取材・文 / 柴那典
BRIAN SHINSEKAIとは
シンガーソングライターとして2011年にデビューしたブライアン新世界が、バンド・Bryan Associates Clubを経て、新たな音楽プロジェクトBRIAN SHINSEKAIを始動させた。バンドやシンガーソングライターとしてではなく、エレクトロポップの音楽性を主体にしたプロジェクトとして音楽を作ることで、ある種フィクション的な世界観を作品に落とし込むことができると彼は言う。そんな彼は2018年1月24日、ビクターエンタテインメントAndRecレーベルから1stアルバム「Entrée」をリリースし、メジャーデビューすることを発表。これに先駆け、9月20日に「首飾りとアースガルド」「TRUE/GLUE」「2045(Theme of SHINSEKAI)」の3曲を各種サブスクリプションサービスで配信した。デビューアルバム「Entrée」に先駆け配信されたこれら3曲は、1980年代後半~90年代初頭のテイストを持つシンセサウンドのうえに色気のある歌声が響く耽美的な曲調だ。
アルバム全体が1つの寓話であるとして、その世界観が伝わりやすい曲を選びました。それと同時に名刺代わりの曲でもあるので、BRIAN SHINSEKAIのアーティスト性も提示したい。その2つが共存した3曲です。これを聴いていただければ、BRIAN SHINSEKAIがどういうアーティストであるか、アルバムがどういうものになるかのヒントになると思います。
かつて“ブライアン新世界”として2009年の「閃光ライオット」にファイナリストとして出演し、その後ソロやバンドなどさまざまな形態でリリースやライブを重ねてきた彼。今回のBRIAN SHINSEKAIとしてのメジャーデビューは新たなスタート地点だと言う。彼に影響を与えたのは、DJやプロデューサーが牽引するEDM以降の海外のポップミュージックシーンの潮流だった。
もともと自分は1人で音楽を作るタイプの人間で、バンドを組んだときも周りと折り合いを付けるのに苦労していました。今は1人でパソコンに向き合って作品の世界観を緻密に構築しているので、音楽の作り方としては最初に戻った感じがします。ただ、2009年と今とは時代が違う。カルヴィン・ハリスのようにデスクトップで音楽を作るアーティストがよりメインストリームで活躍するようになった。トラックメーカーが普通にロックフェスに出るようになった。そういう最新のカルチャーを見て、自分にも可能性があるんじゃないかと思うようになったんですね。それで音楽性をどんどんシフトしていったら、自分自身のやりたいことが見えてきて。今なら自分のやりたい音楽を新しい切り口でブランド化できるんじゃないかと思った。そこで英字表記にしたんです。根底は変わらないながらも、気持ちは一新した感じです。
サブスク時代の新たな音楽の届け方
彼に刺激を与えたのが、サブスクリプションサービスの普及だという。毎月決まった金額を払えば膨大な量の音楽が聴き放題となるこのサービス。日本で本格的な普及が始まったのは、Apple MusicやGoogle Play Music、LINE MUSICやAWAなど複数のサービスが相次いでスタートした2015年のことだ。2016年には世界最大級のサービスであるSpotifyが日本上陸し、各種サービスが出そろった。同年には売上前年比61%増(日本レコード協会調べ)と大きく市場を拡大している。
サブスクリプションサービスの普及は音楽にどんな影響を与えているのか。まず大きく言えるのは、アメリカをはじめとする海外では「音楽不況」という言葉が完全に過去のものになったということ。世界全体のレコード産業全体の売上はサブスクリプションサービスの牽引により拡大基調に転じている。では、音楽の聴かれ方についてはどうか。リスナーはサブスクリプションで過去の名盤の数々や膨大なアーカイブをいつでも聴くことが可能。さらに毎日のようにサービスに到着する新しい作品を自分の好みで選びながら聴くこともできる。レコードやCD時代とは「音楽との出会い方」が抜本的に変わった。BRIAN SHINSEKAIはそのことを強く実感しているという。
実際、自分もほとんどサブスクリプションで音楽を聴いている状態でして。そうすると今までと音楽の聴き方が違うんですよ。僕も十代の頃からロックやポップスの名盤をいろいろ調べて聴いてましたけれど、あの頃はお金もなかったですし、本当に好きなアーティストの作品だけ買って聴いていた。でも今は聴くことのハードルが本当に低い。「このアーティストいいな」と思ったら、最新アルバムも過去の作品も全曲聴ける。買う必要もない。でも、たくさん聴けるがゆえに、ちゃんとハマれるアーティストが少なくなっていると思うんです。「もっと濃いものが聴きたい」とか「もっと自分に合うものはなんだろう」と探すようになる。そうすると、本当にオリジナリティがある音楽、本質的に濃い音楽が求められるんじゃないかと思っているんですね。
