上手すぎると、自分が自分じゃなくなる感じがしちゃう
──作品後半に収められている「ファッショニスタ」はイギリスのマルタ・サロニ、「カーリー・アドベンチャー」はアメリカのダニエル・シュレットという2人のエンジニアがミックスを担当していますが、どのような経緯で参加されたのでしょうか。
マナ ダニエルさんにはアメリカツアー中に会ったんだよね。
ユウキ そうそう。私たちのライブを観に来てくれて。
カナ 「一緒に何かやりたいね」ってお話してくれて、それがきっかけになったんだよね。マルタさんはイギリスのレーベルの人が紹介してくれた。
ユウキ 直接話したりはしなかったけど、イメージ通りの音に仕上げてくれたよ。
──2人のミックスはコーラスラインが前面に押し出され、リズム隊、ギター、シンセの音が比較的分離されていたのが印象的でしたが、ほかの楽曲とも違和感なく混ざり合っていますね。
マナ どの曲も私たちがよく聴いてる、洋楽に近いサウンドを意識してくれたのかも。ダニエルさんとマルタさんのミックスは予想以上にコーラスを強調してくれて、すごいよかった。
──1stアルバム「PINK」ではリズム隊2人の演奏が難しく、ライブで披露できるようになるまで大変だったそうですね。バンドスコアを確認してみても、かなり複雑なフレーズが展開されていることがわかりましたが、今回はどうでしたか。
ユウキ やっぱり難しかった。けっこう練習したよね。
ユナ したねー。今もまだやってる。
ユウキ ドラムのパターンは前よりも複雑になったんじゃない?
ユナ いやいや。ベースも大変そうだよね。あとはユウキがシンセベースだけ弾いてる曲もあったり、いろいろ試してみたところもあるし。
ユウキ ドラムの音数はかなり増えたかも。
──カナさんは「PINK」制作時、「基本的にベースとドラムだけで成り立つ音楽が好き」「ギターの音がたくさん埋まっている曲はCHAIっぽくない」「どんどん引いていきたい」とお話していましたが、「PUNK」はいかがでしたか?
マナ 今回はけっこうギターやシンセの音数を増やしたよね?
カナ 「GREAT JOB」とかは特にそうだった。この曲はThe Go! Teamの曲をよく聴いてた時期に作ったんだけど、彼らの曲を参考にして音数を増やしたんだよね。あとは音の広がり方、空間の使い方を大事にしたかな。「PINK」は全体的に音の混ざり方がゴチャッとしてた印象があったから、「PUNK」はもうちょっと各楽器の音がしっかり聴こえるよう整理しつつ、今鳴らしたいCHAIのサウンドを丁寧に表現できた感じ。より繊細に、どの曲もシングルとして単独で発表できる完成度を目指せるよう気を付けたり。
──「PINK」も全曲シングルとして発表できるような作品を目指したとお話していましたが、「PUNK」は各曲の完成度はもちろん、アルバム単位で聴いてみても、より統一感が増したように感じました。
ユウキ そこまで深く考えたことなかったな(笑)。
──無意識のうち、皆さんの結束力が強くなったということかもしれませんね。
マナ だから最近、いろんな人に「サウンドが力強くなった」って言われるのかも。
──マナさんのボーカルからも、「ファッショニスタ」や「カーリー・アドベンチャー」ではこれまでとはまた違う、落ち着いた雰囲気が伝わってきます。
マナ おー、そっか!
──そこまで意識していないようですね(笑)。
マナ ははは(笑)。今回はクールなサウンドの曲が多いから、あえて明るく歌おうと思ってた。大人っぽくしよう、っていう気持ちはなかったんだよね。むしろ子供っぽいイメージでビブラートも全然かけなかったし、そうじゃないと自分が自分じゃなくなる感じがしちゃって。ボーカルが上手になりすぎないっていうのかな。
──意識している方向はむしろ逆であると。
マナ そこは大事にしてる。なかなか慣れないけどもね。
自由に、わがままでいること
──ユウキさんの作った歌詞についても触れたいのですが、くせ毛について歌った「カーリー・アドベンチャー」、ポジティブなメッセージが込められた「CHOOSE GO!」「アイム・ミー」など、過去の作品でも扱われてきた“コンプレックス”“自分らしさ”といった題材が今回も使用されています。一方「GREAT JOB」では「家事はとてもすごい仕事だ」と歌われていて、当たり前だと思われることを違う視点で捉えた内容となっていますね。
ユウキ コンプレックスについての曲はどれも「見方を変えるだけで、ポジティブな考え方に変えることができるよ」っていうことを伝えたいんだけど、「GREAT JOB」も同じような捉え方で作ったんだよ。家事は「誰からも褒められない」「やらなきゃいけない」ものって考えられてるけど、本当は生きていくために必要なことだし、カッコいいことなんだよって言いたかった。家族を見てて、ずっとそう思ってたから。
──なるほど。
ユウキ お仕事が終わって、お家に帰ってきて家事をするでしょ。それってすごいことだなって。
──ほかにも「FAMILY MEMBER」では、仲間がお互いに支えあう様子が歌われています。CHAIの皆さんは同じ家で生活していて、お互いを褒め合うと過去のインタビューでお話ししていましたよね。そのことについて歌われていたのがこの曲だと思ったのですが。
ユウキ 「FAMILY MEMBER」はCHAIの4人の関係性に加えて、CHAIを支えてくれているみんなのことも歌っていて。年下の人も、私たちの両親より年上の人も、みんなフラットに接してくれて、そんな関係を“FAMILY”に例えたの。
──とてもいい関係ですね。
ユウキ それに今までは「ずっと子供でいたい」っていう気持ちがあったんだけど、フラットな関係が生まれたことで、大人になることのよさも教えてもらったし。ほかにも先輩と後輩、上司と部下って関係はギクシャクしたものだと感じていたけど、ホントは違うんだってわかったんだよね。「FAMILY MEMBER」ではそのことについても表したかったかな。
──そしてアルバム終盤では、ありのままにビートを感じることを歌った「Feel the BEAT」、未来に対する夢をつづった「フューチャー」という楽曲が続き、今後さらにCHAIの皆さんが前進していく意気込みを表すようにアルバムが締めくくられています。
マナ うんうん。自由に、わがままでいることがCHAIなりの“パンク”だから、その思いが伝わったらうれしいよね。
──アルバム「PUNK」のレコ発ツアー「PINKなPUNKがプンプンプン トゥアー!」はこれまで以上に規模の大きな会場で行われ、ファイナル公演は新木場STUDIO COASTが舞台となります。このツアーでやってみたいことはありますか?
