2017年9月の活動スタート以降、4カ月続けてサブスクリプションサービスで新曲を発表してきたBRIAN SHINSEKAIが、1月24日にビクターエンタテインメントAndRecレーベルからデビューアルバム「Entrée」をリリースする。
「首飾りとアースガルド」「TRUE/GLUE」「2045(Theme of SHINSEKAI)」「CICADA」「ルーシー・キャント・ダンス」、そして12月27日リリースの「トゥナイト」という先行配信曲を収録する本作は、ファンタジーとリアルが共存する世界観が魅力の、普遍的な愛をテーマにしたコンセプトアルバム。テクノやロックを織り交ぜたサウンド、近未来的なイメージのリリック、厚みのある中低音域を生かしたボーカルを含め、彼がアーティストとしてのアイデンティティを明確に提示した作品に仕上がっている。
連載の4回目では、本人へのインタビューを通してアルバム「Entrée」の制作、サウンドメイク、ボーカルへのこだわり、アーティストとしての将来像などをじっくりと紐解いていく。なお特集後半には、BRIAN SHINSEKAIと親交のあるアーティストによるコメントを掲載する。
取材・文 / 森朋之 撮影 / moco.(kilioffice)
映画「メメント」のような体験ができるアルバムを作りたかった
──デビューアルバム「Entrée」が完成しました。本作には12月27日配信の「トゥナイト」を含め、2017年9月以降にサブスクリプションで先行配信されてきた6曲と新曲6曲が収められます。アルバム全体を通して描かれるストーリー性、12曲がそろったことで初めて見えてくるビジョンが感じられて、とても聴き応えがありました。
そう言ってもらえるとうれしいです。もともと僕は、一貫したストーリーやコンセプトを持ったアルバムが好きだし、影響を受けてきたんです。例えばプリンスの「Purple Rain」(1984年のアルバム)、デヴィッド・ボウイの「Ziggy Stardust」(1972年のアルバム)がそうですよね。「Entrée」は僕にとって初めてのアルバムですが、全曲を通して、1枚の絵としてまとまる作品にしたいと考えていました。制作の途中で曲を入れ替えたりもしたので、当初描いていたものから完成形は少しずつ変化していったんですが、根本的に伝えたかったものはまったく変わっていないですね。
──アルバムを通して伝えたかったことが、この作品のコンセプトということですか?
はい。ここ数年は、ミクロなものを表現しようとしていたんですよ。自分の周りで起きたこと、そこで感じたことを曲にすると言うか、直接的な感情を作品に落とし込もうとしていた。今回のアルバムはそうじゃなくて、もっと奥深いところで作りたいと思っていたんです。まず考えたのは「アンドロイドの時代になったとき、愛情はどうなっていくのか?」ということです。1つのヒントになったのは「アンドリューNDR114」という映画(1999年公開のSF作品)。主人公のアンドロイドは永遠に存在することではなく、限りある生命を選ぶのですが、その結末にすごく共感できたんです。限りある時間の中を生きているからこそ、愛情をより深く認識できる。さらに言えば「自分は制限の中で生きている」という精神性を持ち合わせている人だけが愛を語れたり、享受できたりすると思うんですよ。聖書や神話から最近の映画やマンガまで、そのテーマは昔からいろいろな作品で描かれているんですが、僕もBRIAN SHINSEKAIというフィルターを通して、普遍的な愛というものを表現してみたいなと思ったんです。
──すごく壮大なビジョンですね。まずはアルバム全体の軸となる物語を作ったんですか?
