ヴェイパーウェイヴとリンクした90年代前半の西脇イズム
──「最高のヒットメーカーが作った曲」「出会ったばかりの2人が即興で作ったような曲」という設定に合わせた楽曲作りというのも大変そうですけど、どれもドンピシャでハマっているなという印象です。
そうですね。津野米咲(赤い公園)さんが作った「Round & Laundry」(第3話に登場するキャロル&チューズデイの楽曲)とか。米咲さんは誰に曲を書くときも、その人と同じ目線、そのユーザーに一番届く目線で書けるんですよ。「Round & Laundry」も風景とトラック、リリックがぴったり合ってる。一方でフライング・ロータスが作ったスキップの「unrequited love」はフューチャリスティックだったりして、いろんな意味で差分を作ってると思うんですよ。ベニー・シングスは日本人アーティストともたくさんコラボしていて、日本との相性のよさはすでに証明されていたので、あくまで日本のアニメながらきちんと洋楽をやる「キャロル&チューズデイ」との親和性は高いですね。
──オープニングとエンディングの2曲はいかがですか? この2曲はキャロル&チューズデイの楽曲として、2人の歌声を演じているナイ・ブリックスとセレイナ・アンが歌っています。
パートが別になっているとか、クロスハーモニーだったりとか、その時点で現行のアニソンとは乖離していますよね。まったくの別物。ただ、エンディングの「Hold Me Now」は、たまたま偶然なのか……すごく西脇辰弥さんっぽく聞こえません? 谷村有美さんの「愛は元気です。」(1991年発売のアルバム表題曲。1993年にテレビアニメ「3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?」のオープニングテーマに採用された)をプロデュースしていた頃の西脇さん。あの時代に近いキャッチーさを感じるんですよ。ああいうブルーアイドソウル的なトラックを打ち込みで作った今っぽさはあるものの、これは1周回って西脇辰弥さんのプロデュースワークが戻ってきたような。
──なるほど! 言われてみれば確かに。そう言われると、エンディングのアニメーションに感じた不思議な身に覚えのある感じにも合点がいきます。
タイトルの感じも1990年代っぽいというか……90年代も後半じゃなく前半ね。ベニー・シングスがその頃の西脇ワークスを知っているはずがないと思うんですけど(笑)、岡崎律子さんのプロデュースで作っていた西脇さんのトラックに、あの感じのニュアンスはいくらでもあって。ベニー氏の中で、もしかしたら昨今流行っているヴェイパーウェイヴ的な流れのテクスチャが、たまたま西脇イズムのテクスチャとリンクしている可能性もある。シンセの音もYAMAHA DX7みたいなFM音源を使ったりとか、PCM音源のリバイバルの流れもあるからなのか。だから1周回ってアニソンっぽいんですよ、あの曲だけは。
──その論考、すごく鋭い気がします。ヴェイパーウェイヴが90年代前半のムードを呼び起こしているものだと考えると、当時のアニソンとリンクする部分は少なからずあるという。
ヴェイパーにある角松敏生感、西脇辰弥感、伊秩弘将感……ああいうものが遠く海を渡ってヴェイパーウェイヴというテクスチャで使われ始めて、結果The 1975もPrefab Sproutみたいな音色で曲を作っているわけで。あの頃のアニソンは今の洋楽ポップスと親和性が高いと思います。
あんなにヌルヌルヌルヌル動いていいんだろうか
──前半を観てきた中で、ミトさんが気になったポイント、好きな場面やキャラクターなどを挙げるとしたら?
