ナタリー PowerPush - チャラン・ポ・ランタン
姉・小春&妹・もも ふたりだけの世界
最初のサーカス体験
──話はさかのぼりますけど、小春さん、アコーディオンの前にはピアノをやってたんですよね。
小春 うん。小6くらいまでやってました。割と真面目に練習してましたよ。友達がいないから暇なのよ。だけどピアノよりアコーディオンのほうが面白くなって。10歳くらいまではボタンアコーディオンをやりながら鍵盤もやってたの。
──アコーディオンはクラシックから入ったんですか?
小春 最初はミュゼット(フランスのポピュラー音楽の1つ)ですね。で、小6くらいからクラシックとかもアコーディオンでやって。現代音楽みたいな、よくわかんないのも。
もも やってたね。
小春 うん。何拍子だかもよくわかんないヘンな曲がいっぱいあんのよ。「これ、曲?」みたいなのも課題曲だから練習してて。で、ずっとアコーディオンは真剣にやってて、そのままドイツの大学に行く予定になってたの。習ってたところにそういうルートがあって。でも全然興味持てなくてね、大学に。アコーディオンだけの四重奏とかやるわけだけど、何も面白みが感じられなくて。10人編成でアコーディオン弾くとかね。楽器って、ほかの楽器と一緒にやってなんぼじゃないですか。私はそう思ってて。同じ楽器だけいくつもあって、それで音楽を追求することには魅力を感じないんですよ。それとあと、ドイツ語を勉強するのも面倒くさいし。だったら日本でやれるだけやって、それから海外行くんでもいいんじゃないかって思って。
──なるほど。そういう気持ちもあってバンドを始めたわけですね。ちなみにチャラン・ポ・ランタンの世界観を表す重要なキーワードのひとつに“サーカス”がありますが、初めてサーカスを観たのは7歳のときだそうですね?
小春 そうです。お母さんがサーカスの舞台美術みたいなのが好きだったから、ももと小春も連れてってくれて。
──それが最初のサーカス体験?
小春 そう。家族でシルク・ドゥ・ソレイユを観に行ったんです。ほかにもキダムとか。で、そのあとは個人的に何度か観に行って。元カレとも。あ、訂正しよう。友達とも(笑)。
──子供の頃に観るサーカスって結構衝撃じゃないですか。華やかなだけじゃなくて、おどろおどろしいところもあるし。空中ブランコとか綱渡りとか、それこそ命懸けの見せ物だったりするわけだし。
小春 ああ、でもね、今思うと、そういうショーとして覚えているわけじゃないんですよ。初めて観たそのときのものとして覚えているのは……生演奏のショーだったので、円形のステージがあって、そこから上に登っていく階段が何カ所かあるんですけど、私は階段の一番近くに座っていて。で、階段ごとにいろんなミュージシャンが上がっていくんですけど、私の座ってたところに上がってきたのがたまたまアコーディオンの人で。
──おお!
小春 そうなの。だから、その上がってきた白塗りのアコーディオンの人と、あとは演出の最後で雪が降ったっていう、それだけはハッキリ覚えてるんですけど、内容とかは覚えてなくて。記憶に残るのって、そんなもんなんだなーって思った。
──そのアコーディオン奏者が強烈に印象に残ったわけですね。
小春 覚えてないんだけど、終わってからお母さんにずっと言ってたみたいなんですよね。「あの伸び縮みしてるやつ、小春もほしい」って。それでその年のクリスマスにサンタさんにお願いしたんですよ。で、来たっていう。サンタが持ってきたのー。サンタさんが持ってきたのよおー。
──7歳のときに来てくれたサンタさんのおかげで、今のチャランポがあるわけですね。
小春 ざっくり言えばそうだよねー。サンタ、すげえなあ。通販で買ったって言ってたよ、うちのサンタ。
──ははは(笑)。ももさんは初めてサーカスを観たときの記憶はありますか?
もも もも、2歳だったからなー。ミュージシャンが全員白かったっていうことは覚えてるけど。あれは何度か夢に出てきましたね。
──そうしたサーカス体験が、実はチャランポの世界観の根っこのひとつになっているんじゃないかなと思ったりするわけですよ。
小春 うん。なってるんでしょうねえ。だって、そこから音楽に興味持ったし。そのサーカスで買ったCDはずっと聴いてるんでね。いまだに聴いてる。
──ももさんもサーカス体験が今の自分に影響を及ぼしていると思いますか?
もも 最初に観たシルク・ドゥ・ソレイユが直接そうなってるっていうんじゃないですけど、そのあともミュージカルとか舞台とかいろいろ連れてってもらったし、あとシカラムータさんのライブとかガレージシャンソンショーのライブに連れてってもらったりとか、そういうのが全部混ざってるんだと思います。
──では、サーカスの面白さって、一言でなんだと思いますか?
