音楽ナタリー PowerPush - ボンジュール鈴木

“謎の宅録女子”の素顔

「フワフワ」になりたいから曲を作ってる

──アルバム「さよなら。また来世で」を聴いていて思ったのは、いい意味で、「なんて地に足の着いてないフワフワした音楽なんだろう!」ってことで。でも、話をしていて、なんとなくその理由がわかってきました。ボンジュール鈴木さん自身、すごくフワフワした人生をこれまで送ってきたんだろうなって(笑)。

そうですね。フワフワしたもの……フワフワした食べ物……自分の中で「フワフワ」は外せないですね(笑)。「フワフワ」になりたいがために曲を作ってるみたいなところはあると思います。

──ボンジュール鈴木さんが音楽で表現したいのは、その「フワフワ」感?

うーんと、そうですね。自分が音楽を作るときに一番大事しているのは間で。音が鳴っているときよりも、音と音の間を大事にしている音楽、フランスの作曲家ですけど、(シャルル・)グノーや(エリック・)サティの音楽が大好きで。そういう感覚というのを、自分の声で表現していきたいと思っているんです。ポップスだと、アイスランドの音楽、特にSigur Rosからすごく影響を受けていて。

──ただ、グノーやサティはクラシックの分野だし、Sigur Rosの音楽も大部分の曲には歌詞に意味がなかったりしますよね。ボンジュール鈴木さんの音楽は歌詞も非常にユニークですけど、その独特の言語感覚というのはどうやって形成されていったんでしょう?

そうですねえ。自分でもよくわからないですけど、60年代のフランス映画のセリフ、それを日本語に翻訳して字幕にしたものとか、そういうものからの影響があるかもしれないですね。

──なんだかね、ボンジュール鈴木さんと話していて自分が思い出すのは、これはボンジュール鈴木さんの世代じゃなくて自分の世代ですけど、ヨーロッパ文化への憧れが強かった昔のオリーブ少女と話しているような気がしてくるんですよ(笑)。今って、あまりそういう女の子っていないから、すごく不思議な感じがするんですよね。

ボンジュール鈴木が撮影したチェキ。

私、日本にあまり友達がいなくて、それもあって日本のポップスを聴く機会があまりないんですよね……。

──孤独な青春を送ってきて、そこで独自の感性を育ててきたような感じ?

いえ(笑)、アメリカ人とかフランス人の友達は何人かいて、彼女たちが「これいいよ」って聴かせてくれるものとかはよく聴いているんですけど。

──あ、そうなんですか。それは失礼しました(笑)。アルバムには四つ打ちのダンストラック系の曲も入ってますが、実は外国人の友達とクラブに行ってガンガンに踊ったりもしていたり?

いや、そういう場所は苦手で(笑)。ダンストラック系の曲も、自分の中ではドリームポップ的な感じのものを作りたくて作ったもので。踊るというより、さっきも言ったようにもっとフワフワしたもの、女の子が聴いていてかわいい気持ちになれるような音楽を作りたいと思っていて。

──なるほど、「かわいい気持ち」ですか! じゃあ、自分のような男のリスナーは、そういう女の子だけの世界を覗き見するような感覚で聴けばいいんでしょうか(笑)。

男性の方には、私の音楽を聴きながら、女の子が普段はどんなことを考えているのかを想像してもらって(笑)。そういうかわいい女の子を守ってあげたいなって思ってもらえたらうれしいですね。

がんばっても小鳥の声のかわいさには勝てない、それが今の自分の課題

──今回、こうして非常に充実した内容の1stアルバムをリリースしたわけですけど、今後はどのような活動を展開していきたいと思っているんですか?

やりたいことはたくさんあるんです。ライブもやっていきたいし、海外でも活動してみたいし。なので、活動形態に関してはこれからいろいろ考えていきたいんですけど、基本としては、聴いた人が優しい気持ちになってくれるような作品をこれからも作っていきたいなって思っていて。音楽的には1つの色に染まるようなものではなくて、いろんなことにチャレンジしていきたいんですけど、きっと自分の表現の核の部分にあるのはそういう気持ちです。

──名前にはちょっとイロモノ感がありますけど、実はものすごく真面目に音楽をやっている方だというのはよくわかりました。

正直、これまでの人生で、私は音楽のことしか考えてこなかったんです。あまり友達と遊びに出かけるようなこともなくて、ずっとピアノを弾いていたり、作曲の勉強をしたりしていて。……やっぱり、イロモノみたいな感じがありますか?

──いや、すみません(笑)。あくまでもそれは第一印象で、きっとこのアルバムを聴いた後にそう思う人は誰もいないと思います。

ボンジュール鈴木

私、一番素敵な音って、森が風で揺れる音だったり、鳥がさえずる音だったり、そういう自然の音だと思うんですよ。でも、それをそのまま作品にしても誰も聴いてくれないだろうから。実は「あの森で待ってる」にも、そういう自然の音、鐘の鳴る音だったり、小鳥の声だったりをサンプリングしたものをこっそりと使っているんです。

──ああ、そうなんだ!

そうやって音でいたずらすることが楽しくて。でも、いくらがんばっても小鳥の声のかわいさには勝てなくて、それが今の自分の課題です。

──最初に「恥ずかしがり」と言ってましたけど、こうして話をしている限り、全然そんなことないですよね?

音楽のことだけはよくしゃべれるんです。そこだけは真摯に向き合いたいなって。私から音楽を取ったら、きっと何も残らないから。音楽をやってないときはいつもぐったりしてます(笑)。

1stアルバム「さよなら。また来世で」 / 2015年4月15日発売 / 2160円 / Kobuta Japon / BUTA-002
1stアルバム「さよなら。また来世で」
収録曲
  1. はやく行かなくちゃ。
  2. 甘い声でちくってして
  3. アゲハ蝶の破片とキミの声
  4. 禁断のショコラ
  5. 私こぶたちっく
  6. キミと恋したいのです
  7. stand by for me
  8. allo allo
  9. 羊曜日に猫ごっこして
  10. 月の下でパーティー
  11. Je ne sais pas pourquoi
  12. PM9:55
  13. あの森で待ってる(おやすみ version)
ライブ情報
ボンジュール鈴木1st full album「さよなら。また来世で」release party
2015年6月7日(日)東京都 clubasia
ボンジュール鈴木(ボンジュールスズキ)

宅録系女性シンガーソングライター。ジャズシンガーだった母の影響で幼少期からさまざまな音楽に触れ、ピアノを軸に作曲活動をスタートさせる。北欧エレクトロニカやヒップホップ、フレンチポップなどをルーツに持つ幻想的なサウンドと、ウイスパーボイスのボーカルが特徴。作詞や作曲、歌唱のほか、演奏、ミックス、マスタリングまで自ら手がけている。2014年からインターネットの動画サイトにオリジナル曲の投稿を開始。2015年1月にスタートしたテレビアニメ「ユリ熊嵐」のオープニングテーマ担当にまだ無名の新人でありながら抜擢され、このオープニング曲「あの森で待ってる」を1stシングルとしてリリースした。同年4月に初のフルアルバム「さよなら。また来世で」を発表。6月には東京・clubasiaにて初のワンマンライブが予定されている。