いや、曲が先でした。「首飾りとアースガルド」ができたときに「これはアルバムの根幹になる曲だ」と思って。その周りを埋めていくように曲を作っていくうちに、物語として成立していた感じなんです。
──だから「首飾りとアースガルド」を最初に発表したんですね。
はい。ただ「首飾りとアースガルド」は物語のスタートではなく、中盤から終盤あたりを担う曲なんですよ。クリストファー・ノーラン監督の「メメント」(2000年公開)という映画は時系列がバラバラなんですが、最後まで観ると1枚の絵になるし「なるほど」と合点がいく。そういう体験ができるアルバムは聴いたことがなかったし、それを自分でやってみたいと思ったんです。抽象的なイメージの曲が並び、最後にはっきりとした風景が見えてくると言うか。アルバムは「トゥナイト」で終わりますが、この曲が最後に入っていることによってアルバムの印象がガラッと変わると思うし、作品の全体像を示すことになるんじゃないかなと。
──それを実感するためにはアルバム全体を聴いてもらう必要がありますね。
そうなんです。9月から12月にかけてサブスクリプションで楽曲をリリースしてきましたが、アルバム全曲が配信されると、曲順通りに最初から最後まで聴いてくれる人も多いと思うんですよ。ノンストップで聴くと物語を感じてもらえるし、1周目よりも2周目のほうが鮮明に見えてくるかもしれない。僕自身もそうなんですが、サブスクリプションを日常的に使うようになってから、アルバムを通して聴くことが増えたんですよ。長い移動時間のときなどはアルバムをじっくり聴くことが多いし、コンセプチュアルな作品を作るアーティストも増えている印象があって。
神話的な楽曲と現代劇的な楽曲を交互に並べた
──サブスクリプションで楽曲を少しずつ発表したのは、「最終的には全体を通して聴いてほしい」という意図もあったわけですね。
はい。先ほども言ったようにアルバムは生命と愛がテーマになっていて。ある男女の物語が軸になっているのですが、歌詞の節々にストーリーを読み解くヒントが散りばめられているんです。あえて同じ単語を使ったりもしているので、通して聴くといろいろと気付いてもらえるんじゃないかなと。神話的な楽曲と現代劇的な楽曲が並んでいるのも、意図してやっているんですよ。例えば1曲目の「首飾りとアースガルド」は北欧神話をもとにした死生観を描いていて、2曲目の「TRUE/GLUE」は現代を舞台にしているんですが、アルバム全体を通して、ファンタジーとリアルが交互になっているんです。
──BRIAN SHINSEKAIの音楽にとって、ファンタジー的な世界観とリアルな状況は隣り合わせである、と。
そう、完全なファンタジーではないんです。生々しさだったり、肉感的なところが混在していると言うか。そうじゃないと、自分がイメージしていることは描き切れないと思ったんです。
──未配信曲も聴かせていただきましたが、アルバムには東京をテーマにした楽曲も収録されていて。近未来の東京を感じさせるのも、このアルバムの面白さだと思います。
デヴィッド・ボウイがあるインタビューで「東京はあらゆる文化がごちゃ混ぜになっている」と語っているんですが、まさにそうだなと思うんですよ。僕自身もその絶妙なバランスが好きなんですよね。
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“ネオ東京”の答え合わせをしたかった
先行配信中楽曲プレイリスト
- BRIAN SHINSEKAI「Entrée」
- 収録曲
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- 首飾りとアースガルド
- TRUE/GLUE
- 東京ラビリンス ft. フルカワユタカ
- FAITH
- ゴヴィンダ
- バルバラ
- ルーシー・キャント・ダンス
- CICADA
- クリミアのリンゴ売り
- Loving the Alien
- 2045(Theme of SHINSEKAI)
- トゥナイト
- BRIAN SHINSEKAI(ブライアンシンセカイ)
- 2009年、17歳のときにブライアン新世界名義で出場した「閃光ライオット」でファイナリストに。2011年に1stミニアルバム「LOW-HIGH-BOOTS」、2012年に2ndミニアルバム「NEW AGE REVOLUTION」を発売した。2013年にはバンドBryan Associates Clubを結成してライブ活動を展開。2016年11月に活動を休止したのち、2017年9月に新プロジェクトとしてBRIAN SHINSEKAIを始動させた。2018年1月にビクターエンタテインメントよりデビューアルバム「Entrée」をリリース。収録曲をアルバムの発売に先駆けてサブスクリプションサービスで順次先行配信するという試みで話題を集めている。
2018年1月24日更新