BRADIO「THE VOLCANOES」インタビュー|火山のように沸き立つバンドのパッション

BRADIOが新作音源「THE VOLCANOES」を2月16日にリリースした。

昨年4月にメジャー2ndアルバム「Joyful Style」を発表し、春から夏にかけて東名阪ツアー「Joyful Style Release tour 2021 ~止められないファンクネスを、今~」を開催するなど、コロナ禍でも精力的に活動を続けてきたBRADIO。新作「THE VOLCANOES」には彼らが昨年のツアー開催後にリリースした配信シングル「夏のエンジェル」「トロフィー」「Yours」に新曲2曲を加えた計6曲が収録されている。音楽ナタリーでは新作の発売を記念してメンバー3人にインタビュー。2021年を振り返ってもらいつつ、自らの状態を “THE VOLCANOES=火山”に見立てた彼らの今の思いを語ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 山崎玲士

海外にも広がるBRADIOの音楽

──BRADIOさんに取材するのはすごくひさしぶりなんですが、実はめいちゃんのインタビューで皆さんの話をしていたんですよ(参照:めいちゃん「大迷惑」インタビュー)。

大山聡一(G) ありがとうございます。めいちゃんと曲作りができたのは僕らにとっても楽しい思い出ですし、その後めいちゃんの活躍を聞くたびにうれしくなりますね。

──その後、にじさんじの配信ライブでドーラというVtuberがBRADIOさんの「Flyers」をカバーしたことがありまして。ネット界隈のアーティストにBRADIOさんのフォロワーが多いのかなと。

酒井亮輔(B) 「Flyers」はアニメの影響もあって海外の人たちにも広く聴かれている曲だから、僕らにとってもかなり大事な曲なんです。それを今でも歌いつないでくれているのはすごくありがたいですね。

──つい最近「Flyers」のミュージックビデオをYouTubeで観たら、海外ファンからのコメントがすごく多くて驚きました。

大山 「Flyers」だけじゃなくてほかのMVにも海外の方からコメントをいただく機会が増えて、毎回すごく楽しみにしています。「愛を、今」という曲のMVは心の傷を体の傷として表現して、ボロボロの姿で僕らが演奏しているんですが、海外の方は歌詞の意味がすぐわかるわけじゃないから傷だらけの僕らを見て「俺たちのアフロをどうしたんだ!」みたいな反応があって(笑)。

真行寺貴秋(Vo) あの反応は面白かったね。

大山 YouTubeのような動画コンテンツは海外にもいち早く届くので、リアルタイムで素の反応が返ってくるのが面白いですね。

──海外ファンが付くことで、作曲や作詞に影響が出ることは?

大山 それについてはまったくないですね。おそらく海外を意識すればするほど、向こうの人からしたら面白くなくなっちゃうと思うんですよ。生粋のファンクやソウルのファンではなくて、日本人の我々が表現するファンクを面白がってくれてるんだろうから、僕らは僕らの音楽を鳴らさなきゃいけないなとは思っています。

真行寺 僕らは曲の中に英語も盛り込んでいますが、むしろ最近は日本語のほうが多くなってきたかもしれないくらいで。

──それはなぜですか?

真行寺 根っこにあるのが日本語をファンキーに歌いたいという思いなんですよね。それに英語を突き詰めるより、母国語である日本語を突き詰めて歌詞を書いたほうが耳馴染みがいいだろうし。海外の人たちのコメントが増えれば増えるほど、日本語でも受け入れてもらえている手応えにつながっていますし、これからも日本語で詞を書く強みは出していきたいなと思っています。

BRADIO

BRADIO

兄として受けた初めての仕事

──本題に入る前にもう1つ。昨年7月にBRADIOが「謝肉祭まで」という映画の音楽を担当することが発表されました(参照:BRADIOが初の映画音楽担当、メンバーの実妹出演「謝肉祭まで」)。なぜ映画音楽をやることになったんですか?

大山 「謝肉祭まで」という映画の総合プロデュースを僕の妹がやっていて。

──主演の大山真絵子さんはプロデューサーでもあるんですね。

大山 そうなんです。ずっと俳優業をやっていた妹が、「MOOSIC LAB」という映画と音楽をコラボさせた作品作りに挑戦することになって、そこでバンドをやってる僕に相談が来たんです。ドラマの主題歌を提供したことはあっても映画音楽を作ったことは一度もなかったから、未知数なところはあったけど、兄としていいところを見せたくなって(笑)、挑戦してみることにしました。

真行寺 聡一からは「もしかしたらバンドには合わないかも……」という感じで相談をもらったんですが、僕らは大歓迎でした。ここはお兄ちゃんなんだからいいところを見せたほうがいいじゃないですか(笑)。

