ナタリー PowerPush - cero
ExoticaからEclecticへ 漂流する物語の行方
1stアルバム「WORLD RECORD」で描いた架空の街から、2ndアルバム「My Lost City」の海の世界へ。現代のエキゾポップとともに冒険を続けてきた3人組バンド、cero。前作から1年2カ月ぶりとなる初のシングル「Yellow Magus」はメンバーが傾倒するブラックミュージックのマジックと歌詞で描く砂漠の世界を新たなフロンティアに、奇想天外なサウンドアドベンチャーへと乗り出した驚きの1枚だ。
2014年を目前に控え、新たな音楽の扉を開けた彼らの心境とは果たして。ナタリー初のインタビューとなる今回は、ソングライティングを手がける高城晶平(Vo, Flute, G)と荒内佑(Key, B, Cho)に話を聞いた。
取材・文 / 小野田雄 インタビュー撮影 / 笹森健一
ceroは何度も何度も別モノに変化してきたグループ
──今回、完成した初のシングル「Yellow Magus」は降って湧いたような作品というか、個人的にはその突然の到着にいい意味で驚かされました。
高城晶平(Vo, Flute, G) でも、実は前作(2ndアルバム「My Lost City」)から1年経ってるんですよね。いろんな方から同じように「前作からのインターバルをあまり感じない」って言われるんですけど、前作の影響力がまだ残ってるうちに今回のシングルができたということであればうれしいんですけどね。
──そしてもう1点驚かされたのは、今回のシングルは内容的に1stアルバム「WORLD RECORD」、2ndアルバム「My Lost City」の流れから飛び出したチャレンジングな作品であるということ。この作品を読み解くために、まずはバンドの足跡を紐解いていきたいんですけど、ceroの結成は2004年になるんですよね。
高城 そうですね。このバンドを僕と荒内くん、それから2011年に脱退して、今は作品のジャケ絵を描いてくれてる柳(智之)くんの3人で始めたんですけど、当初はもうちょっとポストロック寄りだったんですよ。当時、僕らは高校を卒業したばかりだったんですけど、2004年当時というのはHi-STANDARDの影響でスリーピースのバンドがたくさん生まれた時期だったということもあって、その流れとは違う音楽をやろうと思ったんです。
荒内佑(Key, B, Cho) 最初期はインストと歌が半々ぐらいだったかな。「WORLD RECORD」に入ってる「大停電の夜に」と「outdoors」、「My Lost City」の「roof」はその頃できた曲なんですけど、「大停電の夜に」の当時のバージョンは曲中にシンセの長いシーケンスがあって、曲の尺が10分以上あったり、いわゆるバンドらしいアプローチをあえて避けていましたね。
高城 そして結成から2年後の2006年に橋本(翼)くんが加わって4人編成になるんですけど、それ以前はとにかく変わったことをやろうとしていたのに対して、橋本くん加入後はバンドらしくなって、よりエバーグリーンな音楽を志向するようになりましたね。
荒内 当時高城くんがよく言ってて、ハッとさせられたのは「ポップになることを恐れずにやろう!」ということ。それ以前は変わったことをやろうとしていたけど、僕たちはポップなものも好きだったし、橋本くんが参加したことでバンドとしてやれることが増えて、ポップな要素も補強されたんです。
高城 ただ、最初の3人時代のライブを客として何度も観ている橋本くんは当時のクールな佇まいを評価してくれていて。今でも「あの時代のceroはカッコよかった!」って言ってくれるんですけど、橋本くんが入ってからのceroがポップな方向に向かう中で、彼なりに初期の鋭い部分だったり、音楽的なチャレンジ精神をなくさないように意識してくれていて、今でもたまに「俺がceroに入ってよかったのかな?」って聞いてくるほどなんです(笑)。でも、結成時のceroと橋本くん加入後のceroはまったくの別モノだし、これまでのceroは何度も何度も別モノに変化してきたグループなんですよ。そうやって変化を重ねてきただけに、ceroはバンドらしい実体がないバンドだと僕は思っているんですけどね。
決まった楽器だけを弾かなきゃいけないというルールはない
──通常のバンドはパートが固定されているのに対して、ceroはレコーディングでもライブでも複数の楽器を取っ替え引っ替えするところもバンドらしくないですよね。
高城 それは2000年代半ばにUSインディーズのスフィアン・スティーヴンスやWhy?のライブを観て、ポストロック以降の流れというか、楽器を取っ替え引っ替えしながら、ポップな音楽を脱構築するスタイルに衝撃を受けたことが大きくて。当時、自分たちの周りにはそういう音楽をやってるバンドがいなかったし、そこにはっぴいえんどや細野(晴臣)さんの音楽から受けた影響を加えることで、今の日本にはない音楽ができるんじゃないかなって。だから、その時点から楽器をガンガン持ち替えていこうということになったんです。
荒内 音楽をやる際に決まった楽器だけを弾かなきゃいけないというルールがあるわけじゃないですし。例えば今の高城くんはフルートも吹くんですけど、そうなると同時にベースは弾けないから、そのベースパートはシーケンスを鳴らしちゃおうとか、そうやって必要に応じて新しい楽器を加えていったところもあります。
高城 あと、そのあと僕たちの作品やライブに参加することになるMC. Sirafu(片想い、ザ・なつやすみバンド、うつくしきひかりで活躍するマルチインストゥルメンタル奏者)さんとの出会いも大きいですね。彼が中心にもなっている「とんちれこーど」という集団に、ホライズン山下宅配便ってバンドがいて、彼らはUSインディーズの流れを知らずに、楽器を持ち替えながら同じようなことをやっていたんですよ。だから、周りに触発された部分も大いにありますね。
──そして、はっぴいえんど以降のフォークロックからエキゾ音楽に至る流れとポストロック以降のUSインディーズの要素を融合させた1stアルバム「WORLD RECORD」はカクバリズムと契約する以前にその時点で完成していた曲をもとに、自分たちでレコーディングを始めたそうですね。
高城 バンドを取り巻く状況がなかなか変わらなかったし、「今は機材やソフトが安く手に入るから、自分たちで録音する環境はすぐに整えて自分たちで録るのがいいんじゃない?」ということで、練習スタジオにマイクを立てて録音を始めたんです。ceroの作品で橋本くんがミックスだったり、エンジニアの役割を担うようになったのはその時期からなんですよ。
- ニューシングル「Yellow Magus」 / 2013年12月18日発売 / [CD+DVD] 1890円 / KAKUBARHYTHM / DDCK-1035
- ニューシングル「Yellow Magus」
CD収録曲
- Yellow Magus
- 我が名はスカラベ
- Ship Scrapper
- 8points
DVD収録内容
2013年初頭に全国8カ所で行われた“My Lost City”リリースツアーのツアードキュメンタリーと、同年9月8日に東京・LIQUIDROOM ebisuにて行われたワンマンライブより「マイロストシティ」のライブ映像を収録(全71分)。
cero(せろ)
2004年に高城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key, B, Cho)、柳智之(Dr)の3人により結成された。グループ名のceroは「Contemporary Exotica Rock Orchestra」の略称。2006年には橋本翼(G, Clarinet, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベルcommmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより初の全国流通アルバム「WORLD RECORD」を発表。本秀康による描き下ろしジャケットイラストも話題となった。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成に。2012年10月に2ndアルバム「My Lost City」を発表した。2013年12月に初のシングル「Yellow Magus」をリリース。