Caravan|ベースを築き、新たな旅路へ

子供が生まれたことで自分のベースができた

──最新アルバム「The Universe in my Mind」を聴いたのですが、弾き語りがメインになっていて1stアルバム「RAW LIFE MUSIC」に近い感触がありました。

弾き語りでも伝わるようなシンプルさを心がけて作りました。Slow Flow Musicという自分のレーベルを立ち上げて初めて作った「The Sound on Ground」もこのスタジオで弾き語りをメインに録ったアルバムなんですけど、そのときはスタジオをあまり有効に使えなかったんです。「もっとこうすればよかった」と思うことがあとから出てきて。そこから1周して、また「The Sound on Ground」みたいな質感のシンプルなアルバムを作りたいなと思って取りかかったんです。

──「RAW LIFE MUSIC」というよりは「The Sound on Ground」を意識した作品だと。

そうですね。

──「The Universe in my Mind」は内省的な作品だとご自身で解説されていましたが(参照:Caravanが今の自分をさらけ出したニューアルバム発表、9月にはduoでレコ発も)、どういったきっかけでこのような着想を得たんでしょうか?

「RAW LIFE MUSIC」のリリースから15周年というのもあるし、2年前に子供が生まれたことが大きかったかな。子供が生まれたことで、自分のベースというか、真ん中がはっきりしてきたんです。これまでのように“旅”が自分の音楽の根底にあるんだけど、そればかりじゃなくて「そもそも旅ってなんだ?」と考えるようにもなって。結局、旅に出るのだって、自分のホームがあってこそのアウェーだし。それと、外側の世界じゃなく自分の内側にあるもの、手の届く範囲の世界のことを作品にしたことはあまりなかったなと。じゃあ今、自分の中心にあるもの、自分を宇宙の中心と考えたときに感じることや見えるものを音楽にしてみようというのがアルバムのテーマになりましたね。

──曲作りを始める段階からそのテーマを描いていたんですか?

そうですね。なんとなくだけど。自然とそういう曲が集まった感じです。

──確かに、過去のCaravanさんの曲は「遠くへ行きたい」とか「ここじゃないどこかへ向かう」みたいなイメージが多かったですね。

そうですね。でも、作っていく中でどちらも変わらないんだなというところに行き着いたんです。

──どういうことですか?

外に行けば行くほど自分のことを知るし、自分を掘り下げれば掘り下げるほど外が見えてくるんです。結局どちらもやってることはつながってる。例えば、行ったことのない場所を訪れて人の営みを見て感動したとして、なんで感動したのかと言えば、自分の中の何かと比較して感動しているんですよね。すべてにおいて“自分”と“何か”というものがリンクしてるというか。そういうことがどんどんはっきりしてくる。音楽をやっててもそうだし、普通に暮らしててもそう。単純に旅の意味合いが自分の中で多様化したんです。

Caravan

──お子さんが生まれたことで、旅に対する意味合いも変化したと。

それもあるでしょうね。子供が日に日に大きくなっていって、昨日できなかったことができるようになって。それによって周りの家族も変化していくし。面白い細胞分裂を毎日繰り返している。不安もあるし、恐怖もあるけど、幸福とか喜びも感じるし、今まで経験したことのないジャンルの“旅”をしている感じがあるんです。

──個人的にですけど、その感覚がダイレクトに作品で表現されてる気がしました。これまではご自身に響く曲をコンセプトに作っているとお話ししていましたが、今作はお子さんや身近な人に対して歌っているような曲も多いというか。

自分のそばにいてくれる人たち、妻や子供たちや仲間たち、自分の手が届く世界をまずはハッピーにしたいという思いがどんどん強くなっています。これまでは未来や、どこか遠くの景色を思い浮かべて歌ってきたかもしれないけど、今作は自分のど真ん中にあるものやすぐそばにあるものを歌おうと思って。

──Caravanさんの場合、常にご自身の環境が音楽に反映されているんでしょうか?

シンガーソングライターとして、自分のライフスタイルだったり暮らしだったりとリンクしてる作品を正直に作りたいんですよね。変に隠そうとも思わないし。

楽曲制作は禅問答

──今作の曲作りはどのような形で?

ほぼほぼメロディが先ですね。それでAメロの一言目から歌詞を書いていく。

──例えば「これが言いたい」という一節があって、そこに肉付けしていくのではなく?

