ナタリー PowerPush - BRAHMAN

バンドの“今”が焼き付けられた3年半ぶり最新作「霹靂」

信じてたんじゃなくて、考えてなくてそこにいただけ

──囲まれていれば安心だっていう状況が崩れたわけですからね。

それを見ないふりをする人も多いしね。「自分たちが自分たちの普通の生活をすることが大事なんです、言わないでください」みたいに。違うから。普通の生活があそこで変わったんだから、もし普通って言うなら、その基準を変えなきゃダメだから。津波が来ることも、普通っていう意識に入れてくださいって思う。それはどこの地域に関しても。

──見ないふりをしている人じゃなくても、今まで信じていたものがなくなって、心が揺れ動いている人も多いですよね。

多分信じてたんじゃなくて、考えてなくてそこにいただけなんだよ、それは俺も含め。でも震災が起きた結果、気付いてしまったことがいっぱいあって。それについて黙ってしまったら卑怯だから、心が揺れ動くなら自分自身はどうするのか、ある種生き方を決断しないと生きていけない世の中になってしまったよね。はっきり言えば。

──それによって、音楽の聴こえ方ひとつとっても、変わってしまいましたよね。

心が変わったんじゃないですか、皆さん。今もそうかもしれないけど、生きる死ぬを自分の身の上に当てはめられる人は少ないから。でもあれだけの映像を見て、あれだけの体験をして、影響を受けない人はいないわけで。それで「永遠」とか歌われても、嘘じゃんって思うでしょ。こんなに儚いものがあるんだって感じた人は多いと思うから。

ステージに立ってる自分も普段の自分も一緒だったら、隠すことなんか何もない

──でも、TOSHI-LOWさんからは、全てがリアルに伝わってくる気がします。最近はインタビューなどでも赤裸々に話してくれますし。

まあね、それはわかる。前は、BRAHMANのTOSHI-LOW以外のことを表に出さないほうが楽だって思っていたから。でも結局、ステージに立ってる自分も普段の自分も一緒だったら、隠すことなんか何もないし。アーティストのイメージってことを、自分が怖がっていただけの話で。今は、全部を出して、そこで嫌われても誤解を受けてもいいっていう覚悟がある。とにかく、自分の人生は全力でバンドですっていうほうが面白いと感じたんだよね。

──ライブでMCをするようになったのも、そこが理由ですか?

ライブ写真

今までだって、MCやったらどんだけ楽かって思っていたよ。誤解されないわけだし。ただ、今日感じたことを今日伝えるためには、MCをしないのも違うんじゃないかなって思い始めたんだよね。けど今も、曲を説明したり、ライブを盛り上げるようなMCをする必要はないとは思っていて。

──曲だけでライブ自体は100%成立しているからですよね。ちなみに、フェスに積極的に出るようになったのも、そういう気持ちが関係していますか?

フェスを楽しむことは得意なほうじゃないけど、逆に言ったら、ステージはどこだって変わらないから。フェスか単独ライブかってところでは考えていない。いちステージにどれだけ全力を掛けられるか。観客が何百人でも何万人でも関係なくて、やっぱり一人ひとりにわかってもらいたいんだと思う。

──観客一人ひとりの重みはどんな場所でも変わらないと。

そう。すごくシンプルでしょ(笑)。

──TOSHI-LOWさんは、どんどんシンプルになってきてますよね(笑)。一発録りの話とも、フジロックの後に石巻に行った話ともつながってきますけど。

躊躇する必要はないんだよね、なーんにも。だって、こういうふうに思われたいってがんばっても、逆に思われたりするでしょ(笑)。だったら、自分が信じている生き方をしたほうが楽しいよね。堂々と振り切っていくほうが。

俺は、全部から逃げたくないんだよ

──今日の、石巻から帰ってきてすぐにインタビューっていう状況をとっても、そんなにいろんなことやって疲れないんですか?とも思います。でも実は、思ったように行動したほうが楽ってことなんでしょうか。

そうそう。やっとけばよかったって思うよりは、やったときに気持ちいいほうが……それは自分たちでもわかってたはずなんだけど、もしかしたらだんだん避けちゃっていたのかもしれない。だからって闇雲にハードなスケジュールにしようとしているわけじゃないんだけど、後回しにしない清々しさはあって。これはみんなに勧めたいね(笑)。自分が思ったようにやればいいんだよって。俺は、全部から逃げたくないんだよ。だから疲れてるも何もないっていうか。でも、今までそうじゃなかったのは反省している。インタビューでも、2本くらい喋ると嫌になっちゃってたし。自分のことばっか話していると、俺みたいな自己愛と自己嫌悪が同じところにある人間は疲れるっていうか。自分のことばっかりやってるくせに、それに意味をつけることに気が滅入っていたんだよね。

──今は滅入ったりは?

ないないない。今も相変わらず自己愛も自己嫌悪もあるけど、その間で止めちゃってることがないから。自分を守ってる自己愛は疲れるけど、攻めてる自己愛は楽なんだよね。なんでも言えるじゃん。例えば偽善って言われても、そうだよ、だって自分がやりたいんだから、って言えたら楽じゃない? どんなことが偽善で、どんなことが非偽善か考えるより。だけど、それを中途半端で止めちゃうと、偽善って言われたら嫌だなって思うんだよね。だから今は楽だよ。生きやすい。単純に自分を受け止めることが必要だったんだって、3.11が起こったことで気付かせてもらった気がする。これまでも、気付こうとしていたから歌詞をこねくり回して書いていたんだと思うけど、今みたいに言葉と行動が近くなると、ストレスがないよね。

──そのほうが聴き手にも伝わりやすいと思います。

そうだと思うよ。厳しい歌詞書いて3日寝込んじゃいましたってなると、俺ってなんだろなって思うよ。最終的に寝てるじゃんって(笑)。でも、今まではそんな状態だったんだよ。今思えば、寝ている余裕があったってことなんだよね。それだと、言葉と行動が伴ってないから自分にとってもストレスで。あとは、わざとキツくするっていう方法しかないじゃん。だからバカみたいに運動したり、断食みたいに3日何も食わなかったり、いろんなことやったけれど、今はそういうことを無理やりしなくても、頭と心が動けば動くほどその両方がつながっていくから。

ニューシングル「霹靂」 / 2011年9月7日発売 / TOY'S FACTORY

BRAHMAN「霹靂」アルバムジャケット

  • 初回限定盤 [CD+DVD] / 1500円(税込) / TFCC-89343 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤 [CD] / 1200円(税込) / TFCC-89344 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. 賽の河原
  2. 最終章
  3. 霹靂
DVD収録内容
  1. PV「賽の河原」
  2. LIVE「最終章」
  3. PV「霹靂」

BRAHMAN

BRAHMAN(ぶらふまん)

1995年に東京で結成された4人組ロック / パンクバンド。ハードコアと民族音楽をベースにしたサウンドを特徴とする。1996年に初めての作品として「grope our way」をリリース。1998年に発表した1stアルバム「A MAN OF THE WORLD」はトータル60万枚以上のセールスを誇り、90年代後半にひとつの社会現象になったパンクムーブメントにて絶大なる人気を集める。日本以外にもヨーロッパやアジアでもツアーを行うなどワールドワイドな活動を展開している。