音楽ナタリー PowerPush - CAPSULE
“機能を変えた”中田ヤスタカの思惑
CAPSULEが通算15枚目のオリジナルアルバム「WAVE RUNNER」を発表したことを受けて、音楽ナタリーでは中田ヤスタカに単独インタビューを行った。本作は、2013年10月にリリースされた前作「CAPS LOCK」と相反するコンセプトを持った躍動感あふれる作品に。中田はこの違いについて「音楽の作品性の違いというよりも、聴かれ方の想定の仕方が変わると中身はこう変わります、という機能の違い」と言い切った。
インタビューの話題は、そんな新作のみならず、プロデュースワークとソロ活動とCAPSULEという3つのバランス、現在のリスナーや音楽シーン、昨今のEDMムーブメントについてなど多岐にわたった。時代の寵児とも言える彼の脳内を、このテキストから少し覗いてみよう。
取材・文 / 宇野維正
前作は文化部、今作は運動部
──前作「CAPS LOCK」は、これまであまりCAPSULEの音楽を聴いていなかったようなリスナーまで有無を言わさず唸らすような、とても先鋭的な音響が鳴らされていた作品でした。今回、あの「CAPS LOCK」の先にどんな世界が広がっているんだろうと待ち構えていたところ、また全然違った、ダンスミュージックのど真ん中を攻め込むような作品に仕上がっていますね。
わかりやすく言うと、前作はまったく雑音のない場所で、スピーカーの真ん中に座って「よし、アルバムを聴くぞ」といった感じで、ほかのことをしないで音楽だけに集中して聴いてもらえるようなアルバムとして作りました。でも、今回の「WAVE RUNNER」はもうちょっとノイズの中で鳴ってても届くし、静かなところで聴いても空間の広さみたいなものを感じられる作品になっていて。前作がインドアな作品だとすると、今作はもっと開放的な作品になっていると思います。それは自分にとって音楽の作品性の違いというよりも、音楽の機能の違いなんですね。聴かれ方の想定の仕方が変わると、中身はこう変わりますという。
──なるほど。機能を変えた。面白いですね。
「CAPS LOCK」以前のCAPSULEの音楽は、1枚のアルバムの中に「家の中で落ち着いて聴くような曲」と「フェスでやるような曲」というのが混在してたと思うんですよ。「CAPS LOCK」と「WAVE RUNNER」を足して2で割ったような作品が多かったですね。で、それを分けるとこんな感じになりますという。ジャケットのアートワークも同じようなモチーフですが、前回は2次元の静的なデザイン、今回は実際にプロップを作って動的なデザインにしている。前回は文化部でしたけど、今回は運動部になりましたみたいな。
──この2枚はものすごくコンセプチュアルな作品なんですね。じゃあ、「CAPS LOCK」という振り切った作品を作っている時点で、次の作品を逆の方向に振り切った作品にすることまで想定していたということですか?
というより順番について考えていました。前作のとき、どっちにしようか一瞬迷ったんですよ。でも前作を作っているときは、まだPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅなどのプロデュース作品で硬めの楽曲を比較的たくさん作っていたときで。だったら、CAPSULEでは違うことをやったほうがいいかなって。今は、逆にプロデュース作品ではあまり硬めの音を使わなくなってきている時期で、わりとオーガニックな音を混ぜて、わざとファジーな部分を出しているので、だったらCAPSULEでこういう作品を作ってみてもいいかなって。だから、タイミングですよね。
CAPSULE初ワンマンツアーへ
──CAPSULEのことだけを考えてCAPSULEの音楽を作っているわけではなく、プロデュースワークと連動しているというか、プロデュースワークとの対比になっているわけですね。
あとは、ライブをするかどうか。「ライブをしなくてもいいんだったら、こういう作品も作れますよ」というのが前作「CAPS LOCK」。自分がもし、アルバムを出したらそこにライブも必ず付随してくるアーティストだったら、ああいうアルバムは作れないので。
──そうですね。
実際に、僕らはライブを必ずしなくちゃいけないわけではないので。で、CAPSULEとしてフェスとかイベントに出るときも、「CAPS LOCK」の曲はやらない、と決めていて。
──一度もやってないんですか?
一度もやってないです。
──DJのときにも使わない?
そうですね。
──徹底してますね。
それで、今回はフェスでやる曲もちょっと増やしたいなというのと、あとはCAPSULEとしてワンマンライブをするというのがあって(参照:CAPSULE初のワンマンライブツアー開催、24時間限定で新曲公開)。
──CAPSULEとしてワンマンで全国ツアーをするのはこれが初めてですよね?
はい。これまで、純粋に自分たちのファンだけを集めてライブをやること自体があまりなかったんですよね。基本的に夜中しか人前に出ないで、昼間はボケッとしてたり、曲を作ってたりっていうのが好きなんで。夜も、半分飲みに行くみたいな感じでイベントに出ることが多かったし(笑)。
──それが、どうして今回はツアーをやろうと思ったんですか?
