音楽ナタリー Power Push - cero
変化の時を迎え、やがてバンドは次のコーナーに
ceroのニューシングル「街の報せ」は、表題曲の作曲を荒内佑(Key)が担当。黒田卓也(Tp)とコーリー・キング(Tb)をゲストに迎え、アメリカ・ニューヨークでレコーディングが行われた。
さらに今作には、「やがて人生は次のコーナーに」というフレーズが印象的な髙城晶平(Vo, Flute, G)作曲による「ロープウェー」と、3曲の中で唯一のバンド録音である橋本翼(G, Cho)作曲の「よきせぬ」も収録。それぞれ異なるメンバーが作曲を手がけ、制作者ごとの個性がサウンドに現れているが、トータルで聴いてバラバラな印象はなく、むしろより強く“ceroらしさ”が前面に出た作品に仕上がっている。
今回のインタビューでは「街の報せ」の制作エピソードを中心に、バンドの現状などについてメンバー3人から話を聞いた。
取材・文 / 柳樂光隆 撮影 / 相澤心也
ceroの頭文字の曲名を1人ずつ出し合うゲーム
──前作「Obscure Ride」の発売から1年半。この間、どういうことをやったり、考えたりしてましたか?
髙城晶平(Vo, Flute, G) 単純にライブの数が多かったですね。リリース後のツアーも今までで一番多い17カ所で、行ったことがない街にも行きました。それが終わってちょっとしたらフェスが始まり、みたいな感じで、アルバムを出した余韻を味わうというよりは、「出した作品を肉体化するための1年」くらいの感じでしたね。現場で鍛えられていきました。
荒内佑(Key) 個人的には音楽を勉強してましたね。ガッツリではないですけどリズムと和声の勉強をし直したりして、それで今年は終わっちゃったなって感じです。
橋本翼(G, Cho) 「Obscure Ride」が出たときに、「すぐに4枚目を出そう」みたいなことを髙城くんが言ってて。確かにそういう雰囲気もあったんですけど、意外とそうならなかったんで、僕は気負わずに曲を作ったり、締め切りが来たらがんばろうと思って、この作品に備えてました。
──今回のシングルはどんなきっかけで作られたんですか?
荒内 よくある話で、レーベルから「1年半も何も出してないから、そろそろなんか出してくれ」って言われまして。このシングルに関しては、リリースのめどもなく黒田(卓也)さんとコーリー(・キング)の演奏を録音して、「これ出来がいい」と思ったのがきっかけ。髙城くんの「ロープウェー」もすでにあったから、そこらへんをまとめたら作品にはなりそうだなって。
髙城 もともとはゲームっぽいことをしようって話をしてたんですよ。PAやエンジニアをやってくれてる得能(直也)さんが「ceroの頭文字の曲名を1人ずつ出し合ってミニアルバムを作ればいいんじゃない。CとEとRの曲をそれぞれ作って、Oは3人共作で作ったインストにして」って何かのときに言ってて。それくらい軽いノリで作るのはいいなと思ってたんですけど、そのルールに則って作ったのは俺だけで(笑)。「ロープウェー」のR。あとが全然続かず(笑)。
──なんでスルーしたんですか?(笑)
荒内・橋本 スルーしてないです。
荒内 最初は一応、すごくがんばってルールに即して考えてたんですけど、「ロープウェー」のRとリンクするような曲がなかなか作れなくて。「街の報せ」は「ロープウェー」と相性がいいと思ってたものの、昔の曲だし、今やりたいのとはちょっとズレてたから、なかなかうまくハマらないなって(笑)。
髙城 結局そのルールはもういいやってなって。
荒内 フェードアウト。
髙城 普通に「街の報せ」を入れるのがいいんじゃないかって話になったんです。いい曲だもんなあって。
橋本 1人1曲ずつ作る、っていうのだけ残りましたね。
荒内 「街の報せ」は「calling from ○○」みたいなタイトルに変えようって案もあったんですよ。
髙城 むりやり頭文字をCにするか、っていう話もしたね。
荒内 そこまでやんなくていいなって。
NYのミュージシャンにデフォルトで装備されているもの
──「街の報せ」はけっこう前の曲なんですね。
荒内 「Obscure Ride」(2015年5月発売アルバム)をリリースしたときタワレコの特典CDに入れた曲ですね。
髙城 アルバムと同時進行で作ってた曲だよね。
荒内 アルバムに入れようと思ってたんですけど、僕が熱を出したりして、締め切りに間に合わなかったんですよね。そんな理由かって話だけど。結局、アルバムにははしもっちゃんの「DRIFTIN'」が最後に入ったんです。そういう意味で言うと「街の報せ」は「Obscure Ride」の延長にありますね。
──アレンジはタワレコの特典のときと変わってるんですか?
