ナタリー PowerPush - BONNIE PINK

希望を求めてドアの外へ 「Chasing Hope」

誰かのために書いた曲が多いかも

──アルバムには震災以降のメンタリティが反映されているとのことですが、具体的にはどういったことでしょうか?

震災後から、被災者のドキュメンタリーみたいなものがテレビでたくさん放送されてるじゃないですか。それを観てて、いろんな人の涙だったり悲しみを自分も一緒になって感じてしまって、それがきっかけになって書いた曲もいくつかあるんです。「My Angel」とか「Don't Cry For Me Anymore」とか。「街の名前」もそうだし。

──「My Angel」も「街の名前」も、離ればなれになってしまった人のことを歌っていますよね。

はい。震災以降に家族バラバラで生活するのを強いられてる方もいらっしゃると思うんですけど、「街の名前」はそれを遠距離恋愛風のストーリーに仕立てて書いた曲でもあります。離れていてもお互いを思い合う大切さや、離れていることによって得られる成長みたいなことを曲にしたいなあと思って書きました。つらい状況も前向きに捉えていく術というか……そういうことを曲で歌いたかったのかなあと思います。

──当事者に捧げるような気持ちで書いているんですか?

うーん……曲によるんですけど、そうですね。「My Angel」なんかは大切な人をなくした方の悲しみを音楽で昇華してあげられたらと思って作った曲だったりするし、自分のためというよりも誰かのために書いた曲が多いかもしれないです。

私はストーリーテラー

──震災後のドキュメンタリーに深く感情移入してしまうということですが、ボニーさんは人から得た感情をどんなふうに曲に落とし込んでいるんですか?

BONNIE PINK

なんか、私は自分のことをストーリーテラーだと思っていて。他人のことも全部自分の話にしちゃうっていうか、対象に憑依すると曲ができてくるんですよね。例えば、男性目線の曲を書いてるときは男になりきってて、悲しい曲を書いてるときは、さも自分が悲しい体験をしたかのように主観的に書けるんですよ。やっぱり冷静に淡々とではなくて、感情がパーンと振り切れて熱い気持ちにならないと最後まで書けないんですよね。それは作詞も作曲も同じで。ただ、曲を生んでる最中はすごくエモーショナルになっていても、それが完成すると途端に冷静になるんです。「ああ、どうやって書いたんだっけこの曲」ぐらいな感じで、覚えてないっていうか……。

──不思議ですねえ。それに、のめり込んで書かれた曲もただ感情的に突っ走っただけではなく、必ずみんなに伝わる普遍性がありますし。

私、10歳くらいから詩や日記を毎日書いてたんですけど、それは本当に他人が読んだら意味わかんないことだらけだったと思うんですよ。でも20歳過ぎてから言葉を音楽に乗せるっていう行為を覚えて、音に乗せるとそのストーリーがより情景的になることがわかったんです。で、もうちょっと言葉を噛み砕くことで伝わりやすくなるのであれば、そうしたいなという気持ちも芽生えてきて。

──ええ。

それまではあくまでも自分のための記録として言葉を書いてたけど、自分の作った音楽が誰かのためになるってわかった瞬間、もっと人のためにも書きたいって思うようになったんです。そのためには自分ひとりの世界じゃなくて、ちょっと噛み砕いて説明を入れる。そういう歌詞の書き方を徐々に覚えていきました。きっと自分にはポップスが向いてるし、ポップスをやりたかったんだと思いますね。

──ちなみに「人のために書きたい」という思いが生まれたのはいつ頃だったんですか?

もちろんデビューしたときはそんなこと思ってなくて自分のためにやってたんですけど、やっぱりファンの人ができてからかな。「この曲が好きです」とか「この曲で泣きました」っていうお手紙をもらうようになったら「あ、じゃあこんな曲があったらうれしいかな」と思い始めて。そうやって人の気持ちを想像するようになったし、変わった気がします。

ニューアルバム「Chasing Hope」/ 2012年7月25日発売 Warner Music Japan

収録曲
  1. Stand Up!
  2. ナツガレ
  3. Mountain High
  4. Bad Bad Boy
  5. 街の名前
  6. Animal Rendezvous
  7. My Angel
  8. Tiger Lily
  9. Baby Baby Baby
  10. Don't Cry For Me Anymore
  11. 冷たい雨
  12. Change
初回限定盤DVD収録内容
「BONNIE PINK TOUR 2010 "Dear Diary" at AKASAKA BLITZ」
  • Morning Glory
  • Many Moons Ago
  • Here I Am
  • Home Sweet Home
  • カイト
  • Is This Love?
  • Heaven's Kitchen
BONNIE PINK(ぼにーぴんく)

京都出身の女性シンガーソングライター。1995年にアルバム「Blue Jam」でデビューし、1997年トーレ・ヨハンソンのプロデュースによるアルバム「Heaven's Kitchen」でブレイク。その後レーベル移籍を経て、2006年にリリースしたシングル「A Perfect Sky」が20万枚を超えるヒットを記録。続くベストアルバム「Every Single Day -Complete BONNIE PINK(1995-2006)」は70万枚を越えるヒットとなり、年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たす。2011年にはキャリア初のセルフリメイクアルバム「Back Room -BONNIE PINK Remakes-」を発表。翌2012年7月、約2年ぶり12枚目となるオリジナルアルバム「Chasing Hope」をリリースし、9月14日から全国ツアーがスタートする。