音楽ナタリー Power Push - BRAHMAN
怒涛の20周年を駆け抜け「何もない」今を語る
BRAHMANのライブBlu-ray / DVD「尽未来際」が、3月23日にリリースされる。この作品は2015年11月に、バンドの結成20周年を記念して千葉・幕張メッセで2日間にわたり行われたライブイベント「尽未来祭」でのBRAHMANのステージをすべて収録。「尽未来祭」では初日に彼らと親交の深い同世代のバンドやHi-STANDARD、SUPER STUPIDなどのレジェンドバンドが、2日目には後輩世代のバンドが多数登場し、圧巻のパフォーマンスで20周年を祝福した。
2015年はベストアルバム「尽未来際」のリリース、ワンマンライブや対バンツアー、「尽未来際」などのライブシリーズの敢行、初のドキュメンタリー映画「ブラフマン」の公開など、これまでのキャリアを総括するような活動を怒涛の勢いで展開してきたBRAHMAN。アニバーサリーイヤーを終えたバンドが今何を見ているのか、このタイミングで発表された新曲「天馬空を行く」はどのように生み出されたのかを、フロントマンのTOSHI-LOW(Vo)に語ってもらった。
取材・文 / 高橋美穂 撮影 / 西槇太一
あの世代的な呪縛は解かれたのかな
──「尽未来際」のDVDを拝見したんですが、TOSHI-LOWさんの1日目と2日目の表情が全然違いますね。2日目は、しょっぱなからピカピカの笑顔で。
そんな笑顔だったっけ、俺。じゃあオッサンの笑顔、気持ち悪いでしょ。
──気持ち悪いというか(笑)、衝撃的ではありましたよ。TOSHI-LOWさんにとって、1日目と2日目のライブでは、気持ちの違いはありましたか?
歌うときは集中していたけれど、1日目は、パンドラの扉を開けたバンドがいくつかいたでしょ。自分がこじ開けておいてなんだけど、開けるっていうことは負なものも喰らうっていうことでもあったかな。
──出てもらう過程だけじゃなく、当日も食らった感じはありましたか?
ステージに立ってしまえば同じバンドだし、逆にライブを観たことで、何かすべて抜けきった気はしたかもしれない。もう背中を追うこともないし、幻影を追うこともない。あの世代的な呪縛は解かれたのかなっていう気がする。
──でも、呪縛を解くために1日目のメンツを集めたわけでは……。
全然違う。
──とはいえ「尽未来際」もそうですし、映画もそうですし、結果的に20周年はいろんなきっかけになったんじゃないんですか?
まあ、タマゴが先かニワトリが先かわからないけれど、20周年がきっかけになったことは多いだろうね。それで意味のあるものになったんだとしたら、20周年をやってよかったと思う。でも、自分たちで能動的にやろうって言ったわけじゃなく、20周年やるならこうしない?っていう流れに乗っただけではあるけれど。ただ、流れに乗るにも技術や体力はいるからね。今まで自分たちで拒否していたことのほうが多かったしさ。デカいフェスみたいなことなんて俺たちがやる必要ないじゃん、映画なんか俺たちがやってもつまんないと思うよ、って今まで断っていたことをやったわけだからさ。
──そんないろいろなことを、この1年で、一気に引き受けたわけですよね。
攻めの気持ちで全部受けようって。何見られてもいいって思うようになったところがデカいと思う。誰かが作り上げた物語の中で生きているわけじゃないし、何かを隠してロックスターみたいな人たちになりたいわけじゃないから。だから映画も、いきなり便所を開けられて見てもらうような感じだったけどさ。でも、今は何もない状態から始まっている気がする。
──すべてを見せて、出し尽くしたような?
わかんない。そもそも、自分に何かあったのかなっていう。それはあきらめでも自慢でもなく、俺ってこんぐらいじゃねえ?って思う。そういう、何もないままで22年目を迎えているというところで、去年の一連の活動はやってよかったと思う。
終わりを見据えないで生きていくなんてつまらない
──20周年で得たことは、新曲の「天馬空を行く」にも表れていると思いました。「尽未来際」に映し出されていた笑顔や光景に直結しているような楽曲に聞こえてきて。これは、いつ作られたんですか?
今年。こないだレコーディングしたばっかだもん。
──じゃあ、かなり今の気持ちに近いんですね。
でも俺ら、1曲1曲で何かを表現しているわけじゃないから。要は、俺らは、自分たちを表す曲って音楽ジャンル的にないじゃない。こういうビートにこういう歌を乗せれば俺らっぽい、っていう形はまったくないじゃん。だから1曲だけで自分たちがどうなったっていう判断はできない。曲がそろってアルバムタイトルが付いたときに、自分たちの何年かを総括する思想や生き様が表れると思っているから。もちろん、1曲1曲に細かいストーリーはあるけれど。
──では「天馬空を行く」のストーリーは?
もともとは、すごくエグい歌詞だったの。
──そうなんですか?
