ナタリー PowerPush - BONNIE PINK
希望を求めてドアの外へ 「Chasing Hope」
BONNIE PINKが通算12枚目のオリジナルアルバム「Chasing Hope」をリリースした。本作を聴くと、全曲に「希望を追い求める」というタイトルのエッセンスが感じられ、彼女が非常に軽やかな足取りで歩を進めている様が浮かぶ。いつの時代も高水準なポップスを生み出してきたデビュー17年目のベテランシンガーソングライターは、なおもフレッシュに、柔軟に、楽しんで自らを進化させているようだ。
今回ナタリーでは、BONNIE PINKに新作の出来映えや作品づくりにおける姿勢を訊いてみた。絶妙なバランス感覚の上に成り立つ、豊かな音楽性の真髄に迫る。
取材・文 / 鳴田麻未 インタビュー撮影 / 平沼久奈
今までの曲をもう一度愛する作業がしたかった
──昨年は過去の楽曲をアコースティックセットで録り直したリメイクアルバム「Back Room -BONNIE PINK Remakes-」を発表したこともあって、オリジナルアルバムとしては前作「Dear Diary」から2年弱のインターバルが空きましたね。
はい。ここ何年かは、だいたい毎年オリジナルアルバムを出すっていうサイクルで活動してきていて。だけど去年は……ちょっと思うところがあって。
──思うところ?
ライブでもっと昔の曲を歌いたいんだけど、アルバムを出してそのあとツアーとなると、どうしても新曲を中心にセットリストを組む感じになるんです。それは同時に、昔の曲を歌う確率が作品を出せば出すほど下がっていくっていうことでもあって、その法則を1回ストップしたくなったんですね。今まで作ってきたものをもう一度愛する作業というのかな……そこに今後は重きを置いていくべきじゃないかなって思っていました。つまり、既存の曲しか演奏しないっていうツアーをやりたいがために「Back Room」を作ったっていうのもあるんです。
──そうだったんですか。そのツアーの際、東日本大震災のことも交えながら「今年はバリバリ新曲を書いてどんどん前進っていう気持ちにはなれなくて」とおっしゃっていましたよね。
ええ。昔の曲をもっと大事にしたいと思っていたタイミングで震災が起きて、余計に新曲書く気がなくなっちゃって(笑)。とは言っても、震災によって感受性が敏感になっていた1年でもあったので、いろんなことを考えて、いろんな気持ちが生まれて。自分は被災したわけではないので、パワーは全然あるわけですよ。だから音楽を通じてそのパワーを人に与えられたらなと思ったので、やっぱり次のアルバム作ろうかなっていう気になりまして。去年のツアーが終わったあとからずっと曲を書いてきて、やっと形になりました。
ドアを開けて外に飛び出したようなアルバム
──今回はこんなアルバムにしよう、という構想はありましたか?
前作は「Back Room」というタイトルを付けたくらいなので、室内が似合う音像というか、クローズドな世界観だったんですね。ヘッドフォンで聴きながら、1音1音をじっくり味わってもらうのに適したアルバムだったような気がする。だけど私、特徴のあるアルバムを作ると絶対次にその反動が来るんですよ。だから今作は、ドアをバーンと開けて外に飛び出したようなアルバムにしたいなっていう思いがありました。
──確かに、全体的に外に向いている印象を受けました。
テレビを観てても明るいニュースが少ないし、景気も全然良くならないし……どないすんねん!みたいな気持ちが強くて(笑)。じゃあせめて音楽で明るい要素を提供できればなと思って、なるべく明るい曲を書くようにはしていました。
──「Chasing Hope」というアルバムタイトルは「希望を追い求めること」という意味で、まさにそんな姿勢を象徴していますね。
私自身、希望を感じられる出来事がそろそろ欲しいっていう気持ちだったんです。震災以降というメンタリティもかなり反映されている1枚なので、被災された方々に向けても、次の一歩が踏み出しやすくなるような1枚を届けたかった。そうすると自然に「Chasing Hope」っていうタイトルが一番しっくりくるなと思って、こうなりましたね。
ニューアルバム「Chasing Hope」/ 2012年7月25日発売 Warner Music Japan
- 「Chasing Hope」初回限定盤
- 「Chasing Hope」通常盤 [CD+DVD] 3500円 / WPZL-30403/4
- 「Chasing Hope」通常盤 [CD] 3000円 / WPCL-11114
収録曲
- Stand Up!
- ナツガレ
- Mountain High
- Bad Bad Boy
- 街の名前
- Animal Rendezvous
- My Angel
- Tiger Lily
- Baby Baby Baby
- Don't Cry For Me Anymore
- 冷たい雨
- Change
初回限定盤DVD収録内容
「BONNIE PINK TOUR 2010 "Dear Diary" at AKASAKA BLITZ」
- Morning Glory
- Many Moons Ago
- Here I Am
- Home Sweet Home
- カイト
- Is This Love?
- Heaven's Kitchen
BONNIE PINK(ぼにーぴんく)
京都出身の女性シンガーソングライター。1995年にアルバム「Blue Jam」でデビューし、1997年トーレ・ヨハンソンのプロデュースによるアルバム「Heaven's Kitchen」でブレイク。その後レーベル移籍を経て、2006年にリリースしたシングル「A Perfect Sky」が20万枚を超えるヒットを記録。続くベストアルバム「Every Single Day -Complete BONNIE PINK(1995-2006)」は70万枚を越えるヒットとなり、年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たす。2011年にはキャリア初のセルフリメイクアルバム「Back Room -BONNIE PINK Remakes-」を発表。翌2012年7月、約2年ぶり12枚目となるオリジナルアルバム「Chasing Hope」をリリースし、9月14日から全国ツアーがスタートする。