ナタリー PowerPush - チャラン・ポ・ランタン

姉・小春&妹・もも ふたりだけの世界

「愛の讃歌」とか、絶対に小春のために唄いたくないから!

──しかし、「つがいの歯車」が出たあとの約2カ月だけでも、ずいぶんいろんなことをやりましたよね。インストアライブもかなりの本数やって、「ワールド・ミュージック・フェスタ」でTARAF DE HAIDOUKSやKOCANI ORKESTARとも一緒にやって、ワンマンも成功させて。NHK Eテレの子供番組「シャキーン」にも出演して、その間にまた新しいアルバムも制作して。小春さんはほかのミュージシャンのライブにも参加しているし、さらにまた新曲もどんどん書いている。まるで生き急いでいるかのように。

小春 でも、やること、これくらいしかないからね。

──ももさんは若さのまま好奇心に任せて楽しみながらどんどんやってる感じがするけど、小春さんからは表現者としての業のようなものを感じますよ。

小春 え? なになに?

──もはや表現することを制御できないというような。で、この勢いのまま3年くらいガーッと疾走して、突然「やりきった……」って言ってピタッと辞めちゃいそう。

小春 ああ、それ、ときどき言われますね。

もも それ、ももも思います。近くにいてそう思う。この勢いでガーッてやって、急に「もうやり終えた……」とか言いそう。

左からもも(Vo)、小春(Accordion)。

小春 そしたら子育てとか始めんじゃね?

もも なんか誰にも相談しないで、急に「今週結婚するから」とか言い出しそう。だって「結婚するとき、ももには言わないから」って前に言ってたし。

小春 言わないのが一番いいでしょ。

もも なんで? ももにだよ?

小春 うん。結婚式に呼ばれたからって行ってみたら、小春のだった、みたいな(笑)。「どーぞー」って言われて、ももが中に入ったら、小春がいるの。

もも そういうの、絶対に嫌だからね。無理。「愛の讃歌」とか、絶対に小春のために唄いたくないから!

──わははは(笑)。でも小春さん、突然辞めそうなタイプだって、やっぱりほかの人からも言われるんですね。

小春 言われる。恋人とかとも予告なく突然別れるタイプだからね。「あんなによくしてあげたのに、僕。なんで?」みたいな(笑)。

──ももさんはなんだかんだで長く歌を続けていきそうな気がしますが。

小春 いやいや、こいつなんて楽しいほうにすぐ行くだけだから、海外の金持ちの石油王みたいなやつが来たら、「わー、なんかいいかもお。もも、象さんの上に乗りたーい」とか言って、そのまま向こうに行っちゃって連絡が途絶えるみたいな感じですよ。

もも (笑)。でも石油王はつまんなそうだな。

小春 何言ってんの? 石油王と暮らすの、絶対楽しいよ。

イラストレーターの両親

──では、石油王の話はまたにして(笑)。ナタリー初登場でもあることだし、ここでバックグラウンド的な話も少し聞きましょうかね。えっと、ご両親は共にイラストレーターなんですよね?

小春 お父さんは本のデザインとか、編集とかもしてて、グラフィックデザイナーだったりもするけど、イラストレーターでもある。お母さんは絵本とか描いてるけど、まあイラストレーターですね。名刺の裏にイラストレーターって書いてあったから(※母親はチャラン・ポ・ランタンの衣装制作やアルバムのアートワーク、ビデオクリップなどにも関与)。とりあえず2人ともずっと家で仕事してるわけですよ。だから私は仕事に出る親に憧れてましたけどね。いつでも家族揃ってごはんだし。むしろ1人で食べたかったから。「家族、ずっと一緒かあー」みたいな。親が遅くて1人でごはん食べるのが寂しいとか言ってる同級生とかいると、「いいじゃん」って思ってた。しかも前の家では、子供が1人でこもったりしないようにって、親がドアを外したんですよ。だからもう丸見えで。個人のスペースがまるでないっていう。

もも でも、だから工作部屋があったじゃん。

小春 そうそう、ドラえもんの寝室みたいな工作部屋があったんです。子供部屋の押し入れに電気付けて、壁紙も張って。私はずっとそこにいて本読んだりしてたんですよ。あと、紙とかペンとかハサミとかいろいろ材料もそこにあったので、よく工作してましたね。7歳でアコーディオンに出会うまでは、小春、工事する人になりたかったんですよ。

──工事?

