ナタリー PowerPush - BUMP OF CHICKEN
音楽を作る喜びと4人の絆から生まれた傑作アルバム「COSMONAUT」
前作「orbital period」から3年、BUMP OF CHICKENのニューアルバム「COSMONAUT」がついに完成した。全14曲。先行シングルで予見できたように、本作の大きな出発点になっているのは、幼少期の忘れがたき記憶から今や未来を見つめようとする視点である。そこには、メンバー4人が本作の制作中に20代から30代に突入したことが強く影響している。
そこから、彼らはかつてなく順調に生まれていった楽曲と丁寧に向き合いながら、精緻なアレンジを施し、新たな普遍性を持つ音楽を獲得した。ここでは、この3年と本作が完成するまでをメンバー全員に語ってもらった。
取材・文/三宅正一
いきなり3曲が上がってきたときはドッキリかと思った
──前作「orbital period」から3年、曲とともにここまでの記憶も刻まれているという感じですか?
直井由文(B) 「orbital period」のツアー(「ホームシック衛星」&「ホームシップ衛星」)が終わってすぐに藤くんは榎本くるみさんのプロデュースワークがあって。それが終わって、まず初めの3曲が藤くんから上がってきたんです。その3曲のインパクトが、僕ら3人にとってはデカすぎて。なぜかというと、今まで藤くんがプリプロを終えてから僕らが聴かせてもらうのは、一度に1曲というのがあたりまえだったから。別にそれに対して少ないとも思っていなかったんですけど、久しぶりにスタジオにみんなで集まって、いきなり3曲が上がってきたときはドッキリかと思った(一同笑)。だから、このアルバムの制作は驚きとともに始まったんです。
藤原基央(Vo, G) ふふふふふ。
──最初にできた3曲のうち、1曲はシングルとしてリリースされた「HAPPY」ですよね。残りの2曲というのは?
藤原 「66号線」と「セントエルモの火」ですね。
──3曲一気に書けたんですか?
藤原 「HAPPY」と「セントエルモの火」を同時進行で作っていて。どちらか忘れたんですけど、1曲できた時点でマネージャーに連絡したんです。「曲ができたからスタジオを取ってください」って。そしたら、予約がいっぱいですぐには取れないという返事が来て。俺は勝手に明日スタジオに入れるみたいな気でいたので、早くスタジオに入りたいという気持ちを抱えたままさらにもう1曲作ったんですね。それから、スタジオの予約は取れたんだけど、まだ1週間くらい時間があると。もう1曲書けるなと思って書いたのが「66号線」だったんです。だから、「3曲一気に書いてスタジオに持っていってやれ!」という気持ちがあったわけではなく、流れのままに書けたというか。
──でも、ソングライティングの熱は高まっていたんでしょうね。
藤原 それはあると思います。
──その要因を思い出せますか?
藤原 え~と……それは生理的なものとしか言いようがないですね。もしかしたら、僕の自覚が及ばない範囲で外的な要因があったのかもしれないですけど。とはいえ、そこから4曲、5曲、6曲と書けると思いきや、そんなことはなく。
──でも、最初に藤原さんから3曲上がったときに、3人はここからアルバムに向かっていけるという実感があったんじゃないですか?
直井 というよりもね、あくまで僕らの感想ですけど、その3曲でもうある種アルバムだったんですよね。だから、焦ることもなく。その後、藤くんが、4、5カ月曲が書けなかったのも逆にありがたかったというか、僕らにとっては曲を咀嚼するまで必要な時間だったと思います。曲を理解できないというわけではなくて、リスナーとして好きな音楽をひたすら聴くという感覚で。しばらく僕はコードも取らないし、分析も何もしないで、ただ楽しくその3曲を聴く期間をもらったんです。
──そこから徐々にプレイヤーとしての自分も重ねていった。
直井 そうですね。まさに徐々にベースを弾きはじめました。それもホントに楽しかった。
時間が空いたおかげでじっくり曲と向き合うことができた
──フレーズをつけることの苦悩などは一切なかった?
