ナタリー PowerPush - BUMP OF CHICKEN
音楽を作る喜びと4人の絆から生まれた傑作アルバム「COSMONAUT」
曲作りが楽しいことなんだって再認識した
──そこから藤原さんが次の曲を書けるまで4カ月空いたわけですけど、そのタイミングで曲作り用のスタジオで作曲するようになったんでしたっけ?
藤原 いや、まだ家で書いていましたね。時系列を整理すると、まず「HAPPY」「セントエルモの火」「66号線」をポンポンと書けて。それから4カ月くらい書けなかったと。で、30歳の誕生日直前に「魔法の料理 ~君から君へ~」が書けて。その数日後、30歳になってすぐに「モーターサイクル」が書けたんです。で、そこからまたポンポン書けるんじゃねえかと思っていたんですけど、書けなくて。また2、3カ月うだうだと家にこもって作業していたんですね。スタジオの予約を入れてくれていたスタッフに「ゴメン、やっぱり曲できませんでした」って言うことが多くなって。そんな日々の中で、ひとりでノートとギターを持ってジャカジャカ弾いていたら、間もなくしてプロデューサーから連絡が来て。「曲はできてなくていいから、スタジオに入ろうよ」って言ってくれたんですね。「わかった」と言いつつも、僕にもやっぱり意地があったみたいで、それまでまったく書けなかったのに、次の日スタジオに行くまでに寝ないで書いたのが「透明飛行船」だったんです。
──意地だ(笑)。
藤原 そう、だから「透明飛行船」は意地の1曲です(笑)。プロデューサーに「俺は意地で1曲書いたよ」って言ったら、「よかったな」って肩を叩いてくれて。それは涙が出るくらいうれしかった(笑)。それからスタジオに入って、プロデューサーに「お前が最近面白いと思ったフレーズや歌メロをラララで録ることから始めよう」って言ってくれて。今までは全部ひとりでこもって作っていたので、よくメンバーからも「鶴の恩返しみたいだ」って言われていたんですけど(苦笑)。初めてそういうことをやってみて。それから曲作るのがすごく楽しくなったんですよね。それまでは、楽しいという側面をなかなか感じづらくなっていて。「早く書けないかな」「なんで書けないのかな」って思うと、楽しい側面ってどんどんなくなっていってしまうんですよね。そうやって頭でっかちになっていたのを「やっぱり基本はこれだよな」ってところに立ち返ることができたんです。
──自分が音楽を、曲を、歌を作る根源に立ち返った。
藤原 そうだと思います。それから曲作りのためにスタジオに入るようになって、プロデューサーからの「お題シリーズ」が始まったんです。
──「4つ打ちの曲を」というリクエストから「宇宙飛行士への手紙」ができたり、「シングル曲を」というリクエストに苦悩しながら(笑)「R.I.P.」ができていったんですよね。
藤原 そうそう(笑)。
──その後、お題がなくても順調に曲は生まれていったんですよね?
藤原 そうですね。曲作りが楽しいことなんだって再認識してからは勢いがつきました。
──その勢いはアルバム完成した今も続いていますか?
藤原 1回落ち着きましたけど、ふとしたときにまたスタジオに入りたいと思いますね。テンションは今も維持されているみたいです。
藤くんの作る曲は「あ、これは何系だね」って言えない
──3人は、どんどん生まれるようになっていた藤原さんの曲をどのように受け止めていましたか?
直井 長年バンドをやっていれば「これは何系の曲ね」っていう言葉がバンド内で出てくると思うんですけど。コード進行、メロディ、リズムの組み合わせは無限ではありつつも、なんだかんだ言ったってひとりの人間が生みだすのはある程度の制限があると思うんですよ。
──いわゆる手クセもあるしね。
直井 そう、それが表れると思うんですよ。僕もね、藤くんから曲が上がってきて、「あ、これは何系だね」っていつか言ってやりたいと思ってるんだけど、でも言えないんだよなあ!(一同笑) 例えば曲をもらって、次の日に秀ちゃんと会って「あの曲の拍子すぐ取れた?」「う~ん、たぶんあれでいいと思うんだけど、藤くんがどっちで取ってるかわからない」って(笑)。
升 僕らにもちっぽけなプライドがあって、できるだけ本人には聞きたくないんですよ(笑)。
直井 で、増川くんと会ったときはコードの話になって。「たださ、変な音が鳴ってるよね?」とか(笑)
増川 「うん、鳴ってる!」って(笑)。
直井 上がってくる曲に決まりがないし、何が来るかわからない。ホントに毎回ビックリさせられるんです。
──リスナーとしても、プレイヤーとしても最上の喜びがありますよね。
直井 そう、だから曲が完成する喜びがハンパじゃない。藤くんの作る曲が楽しいのは、ホントにこの人は音楽が好きなんだなって思える要素が1曲にすごく詰まっているところで。リズムであり、メロディあり、コード進行であり。で、一番すごいのは、どの曲も歌モノになっているところで。
──うんうん。ものすごく極端な言い方をすると、SQUAREPUSHERがTHE BEATLESに聴こえるみたいなことが、BUMPの曲にはあるから。
藤原 ああ……すげえうれしいなあ。
直井 なんでそういう曲が作れるのかよくわからないんですけどね。
CD収録曲
- 三ツ星カルテット
- R.I.P.
- ウェザーリポート
- 分別奮闘記
- モーターサイクル
- 透明飛行船
- 魔法の料理 ~君から君へ~
- HAPPY
- 66号線
- セントエルモの火
- angel fall
- 宇宙飛行士への手紙
- イノセント
- beautiful glider
BUMP OF CHICKEN(ばんぷおぶちきん)
藤原基央(Vo,G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって、1994年に中学3年の文化祭用バンドとして結成。高校入学後に本格的な活動をスタートする。地元・千葉や下北沢を中心にライブを続け、1999 年にインディーズからアルバム「FLAME VEIN」を発表。これが大きな話題を呼び、2000年9月にはシングル「ダイヤモンド」で待望のメジャーデビューを果たす。その後も「jupiter」「ユグドラシル」といったアルバムがロックファンの熱狂的な支持を集め、2007年には映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」主題歌に起用されたシングル「花の名」を含むメジャー3rdフルアルバム「orbital period」をリリース。2008年には全国33カ所41公演、22万人動員の大規模なツアーを成功させている。