小春 家を作る人になりたかったの。あ、大工さんだ(笑)。

──絵を描くよりも立体的なもの作りに興味があった。

小春 いや、なんかね、お母さんの仕事を見てて、例えばうさぎさんを描いても、もうちょっとカワイイうさぎにしてくださいって編集者に言われて修正してるのとかを見てると、子供ながらに、あ、絵本の世界とかいっても自由じゃないんだなって思って。だから、絵を描くのは好きだったけど、絵描きにはなりたくなかったんだよね。

──ももさんは?

小春(Accordion)

もも 私はイラストレーターになりたいって思ってましたよ。やっぱり絵を描くのが好きだったんで。油絵も描いてましたし。材料も家にあったので。

──だから普通の家庭に比べたら、やはり芸術的な環境が当たり前にあって、教育的にも「勉強しなさい」というよりは「好きなことをやりなさい」という感じだったわけですよね。

小春 まあ、そうかな。(両親が)ふたりともフリーの仕事だったんで、それで良かったとは思いますけど。勉強もね、昔はしてたんだけどねー。ピアソラ(ASTOR PIAZZOLLA)の曲を聴きながら勉強してた。中学までは勉強してたんだよ、小春。100点とかとってたからね。中2がピークだった。

もも ももは中3がピーク。

いじめとかちゃんちゃらおかしい

小春 あ、なんで中2までか思い出した。中2はいじめられてたからだ。学校でチョーいじめられてたからね。毎朝、小春の机の上に花瓶が乗ってるの。

もも そういうのってあるんだねー。全然知らなかったよ、もも。妹だったけど。

小春 相談しないしね。小春、お母さんにも相談しなかったから。学校では3カ月くらい誰とも会話しなかった。

──その辺りから、いろんなことに対して冷めた見方をするようになったってところもあるんですかね。

小春 そのときから割と人間をバカにするようにはなったね。だって、いじめとかして仲間を増やしたりするのって、結局自分が一番弱いからやるわけじゃん。特に中心になってやってるコはそうでしょ。ちゃんちゃらおかしいんだよね。で、結局ああいうのって、1年もすると落ち着くんだけど。

もも やってるほうも飽きるんでしょ。

小春 そう。で、なんとなく落ち着いてきたから小春が仕返ししたら、そのコ、学校に来なくなっちゃって。いじめられてるときは小春、おとなしくしてたの。で、しばらく黙ってて、終わった頃にどーんと。

──それは「恋は盲目」を作ったエピソードにも通じるものがありますね。某お笑い芸人さんと仲良くなったがために、それを疎ましく思ったファンの人たちからブログとかに「うざい」「消えろ」って書き込みをされて、しばらくそれを放っておいてから、「恋は盲目」という曲にして応えるっていう。

小春 あははは(笑)。そうかも。そういうタイプ。

“ほぼ”フルアルバム「たがいの鍵穴」 / 2012年12月26日発売 / 1680円 / Mastard Records LNCM-1019
“ほぼ”フルアルバム「たがいの鍵穴」
収録曲
  1. 鍵穴 -a cappella-
  2. サイテーな女
  3. 雪解け
  4. 墓場までご一緒に
  5. 恋は盲目
  6. 最期の準特急
  7. 旅立ちの唄
  8. 鍵穴 -a ccordion-
チャラン・ポ・ランタン

1993年生まれのもも(Vo)と1988年生まれの小春(Accordion)による姉妹ユニット。2009年に結成。2010年8月に「チャラン・ポ・ランタンと愉快なカンカンバルカン」名義でアルバム「ただ、それだけ。」をリリースする。2012年9月には、約2年ぶりの新作アルバム「つがいの歯車」を発表すると同時に、ももが20歳の誕生日を迎える2013年4月9日までに3枚のアルバムをリリースすることを公約。12月にその2枚目となるミニアルバム「たがいの鍵穴」をリリースする。

2012年6月にはZAZEN BOYS、group_inouらとのカナダツアーを大盛況に収めるなど海外での活動も多数。過去にはイギリスでPINK FLOYDのデイビッド・ギルモアからのセッションの誘いを「なんか難しそうな曲だから……」と断るなどのエピソードも持つ。2012年に初出演を果たした「FUJI ROCK FESTIVAL」ではベストアクトの評価を多数獲得するなど、毎年約150本のライブ活動でファンを増やす。