BRAHMAN「Three Times Three」特集|TOSHI-LOW&ハナレグミ・永積崇が振り返る、充実感に満ちた「中央演舞」 (3/3)

1つの演劇をイメージした「中央演舞」

──ハナレグミとやることで、「BRAHMANってこういう音も出せるんだ」「こんなにしなやかで細やかでいい音を出すんだな」と思いました。

TOSHI-LOW しなやかな人とやってるからしなやかになるんだよね。それはもちろんOAUをやってるっていうのもあるけど……形式に囚われていることのスピードの遅さ、対応能力のなさというものに、自分たちもやっぱり嫌気がさしていて。そんなことよりいいものとか、楽な意味じゃない楽しいものはちゃんと突き詰めていかないと。俺らはこうだからこれしかやんない、じゃないというのはメンバーも何年も前からわかってると思う。だからハナレから俺らの出番になるときも転換の時間は作りたくなくて。

──あれはよかったですね。機材セッティングの間をドラムでつないでいくという。

永積 RONZIくんがリハのときに「え! ウソでしょ!?」と言っていて。なんだろうと思ったらTOSHI-LOWに「ギターの機材を入れ替える間、4分間つなげ」って言われてたんですよ。で、ほかのメンバーもRONZIくんに向かって「やってくれ!」って。それを「ウソでしょ!?」と言ってるRONZIくんの背中を見て、「フロントの3人、怖いな」と思った。これを毎回RONZIくんは受け止めているんだなと。

TOSHI-LOW バンドの人たちって1人でやるの嫌いだからね(笑)。

──転換を入れたくなかったのはどうしてなんですか?

TOSHI-LOW 1つの演劇みたいにしたかった。そこにはハナレからブラフっていう切り替わりがなくて、見た人が「ああ、すげえもん観た」という、演劇で言うところの1幕、2幕っていう間がない、いつの間にか全部が始まって全部が終わる、みたいな。そういうものをやってみたかった。

左からTOSHI-LOW、永積崇。

左からTOSHI-LOW、永積崇。

──普通に転換があって間が空いたら、ああいういい感じの流れには絶対ならなかったと思います。

TOSHI-LOW うんうん。あれは俺の中で見えていたの。なんでかと言うと俺は崇と歌っているときにいつも楽しかったし、いつも感じているもの、もらうものがあって。ライブでお互いに生き様をぶつける面白さを感じさせてくれた人だから、これは絶対にバンドのメンバーも感じてくれるんだろうと思っていて。で、やっぱり案の定、KOHKIなんか崇とリハに入ってからずっと崇の話をしてたよ。ホント、ずーっと話してる。ファンなのお前?っていうぐらい(笑)。

永積 KOHKIくんはめちゃめちゃブラックミュージック好きなんですよ。

──KOHKIさんは憂歌団の人ともよくやってるんですよね。

TOSHI-LOW そう。カンちゃん(内田勘太郎)とかともやってるし、DJとかもやっていて。いわゆるダンクラ(ダンスクラシック)みたいなのも大好きで。

永積 ターンテーブルモノね。

TOSHI-LOW うん。だからBRAHMANは実はKOHKIの持っている能力の2割くらいしか使っていないですね。俺らにファンキーな方向があまりないから使いこなせないというか。

永積 阿片やらないとファンキーになれないからさ(笑)。

TOSHI-LOW じゃあ回してよ(笑)。

永積 はっはっはっは!

永積崇

永積崇

無音の中でも音楽を感じさせるボーカリスト

──あと「ナミノウタゲ」で2人がガッチリと手をつないで歌うじゃないですか。あそこも見どころの1つだと思いました。TOSHI-LOWさんが手を差し出して、永積さんが手を取って……すごく自然な感じがして。

永積 うんうん。

──手をつないだのは、やっぱりそういう気分になったから?

TOSHI-LOW お互いフロントマンとして、何を見られてるか、何を求められてるかということはめちゃくちゃわかっていて。だからこそ「ふり」をしているんじゃなくて、気持ちが盛り上がって、というのが大事で。そこでふと出てくる所作というのは自然だと思う。

永積 うん。

TOSHI-LOW あれを「ここで手を握ろうね」と段取りしたら、また違うものになる。演じたら歌が届かなくなるというか、あざといものになるので。だから俺たちはできるだけピュアに歌うために、「演じないという演じ方」をしなきゃいけない、変な生き物なんだよね。

永積 ふふふ。

TOSHI-LOW セッションは予期しない変なことが起きた瞬間にハッ!と思うことがあるから面白いものが生まれるんだろうし、決め込んだことじゃないから余計に「あ、こういう顔するんだ」みたいな面白さがあるよね。

永積 俺は体で聴く音楽ってそういうものじゃないかなと思う。まっすぐ直立不動になってマイクの前で歌う音楽もあるけど、自分の音楽はそうじゃない。TOSHI-LOWも歌いながら(手を伸ばして)こうなったりとか。そのことを歌うのに一番いい体の動きがある気がして。

TOSHI-LOW あるある!

