ナタリー PowerPush - Caravan

「自分らしくあるために」本音で語る1万字インタビュー

あんまり人に興味がないのかも(笑)

──歌詞を書く上でのポイントってありますか?

一番は自分で強く思ってることじゃないと人には伝わらないってこと。だから歌詞は自分に言い聞かせてるような部分もあるし、それと同時に誰かに伝えようとしてるところもあるし。

──Caravanさんの歌詞ってニュートラルな表現が多いですよね。ひとつの感情や側面に偏ってない。

音や歌からポジティブなエネルギーが出てたらいいなとは思ってるんですけど、やみくもにポジティブだったりするのは嘘くさい気がして。陰陽のマークじゃないけど、白と黒だったり、光と闇の両方を音楽で表現したいから。「がんばろうよ大丈夫さ」っていうだけの音楽は自分には響かない。

──自分の中で響くか、響かないかが重要?

そう。日々のなんとも言葉にしがたい葛藤とかわだかまりがあって、それでも光を見ようとするのは素晴らしいと思うけど、その闇の部分を無視して光だけを見てれば大丈夫だとは言いたくなくて。

──あとCaravanさんの歌詞って聴き手1人ひとりと対峙して、語りかけてるような部分がありますよね。

本当ですか? それはすごくうれしいです。人間ってやっぱり“個”だと思うんですよね。自分はもちろん仲間もいるし、協力してくれる人もいるけど、お互いが個として一生懸命生きてるからこそリスペクトできるというか。そういうのが理想の世界だと思うんですよ。みんな一緒になる必要はないと常々思ってて、価値観や考え方はそれぞれ違うし、その違いが豊かさを生んでるわけだし。海外を旅するとよくわかるんだけど、日本って神様が1人だけじゃなくて、全てのものに神が宿ってるっていう考え方でしょ? 国によっては宗教がひとつだったり、神様が1人だったりするじゃん。そういう意味では日本人には、思想が違ったり、意見が違っても、それを受け入れたりお互いを許せるキャパがあると思う。自分と違うから悪い人っていう世界は嫌なんですよ。もちろん嫌いなものとか嫌いな考え方はあるけど、でもそれは自分が嫌いなだけで、それぞれの価値観だから。まあ、突き詰めるとあんまり人に興味がないのかも(笑)。

プライベートスタジオ「Studio BYRD」の写真。

──人にあまり左右されたくない?

うん。逆に自分も左右したくないしさ。

──でも、そう言いつつ人に向けて音楽を作ってるわけですよね?

そうなんだよね。まあ人に興味がないというよりは、どこかで人は人、自分は自分っていう考えがあるだけで、俺はこう思うってことを音楽で表現してるんだと思う。

──表現欲みたいなものには抗えない、と。

うん、音楽を作って表現することでしか、自分の存在意義を確かめられない部分があるのかもしれない。誰かに伝えたいというよりは、基本的には音楽を作ることがすごく好きなんだよね。そうやって発信したもので、誰かが喜んでくれたり元気になってくれたらそれほどうれしいことはないし。気付いたらそれがうまく連鎖して、自分の歌がどんどん広がってる気がしてる。

旅は自分を形成するもの

──ところで、Caravanさんと言えば「旅」というイメージが強いですけど、そう言われることについてどう感じてますか?

旅は本当に好きですからね。イヤだと思ったことはないかな。サーフィンとかサーフミュージックって言われるよりは全然うれしい。

──サーフミュージックにカテゴライズされるのはイヤですか?

サーフィンは好きなんだけど、自分の中でサーフミュージックってなんなのかわかってないのにそう言われるのはね(笑)。一時期「日本のジャック・ジョンソン」って言われたこともあって、「なんかなあ」って。カテゴライズしたい気持ちもわからないでもないんだけどね、無難だし。でもさ、マイルス・デイビスを聴いてサーフィンする人もいるしさ、メタリカ聴いてサーフィンする人もいるしさ。だからサーフミュージックっていうジャンルがいまだに理解できない。

──旅のほうは自分の中ではしっくりくると。その「旅」が音楽に与える影響ってどれくらいあるんですか?

