1987年のイギリスを舞台に、パキスタン移民の少年・ジャベドがブルース・スプリングスティーンの音楽に大きな影響を受けながら成長する姿を描いた映画「カセットテープ・ダイアリーズ」。ブルースの大ファンであるジャーナリストのサルフラズ・マンズールによる自伝的回顧録を、映画「ベッカムに恋して」のグリンダ・チャーダ監督が瑞々しい青春音楽映画に仕上げている。音楽ナタリーでは“トラックメーカーアイドル”の眉村ちあきに、本作を観た感想やジャベドをはじめとする登場人物への思い、共感ポイントなどを聞いた。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 塚原孝顕
ジャベドとの共通点
──映画「カセットテープ・ダイアリーズ」の主人公・ジャベドは、ブルース・スプリングスティーンの音楽との出会いをきっかけにして、自分の夢や目標に向かって進み始めます。眉村さんにも同じような経験があるのでは?
めっちゃありますね! 最近だと、自分の曲を聴いてハッとしました。「生きてれば分かんなくなることも 何千回もあるけどさ 今だけはこの瞬間だけは ひょっとして笑いませんか」(「I was born in Australia.」)という歌なんですけど、「ホントにそうだな。この曲を聴いている間だけでも笑おう」って。聴いてくれる人に元気を出してもらおうと思って作ったんですが、自分が励まされました(笑)。実は私、高校までは音楽にまったく興味なかったんです。その頃を思い出すと、暗黒だったなと思います。
──ブルースに出会う前のジャベドに似てますね。
そうかも。ほかのアーティストからの影響だと、どついたるねんさんが大きいですね。初めてライブを観たとき、目と耳の両方ですごく楽しませてくれて、パフォーマンスも型にはまらない感じで。「人生、自由だ!」と思ったし、背中を押してもらったんです。どういう音楽をやればいいかずっと悩んでいたんですが、そのライブをきっかけに自分がやりたいことが見えてきて、曲も大量に作れるようになって。あのライブが分岐点でしたね。
ファッションは尾崎豊さんみたい
──眉村さんはレディー・ガガやBoAさんにも影響を受けたそうですね。
はい。ガガさん、BoAさんに関しては、若い女の人がたくさんの人を従えて歌っているのがカッコいいなって。今も憧れてますね。
──ファッションをマネしたり?
あ、それはなかったです(笑)。私のファンの女の子の中には、私と同じメイクや髪型にしてくれている子もいますよ。「ちあきちゃんと同じところにホクロを描いたよ」とか。
──「カセットテープ・ダイアリーズ」の舞台になっている1980年代のファッションはどうですか?
すごく好きです。ジャベドのファッションは尾崎豊さんみたいですよね。“Tシャツイン”で。
──尾崎豊さんはブルース・スプリングスティーンの大ファンだったそうですよ。だからジャベドにも似てるという。
そうなんですね! ジャベドの高校の先生のファッションも素敵でした。大人の女性のオシャレという雰囲気で。
ブルースみたいに血が通っている音楽が好き
──ジャベドが心酔するブルース・スプリングスティーンの音楽には、どんな印象を持ってますか?
私、ブルース・スプリングスティーンを知らなかったんですよ。映画の中でジャベドや友達が「ブルースが……」と言ってるから、「ジャンルのことはよく知らないけど、これがブルースという音楽なのかな。私が思っていたのとちょっと違うな」と思ってたら、途中で「あ、人の名前なんだ!」って気付いて。初めて曲をちゃんと聴きましたけど、すごくいいですね。まっすぐな歌詞に心を突き動かされたし、若者に支持されるのもよくわかりました。たぶんライブもエモくて熱いだろうし、実際に観たら泣いちゃいそう。でも、流行りモノが好きな人に「こんなのダサいよ」って言われる感じもわかりますね。「もっとシャレた音楽がいいよ」みたいな。
──実際、映画の中でも「ブルース・スプリングスティーンは古い」とクラスメイトから言われたりしますからね。
そうそう。私はどっちの気持ちもわかるけど、ブルースみたいに、血が通っている音楽のほうが好きなんですよ。(オシャレな音楽に)血が通ってないわけじゃないけど、人間っぽいほうがいいなって。それがどついたるねんさんだったり、クリトリック・リスさんなんですよね、私にとっては。クリトリック・リスさんなんて、トラックはスカスカだし、歌もうまくないけど、歌詞の中にスギム(クリトリック・リス)さんの人生がめちゃくちゃ出ていて、グッと来る。それと同じってことではないけど、ブルースの歌にもすごく説得力があると思います。
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私もミュージカルみたいなことやってた