ナタリー PowerPush - Caravan

「自分らしくあるために」本音で語る1万字インタビュー

プライベートスタジオは見切り発車

──自主レーベルの拠点は、昨年作られたプライベートスタジオ「Studio BYRD」ですが、なぜスタジオを作ろうと思ったんですか?

自分の工房があれば作品は作り続けられるから、とりあえずそういう場所を作っちゃおうと思って。それからどういうふうに回していくのかとか、どう活動していくのかっていうのはあとから考えればいいやっていう。ちょっとB型的な発想で動いちゃったんですけど(笑)。

──見切り発車だったと。

うん。スタジオを作るときに震災があったりして、形のあるものを持つことって果たして正しいのかなっていう迷いもあったんだけどね。でも、自分はどんな状況にあっても音楽やることしかできないから、これでいいんだって言い聞かせて。良い作品をコンスタントに作り続けて、少しでも世のためになればいいなと。

──拠点になっているスタジオはどんな場所にあるんですか?

プライベートスタジオ「Studio BYRD」の写真。

茅ヶ崎の駅裏にある雑居ビルの一室で、下と隣は全部スナックで、みたいなところ。周りの店のカラオケの音がすごいから、ちょっと防音して。アルバムのブックレットに載ってる写真が実際のスタジオなんですけど。

──自宅の一室とかではないんですね。

違うんですよ。ちょっと自宅から離れたところにあって、巣というか、隠れ家というかね。これまでも作品作りの基本は宅録だったので、より作業を突き詰めてできる空間って感じかな。自宅にあるのが理想ではあるんですけど、住宅街なので夜中に大きい音で作業とかできないし、いろいろ限界もあって。でも、スタジオが自宅と切り離されているから、スイッチがちゃんと入るんだよね。そこに行くことで、今日はここまでやろうかなとか。移動の大変さは多少あるけど、前よりは制作のメリハリが出た気がしますね。まあ、言ってもチャリンコで10分なんだけど。

──それほど大きく音楽には影響しなさそうな距離感ですね(笑)。

東京の立派なビルの地下室にあるスタジオだと、空気や作る側の気分も変わるのかもしれないけど、ジャージのまま行けるところなんで。ただ誰か呼んでレコーディングするとか、簡単なリハーサルをするとか、そういう使い方もできるのがうれしい。周りもドアを開ければ1日中演歌が聞こえるみたいな場所なんで、お互いさまな感じだし。ずっと音楽が鳴ってるような面白い環境ではありますね。

“1人マジック”が面白い

──今回のアルバムは基本的にアレンジも楽器演奏も全て1人で手がけてますけど、なぜこの形で作ったんですか?

自主レーベルを立ち上げてから始めの1歩だし、この機会に自分の原点を見つめ直したかったんだよね。あと自分1人で今どういう音楽が作れるのか試したかったのもあるし。最初は3、4曲入りの挨拶代わりになるようなミニアルバムを作ろうと思ってたんだけど、気付いたらどんどん曲ができちゃって、あれも入れよう、これも入れようってやってたら、1人で勝手に盛り上がってフルアルバムになっちゃった(笑)。

──ファンはうれしいと思いますよ。過去にバンド編成でも作品を作っていましたけど、1人でやってみて大変なことはありましたか?

元々1人でやってたから特になかったかな。バンドでのレコーディングではバンドマジックが起こることがあるけど、1人で作ってても“1人マジック”みたいなのがあって。

──それはどういうものですか?

1人で作るっていっても、自分の中にもいろんな面があるからね。人にはわからないレベルかもしれないけど、アレンジを考えたり、楽器を鳴らしたりする中で、「こういう自分もいるんだ」ってことに気付いて。例えば演奏に関しても、自分が弾いたギターに合わせてベース入れたりしてると、自分のグルーヴやノリが客観的に聴こえたり。自分のいろんな面を見つけられるというか、1人作業ではそういう面白さがあったりして。

──煮詰まったりすることは?

煮詰まるときもあるし、視点が固まっちゃってるなと感じるときもあるよ。でも、それが自分の個性だったりもするからね。ほら、自分のコンプレックスがチャームポイントだったりすることもあるじゃない。本当は自分の昔の作品とか聴くのイヤなんですよ。自分の手の内って自分が一番わかるから「サムイな」って思いながら聴いちゃうんだけど、客観視するとそれが味だったりもするし。そのサムイ部分が修正されて果たして良くなるのかっていったら、そうでもないだろうし。ダシが抜けてっちゃうっていうかね。

──そう思うきっかけが何かあったんでしょうか?

ベスト盤(2010年にリリースされた「The Planet Songs Vol.1」と「The Planet Songs Vol.2」)で自分の曲をセルフカバーしたことがあって、そのときに昔の曲を聴きまくったんですよね。「よくこれでCD出したな」って思うような曲もあったりするんだけど、逆にこの歌い方はもうできないなとか、この曲は今は歌えないなってことも感じて。だから経験を積むことで得たものもあれば、失ったものもあって、その面白さが作品に残ると思うから。ひょっとしたら今嫌だって感じてることも、10年20年したら「これいいな」って思うのかもしれないなって。それを良しとしないと、怖くて出せないんですけどね。

ニューアルバム「The Sound on Ground」

  • 「The Sound on Ground」2012年6月1日発売 2100円(税込)Slow Flow Music SFMC-001 / HARVEST ONLINE SHOPへ

※HARVEST ONLINE SHOP、LIVE会場にて限定販売

収録曲
  1. Birds on strings
  2. The sound on ground
  3. The story
  4. You make me free
  5. Saraba
  6. Imagination
  7. New world
  8. ひかりのうた
  9. On the road again

Caravan ~Making of The Sound on Ground~

Caravan / On the road again【MUSIC VIDEO】

Caravan(きゃらばん)

Caravan

1974年生まれの男性シンガーソングライター。幼少時代を南米ベネズエラで過ごし、高校時代からバンド活動を開始する。ギタリストとしてライブやセッション、リミックスワークへの参加など幅広い活動を展開。2001年からソロアーティストとしての活動をスタートさせる。全国各地を旅しながら弾き語りライブを行い、2004年に1stアルバム「RAW LIFE MUSIC」をインディーズレーベルからリリース。2005年10月にはシングル「DAY DREAM / Dynamo」でメジャーデビューを果たし、以降もコンスタントにリリースを重ねる。独自の視点で綴られた歌詞、エバーグリーンなサウンドで幅広く支持を獲得。また、YUKIの「ハミングバード」「WAGON」、SMAPの「モアイ」など、他アーティストへの楽曲提供も行っている。2012年春、7年間所属したrhythm zoneを離れ自主レーベルSlow Flow Musicを設立した。同年6月にニューアルバム「The Sound on Ground」をリリース。