荒内 リズムトラックは同じなんですけど、キーが違うのと、原曲ではホーンが入ってないんで、そこが違いますね。ローズやピアノを生演奏にしたり、けっこう差し替えましたけど、基本は変わってないです。
──ニューヨークに行って録った素材が入ってるんですよね。ニューヨークはどうでした?
髙城 面白かったですね。ニューヨークに行く云々みたいなのも「Obscure Ride」がひと段落した頃に出始めた話で。なんとなく「ニューヨークに行きたいね」みたいな感じで、そのときは無目的に言ったんですけど、同じタイミングでニューヨークにいる黒田さんから連絡がきたんですよね。「僕の新作『ジグザガー』で一緒にやりませんか?」みたいな。これはいいタイミングだと思って「行きます」って。
荒内 「ちょうどいいや」ってね。
髙城 「実は行きたいなって話してたんですよ」って返事したら、「じゃ、来ましょう」って話になったんです。ついでに何か作れたらいいなと思って「街の報せ」を持って行きました。
──「ジグザガー」のセッションはどうでしたか?
荒内 「すげーな」って思いましたね。黒田さんがJ・ディラっぽいのやってくれって言ったら、ドラムのザック・ブラウンとベースのラシャ―ン・カーターが「ははは」って笑いながらすぐやってくれて。みんな当り前にディラっぽいのとか、アフロっぽいのとかが引き出しの中にあって、なんでもすぐにできちゃうっていうか。俺らが1年くらいがんばって「こんな感じかな?」とか言いながらやってたものが、デフォルトで装備されている。しかも、その先を行っているっていうね。すごいなと思いました。
橋本 彼らがそういう感じだから、こっちはノーガードっていうか、頭空っぽにして演奏して。弾けたところだけを使って組んでもらいました。
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収録曲
- 街の報せ
- ロープウェー
- よきせぬ
- ライブBlu-ray / DVD「Outdoors」 / 2016年12月7日発売 / カクバリズム
- Blu-ray Disc / 5000円 / DDXK-1002
- DVD / 4000円 / DDBK-1014
収録曲
- (I found it)Back Beard
- 21世紀の日照りの都に雨が降る
- マウンテン・マウンテン
- 大洪水時代
- 船上パーティー
- good life
- スマイル
- さん!
- Summer Soul
- Yellow Magus(Obscure)
- Orphans
- ticktack
- ロープウェー
- outdoors
- Elephant Ghost
- わたしのすがた
- ターミナル
- 夜去
- Narcolepsy Driver
- Wayang Park Banquet
- 大停電の夜に
Encore
- Contemporary Tokyo Cruise
- 街の報せ
cero(セロ)
2004年に髙城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key)、柳智之(Dr)の3人により結成された。グループ名のceroは「Contemporary Exotica Rock Orchestra」の略称。2006年には橋本翼(G, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベル・commmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成になった。2013年12月に「Yellow Magus」、2014年12月に「Orphans / 夜去」というブラックミュージックにアプローチした2枚のシングルを発表。2015年5月に3枚目のアルバム「Obscure Ride」をリリースした。2016年には東京・日比谷野外大音楽堂と大阪・大阪城野外音楽堂でワンマンライブ「Outdoors」を開催し、その日比谷野音公演の映像を12月にDVDとBlu-rayで発表。同日にシングル「街の報せ」を発売した。