音楽ナタリー Power Push - Charisma.com
OL引退であらわになったカリスマの本質
昨年のOL“引退”発表や、配信&ライブ会場限定シングル「unPOP」でより明確になった、エレクトロ路線からの音楽性の変化など、グループの軌道変更とも言える動きを見せた2016年のCharisma.com。その意味では、メジャー1stアルバム「not not me」は、「Charisma.comのこれから」を明示する作品と言えるだろう。
そして、このアルバムに表れたのはOLやフィメールといった「属性」や「キャラクタライズ」を超えた、“生身のCharisma.com”とも言える極私的な視点から描かれたメッセージ。ただし、それが矛盾をはらんだ内容になっているかと言えば決してそうではなく、極端に私的なイズムやメッセージを書くからこそ、そこから逆転的に表れるポップさや共感性を作品全体が帯びている。ビートの多様性によって明確になったいつか(MC)のラップアプローチの確かさも含め、Charisma.comの次章への意思を強く感じさせる1作だ。この作品について、いつかとゴンチ(DJ)の2人に話を聞いた。
取材・文 / 高木“JET”晋一郎 撮影 / moco.(kilioffice)
Charisma.comで勝負することを宣言したようなもの
──前作から今作に至るまでの間の大きなトピックとして、お二人共OLを“引退”されるという動きがありましたね。
いつか メジャーデビュー以降も会社に籍はあったんですが、行く時間がどうしても作れなくなっていて。
──いわゆる、幽霊社員のような状況だったと。
いつか でもメディアに出る、特にテレビやラジオに出させていただくときは「普段はOLをされてて」っていうのが話の入り口になる場合が多かったんです。そこで嘘を付くみたいになってしまうのが心苦しくなってたこともあって、これは会社を辞めるタイミングなのかなって。
──その意味では、今は“24時間Charisma.com”になったわけですが、そこでの心境の変化は?
ゴンチ 会社に行くときと、Charisma.comの活動をするときは心の持ちようが違ったし、切り替えてはいたんですね。でもCharisma.comに専従することになって、今は常に緊張感がある感じです。OLのときはあんまり人と接しない業種だったんで、こうやって、人前に出ると汗かいちゃう(笑)。
いつか 私はOLとCharisma.comでは「やる業務が違う」みたいな感覚で、切り替えをしてるっていう気持ちはなかったんで、そこで心境の変化はなかったですね。でも「言い訳が利かなくなった」とは思います。
──「OLだから」っていうエクスキューズが使えなくなった、と。
いつか だからCharisma.comで勝負することを宣言したようなものだと思うし、気を張る毎日です。
「そこまで本当に思ってるのかな、私」という葛藤
──その“決心”をしたきっかけはあったんですか?
いつか グループを始めた頃は「OLじゃなくなったら売り出すモノや、書くことがなくなるかも」っていう不安はありました。でも、ここ1、2年ぐらいで「私が歌にする内容は、この世代が持ってる根源的な意見なのかな」って思ったんですよね。だからOLじゃなくなっても書けることはあるなって。
──今回のアルバムで明確になったのは、OLという属性を汲み取ったうえで書かれてたように思えていたCharisma.comのリリックは、実はすごく極私的な内容だったということだと思いました。属性のうえでリリックが書かれるんじゃなくて、属性も自分の一部として書かれていたんだなって。
いつか 私も「そういうことだったんだ」って気付けたのは、ここ1年ぐらいですね。
──つまり、それ以前はOLっていう属性だったり、そのキャラクター性も考えていた?
いつか 意識をしてた部分もあったし、その部分が過剰になっちゃって「そこまで本当に思ってるのかな、私」って葛藤も感じるときはありましたね。
──求められるキャラクターを演じすぎてしまったというか。
いつか 「怒ってる! 毒舌! OL! ラップ!」みたいな(笑)。そういうキャラになりすぎちゃった感じがあって。それを押し出した分、そのキャラクターこそが私の本質のように思われることもあって。
──それに対してはどういう感情でした?
いつか 怒りを表現してるんだから、「常に怒ってる人」みたいなキャラだと思われても「そりゃそうだな」ってのちのちには思えたけど、最初はやっぱり「ちげえし!」って気持ちでしたよ(笑)。だけど、そう思われることをやったのも私だし、そう受け取ってくれることも大事ではあるのかなって。でもこの作品も含めて、今はキャラクター化した自分とは違う側面が出てると思います。
わかりやすいようで、実はすごく違和感のある絵
──そういった流れの上にある今回の作品ですが、メジャーでは初のフルアルバムとなります。メジャー以降の動きを振り返ると、どんな印象がありますか?