4話のMV撮影はすごかったですね。あの作画はめちゃくちゃヤバかった。あの1話分だけでどのぐらい日数かけたんだろうってぐらい……完成したダメなCGとかに目が行きがちですけど、それよりも、みんなで案を出し合っている場面の手の動きとか、そこだけでどれだけの枚数使ってるんだろう。「うわー、ここにこんだけ力入れたかあ」って。
──(笑)。
あれはすごいですよ多分。ギミックなしですからね。イデアくんが作ったMVも相当大変だと思うんですけど、ああいう画質がどんどん変わっていく感じは「スペース☆ダンディ」でも観ていたので「ナベシン監督らしいな」と。身振り手振りだけであんな枚数使ってるのは、生まれて初めて観たかもしれない。あんなに人がヌルヌルヌルヌル動いていいんだろうかって。1回止めて何度か観返しましたもん。4話はダントツで衝撃的でしたね。ニッチな話で申し訳ないですけど、絵を動かすカロリーって、それに比例するストーリーの重要性とかあると思うんです。だから、あそこで急にキャラクターが生き生きし始めてびっくりしたんですよ。
──そのへんでワクワクできるアニメはひさしぶりかもしれませんね。
そうかも(笑)。「キャロル&チューズデイ」はテーマの主流に音楽があるから、どうしてもそちらに目が行きがちなんですけど、ステージの照明だったり、画周りの使い方がやっぱりうまい。ちゃんと観たい場所に視点が動く施しがあって、そうじゃないところに俯瞰があるみたいな。ナベシン監督はアレハンドロ・ホドロフスキーの影響を受けている方だから、この間のフライロのMVもそうでしたけど、バンド・デシネ(フランスのマンガ様式)的な要素を入れているんですよね。その洋画感、海1つ隔てた雰囲気が作品のテーマをより強くしている。ナベシン監督の作品には常にバンド・デシネがその背景にフィーチャーされてきたけど、「キャロル&チューズデイ」はそこがよりキャッチーに練り上げられている気がします。
──特別好きなキャラクターはいますか?
ここからどんどん出てくると思うのでまだわからないですけど……アーティガンは何をやっても宮野パイセンだなと(笑)。
──宮野真守さん、こういうキャラがすっかりハマり役ですね(笑)。
いつからか完全にそういう枠に入っちゃいましたね(笑)。ナルシシズムとダンディズムにコメディを混ぜる才能はすごい。しかも名前がアーティガンですからね。アーメット・アーティガン(アトランティック・レコードの創設者)とか、ライブ制作会社の社長がヘフナーとか、音楽やってる人間は振り返らずにはいられない名前ばかりで。
「どうしてここまでやるんだろう」と思わせるクオリティの高さ
──そのほか印象的なシーンなどはありますか?
やっぱり1話目の、曲を合わせていくシーンのリアルさには驚きましたね。あれはどう作ったんだろう?
──「作りかけの曲を作ってください」という発注をして、それに合わせた動画を撮って、その作りかけの曲を元に作ったのが「The Loneliest Girl」……という手順だそうです。
へえー。キーを探っているところもリアルだったし、どういう手順で作ったのかなって。なるほどね。
──行き詰まっては戻って、また進めて……みたいな曲作りの過程を、ことさらリアルに描いてますよね。もっとなめらかに音を重ねていくだけでもよかったはずなのに。
そうそう。ぎこちない時間をアニメで描くのって、相当難しいと思うんですよ。もっとドラマチックに描いたほうが楽だと思うんですけど、ずっと生々しいままで続いていて。でも、あそこをちゃんと描いているから、これからどんどんつながっていく2人のプロセス、育っていく2人の愛らしさが1話の中でほぼできあがっているから、そこから先は無意識に作品の世界に入り込めるのかもしれないですね。
──物語が展開していくにつれ、どんな音楽が出てくるかも楽しみですよね。
この取材をお受けするうえで、ありがたいことにここまでの劇中曲のフル尺音源を聴かせていただきましたけど……まあどれも本当によくできているんですよね。☆Taku Takahashi(m-flo)さんが作られたアーティガンの「Who am I the Greatest」は劇中では一瞬しか出てきませんけど、しっかりゴリッゴリのフューチャーベースとして作られていますし。このクオリティがストーリーの中に出てきても違和感なく自然に見せられるというのは、やっぱり特殊なアニメなのかなと思います。
──「キャロル&チューズデイ」は2クールの予定で、現在(取材時は7話まで放送)は4分の1ほどですが、どんな展開を期待しますか?