直井 BUMP OF CHICKENの音楽を作るときに苦しさとか味わったことがないんですよね。「こんなに楽しくていいのかな?」って思うくらい。まあ、怖い時期はあったんですけど(笑)。
──怖いというのは?
直井 それは、僕の音楽的な知識が足りなくて、もっと勉強しなきゃいけないという焦りや怖さですね。そういう時期を経て、今は楽しくてしょうがないです。でも、ホントに最初の3曲が上がったときには藤くん1年くらい休んでもいいんじゃないかって思いましたね。なんか、前に藤くんが「俺は曲書けねえから年を越す権利がねえ」って言っていたことがあって。
──「年を越す権利」ってすごい言葉だな(笑)。
藤原 なんか、そういうことを勝手に思っちゃうんですよね(笑)。
直井 いや、けっこう本気で言ってるんですよ。それで、そのときは年末にギリギリ1曲できたんだよね。その曲を聴いたときにみんなで「何年でも年を越していいよ」って言って(一同笑)。それは、今回の3曲も同じ気持ちで。結局……これは、良くも悪くもだと思うんですけど……俺ら3人が、藤くんが曲を作る上で手助けできることはひとつもなくて。でも、それは秀ちゃんのドラムだって、増川くんのギターだって、俺のベースだってそうで。ひとりで向き合わなきゃいけないときがある。
──そうですね。
直井 うん。だから、藤くんが曲を書くまでいつまでも待ってようと僕らは思うんです。
増川弘明(G) そうだね。だから、どんなに時間がかかろうが、辛いとも悲しいとも長いとも思わないよね。
升秀夫(Dr) うん。でも、最初の3曲を聴いたときは、ただただ圧倒されたなあ。ホントに言葉が出なかった。プロデューサーも圧倒されすぎて「気持ち悪くなってきた」って言ってたんだよね(一同笑)。
直井 そうそう(笑)。
升 で、その日はなんか不思議な感じで解散して。僕の場合は、次の日に涙が出てきたんですよ。それで、良かったと思って。
──それは、どういう安心感なんですか?
升 いや、「俺の感情は死んでなかったんだ」と思って。曲を聴いて圧倒されているときに藤くんから「おまえら大丈夫か?」って聞かれたんですよね。そのとき俺自身も「俺は大丈夫か?」って心配になっちゃって。何も言葉が出ないから。
──すげえ話だなあ。
増川 でも、わからんでもない。
直井 だね。
升 もしかしたら、俺はこの曲にふさわしくない人間になってしまったのかもしれないって思って(笑)。それくらい衝撃があったんですよ。あと、これまでは曲が上がってきたときに、その曲をどんなタイミングでリリースするとかが、わりと早い段階で決まることが多かったんですけど、今回はそういうことがなくて。ある程度曲が溜まってからレコーディングして、リリースのことも考えようってなったんです。その結果、最初の3曲から次の曲が上がってくるまで時間は空いたんですけど、その時間のおかげでじっくり曲と向き合うことができたし、自分の成長にもつながったという実感があるんですよね。
CD収録曲
- 三ツ星カルテット
- R.I.P.
- ウェザーリポート
- 分別奮闘記
- モーターサイクル
- 透明飛行船
- 魔法の料理 ~君から君へ~
- HAPPY
- 66号線
- セントエルモの火
- angel fall
- 宇宙飛行士への手紙
- イノセント
- beautiful glider
BUMP OF CHICKEN(ばんぷおぶちきん)
藤原基央(Vo,G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって、1994年に中学3年の文化祭用バンドとして結成。高校入学後に本格的な活動をスタートする。地元・千葉や下北沢を中心にライブを続け、1999 年にインディーズからアルバム「FLAME VEIN」を発表。これが大きな話題を呼び、2000年9月にはシングル「ダイヤモンド」で待望のメジャーデビューを果たす。その後も「jupiter」「ユグドラシル」といったアルバムがロックファンの熱狂的な支持を集め、2007年には映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」主題歌に起用されたシングル「花の名」を含むメジャー3rdフルアルバム「orbital period」をリリース。2008年には全国33カ所41公演、22万人動員の大規模なツアーを成功させている。