いつか あまり自覚のないままにインディーズデビューして、そのままあれよあれよとメジャーに行ってしまったというのが正直な感覚なんですね。「このままじゃこの先に進めない」って感じて、自分たちの方向性や自主性をしっかり考えたのはメジャー以降だったし、今はそういうことを自分たちで考えられる環境にしてもらってるから、大変だけど楽しいですね。
ゴンチ 私はあんまりインディーズとメジャーで気持ちは変わってないですね。もともと自主性みたいなものがそんなにない性格だし、初期の頃は自分が何を思ってCharisma.comをやってたのかイマイチ覚えてないので(笑)。
──ゴンチさんはインディーズの頃からそのスタンスはぶれないですね(笑)。ライブの規模も大きくなっていると思いますが。
いつか 若い女性が増えたなと思うんですけど、「私の歌、怖くないかな?」って(笑)。Charisma.comの音楽って、時代にピッタリ沿ってるかと言えば、そうでもないと思うんですよ。音楽にしろ何にしろ「時代の流れを作ってる人」を評価できる人は少数で、時代の流れとは別の部分を楽しんでる人の方が多いと思う。そういう多数派の人にCharisma.comの曲は刺さってるのかなって。
──悪い意味ではなく、Charisma.comは時代性よりも、もっとオーディナリーで普遍的な悩みや、フラストレーション、感情がリリックの中心になっていますよね。かつCharisma.comはリリックが理路整然としているかと言えば、実はそうではなくて。飛躍したり、言葉のつながりが「文章」としてはおかしかったりする。だけど、その飛躍や接続の仕方によって、そこに抽象性が生まれて、リスナーが自分なりの解釈をする余地が生まれていると思うんです。
いつか はい。
──パンチラインでは明確で限定的なメッセージをラップしながらも、ほかの部分ではいろんな解釈ができる構造になっているのがCharisma.comのリリックの特徴だと思うし、それが今作では顕著に感じられました。
いつか 聴く人それぞれで解釈は違っていいと思うし、「この曲はこういうことを言ってます」って指示するようなことを書きたいタイプではないですからね。例えるなら、パッと見は主題がわかりやすいように描かれてるけど、よく見るとすごく違和感のある絵。そんな感覚がある曲を作りたい。
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収録曲
- #hashdark
[作詞:いつか / 作曲:PABLO a.k.a. WTF!?、いつか / サウンドプロデュース:PABLO a.k.a. WTF!?] - Like it
[作詞:いつか / 作曲:KO-ney、いつか / サウンドプロデュース:KO-ney] - YAJIUMA DANCE
[作詞・作曲:いつか、チボ・マット / サウンドプロデュース:チボ・マット] - 意地easy
[作詞:いつか / 作曲:いつか、ALI-KICK / サウンドプロデュース:ALI-KICK] - Lunch time funk
[作詞・作曲:いつか、西寺郷太 / サウンドプロデュース:西寺郷太] - classic glasses
[作詞:いつか / 作曲:ハマ・オカモト、いつか / サウンドプロデュース:ハマ・オカモト] - だったらshow me
[作詞:いつか / 作曲:Tokyo Recordings、いつか / サウンドプロデュース:Tokyo Recordings] - 婿においで
[作詞:いつか / 作曲:社長、いつか / サウンドプロデュース:社長] - メキメキmore
[作詞:いつか / 作曲:岩渕マサル、いつか / サウンドプロデュース:岩渕マサル] - Chicken boom
[作詞:いつか / 作曲:荒木真樹彦、いつか / サウンドプロデュース:荒木真樹彦] - not not me
[作詞:いつか / 作曲:蔦谷好位置、いつか / サウンドプロデュース:蔦谷好位置]
Charisma.comワンマンツアー2017「not not me」
- 2017年3月25日(土)北海道 Sound Lab mole
- 2017年4月1日(土)愛知県 ElectricLadyLand
- 2017年4月7日(金)大阪府 BIGCAT
- 2017年4月9日(日)宮城県 enn 2nd
- 2017年4月22日(土)広島県 HIROSHIMA BACK BEAT
- 2017年4月30日(日)福岡県 BEAT STATION
- 2017年5月3日(水・祝)東京都 赤坂BLITZ
Charisma.com(カリスマドットコム)
いつか(MC)とゴンチ(DJ)による、2011年に結成された女性2人組ラップユニット。YouTubeに投稿した動画がきっかけとなり、卓越したラップスキルと毒気の強いリリックで話題を呼ぶ。2013年7月に初の音源となるミニアルバム「アイアイシンドローム」をリリースすると、同作は「iTunes BEST OF 2013」に選出され、また「CDショップ大賞2014」の関東ブロック賞を受賞。LOUIS VUITTON主催の特別展のレセプションパーティに唯一の日本人アーティストとしてホログラムで出演したり、PARCOのバレンタインキャンペーンのメインビジュアルに起用されたりと幅広い活動を展開する。2015年7月にワーナーミュージック・ジャパンよりメジャーデビューし、OLをテーマにしたミニアルバム「OLest」を発表。2017年3月にメジャー初のフルアルバム「not not me」をリリースした。