小春 うーん。幕を閉じたら、演じてた人は普通の人っていうところですかね。幕が開いているときにだけああいうふうに見えるんだっていう。例えば空中ブランコをやってるペアとかも、すごい仲良さそうに信頼し合ってやってるように見せてるけど、幕を閉じたらけんかしてるふたりだったりするわけですよ。その、幕が開いてるだけの関係とか空間とか世界っていうのが、こう……。
──徹底したファンタジー。虚構の世界を徹底して見せる、みたいな。
小春 うん。みたいなのが好きですね。観てる間は、演じてる人たちの私生活はどうなんだろとか、そんなの気にならないじゃないですか。そのテントの中に生きている人たちに見えるじゃないですか。そういうふうに人をだますのが役目でしょ、言ってみたら。その感じが好きです。
永遠はある派? ない派?
──そういうふうに現実とは違う別の物語をひととき演じてみせるという側面は、チャランポの世界観にもありますよね。サーカスに通じる面白さとはかなさというか。あと、新作のサブテーマのようにも思える「永遠なんてない」(収録曲「雪解け」の一節)というところも。今作「たがいの鍵穴」にはその辺りが凝縮されているように思いました。
小春 永遠はね、ないね。うん。ももは“永遠はある”派なんだけど。
もも 永遠はあると思うなあ。
小春 そうやって夢とか見ててください。
もも 何!? 夢って。
小春 夢? 覚めるもの。
もも もう、ホントこうやってねー、いちいちねえ。考え方が正反対なんですよー。
小春 じゃあ、例えば夫婦円満なやつらがいてね、そのまま死んだとしよう。でもそれは別れる前に死んだだけであって、それは永遠ってことではないじゃん? わかる?
もも 言ってることはわかるけど、それは、死ななかったら別れていただろうってことでしょ? 必ず終わりがあったはずだっていう。
小春 そうそう。
もも なんでそう言い切れるの? 愛し合ってたことは事実じゃん。愛し合ってたことは永遠ではないの?
小春 だとしても、永遠だって約束するのは良くないってこと。永遠だって言うのは、何かを守りたいからそう言うわけでしょ? 何を守りたいの?
もも 守る? 言いようだけどね。
小春 完全に何も我慢しないで、ずーっとそのまま一緒にいられるってことはまずないよ。
もも その我慢が嫌な我慢とは言い切れないじゃない!?
小春 我慢が嫌じゃなくていいと思えるってことは、夢見てるってことだよ。
もも 夢じゃない。夢じゃないよ。
小春 好きだといろんなことが麻痺してくるからね。冷静になればいろいろ浮き彫りになってくるものだから。こいつ、ここが嫌だとか。
もも それは小春の場合ね。
小春 ももだって別れたりしてんじゃん! 「いい別れ方ができたわ」「友達に戻れた」とか言ってさ。向こうの男のコは全然そう思ってなくて、半分鬱みたいになってたぞ。
もも ちょっと! もう! いや、いろいろ学んだけどさ……。
小春 「あの愛は永遠だった」とか言うけど、だったも何も、とっくに終わってんだよそんなもん、って感じなんだよね。
──えーっと、もういいかなあ(笑)。
小春 いや、いつ止めに入るかなって思いながらしゃべってたんだけど(笑)。
もも この話、まだ30分くらいできるけど……。
──続きはインタビューが終わってからひとつ(笑)。でも“永遠はある”派のももさんは、「永遠なんてないの」という「雪解け」をどんな気持ちで唄ってるんです?
もも 気持ちですか? うーん……。自分だったら絶対に考えもしない歌詞なんですけど、でも、ステージの上だとなんにでもなりますね。
──歌として好きなわけですよね。
もも 好きですね。自分の考え方と全然違うところが好きなんですよ。ももが唄うことによって小春の思ってることとは違うことになってるかもしれないけど、でもそれがいいのかもしれないって思うし。
収録曲
- 鍵穴 -a cappella-
- サイテーな女
- 雪解け
- 墓場までご一緒に
- 恋は盲目
- 最期の準特急
- 旅立ちの唄
- 鍵穴 -a ccordion-
チャラン・ポ・ランタン
1993年生まれのもも(Vo)と1988年生まれの小春(Accordion)による姉妹ユニット。2009年に結成。2010年8月に「チャラン・ポ・ランタンと愉快なカンカンバルカン」名義でアルバム「ただ、それだけ。」をリリースする。2012年9月には、約2年ぶりの新作アルバム「つがいの歯車」を発表すると同時に、ももが20歳の誕生日を迎える2013年4月9日までに3枚のアルバムをリリースすることを公約。12月にその2枚目となるミニアルバム「たがいの鍵穴」をリリースする。
2012年6月にはZAZEN BOYS、group_inouらとのカナダツアーを大盛況に収めるなど海外での活動も多数。過去にはイギリスでPINK FLOYDのデイビッド・ギルモアからのセッションの誘いを「なんか難しそうな曲だから……」と断るなどのエピソードも持つ。2012年に初出演を果たした「FUJI ROCK FESTIVAL」ではベストアクトの評価を多数獲得するなど、毎年約150本のライブ活動でファンを増やす。