サブスクリプションサービスが普及したことでアルバムのあり方自体も問い直されている。サービスにはジャンルや気分に合わせた膨大な量のプレイリストが提供されており、アーティストの代表曲のみを選んだものも多い。つまりかつてベストアルバムやコンピレーションアルバムが担っていた役割を、今はプレイリストが担っていると言える。こうしてアルバムがプレイリスト化していく一方、ある1つの世界観やストーリーのもとに綿密に構成されたコンセプチュアルなアルバムの価値が再び高まっていくとも言える。彼が指摘するのも後者の潮流だ。
サブスクリプションを使っていると、アルバム全体の統一性がより重視されると思うんですよね。単曲と言うよりライブラリで聴くことが増えるので、例えばデヴィッド・ボウイの「The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars」(1972年発売のアルバム)やThe Whoの「Tommy」(1969年発売のアルバム)のようなコンセプチュアルな作品の価値も再び高まっていくんじゃないかと思うんです。だとするならば、自分もそういうアルバムを作りたい。作り手としてはサブスクリプションというフィールドで実験的なことができるというプラスの面が大きいと思います。
2018年1月24日にデビューアルバム「Entrée」をリリースすることを発表した彼。その収録曲を順次公開していくスタイルは異例だが、これもサブスクリプション時代の新たな音楽の届け方、アルバムのあり方をイメージしているそうだ。
これまでも、アルバム発売前の先行シングルというものはありましたよね。それはアルバムの全体像が見えないまま先行発売されてきたものだと思うんですけど、今回は最初に発表した3曲でアルバムの世界観や全体像を提示しているつもりなんです。そこに曲を追加していく。それはサブスクリプションだからできることで、「この世界観にどんな曲が追加されていくんだろう?」と楽しむような聴き方をしてもらいたいと思っています。最後に全曲そろったときにプレイリスト的に聴いてもらってもいいですし、最初のイメージと全然違った形に聴こえてきたら、それはそれで新しい楽しみ方になると思うので。
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80年代後半~90年代前半の音と、EDM以降の“方程式”
「首飾りとアースガルド」
「TRUE/GLUE」
「2045(Theme of SHINSEKAI)」
- BRIAN SHINSEKAI「Entrée」
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2018年1月24日発売
Victor Entertainment / AndRec
- 収録曲
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- 首飾りとアースガルド
- TRUE/GLUE
- 東京ラビリンス ft. フルカワユタカ
- FAITH
- ゴヴィンダ
- バルバラ
- ルーシー・キャント・ダンス
- CICADA
- クリミアのリンゴ売り
- Loving the Alien
- 2045(Theme of SHINSEKAI)
- トゥナイト
- BRIAN SHINSEKAI(ブライアンシンセカイ)
- 2009年、17歳のときにブライアン新世界名義で出場した「閃光ライオット」でファイナリストに。2011年に1stミニアルバム「LOW-HIGH-BOOTS」、2012年に2ndミニアルバム「NEW AGE REVOLUTION」を発売した。2013年にはバンドBryan Associates Clubを結成してライブ活動を展開。2016年11月に活動を休止したのち、2017年9月に新プロジェクトとしてBRIAN SHINSEKAIを始動させた。2018年1月にビクターエンタテインメントよりデビューアルバム「Entrée」をリリース。収録曲をアルバムの発売に先駆けてサブスクリプションサービスで順次先行配信するという試みで話題を集めている。
2018年1月24日更新