私もミュージカルみたいなことやってた
──ブルースの楽曲の歌詞が次々と画面に出てきましたが、印象に残っているものは?
背中を押される歌詞がいっぱいありました。例えば好きな女の子(イライザ)と初めてデートしたとき、「もう帰るの?」と言われて、ブルースの歌詞を自分で口ずさんで勇気をもらって、いきなり「いや、帰らない!」と言い出したり。私だったら「ブルースの歌に酔ってるだけじゃない? 冷静になって、それでも好きだと思ったら付き合おうって言ってくれないかな」と思っちゃうかも(笑)。ちょっとチャラい幼なじみの友達(マット)のお父さんたちと古着屋で働いてるとき、急にみんなで歌い始める場面もよかったです。
──ミュージカルみたいですよね。
そうですね! 放送室に忍び込んで、勝手にブルースのレコードかけちゃう場面もそうだし。いきなり歌ったり、踊ったり、走り出したり、楽しい気持ちになりました。私も高校のとき、同じようなことを1人でやってたんですよ(笑)。ディズニー映画の「魔法にかけられて」の「Happy Working Song」が大好きで、掃除の時間に頭の中で歌いながら、お姫様になった気分で掃除しました(笑)。ジャベドは一緒にやってくれる仲間がいて、うらやましいなって思いました。
──友達に恵まれているんですよね、ジャベドは。
そうですよね。ブルースの音楽を教えてくれた友達(ループス)もすごくいいヤツだし。ループスって、きっとそれまでにもいろんな人に「ブルース・スプリングスティーン、いいよ」ってオススメしてたと思うんですよ。そのたびに「興味ない」とか「ダサい」って言われてたんじゃないかなと。ジャベドがブルースを好きになって、やっと話が合う友達ができてよかったなと思いました。あと、ジャベドがお父さんとぶつかって、絶縁しそうになるシーンも印象的でした。
──「独立の日(Independence Day)」が流れる場面ですね。
ズシっと来ましたね、あのシーンは。私も高校のとき、親に反抗して家出して、勝手に1人暮らしを始めちゃったことがあったので、気持ちはわかるなって。
いつも感謝の心を持って、謙虚にやれよ
──眉村さんは事務所に所属せず、アーティスト活動をするために自分で会社を立ち上げて。独立心旺盛ですよね。
そうかも。「選択肢はAかB」と言われると、「Cを作ればいいじゃん」って思うタイプだから。小学校のとき、熱血オヤジみたいな先生がいて。その先生は私が苦手な熱い人だったんですけど(笑)、クラス会で意見が分かれると、「みんなが納得できる意見を新たに作ればいい」と言っていて。そのとき「なるほどね」と思ったのが影響してるのかも……って、今気付きました!
──教師の言葉って、実はすごく影響力がありますからね。ジャベドも高校の先生に「あなたには才能がある」と励まされて、モチベーションを上げてたし。
けっこう人の言葉を信じやすいタイプですよね、ジャベドは。すぐ影響されてやる気になるのはいいと思うんだけど、この先「俺には才能がある」って、つけ上がらないか心配です(笑)。私も褒められて伸びるタイプですけど、ずっと全肯定されてたら「おい、水持ってこいよ」みたいな高圧的な人になってたかも(笑)。ジャベドにも「いつも感謝の心を持って、謙虚にやれよ」と言いたいです。表現の道に進むと、「すごい人ばっかりだな」と落ち込むこともあると思うんですよ。そのときに「そういえば高校の先生は自分のことを信じてくれたな」って思い出すかも。
がんばってるおじさんに共感
──ジャベドと両親の関係も、「カセットテープ・ダイアリーズ」の軸になっています。
私、家族系のストーリーに弱いんですよ。この映画で言うと、ジャベドのお父さんが職を失って、「つらい」と弱ってる場面で大泣きしちゃいました。普段は威厳があって堂々と振舞っているからこそ、こういうときは弱いんだなって。家族を守りたいからこそ怒るし、ジャベドにもきつく当たるけど、実はすごく優しい人なんだと思います……お父さんの話してると、泣きそうになっちゃう。
──主人公よりも、むしろお父さんに共感してるみたいですね。
そうですね(笑)。私のファンも女の子かおじさんだし、がんばってるおじさんを見ると共感しちゃうんですよ。ジャベドのお父さんは不器用なだけで、息子を叱ってるときも心は傷ついてるんじゃないかな。お母さんも優しいですよね。「あなた、お父さんに対して何を言ってるの!」みたいなことは言わないし、ずっと見守ってくれて。ジャベドもただ反抗しているわけではなくて、やりたいことがあるだけなんですよね。
──眉村さんがアーティストを目指したとき、家族は反対しなかった?
直接、反対はされなかったですけど、「大丈夫なの?」という視線は感じてました。音楽をやりたいって言ったとき、親に「女の子だし、結婚すればどうにでもなるから」というニュアンスのことを言われて。そのとき「あ、成功しないと思ってるのかな」って。
──カチンと来た?
いえ、「ごめん」と思いました。不安にさせちゃってるんだなと思ったし、音楽で食べていけることを証明するためにも、早く売れなくちゃって。小さい頃から「公務員になってね」と言われてたんですよ。安定してほしいという気持ちが強い両親だし、私が急に「アイドルになりたい」と言い出したときも、めちゃくちゃ不安だったと思うんです。急に日記をつけ始めましたからね、母親が。「何か記してる。やっぱり心配してるんだな」と思いました。最近は職場でも私の話をしているみたいで、「私が音楽をやってるのが恥ずかしくなくなったんだな」って、ちょっとホッとしてます。
ジャベドに厳しい眉村ちあき
──いろいろな状況の中で、夢に向かって踏み出せない人にも、ぜひこの映画を観てほしいですね。
そうですね! 私は無謀というか、まず飛び込んでみるタイプなんですよ。今のレコード会社と契約したときもそう。周りの人には「慎重に選びなよ」と心配されたんだけど、タワーレコードの嶺脇育夫社長、音楽ライターの南波一海さんに「やれる状況があるんだったら、やればいいんじゃない?」と言われて「それな!」と即決したんです。まずはやってみて、ダメだったら戻ればいいやって。
──最後に「カセットテープ・ダイアリーズ」に興味を持っている方にメッセージをお願いします。
まず、ブルース(・スプリングスティーン)は人の名前です(笑)。あとは大人の方には「若い頃の燃えたぎるような心を思い出しながら観てね」と言いたいです。私もこの映画を観て燃えたぎったし、夢中になってモノを作る心を一生忘れたなくないなと思いました。「作らなきゃ」ではなくて、「作りたくてたまらない!」という気持ちがいいなって。
──ジャベドも、まさにそうですからね。
そうですね。ただ、ジャベドが書くことを仕事にしたとき、ずっと純粋なままでいられるかはわからないですけど(笑)。出版社の人の意見もあるだろうし、「厳しい世界が待ってるからな!」って言いたい。
──ジャベドに厳しいですね(笑)。ちなみに眉村さん、カセットテープを使ったことはありますか?
ありますよ! 家にラジカセがあったんですよ。ガチャッと(録音ボタンを)押して、歌を録ったりしてました(笑)。