セルフカバーはどれだけ“自分節”に戻せるか
──今までCaravanさんは作詞作曲をすべてご自身で手がけられてきたわけですが、今作には光風さん作詞作曲の「May」が収録されているのが気になっていて。どういった経緯で光風さんの曲を歌うことになったんですか?
光風はCOOL WISE MANのトランペッターなんだけど、2005年に開催した「Surf Rock Trip」というツアーに途中から参加してくれたことをきっかけに知り合ったんです。ただ当時彼はまだ歌ってなくて、「自分もシンガーソングライターとして活動したいと思ってる」という話をしてたんです。光風はセンスがいいし、俺もどういう曲を作るのか興味があって。で、彼がシンガーソングライターとして初期に作ったのが「May」だったのかな? ただ自分ではこの曲を作品にするつもりはないと言ってたので、「それはもったいない、俺に歌わせてよ」という話から今回収録することになったんです。
──自分の作品に異分子を入れるという感覚ではなく、自然な流れでカバーをしたと。
そうそう。
──ちょっとアルバムの話からズレるんですが、Caravanとして活動し始めてからほかのアーティストに楽曲を提供される機会もありましたよね。最近だと渡辺美里さん、少し前だとYUKIさんやSMAPに楽曲を提供されていますが、どういうきっかけで提供することになったんですか?
YUKIさんに提供した「ハミングバード」や「Wagon」は、彼女のディレクターをやっていた人が知り合いで。俺が作ったデモテープがたまたまYUKIさんの耳に入って、「この曲を歌ってみたい」と気に入ってくださったことがきっかけでした。偶然の賜物というか。
──じゃあ誰かのためにというよりは、もともとは自分で歌うための曲だったと。
そうそう。だから「YUKIさんをイメージして作りました」ということではなく。渡辺美里さんのデビュー30周年アルバム(2015年4月リリースの「オーディナリー・ライフ」)に提供した「Glory」や「Hello Again」にしても、美里さんをイメージして曲作るというのもおこがましいというか。お話をいただいて、「こういう歌ができたので、よかったら使ってください」ぐらいな感じだったんです。SMAPに提供した「モアイ」も、その当時自分の中では「作ったのはいいけれど、なんだろう、この甘いラブソングは」という感じだったんです。そんなときにSMAPが曲を探してるらしいという話を当時のディレクターに聞いて。コンペに出してみたら採用してもらえたんです。
──自分のために作った曲をほかのアーティストが歌うことで発見したことはありましたか?
曲に対する発見というより、それぞれのアレンジに関してはびっくりしましたね。「あ、こんな化け方するんだ」って。メロディとコードは俺が作ったものなんだけど、アレンジが加わることですごくカラフルになったり、自分じゃ思い付かないフレーズがサビの後ろで鳴ってたりしてすごく感動しましたね。
──いずれの曲もセルフカバーされていますが、気負いなどはありませんでしたか?
あんまりなかったですね。そもそも自分の中から出てきたものなので、逆にどれだけ力を抜いて、“自分節”に戻せるかということに意識を払ってたかな。
辞めようと思ったことはない
──アルバムの話に戻ると、個人的にはすごくミックスが丁寧というか、細かい音が聞こえるのが楽しかったです。ギターの弦が軋む音や、息遣い、フィールドレコーディングした音など、どれもが生々しくて。
そう言ってもらえるとうれしいです。
──ミックスでこだわっているポイントはありますか?
このスタジオ自体、吸音がしっかりしてるわけじゃないし、わりと音の余韻が残る部屋だから、録ってる音もそういうものになるんですよね。それが個性だと思っているし、自分にとっての“いい音”、“好きな音”なんです。ハイファイでノイズがない音が自分にとってのいい音じゃない。その場の空気感があって、そのノイズが音楽的に気持ちよければ全然ありだと思う。
──自分のスタジオで鳴っているような雰囲気が音源化されるのが理想ですか?
