酒井初の作詞曲「Yours」
──連続リリースの3作目「Yours」では酒井さんが作詞を担当しています。基本的にBRADIOの歌詞は真行寺さんが担当していたのでクレジットを見て驚きました。
酒井 以前から貴秋が作詞で行き詰まったときに協力するようなことはあったんですが、こうやって僕の名前が1人でクレジットに載るくらい作詞に関わったのは初めてですね。「Yours」は貴秋が作った土台があって、僕はパーツを組み合わせるように詞を書いたので本当に1人の力で書いたかと言うと怪しいんですが……。
──作詞のときに酒井さんが考えた「BRADIOの歌詞ならではの要素」はどんなものでしたか?
酒井 貴秋がよくやる言葉遊びは意識したかな。それと、さっき話していた歌詞の日本語にこだわる部分は僕も苦労しました。貴秋が書いた「Yours」の歌詞のメモは英語が多くて、それを日本語に置き換えることが難しくて……。英語でハマる言葉って、日本語に訳すとダサくなっちゃうんですよね。例えば「love love love fall in love」とか、日本語にしようがないんですよね。
真行寺 フィーリングで書いた英語だったから(笑)。
酒井 最終的には英語にするか日本語にするかをあまり深く考えすぎずに、ストレートにカッコいいほうを選ぶように詞を書いていったかな。
──普段自分で書く詞を歌っている真行寺さんが「Yours」の歌詞に対して思うことは?
真行寺 普段からカバーも歌うから、自分で書いたかどうかはあまり重要視していないんです。そんなに偉いボーカリストではありませんから。ちょっと偉そうなことを言うと、誰が書いても自分が歌えばBRADIOの曲になるだろうみたいな自信はあったかもしれないですね。よくも悪くもアクの強いボーカルなので(笑)。
──歌詞の中に「you are always だから fall in love again」という部分があって。日本語と英語の単語を織り交ぜて歌う歌詞はBRADIOの楽曲によくあるんですが、英文と英文を日本語でつないでいる歌詞は珍しいなと思ったんですよ。
真行寺 まさしくそうですね。僕が書いていたらたどり着かなかった表現だと思います。
酒井 ここ、書くのがすごく難しかったところなんです。全部英語にしてもよかったんだけど、何かアクセントというか、つなぎのひと言が欲しくて。いろいろ考えた末に「ひと言だけ日本語を入れてみようかな」と思って、ちょっと挑戦してみました。「だから」が英語っぽく聞こえるので、もしかしたら日本語でつないでいることに気付いていない人もいるかもしれないですね。
新年の幕開けに新曲を
──今年の元日には「瞬き羽ばたき、故に繋がり」が配信リリースされ、2022年のBRADIOは序盤から気合いが入ってるなと思いました。
真行寺 もちろん。それと元日に曲が出るって、なんか景気がいいじゃないですか(笑)。
大山 この曲は年末年始にTOKYO MXで放送されたドラマ「夜光漂流 MIDNIGHT JELLYFISH」のオープニングテーマとして提供させてもらったもので、放送日が大晦日の深夜だったんですよね。いつもだったら慣例的に水曜日発売にしているんですけど、配信だったらリリースはいつでもいいし、だったら放送に合わせて新曲を発表しちゃおうということで、元日にリリースしました。新年に新しい曲が出るの、なんかいいかもしれないと思って。実際にリリースしてみて、なんか気持ちがよかったですね。新年から新しいBRADIOを聴いてもらえている感じがありましたから。
酒井 前向きな曲だし、ドラマのオープニングテーマでもあるので新年一発目の曲としてふさわしい感じもあったよね。
──YouTubeではこの曲の“Bass play movie”が公開されています。こういったプレイヤーにフィーチャーした動画は、BRADIOとしては新しい試みですよね?