真行寺貴秋(Vo)

真行寺貴秋(Vo)

大山 「謝肉祭まで」という映画は「祭り」がモチーフにはなっているんですが、現実世界の祭りとはちょっと違う世界観が描かれているんですよね。祭りを控えた神々の心の葛藤を描いた話なので、ボーカルは入っているけど日本語でも英語でもない、架空の言語で歌う曲を作りました。

真行寺 最初は「歌詞書かなくてラッキー」と思ったんですが、歌詞がなきゃないで難しいんですよね。劇中に登場する呪文のような言葉の羅列を拝借したり、いつもライブでやってるスキャットのような合いの手を崩して言葉にしてみたり。いつもはバンドの音を歌に寄せてもらってる感覚なんですが、今回はバンドの音に歌を寄せようという思いがあって、それは初めての経験でしたね。

酒井 インストゥルメンタルに近い、ボーカルを含めて楽器っぽいアプローチの曲は今までのBRADIOになかったですね。でも難しいことはしてなくて、シンプルにどれだけ映画の世界観を出せるかを意識して作った感覚があります。

真行寺 意外と歌詞のない歌が得意だったみたいで、こういう曲作りの職人になりたいです。

大山 めっちゃ狭いよ(笑)。需要が全然ない。

真行寺 いや、少なくとも「謝肉祭まで2」が作られたら、また出番があるから!

シンプルに“いい曲”を配信するタームへ

──ここからは「THE VOLCANOES」の収録曲につながる2021年の活動について伺えればと思います。まず、2021年はBRADIOにとってどんな1年でしたか?

大山 2020年は計画していたことがほとんどダメになって打ちのめされた1年だったんですが、その分2021年はけっこう前向きに活動できたと思います。一番大きな変化を強いられたのはライブですね。BRADIOのライブって、以前はお客さんとのコール&レスポンスを欠かさずやってきたし、なんなら客席を練り歩きながら演奏したこともあって。

大山聡一(G)

大山聡一(G)

──真行寺さんがオーディエンスと肩を組んで歌っていたこともありましたね。

大山 そういうライブができなくなるのは大きかった。でも時間が経つにつれて、制限があるのであればその範囲内でやれることをしようというマインドにシフトできて。声が出せないなら振り付けやクラップで盛り上がる方法を考えて、どうにかしてみんなでライブを楽しもうと前向きにやれた1年だったと思います。

──結果として「Joyful Style」(2021年4月発売のメジャー2ndアルバム)のリリースとそれに伴うツアーが実現できたわけですからね。

大山 「Joyful Style」を制作していたのが、2020年のみんなが一番しんどかった時期で。そんな中で我々がやりたいスタイルをアルバムという作品で世に出すことができて、まず1つフィジカルの作品を完成させられたことが僕らにとっては大きかった。もしかしたらアルバムを作り上げる気力や体力がないかもしれない、そう思ってしまうくらい不安な時期だったから。無事にアルバムを完成させることができて、ツアーもなんとか開催できた。じゃあそのあとに何かしようかと考えたとき、フィジカルをどんどん出すより、配信でテンポよく楽曲を発表していくスタイルがいいかなと思って。

──7月配信の「夏のエンジェル」以降、11月に「トロフィー」、12月に「Yours」、さらに今年の元日に「瞬き羽ばたき、故に繋がり」をリリースしていますから、かなりコンスタントに楽曲が生み出されたわけですね。

大山 実は「夏のエンジェル」と「Yours」はけっこう前からデモが存在していた曲なんです。

酒井 アルバム制作よりもっと前、2016年くらいから温めていた曲だったかな。

酒井亮輔(B)

酒井亮輔(B)

──何年も温めてきた曲をなぜこのタイミングで出すことに?

真行寺 「夏のエンジェル」はとにかく夏に出したい曲と思っていて。2020年の夏はそれどころじゃなくて、「Joyful Style」は春のリリースだったからそこにも入らなかった。コロナ禍だけど2021年だったらハッピーな夏の曲を届けていいんじゃないかと。

大山 アルバムを作るときってどうしても全体のバランスを考えてしまうし、同じようなサウンド感の曲を入れるのを避けてしまったりするんですよね。僕らとしては「アルバムには入れてないけど、いい曲あるよね」という感覚はいつもあって。配信だったらアルバム制作時に陽の目を見なかった曲を何も気にせず出せるわけですから、「夏のエンジェル」からはシンプルに僕らが「いい曲」と感じた音源をコンスタントに出すことに意義を見出していました。

酒井 「ミドルテンポの曲が続いたから次はアッパーにしよう」みたいなことも考えず、ミドルテンポの曲を続いて出したっていいじゃないか、みたいな気持ちはありましたね。