ナタリー PowerPush - CARNATION
眼前に広がる夢幻の音楽的風景 3年ぶりフルアルバムがついに完成
カーネーションが、2006年7月発売のアルバム「WILD FANTASY」以来3年ぶりとなるフルアルバム「Velvet Velvet」をリリースする。ドラマーの矢部浩志脱退後初のフルアルバムで、14枚目のオリジナルアルバムとなる今作には、中原由貴(タマコウォルズ)、宮田繁男、大野由美子(Buffalo Daughter)、奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)、渡辺シュンスケ、西村哲也などの豪華ゲストも参加。ゴージャスで深遠な世界観を感じさせるアルバムに仕上がっている。
また、本作と同時に長らく廃盤となっていたコロムビア時代のオリジナルアルバム7タイトルがデラックスエディションとして再発。前身バンドである「耳鼻咽喉科」のアンソロジーも発売となり、この11月から年末にかけてカーネーションの26年のキャリアがさまざまな形で総括される。フロントマンの直枝政広自ら「カーネーションの新たなる金字塔」と語る新作と、総括と創造を経て新たなるステージを目指すカーネーションの今後をメンバーに訊いた。
取材・文/津田大介 インタビュー撮影/中西求
“詩人”として魂を込めた新作
──「Velvet Velvet」聴かせていただきました。素晴らしいですね。最初に聴いたときは、今回再発されるコロムビア時代の頃の雰囲気……特に「GIRL FRIEND ARMY」に近い印象を受けました。「LIVING/LOVING」以降の3枚って編成がトリオになったことでアンサンブルやバンドとしてのグルーヴを重視して作品を作っている印象があったんですが、今回は一聴して“アルバム”を作られたんだな、と。今回3年ぶりのフルアルバムになりますが“アルバムを作る”という意識は強くあったんでしょうか。
直枝 そうですね。もう2年ぐらい前から“次のこと”を始めていたところはあったんですけど、なかなか形にならなくて。今年はもうとにかくこのアルバムを出すことを最終地点に置いて、昨年くらいからそれを大きな目標として決めて動いてきました。いろいろ曲のストックはあったんだけど、時間が空いちゃってるんでアルバムを作る感覚を自分の中に取り戻すのにいろいろ模索した部分はあるかなぁ。「ジェイソン」を作ったあたりで、もう一度“仕切り直した”みたいな感覚。
──「ジェイソン」も忙しい中、短期間で作りましたもんね。「Velvet Velvet」も短期間で仕上げたんでしょうか。
直枝 バックのレコーディングはすんなり終わったんです。ノリノリでイメージ高めちゃって。まだできていない歌詞のイメージを先にサウンドで輪郭から作り上げていく。そういう形の曲が半分くらい。で、バックのレコーディング終わってもまだ全然歌詞ができてない曲が残りの半分ぐらいを占めちゃって。むしろそこからのほうが大変だった。歌入れを控えつつ、最後は歌詞との対決でしたね。
──今までのレコーディングでも先に音だけできあがっていて、そこに歌詞を乗せていくような作業は多かったんですか?
直枝 僕以外のメンバーが作った曲に関してはそういうケースが多かったです。僕は割とデモテープ作る時点で歌詞が乗ってることが多いんだけど、今回はそれも少なくて。歌詞が最初からあったのは既に完成してた「Willow in Space」と「ジェイソン」「Annie」だけ。「Annie」はもう2年ぐらい前に作ってた曲なので。それ以外の曲は歌詞がなくて、ほとんど最後は“ミュージシャン”としてじゃなくて“詩人”として筆を擱(お)いた感じがあるんです。このアルバムは(笑)。
──画竜点睛として最後に歌詞を乗っけたと。
直枝 そう。「おれは詩人だ!」って言って納得、みたいな感じ(笑)。今回のアルバムはそういう部分が特殊かな。自分の中に世界を引き寄せて引き寄せて作り上げた感じです。
静かにA面が終わったあと「ジェイソン」でB面が始まる
──曲はここ2年くらいストックがあったけど、歌詞をまとめて新たに作ることで世界観を最後に整えていったということですね。それが「Velvet Velvet」の“アルバム”感につながっているんでしょうか。
直枝 そうですね。整えることで“アルバム”になるだろうということを想定してゲストのミュージシャンにもイメージを言って、高めてますから。ミュージシャンを音符で支配するんじゃなくて、イメージを伝えて自由にそのプールで泳いでもらう。そこを僕らは形にしていくんだけど、そういうやり方をやっている以上、ミュージシャンに伝えたイメージが自分にもちゃんと届くような歌詞を書かなきゃ1つの作品にならない。歌詞が後になってしまったことでその基準が上がってしまって、そこがすごく難しかったですね。
──アルバム聴いてて明確に「あ! これ、アルバムだ!」と思った瞬間があって、それは「Willow in Space」が終わったあと「ジェイソン」につながるところなんです。ジェイソンのオープニングのドラム・ロールで「(アナログレコードの)B面が始まった!」っていう。
直枝 そうです。これは完全にA面B面を想定した並びになってます。この2曲は最近のカーネーションで新曲としてライブで演奏していたおなじみの曲だから、あえてこれらをアルバムのど真ん中に置くことで、この2曲の前後両側がファンにとっては全然聴いたことない曲ばかりになる。その意味でファンにオイシイ配置になっているんじゃないかと。
早く“決定稿”をみんなに聴かせたかった
──このアルバムは、トータルでどれくらいの期間で完成させたんですか?