永積 言葉とか音楽が体に合わさった音楽をやってる歌い手の人は、絶対そうなるんじゃないかな。うん。本当に楽しいときはウワー!ってなる。演じてるんじゃなくて、そういう体の動きをしないと出ない声があるんですよ。TOSHI-LOWにとってあの歌の大事なシーンというのがたぶんあって、大事にしているフレーズだからこそ、ああいうふうに体が動くのかなと今の話を聞いてて思いました。自分が実際そうだから。

左からTOSHI-LOW、永積崇。

左からTOSHI-LOW、永積崇。

──そういうふうに自然に体が動くようになるまでは、ある程度のトレーニングや経験が必要になるものですか?

永積 やっぱり自分が解放されてないと動けないじゃないですか。だから本番までにいくつも反芻していて、そういう体の自然な動きは曲を作ってるときもそうだろうし、何度もライブを重ねてやっと手が伸びるかもしれない。あのあと、たぶん僕が出たあとかな。一気にギアが入ったじゃん?

TOSHI-LOW うんうん。

永積 いきなり(激しく動いて)こういうふうになるじゃん。

TOSHI-LOW うん。

永積 だから、音楽にふさわしい動きがあるというか。

TOSHI-LOW いい歌い手ってなんだろうといつも思うんだけど、音が消えていても音楽を感じる人がいいなと思っていて。まったく音がない画面を観て、楽しい感じ、激しい感じが見えるかどうかっていうのは1個の指標にしている。「アラバキ(ARABAKI ROCK FEST.)」で「空谷の跫音」という曲を一緒にやったんだけど……。

永積 うんうん。

TOSHI-LOW 自分たちで作った曲なのに俺は今までうまく解釈できてなくて。あのとき、ずっと我慢して俺は裏を走らないようにしようって意識していたら、崇が無茶苦茶跳ねて出てきたの。

永積 (笑)。

TOSHI-LOW 俺はその瞬間、「これでいいんだ!」って思った。そのあとは、あの曲のリズムの取り方もわかって。

永積 うんうん。

TOSHI-LOW 音を感じるんですよ。ドン、タッって。すげえいい取り方だと思って。それもやっぱ1個の肉体が表す音楽の表現だから。

左からTOSHI-LOW、永積崇。

左からTOSHI-LOW、永積崇。

──得るものが大きかったんですね。

TOSHI-LOW 大きい。で、そういうのって聞かれないと言わないじゃない。

永積 そうだね(笑)。俺も言わないもん。

TOSHI-LOW ベロベロなら言う、みたいな(笑)。

永積 ははは! でもTOSHI-LOWはどんどんアップデートしていると思う。今回の「中央演舞」もリハから聴いて、第一声で「あ、声が変わったなあ」と思った。すごいしなやかで瑞々しい感じ。それまでも何度も見ていて、そのときから比べてもどんどんどんどん……僕は声を聴くのが好きだから、ついついそういう聴き方になるんだけど、とてもジューシーで柔らかくなっているなと思った。TOSHI-LOWは頑固そうなふりをしていても、いろんなことを柔軟にアップデートしていっている気がするんですよ。それこそ自分みたいなフォークとか弾き語りをやってる人間からも吸収してどんどんアップデートしていって。恐ろしいですよ。

──いいですねえ。

永積 同年代からすると、自分も止まっていられないなと思うんですよ。TOSHI-LOWは思ったことを言葉にする速さというか、いいものをいいと言うスピードを持ってるように感じる。歳を取るとだんだん言いたくなくなってくるじゃないですか。でもTOSHI-LOWはむしろどんどん速くなってる。あとまったく別の分野、ジャンルの人とかとジョインしていく姿勢もすごいですよね。

──TOSHI-LOWさんはそういうのを恐れない感じはありますよね。

永積 うん。それはすごい感じる。

──アップデートしても失っちゃいけないもの、守っているものはあるんですか?

TOSHI-LOW そもそも自分なんてなんでもないから、別に何でもいいっちゃいいんだよ。よければいいし、悪ければダメだし。バンドの中でいつも話しているけど、曲を作るときだって、最初に「グッとくるな」「グッとこねえな」のどっちかしかないから。そのグッとくるのが何かっていうのは、理論上の「こうしたから」というものばっかりじゃなくて。人間が対峙したときにグっとくる沸点のポイントをつかみたいってことで。あの人の歌はなんで響くんだろう?と考えていくと、うまいだけじゃない何かがある。それってもちろんうまさも必要だけど、それ以外に何があるんだろう?と観察していくと見えてくるものがあるんだよね。

TOSHI-LOW

TOSHI-LOW

永積崇

永積崇

「中央演舞」で得たもの

──今回の競演によって得たものは今後に生かせそうですか?