酒井 そうですね。なぜベースかと言うと、普段僕がお世話になっているベースのメンテナンスを出しているところから「ベースを前面に押し出した動画を撮ってくれませんか?」という依頼があって。普段の僕らの活動の範疇だと、なかなか1人のプレイヤーに焦点を当てた動画って予算面で作りにくいんですよ。スタジオも借りなきゃいけないし、カメラも何台か必要になるし。でも今回はメーカーさんがスポンサーになってくれたので、だったら新曲をプレイする動画を撮りましょう、ということで撮ることになりました。動画を公開したら「亮輔さんだけなんですか?」みたいなコメントも多くて……。
真行寺 俺らも出ればよかったよね。後ろを歩くとか(笑)。
大山 邪魔だよ!
真行寺 しょうがないじゃん(笑)。歌入ってないし。
──個々のプレイヤーに焦点が当たるのはバンドにとって光栄なことですよね。
真行寺 そうですね。特に今作に関してはアレンジがめちゃくちゃいいんですよ。聡一と亮輔のアイデアがすごくよくて。どの音を追っても飯が食えるような演奏ばかりです。
曲の持つパワーが生んだ「THE VOLCANOES」というタイトル
──今作のタイトルトラック「THE VOLCANOES」は、どのように作られた曲ですか?
大山 自粛期間が長引いて家の中で運動する機会が増えたんですが、そういうときに自分のスイッチがオンになるような曲が作りたくなって。仮タイトルは「オン」で、フィットネスや筋トレをするときに気持ちが切り替わる、ちょっとアッパーなトラックをイメージしていたからデモの段階でガッツリとシンセを入れました。スポーツジムでマイクを付けた先生が生徒の前でフィットネスを先導するときに流れていてもおかしくないような音を意識して作り始めました。
──シンセが入っていることもあり、どことなくダンサブルな空気があるのはそこに由来しているんですね。
大山 僕、もともと人が集まっている場所がちょっと苦手なんですよ。ライブは大好きだけど、例えば大人数でのキャンプとか、みんなで旅行に行こう、みたいな集団行動と呼ばれるやつですね。これまでは誘われたら断ることもあって。付き合いで一緒に楽しんだりすることもあったんですが、そういうのがコロナ禍でまったくなくなってしまったとき、あまのじゃくな感じですがちょっと恋しくなるような感覚があって。ふと海外のクラブの映像とか「Ultra Music Festival」の映像を観たときに「あ、EDMで体を揺らすのってこんなに楽しそうなんだ」と気付かされた部分があったんですよね。僕はギタリストなのでギターの持っているダイナミクスみたいなものが好きなんですが、シンセが持っている音のパワフルさやキックのズンとくる感じも曲に取り入れてみたかった。「THE VOLCANOES」のデモはBRADIOの中でも挑戦的なトラックになっていたと思います。ただ、デモの段階では「THE VOLCANOES」という言葉はまだなかったんだよね?
真行寺 うん。それどころか、歌詞がなかなか出てこなくて1回レコーディングを飛ばしてしまったくらいで。聡一が作ってくれたシンセの入ったトラックがすごくよかったからこそ、曲に負けない歌詞を書くのに苦戦してけっこう寝かせてしまって。サウンドから人がたくさんいるイメージが伝わってきたので、スポーツチームのような「〇〇ズ」みたいな言葉にしようとは考えていたんです。それでノートにいろんな「〇〇ズ」を2ページ分くらい書いて考えていたら、何気なく「VOLCANOES」という言葉が目に留まって。「火山」という言葉には「これから火を噴く」という暗喩も込められるし、これはいいかもと思って付けたのが「THE VOLCANOES」のタイトルなんです。
──キックを強調したサウンド感と火山の相性もいいですよね。
大山 そうなんですよ。地響きを感じさせるというか。
真行寺 デモの時点でけっこうエネルギーがあったから、歌詞もそれに引っ張られて出てきた感覚はあるかな。
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“孤独な男の歌詞”が優しくなった理由