直枝 バックのレコーディングは7月と8月で集中的に。ただ、レコーディングが終わったら、今度は耳鼻咽喉科のBOXの入稿とかあったりしてそこはもうミュージシャンというより編集者モード(笑)。その間いろいろなことに時間取られてなかなか作業ができなかったんで、そこから1カ月くらいで完成っていう感じですね。
──ここ数年、いろいろな作業がひっきりなしに入ってくる状態ですが、頭の切り替えは大変なのでは?
直枝 そりゃまぁリハのこと考えるとすんごく憂鬱になったりするときもあるよね。いきなり切り替えなきゃいけないから。でも、実際にやり始めると自然にモードが切り替わっていくあの感じが面白いんだよね、バンドって。
──そういう直枝さんがキツいときに、大田さんはどういうフォローをしているんですか。
大田 いやぁ全然何も。
一同 (笑)。
大田 たまに会ってちょっと軽く励ますとか(笑)。
直枝 そうそうそう! 励ましてくれたんだよ今回は! 珍しく(笑)。
大田 ちょっとあまりにもあんまりなスケジュールだったからねえ(笑)。
直枝 「まぁ、何かあったらね……俺に言ってね」とか言ってくるわけ! 「何かあったら」ってどういうことだよとか思うんだけど、そうやって声かけてくれることが俺もうれしくてね。俺普段あまり愚痴こぼさないから余計にね……。
大田 11月25日っていうリミットが本当に決まってて、さすがにもうこれは延ばせないっていう状況になってたからね。でも、徹夜して何か書いてれば終わるもんじゃないし。脇で見ていてさすがにこれ大丈夫かなって思ったから、ついそんなこと言ったんだろうね(笑)。
──直枝さんはそういう泰然自若な大田さんに救われているところもあるんですか?
直枝 珍しいこと言うなとは思ったよね。今回本当に周りがすごく心配してくれてね。アルバムの発売日も決まってれば、ライブも全部決まってる。昨年か一昨年かに発売記念のツアーで盤の発売が延びたことがあったじゃん。
大田 あったね。
直枝 盤が発売されてないのに、発売記念ツアー回るっていう。俺、あれは二度と繰り返したくないんだ。あれは本当に最悪だった。
大田 言い訳して回るっていうのはツラい(笑)。
直枝 今回は先にサンプル盤として仮ミックスが出回ったんだけど「申し訳ねぇな……」というのがあって。だって「これ実はまだこれから歌い直すんですけど」っていう。早く決定稿をみんなに聴かせたいっていう気持ちが強くあって、それがギリギリの環境の中完成させるモチベーションになったんです。
CD収録曲
- Velvet Velvet
- さみだれ
- 田園通信
- Annie
- この悲しみ
- Willow in Space
- ジェイソン
- For Your Love
- 砂丘にて
- Songbook
- Dream is Over
- 遠い空 響く声
初回盤DVD収録内容
- 「ジェイソン」Promotion Video
- 「Velvet Velvet」Promotion Video
- アルバムレコーディングのドキュメント映像
カーネーション
1983年に前身バンド・耳鼻咽喉科のメンバーで直枝政広(当時は政太郎/Vo,G)を中心に結成。1984年にシングル「夜の煙突」(ナゴム)でデビューを飾る。現在のメンバーは直枝と1990年加入の大田譲(B,Vo)の2人。幾度かのメンバーチェンジを経て、数多くの名作を発表し続けている。緻密に作られた楽曲や演奏力抜群のアンサンブルはもちろん、直枝の人生の哀楽を鋭く綴った歌詞や、圧倒的な歌唱、レコードジャンキーとしての博覧強記ぶりなどで、音楽シーンに大きな存在感を示している。2008年に結成25周年を迎え、2009年1月、1986年加入以来不動のドラマーだった矢部浩志が脱退。現メンバー、直枝政広(Vo,G)と大田譲(B)の2人にサポートドラマー中原由貴(タマコウォルズ)を迎え、2009年4月に約2年半ぶりの新録作品となるシングル「ジェイソン」をリリースした。