  • 2017年4月30日(日)福岡県 BEAT STATION
  • 2017年5月3日(水・祝)東京都 赤坂BLITZ
Charisma.com(カリスマドットコム)
Charisma.com

いつか(MC)とゴンチ(DJ)による、2011年に結成された女性2人組ラップユニット。YouTubeに投稿した動画がきっかけとなり、卓越したラップスキルと毒気の強いリリックで話題を呼ぶ。2013年7月に初の音源となるミニアルバム「アイアイシンドローム」をリリースすると、同作は「iTunes BEST OF 2013」に選出され、また「CDショップ大賞2014」の関東ブロック賞を受賞。LOUIS VUITTON主催の特別展のレセプションパーティに唯一の日本人アーティストとしてホログラムで出演したり、PARCOのバレンタインキャンペーンのメインビジュアルに起用されたりと幅広い活動を展開する。2015年7月にワーナーミュージック・ジャパンよりメジャーデビューし、OLをテーマにしたミニアルバム「OLest」を発表。2017年3月にメジャー初のフルアルバム「not not me」をリリースした。