うん。どっちかっていったら恨みつらみみたいなところから書き出したんだけど、それが途中で嫌になっちゃって、真っ白にして書き直した。
──恨みつらみを、そのまま歌詞にしてきたことも過去にはあったじゃないですか。
それは今後もあるとは思うけれど、今回はなんか嫌になっちゃった。今の自分が伝わるとは思わないな、って。自分でも、そういう、否定的な言葉を聴くのがつらくなったんだよね。前は否定を肯定できたんだけれど。
──意外な過程ですね。
でも、裏側には塗り潰した否定があるわけで、ハッピーエンドを歌うバンドになったわけではないんだよね。ただ怒りとかばっかを前面に出すのも、自分でも疲れてきたというか。とは言えこれは結論じゃなく、喜怒哀楽あるうちの1つ。頭の中にはいろんな感情が混在しているし、矛盾も並列にあるけれど、今は否定を歌う時じゃないっていう直感があった。
──完成した歌詞の中でも「生き抜くための叫び」と「死に抜くための叫び」とあって、きちんと両面が描かれていますよね。
自分が完全に人生の折り返しを過ぎていることが生物の感覚的にもわかるし、どっちかっていうと始まりよりも終わりのほうが近いわけだから、そこで終わりを見据えないで生きていくって、なんてつまらないものなんだろうって思う。なんで、終わらないことを歌う歌ばっかりあふれているんだろうって。
──「永遠」とか。
そうじゃないからね。すぐ終わるよ。人生なんて一瞬だよ。それがさ、この年になるとリアルに感じられるようになってくるっていうか。涙もろくなってくるとかも、そういうことじゃん。こんなことで泣く?っていうことで泣くもんね。
──それは変化ですか?
劣化かもしれない(笑)。でもそうだとしても、受け止めていかなきゃいけないんだから。何か今、受け止めるべきことが増えて、頭の中がごちゃごちゃしてるの。たぶん、1個のタームが終わったから。それが曲を作ったり、いろんなことをやっていく中で吐き出されて、振り返ったときに、こういう時代だったんだなって思うんだろうけれど。まあ、今は頭がふんわりしてるのよ。ふんわりしてるのをインタビューで言葉にするのってすごく大変でさ。明後日くらいのこともわかんないもん、もはや。
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- ライブBlu-ray / DVD「尽未来際」2016年3月23日発売 / TOY'S FACTORY
- 「尽未来際」
- [Blu-ray Disc 2枚組] 6900円 / TFXQ-78138
- [DVD2枚組] 4900円 / TFBQ-18182
Blu-ray DISC 1収録内容
尽未来祭 Day1 :
2015/11/14 at 幕張メッセ国際展示場
- TONGFARR
- FOR ONE'S LIFE
- SEE OFF
- GOIN' DOWN
- GREAT HELP
- BASIS
- SHADOW PLAY
- PLASTIC SMILE
- BOX
- BEYOND THE MOUNTAIN
- DEEP
- NO LIGHT THEORY
- Z
- 時の鐘
- ARRIVAL TIME
- THAT'S ALL
- THERE'S NO SHORTER WAY IN THIS LIFE
- ANSWER FOR…
- NEW SENTIMENT
- ARTMAN
- THE SAME
- 尽未来祭 写真集(Day1 : 2015/11/14)
- 20th Anniversary Album「尽未来際」(DISC 1)High-Resolution Audio / Booklet
- 尽未来際 ~開闢~ / ~畏友~ / ~尽未来祭~ Documents
Blu-ray DISC 2収録内容
尽未来祭 Day2 :
2015/11/15 at 幕張メッセ国際展示場
- 初期衝動
- THE ONLY WAY
- 賽の河原
- THE VOID
- 露命
- EPIGRAM
- SPECULATION
- 其限
- 鼎の問
- A WHITE DEEP MORNING
- DOUBLE-BLIND DOCUMENTS
- CIRCLE BACK
- (a piece of)BLUE MOON
- 遠国
- FAR FROM...
- CAUSATION
- LOSE ALL
- 警醒
- PLACEBO
- 霹靂
- 虚空ヲ掴ム
- TONGFARR
- 尽未来祭 写真集(Day2 : 2015/11/15)
- 20th Anniversary Album「尽未来際」(DISC 2)High-Resolution Audio / Booklet
- Music Video「天馬空を行く」
- Band Score「天馬空を行く」
DVD DISC 1収録内容
- 尽未来祭 : 2015/11/14,15 at
幕張メッセ国際展示場
(曲目はBlu-ray DISC 1、DISC 2と共通)
DVD DISC 2収録内容
- 尽未来際 ~開闢~ / ~畏友~ / ~尽未来祭~ Documents
- Music Video「天馬空を行く」
BRAHMAN(ブラフマン)
1995年に東京で結成された4人組ロック / パンクバンド。ハードコアと民族音楽をベースにしたサウンドを特徴とする。1996年に初めての作品として「grope our way」をリリース。1998年に発表した1stアルバム「A MAN OF THE WORLD」はトータル60万枚以上のセールスを誇り、90年代後半に1つの社会現象になったパンクムーブメントにて絶大なる人気を集める。2011年3月11日の東日本大震災以降よりライブ中にMCを行うようになり、震災の復興支援を目的とした活動を積極的に展開。2011年9月にシングル「霹靂」、2012年9月にシングル「露命」を発表し、いずれも強いメッセージと圧巻のサウンドがリスナーに受け入れられた。2013年2月に5年ぶりとなるアルバム「超克」をリリース。結成20周年の2015年にはベストアルバム「尽未来際」のリリース、千葉・幕張メッセで開催したライブイベント「尽未来祭」を含むライブシリーズ「尽未来際」の開催、初のドキュメンタリー映画「ブラフマン」公開などの活動を展開。2016年3月にライブBlu-ray / DVD「尽未来際」をリリースする。