うん、だいたい初めの一言目から書いていく。「ユニバース」や「Hello & Goodbye」は、出だしがサビなんですけど、要はサビの歌詞が一番初めにできたんです。

──たった1人で作曲して編曲して、さらにミックスをするとなると、ご自分でスケジュールを切って、どのテイクを採用するか判断するのは大変そうですが。

スイッチが入っちゃえばバーッと作業しちゃいます。勢いが大事なところはあるかな。ライブがあったり、地方のツアーがあったりするとしばらく作業が止まることはあるけど、ライブがあることでレコーディングで疲れた耳がリフレッシュされるのでいい機会になる。スタジオでずっと根詰めてやってると何が正しいかわかんなくなってくるし、客観的に聴けなくなるので、ライブが合間に入るのは意外と都合がいいです。

──今作で悩まれた部分は?

自分で演奏して録音して歌ってミックスもしているので、最後の仕上げのマスタリング中はかなり迷いました。今作はマスタリングをやり直してますから。スタジオで聴いてるときはよかったのに違う環境で聴いたら、「あ、これダメかもしれない」「最悪なものを作ってしまったかもしれない」みたいな気分になってね。コーラスもギターもハーモニカもパーカッションも、全部自分でやってるから細かいところまで聞こえすぎちゃって。例えば1カ所だけピュッて歌が出て聞こえるのも「あ、俺があそこでフェーダーいじったからだ」みたいなこともわかっちゃう。すべてにおいてそうだから、どんどん粗が見えてきて頭がパンクしちゃう。まあ、それも結局気のせいだったりもしてね(笑)。

──え?

もう禅問答みたいなものなんですよ。直したことで作品の良し悪し変わるのかというと、傍から見てるマネージャーとかマスタリングエンジニアは「正直どっちでもよくねえか?」と内心で思いながら「そうですね」って聴いてくれてるんだろうなと(笑)。俺的には「ここの歌がもうちょっと小さければ、すごくよくなるかもしれない」と、藁にもすがる思いでやってるんですけど、ただそれは自分にとっていいだけなんですよ。やっぱり最終の仕上げ段階になると弱い自分というか、不安な自分が出てくる。最後はその自分との戦いになる。そこを越えてプレス工場に入るとちょっと解放されるんです。もう直しようがないからあきらめがついて、ふっとできあがったCDを聴くと「悪くないじゃん」みたいな気持ちになれる。そうなるまでは、できれば聴きたくない。

──それでも基本的に1人で作るスタイルは変えない?

そうですね。「あのときディレクターが『これでいい』って言ったけど、最悪じゃないか」みたいなことは言いたくないんです。すべて自分の責任で人のせいにできないって方がいい。それが逆に面白いところでもあるし、そのほうが自分に合ってる。

──ご自分の過去の作品を聴き返すことはありますか?

制作中に嫌いになるぐらい聴くから、気軽に聴くというのはあまりないかな。でも、最近の作品はたまに聴き返してますね。作ってたときの気持ちや、自分がどういうことを思ってその歌詞を書いたとか生々しく思い出せるというか。自分の昔の日記を読む感じです。

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──では作品作りの根源というものはなんなんでしょうか?

「自分で聴きたいもの」を作ってるつもりなんだけど、実際には……「自分が作りたいもの」を作っているのかな。作ってみたい音は常に頭の中に鳴っていて、それを目指しているだけなんですよね。

──作ってる過程が楽しい?

そう。自分ですべてをジャッジしなきゃいけないから、キーッてなるときもあるんですけど、それも含めてやっぱり音楽を作る作業が好きなんだろうな。それでも拍手をしてもらったり、一緒に歌ってくれたりする人がいたりして、ライブをすることで自分の音楽が届いているという実感を得ることは多いです。自分のわがままというか「こういうものを作りたい」と思って作った音楽を受け止めてくれる人がいることは幸せですね。

──リスナーの存在がご自身の音楽に反映される部分はありますか?

うーん、あんまりないんですよね。メジャーレーベルに移籍してすぐの頃、ライブにお客さんがたくさん入るようになってきて「ライブで盛り上がる曲を作らなきゃ」とか、「お客さんが喜ぶ曲を作らなきゃ」とか思ったことがあって、そう思って作れば作るほど自分が不安定になっていっちゃったんです。なんかだんだん自分がわかんなくなってきて、「Caravanでいなきゃ」みたいに思ったり。そういうモードで作った曲は、自然とライブとかでもやらなくなって。

──例えば人に好きだと言われるような曲だったとしても、ご自身の中で納得がいかないとライブでやることはない?

自分でその曲の魅力を見出せればやると思うんですけど、そうでない限りは……という感じですね。


2019年9月9日更新