Caravan|ベースを築き、新たな旅路へ

1stアルバム「RAW LIFE MUSIC」のリリースから今年の4月で15周年を迎えたCaravan。そんな彼が節目とも言えるタイミングに、2年ぶりとなるアルバム「The Universe in my Mind」をリリースした。

近年の作品と同様に茅ヶ崎のプライベートスタジオStudio BYRDでレコーディングからミックスまで行われた本作は、弾き語りをメインとした1枚。自身の内面や身の回りのことにフォーカスしたという歌詞には、Caravanの作品における長年のテーマである“旅”に対する新たな思いが込められているほか、これまで以上に温かな視点が宿っている。

2年前に子供が生まれるなどプライベートで大きな変化があったというCaravanは今、何を思い、音楽を作っているのか。活動の拠点を構えるStudio BYRDで話を聞いた。

取材・文 / 中野明子 撮影 / susie

“いつかなりたかった自分”に近付いている

Studio BYRD内の様子。
「The Universe in my Mind」

──「RAW LIFE MUSIC」リリースから15年が経ちましたが、この15年を振り返ってみてどんな心境ですか?

正直言うとあっと言う間だったけど、ポイントポイントでいろんなことがありましたね。メジャーレーベルに移籍して、デビューして、その後自分たちでレーベルと事務所を立ち上げて、スタジオも作って……“いつかなりたかった自分”に近付いている感じはします。

──その“いつかなりたかった自分”というのは?

本当の意味でインディペンデントというか。例えばどこかに所属して「ここのスタジオ使わなきゃレコーディングできないよ」とか、「この人たちがいないと作品が作れないよ」といった制約がある状態ではなくて、自立した状態で音楽が作れること。自分たちでちゃんと音楽をリスナーに届けていける環境を作りたいと、ずいぶん前からマネージャーと話していたんです。もちろんメジャーレーベルのよさも強さもあるんだけど、シンプルなことがシンプルじゃなくなっちゃうことが多い気がして。いろんな人の意見が入ってきたり、「今、こういうものを作りたい」と思ってもタイミングを決められてしまうこともある。自分たちのタイミングと意思で動けるようになりたいとずっと思ってたんです。

──自主レーベル第1作の「The Sound on Ground」リリース時にもそういったお話をしていましたね(参照:Caravan「The Sound on Ground」インタビュー)。

そうだね。自分の作品を、顔が見える直接つながってる人の店で売ってもらおうとか、ライブ会場でCDを売ろうとか……バーンと流通させるのではなくて、CDがちゃんと動いていくのが見えるような状態を作りたかった。だから当時は「配信はやらない」って頑なに言い張って。でも、配信に対してアンチなわけではなくて、「今どき、配信をやらないレーベルがあったら面白いんじゃない?」という発想だったんです。それでみんなが欲しくなるような作品にしたら面白いんじゃないかと、箱型のパッケージにしたり、本のようなジャケットにしたりして……実際にやったらすごいお金かかっちゃって大変でしたけど(笑)。

Caravan

──そうおっしゃっても7年間レーベルが存続していて、コンスタントにリリースを続けているので、理想が叶っている状況と言えるのでは?

まあ、大変ではありますけど、好きでやってることなので大変さが麻痺しちゃってるところもあるし(笑)。見る人が見れば「もっと合理的で便利なやり方があるのに」と笑われそうなことを、この7、8年はあえて全力でやってみようという時期でした。「CDしか作りません。それをスタッフが切手を貼って発送してます」みたいな、豆腐屋が豆腐を作って自分で売り歩くようなスタイルがやりたかった。

──立ち上げから7年経って、レーベルの土壌ができた手応えは?

ありますね。同時に時代の移り変わりも感じるようになって。

──例えば?

若い子たちはCDプレイヤーを持っていなかったりするし、今でもライブが一番大事な現場だと思って活動しているけど、人によっては年齢を重ねるとライブに来れない事情も出てきたりする。「子供ができて今はライブに行けない」とか、「病気で家を出れない」とか、それこそ「今、日本に暮らしてない」といった声を聞くと、自分の頑なさによって除外されてしまっていた人がいることも見えてきて。「配信をやってほしい」という声も増えてきたし、作ったものをタイムラグなく一瞬で地球の裏側まで届けられることに可能性を感じて、もうちょっと入り口をいろいろ広げてみようかなと。みんなにフェアに届けられるような環境を作りたいなと思い始めたんです。

──ちょうどご自身の意識が変化するタイミングでもあったんですね。実際に今回のアルバムのリリース前には先行シングル(「The Passenger」「I'm a Believer / 革命前夜」)を配信されました。

実際に曲を配信してみて、「聴いたよ」というリアクションが自分の想像以上にあったんです。YouTube Liveでの生配信も面白かったし。ただ配信しているだけじゃなくて、みんな映像を観ながら感想を呟いてくれるから一方通行感がないというか。誰かのコメントに、ほかの人が反応していたりして、「ああ、こういう気持ちで聴いてくれているんだ」と知ることもできた。普通のライブ会場ではあまり見られないコミュニケーションの仕方だし、意味があったと思います。

Caravan

──近年、配信の普及によって音楽が消費されているという意見もありますが、Caravanさんはいかがですか?

ストリーミングが普及したことで消費されちゃう怖さもあったけど、過去の作品も掘りやすくなってるし、すべてがフラットに並ぶ時代になったのかなという気がする。自分が好きなものを選べるという選択肢も増えたわけで、悪いもんじゃないのかなとは思います。ただね……自分があんまり配信を利用してなくて、いまだにCDやLPとかアルバムを買う習慣がある。みんなの音楽の聴き方が変わっても、中にはアルバムを1曲目から聴いてくれる人もいるだろうし。そういう意味で、今後もアルバムを作り続けたいと思ってるんです。

──作品形態としてはアルバムが一番自分の表現をしやすいですか?

うーん、そうなのかな。昔から「この1曲を聴いてください!」みたいな感じで曲を作っていなくて。そもそも1曲だけで破壊力がある曲がない(笑)。そういうタイプの音楽じゃないし、1つの作品を通して全体像みたいなものを描きたい。できれば1曲目から順番に聴いてほしいと思ってしまう。俺が音楽を聴き始めた頃って、レコードやカセットだったから3曲目だけ聴くとかすぐ頭出しするのが難しくて。1曲目から聴いてたほうが手っ取り早かった。アルバムが好きなのも、そういう時代に青春時代を送っちゃったからかなあ。


2019年9月9日更新