ナタリー PowerPush - BONNIE PINK

希望を求めてドアの外へ 「Chasing Hope」

1個ずつ夢を叶えていくのがアルバム作り

──ボニーさんの武器のひとつに、“多面性”という点があると思います。例えば先程お話された主体性と客観性のバランス、多種多様な楽曲のジャンル、複数のプロデューサーを起用すること。あらゆる要素を絶妙なバランスでミックスすることで、BONNIE PINK流ポップスはできてるんだろうなと。

BONNIE PINK

私は好きなものが幅広すぎて1つに絞れないんですよね。だから曲ごとに色が違ってくるんです。「この曲はこんなスタイル」「あの曲はあんなスタイル」って考えて、そのスタイルを一番上手に表現してくれるプロデューサーさんに発注するわけです。やっぱり人って得手不得手があるから。でもそれでいいと思うんです。私は何かを極めてるエキスパートが好きなんですよね。

──プロデューサーの性質を見分けて振ってる時点で、ボニーさん自身もプロデューサーですね。

私自身が何かひとつに秀でているタイプではないし、極めることに捧げる時間がもったいないと思っちゃうんですよ。何か1個を極めようとすると諦めなくちゃいけないことがいっぱい出てくるじゃないですか。でも諦めたくないんで(笑)、だったらそれぞれ得意な方にお願いしていいとこ取りをする。私はその一方で全体を監修する。そういう作り方が好きで。なので「こうだったらいいな」っていう自分の夢を1個ずつ叶えていくような作業なんですよ、アルバム作りって。

──なるほど。ボニーさんは海外で制作して日本でリリースというスタイルをよく採っていて、洋楽と邦楽の“おいしいとこ取り”もされてますよね。かと言ってそれを全面に押し出すわけでもないし、海外進出に乗り出したりしないのも不思議だなって。

私は自分の音楽を通じて、外にある面白いものを輸入する人になろうって思ってるんです。例えばニューヨークが面白かったら現地のプレイヤーとセッションすることでニューヨークの空気感を音楽に閉じ込めて持って帰ってきて、聴いた人にちょっとニューヨークに行った気になってもらうみたいな。あと、やっぱり日本が好きだし、日本って面白いと思うし。今は完全にどこかの国に移住するっていうのも考えてないし、生きてる間にあと何カ国行けるかのほうが興味がありますね。外で見てきたものを外に行けない人に分けてあげたいというか、グローバルな香りを堪能してもらえるような音楽になってるといいなと思います。

今、メインストリームにある音楽が偏ってる

──ボニーさんから見て、今の日本の音楽シーンはいかがですか?

日本の音楽……結構今、メインストリームにあるものが偏ってるなと思います。一極集中型で、どこ切っても楽しいみたいな、押せ押せな音楽が主流にある気がしていて。実際はもっといろんな気持ちの人間がいるわけだから、どっぷり落ちるような音楽だったり、ゆったり聴くような音楽だったりがメインストリームにあってもいいはずなのに。そういう意味では残念だなという気持ちもあります。もっといろんなアーティストが入り乱れていてほしい。音楽ってそういうものだと思うし、いろんなものがないと聴き手も耳が偏っちゃうと思うんですよね。提示されるものの幅が狭いと、そのせいで良いものを知るチャンスが少なくなってしまうので。

──良い音楽はちゃんと存在してるんだけど、と。

ちょっと聴き手に到達しにくい状況にあるような気がするなあ。本当は逆であるべきだと思うんですけどね。インターネットが発達して、掘ればすぐ手が届くようなすごく良い時代でもあるのに、なぜか流れる音楽が偏っているような感じがしていて……。

──そのせいか、今年「ミュージックステーション」でボニーさんが「冷たい雨」を歌ったとき、ちょっと異質感がありました(笑)。

あはは(笑)。まあ私じゃなくてもいいんですけど、もっとシーンをかき回して、異質なものが出てきやすい状況になったらいいなとはずっと思っていて。

──BONNIE PINKの音楽は、そのように単調化した今のシーンには迎合しない?

私はそもそも流行りを意識して作ったことがなくて、自分だけの時間軸で動いていて。だからどんな時代にもなかなかはまらないんですけど(笑)。

──時代に左右されない音だからこそ息の長いアーティストであり続けているんじゃないでしょうか。

いや、今後どうなるかはわからないですよ。でもなんだろ、あまりびびってもいない。音楽は好きだし、音楽をずっと続けられたらいいよなっていう思いはあるけど、ダメだったら別の生き方見つけるしかないなって開き直ってるんですよね。それで人生終わりだとは全く思っていないです。「ブレない」みたいなことを言われるのは、もしかしたらその開き直りが音に出てるからかもしれないです。

不快感を与える音楽を作りたくない

──最後に、ボニーさんが音作りの面でポリシーとして掲げていることはありますか?

なんだろうなあ。人に嫌悪感とか不快感を与える音楽はなるべく作りたくないですね。聴いた人がふわっと優しい気持ちになれるものでありたいって、ここ何年かはずっとそう思っています。そうするとおのずと耳触りのいい曲に比重が傾いていくみたいで。それは音圧が低いっていう意味ではなく。

──ええ。

それから、丁寧に音作りをするっていうのもいつも念頭にあります。どんなに時間がなくても譲れないところはきっちり譲れないって意思表示もするし、やり直したいところはやり直すし。でも、どうでもいいところはどうでもよかったりするんですよね。その切り捨ても割と上手みたい(笑)。

ニューアルバム「Chasing Hope」/ 2012年7月25日発売 Warner Music Japan

収録曲
  1. Stand Up!
  2. ナツガレ
  3. Mountain High
  4. Bad Bad Boy
  5. 街の名前
  6. Animal Rendezvous
  7. My Angel
  8. Tiger Lily
  9. Baby Baby Baby
  10. Don't Cry For Me Anymore
  11. 冷たい雨
  12. Change
初回限定盤DVD収録内容
「BONNIE PINK TOUR 2010 "Dear Diary" at AKASAKA BLITZ」
  • Morning Glory
  • Many Moons Ago
  • Here I Am
  • Home Sweet Home
  • カイト
  • Is This Love?
  • Heaven's Kitchen
BONNIE PINK(ぼにーぴんく)

京都出身の女性シンガーソングライター。1995年にアルバム「Blue Jam」でデビューし、1997年トーレ・ヨハンソンのプロデュースによるアルバム「Heaven's Kitchen」でブレイク。その後レーベル移籍を経て、2006年にリリースしたシングル「A Perfect Sky」が20万枚を超えるヒットを記録。続くベストアルバム「Every Single Day -Complete BONNIE PINK(1995-2006)」は70万枚を越えるヒットとなり、年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たす。2011年にはキャリア初のセルフリメイクアルバム「Back Room -BONNIE PINK Remakes-」を発表。翌2012年7月、約2年ぶり12枚目となるオリジナルアルバム「Chasing Hope」をリリースし、9月14日から全国ツアーがスタートする。