大きく言えば「旅」は自分のルーツでもあるからね。音楽の中に根付いていると思うよ。去年は「旅」をコンセプトに「黄金の道 soundtracks」っていう架空のロードムービーのサントラを作っちゃったくらいだし。俺は子供のときに一時期ベネズエラに住んでたんだけど、帰国したあとも半年に1回引っ越ししてるような家庭だったんですよ。故郷がない状態でずっと生きてきたから、それが一時期すごく寂しくて嫌だったんだけど、いつしか自分の好きな場所がホームになるという感覚も覚えて。あとベネズエラってすごいぶっ飛んだ国で、治安も悪かったし、気候も違うし、日本人とはノリも違うし。そんな国で過ごしてから日本に帰ってきたら、日本は日本ですごく独特だし。そういう経験もあって、子供のときに既にスタンダードがなかった。だからこそ個を大事にしたいと思ってたし、それぞれの違いを受け入れられる性格になったのかも。そういう経験もあって、旅を通して、いろんな暮らしが見てみたいし、自分の物差しが全てではないっていうことを知りたいんですよね。

──たくさん旅をされているCaravanさんにとっても、旅は非日常ですか?

自分が暮らしてない場所に行ったりすると、それは非日常になるんだよね。最初は多少なりとも戸惑うじゃないですか。「今日ここで寝るのかよ」とか「ここがトイレなんだ」とか、いちいち驚きがあるんだけど、2、3日するとだんだん慣れてきて。時間の流れも旅先に着いたときは日本にいる感覚で1日何回も時計見ちゃったりするんだけど、次第にそれがなくなってきて、その土地の時間になじんできた瞬間に旅が始まる。そこからいろんなことが起きて、出会いがあって別れがあって。旅を終えて自分の住んでる街に帰ってくると、日常が新鮮に見えるんですよね。そういう感覚がすごく好きで。

──旅とは逆に、日常がある茅ヶ崎はどういう場所ですか?

今のところすごく落ち着ける場所かな。都会っぽい部分もあるけど、人とのつながり方が田舎なんですよね。商店街がまだきちんとあって、みんなそれぞれ小さいお店を一生懸命やって、独自の方法でサバイブしてるような感じで。そういう文化が残ってるのが面白いし、今の自分には居心地が良い。でも、いろんな人がいて刺激的な都会も好きだし、いつか離れるかもしれないですね。場所に捕われない自由さは常に持っていたい。

ニューアルバム「The Sound on Ground」

  • 「The Sound on Ground」2012年6月1日発売 2100円(税込)Slow Flow Music SFMC-001 / HARVEST ONLINE SHOPへ

※HARVEST ONLINE SHOP、LIVE会場にて限定販売

収録曲
  1. Birds on strings
  2. The sound on ground
  3. The story
  4. You make me free
  5. Saraba
  6. Imagination
  7. New world
  8. ひかりのうた
  9. On the road again

Caravan ~Making of The Sound on Ground~

Caravan / On the road again【MUSIC VIDEO】

Caravan(きゃらばん)

Caravan

1974年生まれの男性シンガーソングライター。幼少時代を南米ベネズエラで過ごし、高校時代からバンド活動を開始する。ギタリストとしてライブやセッション、リミックスワークへの参加など幅広い活動を展開。2001年からソロアーティストとしての活動をスタートさせる。全国各地を旅しながら弾き語りライブを行い、2004年に1stアルバム「RAW LIFE MUSIC」をインディーズレーベルからリリース。2005年10月にはシングル「DAY DREAM / Dynamo」でメジャーデビューを果たし、以降もコンスタントにリリースを重ねる。独自の視点で綴られた歌詞、エバーグリーンなサウンドで幅広く支持を獲得。また、YUKIの「ハミングバード」「WAGON」、SMAPの「モアイ」など、他アーティストへの楽曲提供も行っている。2012年春、7年間所属したrhythm zoneを離れ自主レーベルSlow Flow Musicを設立した。同年6月にニューアルバム「The Sound on Ground」をリリース。