TOSHI-LOW 得たものはたくさんあって、それはブラフにとってめちゃめちゃデカい。例えばRONZIとかは最初「俺、激しく叩いちゃってもいいのかな」みたいな感じがあったけど、崇が「らしくやってほしい」と言ってくれたことによって、みんなが自分の“らしさ”みたいなもの出せた。だから自分たちの“らしさ”や“よさ”を見つめ直す時間にもなったかな。

──永積さんはどうでした?

永積 今でもあのライブの余韻が残っているんですよ。ステージを一緒に作れたっていうかね。なんかこう「よっしゃっ!!」っていうのがあって、そういうライブはそうそうないんですよ。「どうなるんだろう?」というところから始まって、終わったら自分が思っていた以上のものが返ってきたというね。その実感は並大抵のことじゃ塗り替えられないような厚みがあったなと。客席の雰囲気が徐々に変わってきて、みんなのエネルギー、意識がステージの真ん中にギューッと集まってきて、そこからBRAHMANにつながっていって。で、TOSHI-LOWの歌が始まった瞬間に一気に客席がこう「バァーン!!」となっていくのを見ていて。なんかすごい達成感があったな。

──今後、本格的に何か一緒にやっていく計画はあるんですか?

TOSHI-LOW いつでもバックバンドとして呼ばれるの待ってるんで。

永積 ふふふ。

TOSHI-LOW 俺らもハナレの歴史の1個になれたのはうれしいし、またそういう機会があったらいいなと思う。でも、違う村だからいいんだとも思うよね。

永積 僕もそれは思っている。今回のライブが超よかったから各地でもやろうぜっていうのは、何かこうもったいないような気がして。BRAHMANとやるってことは、TOSHI-LOWにとっても、自分の中でも大事な場所だと思う。もちろんジョインして「イェイ!」っていうライブをステージではやるんだけど、そこに行くまでをすごく大事にしたい感じもあるというか。僕はTOSHI-LOWやBRAHMANを「あー、こんなことやり始めたんだな」「じゃあ自分はどうする?」と、鏡のようにして見ているところがあるんです。胸を借りて自分の拳をぶつける胸として立っていてほしいなと勝手に思っていて。

TOSHI-LOW 俺はハナレグミの50周年記念には出たいと思ってるんで(笑)。

──50周年だと何年後ですか?

永積 あと30年後くらいですね(笑)。

左からTOSHI-LOW、永積崇。

左からTOSHI-LOW、永積崇。

プロフィール

BRAHMAN(ブラフマン)

1995年に東京で結成された4人組ロック / パンクバンド。ハードコアと民族音楽をベースにしたサウンドを特徴とする。1996年に初めての作品として「grope our way」をリリース。1998年に発表した1stアルバム「A MAN OF THE WORLD」はトータル60万枚以上のセールスを誇り、90年代後半に1つの社会現象になったパンクムーブメントにて絶大なる人気を集める。2011年3月11日の東日本大震災以降よりライブ中にMCを行うようになり、震災の復興支援を目的とした活動を積極的に展開。2015年にはベストアルバム「尽未来際」のリリース、千葉・幕張メッセで開催したライブイベント「尽未来祭」を含むライブシリーズ「尽未来際」の開催、初のドキュメンタリー映画「ブラフマン」公開などの活動を展開した。バンド結成25周年となる2020年9月には25時間におよぶ配信番組「BRAHMAN 25TH 25HOUR TV」を実施。そしてILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)とのコラボレーションシングル「CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE」をリリースした。2021年9月にニューシングル「Slow Dance」を発表。2022年4月には、2021年末から2022年初頭にかけて行った3本のライブを収録した映像作品「Three Times Three」をリリースした。

ハナレグミ

永積崇(ex. SUPER BUTTER DOG)によるソロユニット。2002年11月に1stアルバム「音タイム」をリリースし、その穏やかな歌声が好評を得る。2005年9月には東京・小金井公園でフリーライブ「hana-uta fes.」を開催し、約2万人の観客を集めた。2009年6月に4年半ぶりとなるアルバム「あいのわ」をリリースし、ツアーファイナルの東京・日本武道館公演を成功させる。2013年5月リリースのカバーアルバム「だれそかれそ」では多くの名曲をさまざまなアプローチで歌い上げ、ボーカリストとしての力量を見せている。2015年8月に野田洋次郎(RADWIMPS)、YO-KING(真心ブラザーズ)、池田貴史(レキシ)、堀込泰行(ex. キリンジ)、辻村豪文(キセル)、大宮エリーら、さまざまなアーティストが参加したアルバム「What are you looking for」を発表。2021年3月に8thアルバム「発光帯」をリリースした。