そう。アットホームというか、自分のスタジオに招いて聴いてもらうような感じがこのアルバムには合う気がしますね。
──今作で面白いなと思ったのが、最後の1曲が「The Passenger」という“旅人”を意味するタイトルの曲だったことですね。ご自身の内面に迫った作品でありつつ、最後は外に向かっていく人のことを歌っている。
アルバムの最後に「The Passenger」みたいな旅人の歌を持ってくることで、それまで歌ってきた“旅”の意味合いが変わるかなと思ったんです。人が旅をする理由を突き詰めていくと、他人に言えない過去があったり影があったりするから。そういうそれぞれの内面にこのスタジオから思いを馳せてみたところはあります。
──すごく腑に落ちます。それと新しいの旅への布石も感じられました。アルバムをリリースしてから新しい音楽は生まれている状態ですか?
うーん、具体的にはないかな。なんとなくは常に頭の中にあるんですけど。ライブで披露して見えてくるものがあると思います。
──今後も音楽作りの旅は続くと思うのですが、ミュージシャンとして理想や、ベタな言い方をするとゴールのようなものはありますか?
それがまったくなくて。目標みたいなものはあんまり持たないようにしてるんです。今できること、明日できることを全力でやるというか。何年後にスタジオを建て替えて立派にしたいとか、武道館のステージに立ちたいという野心もないし。単純にCaravanとしての活動を続けて、その途中でいろんな景色が見れたらいいなと思ってます。
──では最後に、紆余曲折があった15年だと思いますが、この15年の活動の中で音楽を辞めることを考えたことはありますか?
ゴールもないけど、辞めようと思ったこともないです。しんどいな、キツイなと思うことはあるけど、そもそも好きで始めたことなんで辞めるとか辞めないという次元じゃないなと。自分が楽しくやるためにレーベルを立ち上げたり、ツアーを組んだりしてるから、自分がワクワクしてやれる環境を常に探しているんです。まあ、わかんないですけどね。思いがけないことが起こることもあるだろうし……ただ、自分がやりがいを持ってできる限りは、音楽を作り続けるでしょうね。
ライブ情報
- HARVEST 12th Anniversary Caravan "The Universe in my Mind" Special Live
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2019年9月28日(土)東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
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2019年9月28日(土)東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
- Caravan 15th Anniversary~CUATRO~ Cara旅“Sky High Garden Ginza”with InterFM897
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2019年10月19日(土)東京都 PLUS TOKYO
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2019年10月19日(土)東京都 PLUS TOKYO
- Caravan「The Universe in my Mind」
- 2019年8月1日発売 / Slow Flow Music
- 収録曲
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- Cream Dream(Instrumental)
- I & I
- ユニバース
- I'm a Believer
- True Blue
- 革命前夜
- Hello & Goodbye
- 1000の言葉より
- May
- Hello Again
- The Passenger
※記事初出時、価格に誤りがありました。お詫びして訂正します。
- Caravan「The Passenger」
- 2019年6月6日発売 / Slow Flow Music
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[配信]
- 収録曲
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- The Passenger
- Caravan(キャラバン)
- 1974年生まれの男性シンガーソングライター。幼少時代を南米ベネズエラで過ごし、高校時代からバンド活動を開始する。ギタリストとしてライブやセッション、リミックスワークへの参加など幅広い活動を展開。2001年からソロアーティストとしての活動をスタートさせる。全国各地を旅しながら弾き語りライブを行い、2004年に1stアルバム「RAW LIFE MUSIC」をインディーズレーベルからリリース。2005年10月にはシングル「DAY DREAM / Dynamo」でメジャーデビューを果たし、以降もコンスタントにリリースを重ねる。独自の視点で綴られた歌詞、エバーグリーンなサウンドで幅広く支持を獲得。また、YUKIの「ハミングバード」「Wagon」、SMAPの「モアイ」、渡辺美里の「Glory」「Hello Again」など楽曲提供も行っている。2012年春、7年間所属したrhythm zoneを離れ自主レーベルSlow Flow Musicを設立し、同年6月にアルバム「The Sound on Ground」をリリース。その後も自身のレーベルからリリースを重ね、2019年8月にアルバム「The Universe in my Mind」を発表した。
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2019年9月9日更新