BRAHMANとTHA BLUE HERBのラッパー・ILL-BOSSTINOが、コラボシングル「CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE」をリリースした。
この2組が共に楽曲制作を行うのは、BRAHMANが2017年4月に発表したシングル「不倶戴天 -フグタイテン-」収録の「ラストダンス」以来、約3年半ぶり。昨今のコロナ禍を受けてILL-BOSSTINOがTOSHI-LOW(Vo)に呼びかけたことをきっかけに、楽曲の発案からレコーディングまで1カ月という短いスパンで「CLUSTER BLASTER」「BACK TO LIFE」の2曲を完成させた。
この作品のアートワークを手がけたのが、コラージュアーティスト / グラフィックデザイナーの河村康輔だ。河村は数々のアパレルブランドや広告にアートワークやグラフィックを提供するほか、ライブイベントのフライヤー、DVD・CDのジャケット、書籍の装幀を手がけるなどその活躍は多岐にわたり、海外でも高い評価を受けている。昨年、東京・渋谷PARCOで開催されたアートウォール企画「AD 2019」で大友克洋と発表した「AKIRA」のコラージュ作品は国内外で大きな話題を呼んだ。
今回、音楽ナタリーではTOSHI-LOWと河村の対談を実施。両者の出会いから、「CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE」の制作過程、さらには互いの創作におけるアティテュードまで、河村の仕事場にて大いに語ってもらった。
取材・文 / 内田正樹 撮影 / 池野詩織
ヤバい、TOSHI-LOWさんに俺の荷物を運ばせてる!
──まずはお二人の出会いからお話しいただけますか?
TOSHI-LOW 初めてしゃべったのは去年だよね。
河村康輔 8月6日の広島でした(※「TO FUTURE GIG -What you want to tell children-」。2005年から毎年8月6日に広島市内のさまざまなライブハウスで行われている平和訴求イベント)。
TOSHI-LOW 俺は弾き語りでライブを、康輔は2階のフロアの端っこでライブコラージュをしていて。
河村 僕は地元の広島にいた高校生の頃からBRAHMANのライブを観ていたので、TOSHI-LOWさんには勝手に怖いイメージを抱いていたんです。だから同じイベントに出演されると知ったときはめちゃくちゃ緊張して。でも当日は1階と2階でお互いにステージが分かれていたので「これは安全に帰れる」と思ったら、イベント後にTOSHI-LOWさんがA1サイズくらいの僕の作品を担いで歩いていて……(笑)。
TOSHI-LOW 2階で片付けをしていたら作品がぽつんとソファーに置いてあって。もったいないから1階のみんなに見せてやろうと思って、担いで持って行ったんです。
河村 僕、「ヤバい、TOSHI-LOWさんに俺の荷物を運ばせてる!」って慌てて謝りに行ったんですよ。そのときのTOSHI-LOWさんの第一声も覚えています。「ダメだよー、作品をソファーの上なんかに置いてちゃ!」って(笑)。
TOSHI-LOW 俺もちょっと緊張していたんだよ(笑)。河村康輔の存在は以前から認識していたけど、やっぱりコラージュって俺の中ではハードコアな世界観という印象が強くて、狂気と暴力の世界を垣間見るアートだと思っているから。「話しかけたらヤバいのかな」と感じていたし、ライブコラージュ中もすげえ集中力で、しゃべんねえ雰囲気バリバリ放ってたから、うまく話しかけられなくてね。
TOSHI-LOWが感じた河村作品の“地方から見る都会感”
──TOSHI-LOWさんは河村さんの作品自体についてどのような印象をお持ちですか?
TOSHI-LOW コラージュって大抵は都会的というか、少なくとも牧歌的ではないじゃない? でも河村康輔の作品はそうじゃなくて、パンク感やハードコア感とはまた別の魅力があった。それがなんなのか以前からずっと不思議だったんだけど、去年、広島で直に話してみて「ああ、この人は東京を傍から見ているんだな」とわかって。俺も地方の出身だから、例えば自分の中には「AKIRA」で描かれている“ネオ東京”を見てカッコいいなとか憧れの感情を抱く一方で、「東京、何くそ」という感覚がずっとある。だから康輔の“地方から見る都会感”みたいな視点が俺はすごく好きなんだと思う。
河村 うれしいです。本当におっしゃる通りで、東京に住んでもう20年くらい経つけど、いまだにどっぷりと浸かれない自分がいて。毎年広島に帰るのも、たぶん、地元で東京にいる脳を一旦リセットして、改めてキラキラした東京の裏側のドロドロしたものを見つめ直しているんだと思います。
TOSHI-LOW 東京出身のいわば“中の人”が見えていないものって、外様からは見えていたりするじゃない? 憧れも東京の微妙な汚さもさ。もっとも俺はその汚さに好きな部分もあるんだけどさ。
河村 それ、すごくわかります。
TOSHI-LOW 要は、俺は本当に汚くて下品な表現はダメで、そこに品のある表現が好きなの。際どい表現がただのグロテスクになるかアートになるかの分かれ目って、俺はその人の品性だと思っていて。康輔も、例えばこれまでのほかのコラボのときだって、きっと迎合はしてこなかったじゃない?
河村 ええ。そこはやっぱりハードコアなので。
TOSHI-LOW そういう攻めの姿勢にあらかじめ備わっている品のようなものを俺はBOSSにも感じるんだ。BOSSも今回、「CLUSTER BLUSTER」のリリックで汚い言葉を使っているけど、ヒップホップにおけるFワードのようには聞こえない。「皆殺し」という言葉1つにも品があるというか、初めから慈悲が含まれているというか。
河村 確かに「CLUSTER BLUSTER」の攻撃性には、嫌な意味での汚さなんてないですよね。あと、僕の中では居心地のよさもあって。上京して通った新宿のライブハウス・ANTIKNOCKの階段みたいな、汚いけど居心地のいい暗さがあるというか。
TOSHI-LOW 居心地って、いい言葉だね。
河村 あの階段から都庁に向かって戦いを挑むような力強さを感じたんです。僕、東京に出てきて、初めてビビりながらANTIKNOCKで観たのがGAUZEのライブだったんですよ。
TOSHI-LOW いい選択(笑)。
河村 すげえビビってたのに、いざライブが始まるともうそこから帰りたくなくて。その「ここから何が始まるんだ?」という居心地のよさをこの「CLUSTER BLUSTER」でも感じたというか。“聴き心地”というよりも“居心地”がいい曲なんです。「帰ってきたな」みたいな。
TOSHI-LOW それはうれしいね。
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デジタル化を真っ向否定するアナログ作業のジャケデザイン