ユウキ 次どんなことできるかな?
ユナ トロッコに乗って登場するとか?
ユウキ 花道も3本ぐらい用意したい!
カナ UFOに乗って登場するとか。まだできない?
ユウキ 何かに乗って登場して、最後はそれに乗って帰るっていうのやってみたいよね。あとはジャニーズみたいに車でフロアを回ったり。
ユナ で、サイン入りグッズを客席に投げてね。
ユウキ それヤバい!
ユナ 衣装チェンジもしてみたい。
カナ サーカス団が出てきたり。
──相当アイデアがありますね(笑)。
マナ どこまでできるかわからないけど(笑)。
「NEOかわいい」は間違っていなかった
──先ほどよく聴いているアーティストにも挙げられたSuperorganismとはイギリスツアーに同行したほか、今年1月の日本ツアーでも競演されました。再会してみてどうでしたか?(参照:SuperorganismのO-EAST公演にCHAI登場、アンコールで一緒にダンス)
マナ いっぱい話したね。
ユナ 会った瞬間にハグしてくれて、「最高!」って思った!
マナ Superorganismはみんな私たちのことをいっぱい褒めてくれて。大好きなバンドに褒めてもらえるのって、すっごい自信になるなって感じた。
──そんな中、皆さんはイギリスツアー終了直前のインタビューで、活動について悩むこともあったと明かしていました。
ユウキ そんな時期もあったね。でもSuperorganismとのツアーを経て、自分たちの姿勢が“パンク”っていう言葉で表せるようになってからは、すごく気持ちが楽になったの。その考え方を貫いていい、安心感が生まれたんだろうね。
──2018年はテレビへの出演もたくさんありましたが、その中でも特に印象的だったのが「ミュージックステーション」でした(参照:次週「Mステ」にCHAI、島茂子、大原櫻子、スカパラ×さかなクン、乃木坂46登場)。地上波でも特に有名な音楽番組に出演して一気に知名度が広まった一方、放送後SNSでは一部感情的な意見も飛び交っていて……。
ユウキ いやいや! 私たちは全然気にしてないよ。
マナ 心配してくれてありがとう。
カナ これはしょうがないことだよね。受け入れられない価値観って絶対あるし。
ユウキ そういうもんだよ。
──その一方で今年1月に放送されたNHK「クローズアップ現代+」で特集された際には、CHAIの活動に強い影響を受けた、高校生の女の子が登場しました(参照:NHK「クローズアップ現代+」にCHAI登場! 地元でインタビュー&ツアー密着)。
ユウキ すごいうれしかったよね。
マナ 放送観て泣いたもん(笑)。
──「クローズアップ現代+」の放送内容は皆さんがこれまで発していたメッセージが、ファンの方の普段の生活、考え方にも影響を及ぼしたことを端的に表しているように思いました。
マナ 素直にうれしいと思ったよ。
──ほかにもTwitterでは、男の子に「ブス」と言われた女の子が「私はNEOかわいいだよ」と答えたというエピソードが話題を呼びました。バンドのコンセプトを表していた「NEOかわいい」というキーワードがどんどん広まっているのと同時に、その言葉自体に強い影響力が生まれ始めたように感じます。
一同 うれしいねー!
ユウキ 誰かを勇気付けるのって、私たちがまさにやりたかったことだったから。
──近い将来、ポスト「NEOかわいい」と言えるようなアーティストが出てくるかもしれませんね。
カナ 今までやってきたことが間違ってなかったって実感できたよ。
ユウキ 逆にこっちが自信を持てたね。
マナ 何があっても全然へっちゃら。
ユナ 無敵やわ。
ユウキ ちゃんと伝えたいことが届いてるんだなってわかった。そんなエピソードがあったら、これからもがんばれるよね。
ツアー情報
- CHAI JAPAN TOUR 2019「PINKなPUNKがプンプンプン トゥアー!」
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- 2019年6月8日(土) 愛知県 DIAMOND HALL
- 2019年6月9日(日) 大阪府 なんばHatch
- 2019年6月13日(木) 北海道 札幌PENNY LANE24
- 2019年6月15日(土) 新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
- 2019年6月16日(日) 宮城県 Rensa
- 2019年6月21日(金) 岡山県 YEBISU YA PRO
- 2019年6月23日(日) 福岡県 DRUM LOGOS
- 2019年6月29日(土) 東京都 新木場STUDIO COAST