ナベシン監督はこれまでもすごく丁寧に練られた作品を作り続けて来られましたけど、今回もまた今回で「どうしてここまでやるんだろう」「なんで自分で自分の首を絞めるんだろう」と思わせるクオリティの高さなので(笑)、とにかく体を壊さずにがんばって完走してくださいとしか言いようがないです。前半はまだキャピキャピしている2人が、ここからきっと曲を作る苦しみだとか、一緒にやることの大変さ、業界でやっていくことの苦労だとかを味わっていく……そういったところがナベシン監督ならではのやり方で昇華されていけば、きっと素晴らしい作品になると思います。
- テレビアニメ「キャロル&チューズデイ」
- 放送 / 配信情報
フジテレビ:毎週水曜日24:55~
テレビ西日本:毎週水曜日25:55~
東海テレビ:毎週土曜日25:55~
北海道文化放送:毎週日曜日25:15~
関西テレビ:毎週火曜日25:55~
BSフジ:毎週水曜日24:00~
Netflix:毎週木曜日配信
- スタッフ
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原作:BONES・渡辺信一郎
総監督:渡辺信一郎
監督:堀元宣
キャラクター原案:窪之内英策
キャラクターデザイン:斎藤恒徳
メインアニメーター:伊藤嘉之、紺野直幸
世界観デザイン:ロマン・トマ、ブリュネ・スタニスラス
美術監督:河野羚
色彩設計:垣田由紀子
撮影監督:池上真崇
3DCGディレクター:三宅拓馬
編集:坂本久美子
音楽:Mocky
音響効果:倉橋静男
MIXエンジニア:薮原正史
音楽制作:フライングドッグ
アニメーション制作:ボンズ
- キャスト
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キャロル:島袋美由利
チューズデイ:市ノ瀬加那
ガス:大塚明夫
ロディ:入野自由
アンジェラ:上坂すみれ
タオ:神谷浩史
アーティガン:宮野真守
ダリア:堀内賢雄
ヴァレリー:宮寺智子
スペンサー:櫻井孝宏
クリスタル:坂本真綾
スキップ:安元洋貴
- 挿入歌提供 / 参加アーティスト
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アイリック(キングス・オブ・コンビニエンス)/ エヴァン・“キッド”・ボガート / ティム・ライス・オクスリー(キーン)/ ジェン・ウッド / 津野米咲(赤い公園)/ Nulbarich / ベニー・シングス / リド / フライング・ロータス / サンダーキャット / ☆Taku Takahashi(m-flo)/ G.RINA / マイカ・ルブテ / cero / D.A.N. / 梅林太郎 / マディソン・マクファーリン / テイラー・マクファーリン / マーク・レディート / アリソン・ワンダーランド / スティーブ・アオキ / Mogwai / アンディー・プラッツ / Cornelius / and more
- TVアニメ「キャロル&チューズデイ」公式サイト
- TVアニメ「キャロル&チューズデイ」(公式) (@carole_tuesday) | Twitter
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©ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会
- キャロル & チューズデイ(Vo. NaiBr.XX & Celeina Ann)「Kiss Me / Hold Me Now」
- 2019年5月29日発売 / FlyingDog
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[CD] 1404円
VTCL-35302 -
[アナログ] 2160円
VTJL-2
- CD収録曲
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- Kiss Me[作詞・作曲・編曲:Nulbarich]
- Hold Me Now[作詞・作曲・編曲:Benny Sings]
- Kiss Me TV size ver.
- Hold Me Now TV size ver.
- アナログ収録曲
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SIDE A
- Kiss Me
SIDE B
- Hold Me Now
- V.A.「VOCAL COLLECTION vol.1」
- 2019年7月10日発売 / FlyingDog
-
[CD] 3240円
VTCL-60499
- 収録予定曲 / アーティスト
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- The Loneliest Girl / キャロル & チューズデイ(Vo. NaiBr.XX & Celeina Ann)[作詞・作曲・編曲:Benny Sings]
- Round & Laundry / キャロル & チューズデイ(Vo. NaiBr.XX & Celeina Ann)[作詞・作曲・編曲:津野米咲]
- Who am I the Greatest / DJアーティガン[作・編曲:☆Taku Takahashi(m-flo)]
ほか約20曲の劇中歌を収録予定。
- ミト
- スリーピースバンド・クラムボンのベーシストとして1996年に活動を開始。1999年にシングル「はなればなれ」でメジャーデビューを果たし、自由で浮遊感のあるサウンドとポップでありながら実験的な側面も強い楽曲、強力なライブパフォーマンスで人気を集め、コアな音楽ファンを中心に厚い支持を得る。ソロでの活動を楽曲提供、プレイヤー、プロデューサー、ミックスエンジニアなど活躍の場は多岐にわたり、「<物語>」シリーズや「スペース☆ダンディ」「宇宙よりも遠い場所」「心が叫びたがってるんだ。」など多くのアニメ作品でテーマソングや劇伴を手がけている。2019年5月にはクラムボンのメジャーデビュー20周年を記念して、ワーナーミュージック・ジャパンから発表された初期作品がアナログ化。6月以降は「JP」「まちわび まちさび」「ドラマチック」「Re-clammbon」「id」といったアルバム作品がLPとして毎月連続でリリースされる。