フェスに呼んでもらえる機会が多くなって、ふと気が付いたんですよ。日本各地にフェスで行って、昼間の時間帯にもパフォーマンスしたりして。「あれ? これ日本中をツアーで回ってるのと変わらないな」って思ったんですよ(笑)。それに、フェスだとクラブのイベントみたいに前後のアクトとのつなぎとかもなくて、ただ転換があって、事前にセットリストとかも出さなくちゃいけないことが多い。逆に、これでワンマンをやらないほうがおかしいだろうって(笑)。
──確かに(笑)。フェスでは本来のCAPSULEとは全然違うことをやってきたわけですね。
そう。それに、フェスって自分たちにとってホームだかアウェイだかわからないことが多いんで、1回ワンマンという完全なホームでやってみたらどうなるのかも見てみたくなって。まあ、でも、すべてはタイミングですね。CAPSULEとプロデュース仕事、どっちが中心にあるというわけではなくて。もし中心があるとしたら、自分が中心。
──シーンの動向とかとも関係なく?
はい。ほかの人が今どういうことをやっているかとかはわりと関係なくて、今自分がこれをほかの人に作っているから、CAPSULEではこれをやるっていうように自分の中だけで配分している感じですね。で、その配分は、必ずしも激しいものを一方でやったら、静かなものを一方でやるというわけではなくて。全部が全部激しいものをやりたいときもあるだろうし、全部が全部静かなものをやりたいときもあるかもしれない。その配分も含めて、すべては自分の中でのバランスや気分ですね。
──なるほど。
だから今CAPSULEのアルバムを作るとしたら、「WAVE RUNNER」とは全然違う作品になると思います。本当は、このアルバムは去年の春に出したかったんですよ。でも、今回はほかの仕事をやりながらCAPSULEの作品を作るんじゃなくて、まとまった時間をとってCAPSULEの制作に集中したかったんですね。そうしたら、去年の秋まで時間がとれなかった。きっと去年の春に作ってたらこういうアルバムにはならなかっただろうし、今の時期に作ってもこういうアルバムにはならなかった。だから大きな流れの中でやっているというわけではなく、CAPSULEの作品はもっと自分の気分に寄ったものですね。いろんなスケジュールが決まっているほかのプロデュース作品と違って、CAPSULEの場合は自分の頭のリセットが素早くできるので。そういう意味では、自分の作品の中でもっともタイムリーなことをしやすい場ではあります。
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- ニューアルバム「WAVE RUNNER」 / 2015年2月18日発売 / unBORDE
- ニューアルバム「WAVE RUNNER」
- 初回限定盤 [CD2枚組] / 3240円 / WPCL-12019~20
- 通常盤 [CD] / 2700円 / WPCL-12026
DISC 1
- Wave Runner
- Another World
- Dreamin' Boy
- Hero
- Dancing Planet
- Depth(vocal dub mix)
- Feel Again
- Unrequited Love
- White As Snow
- Beyond The Sky
DISC 2(初回限定盤のみ)
- Another World(extended mix)
- Hero(extended mix)
- Feel Again(extended mix)
- White As Snow(extended mix)
- CAPSULE -"WAVE RUNNER" RELEASE LIVE-
(CAPSULEワンマンライブ) - 2015年4月5日(日)大阪府 なんばHatch
- 2015年5月15日(金)福岡県 DRUM LOGOS
- 2015年5月22日(金)愛知県 DIAMOND HALL
- 2015年5月29日(金)東京都 赤坂BLITZ
- CAPSULE -"WAVE RUNNER" RELEASE PARTY-
(CAPSULE出演イベント) - 2015年3月13日(金)東京都 ageHa
- 2015年3月14日(土)石川県 AFTERHOURS、DOUBLE
- 2015年4月28日(火)北海道 alife sapporo
- FLASH!!! -中田ヤスタカ(CAPSULE)"WAVE RUNNER" DJ TOUR-(中田ヤスタカ出演イベント)
- 2015年3月21日(土・祝)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2015年4月10日(金)沖縄県 club lounge saicoLo
- 2015年4月11日(土)静岡県 Planet Cafe
- 2015年4月18日(土)茨城県 VOICE
- 2015年4月24日(金)愛媛県 CLUB BIBROS
- 2015年5月1日(金)京都府 世界WORLD
CAPSULE(カプセル)
Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースをはじめ、「LIAR GAME」シリーズのサウンドトラックや映画「スター・トレック イントゥ・ダークネス」の挿入楽曲、映画「アップルシード アルファ」の日本版メインテーマほか国内外の数々の音楽制作を手がける中田ヤスタカのメインの活動の場となるユニット。1997年にボーカルのこしじまとしことともに結成。2001年にシングル「さくら」でCDデビューした。作詞・作曲・編曲はもちろん、演奏・エンジニアリングなどすべてを中田ヤスタカ自らが手がけるオールインワンなスタイルから繰り出される楽曲群は、音楽界のみならず、服飾や美容、映像などクリエイティビティを共有するシーンからも熱い支持を得ている。2015年2月には通算15枚目のオリジナルアルバム「WAVE RUNNER」をリリースした。