テンプレ化するシーンのサバイブ法
──ぼくりりさんは「音楽と人格を切り離したかった」という発言もしていて。
常田 それはわかる。日本のアーティストの在り方って、テンプレがあるからね。
ぼくりり そうなんですよね。消費のされ方もヘンだし。
常田 その気持ち悪さは俺もすごく感じていて。音楽もそうだけど、日本で革新的なアーティストが育つのは難しいと思うんですよ。
ぼくりり さっきの「J-POP感」の話もそういうことですよね。
常田 うん。テンプレで規定されている中で、どうやってサバイブするか?ということも考えているし。聴衆の視点を変えさせないと、総合的なアートとしての面白さには気付いてもらえないので。
ぼくりり みんな安心したがっているように見えるんですよね、僕は。日本人って、何か意見を発したときに他人から「違います」と言われることを異常に恐れていると思うんですよ。僕、エゴサーチしまくってるんですけど、「ぼくりり、サムくね?」みたいなツイートが多くて。「ぼくりりはサムい」って言えばいいのに、「サムくね?」って同意を求めているんですよ。
常田 逃げ道を作っておくということ?
ぼくりり そう、予防線を張ってるんです。「よく知らないけど、ダサくね?」じゃなくて、「ぼくりりはダサい」って言うべきなのに、人からツッコまれるのがイヤだから断言できない。だから、みんながイメージや評価を固定化したがるんですよ。例えば「King Gnuはこういうバンド」って固定化しちゃえば、みんな何も考えなくていいじゃないですか。それもテンプレができやすい一因かなと。そういうことを考えて、1人で喜んでます(笑)。
常田 (笑)。確かにそういうことはあるだろうね。気にしないようにしてるけど。
そのあとも何か考えてるでしょ?
──ぼくりりさんは、そういう状況に対するストレスが限界を超えたと?
ぼくりり というか、ぼくりりという建物を建てるときに、大事な柱を入れ忘れてたんですよ。このままだといずれは崩れるなって、骨身に染みて。
常田 だから自分で崩壊させようと。
ぼくりり はい。ビルが崩壊する動画とかもめっちゃ好きなんですけど、それって人間の根幹にある感覚じゃないかなって。
常田 うん、その感覚はよくわかる。緻密に組み上げられたものが破壊される感動ってあるから。それがぼくりりの快感だとして、この先は何をやるの?
ぼくりり いや、だから今は、ぼくりりを盛大に破壊したいなっていう……。
常田 そのあとも何か考えてるでしょ? この手のタイプは絶対考えてるよ。
ぼくりり めっちゃ詰めるじゃないですか(笑)。“破壊”とは別のところでいうと……今回のアルバムを作る過程で、“解像度”が上がったというか、音楽家として明らかにレベルが上がったと思っていて。それをもとにして、真っ当に戦ってみたいという欲求もあるんですよね。しっかりビジョンを決めて、そこから組んでいったら、どこまでいけるかなって。
常田 ミュージシャンとして、ということ?
ぼくりり そうです。あとはバーチャルYouTuberとか。
常田 VTuberね。あの魅力はなんなの?
ぼくりり 人格と切り離せることですね。「2次元のキャラクターYouTuberをやってる」と言われても、「だから何?」という感じだと思うけど、実際に見てみると全然違うんです。裏の人間から切り離されてるから。
常田 その場から解放されるってことか。
ぼくりり そうですね。人間の顔って、いろいろなものが出ちゃってるじゃないですか。「楽しそうだな」とか「苦労が多かったんだろうな」とか。年齢、性別、バックグラウンドがわかっちゃうというか、生身の体には情報があふれすぎてるんだけど、VTuberはそれを意図的に制限できるので。成人男性が言わなそうなことも余裕で言えたりするのは楽しいですよね。
常田 そのやり方でどこまで伝わるのか、興味はあるけどね。そういうバンドもいるでしょ?
ぼくりり Gorillazとか。
常田 そうそう。匿名性というのかな。ああいうスタイルで何ができるのかなって。
解き放たれたいんですよ
──Gorillazはアートワークも映像も素晴らしいですけど、最終的にはデーモン・アルバーンのボーカルに感動しちゃうんですよね。
ぼくりり はははは(笑)。それは正しい。
常田 そういう気持ちもわかるけどね。多くの人はそういうところに感動してるんだろうなって。
ぼくりり マジョリティはそうだと思う。音楽と人間性が切り離せないというか。
常田 うん。そこにも違和感があるな、俺は。
ぼくりり だから解き放たれたいんですよ。
常田 なるほどね。まあ、VTuberが何をやってるのかは、よく知らないんだけど(笑)。
ぼくりり 普通にしゃべってるだけだったりするんですけどね(笑)。
常田 そうか。ゲーム実況とかも観る?
ぼくりり まあまあ観ますよ。僕、「ぷよぷよ」が好きなんですけど、すごいプレイを観るとバスケのすごいシュートを観たときと同じような興奮があるんですよ。世間ではeスポーツも盛り上がってるし。
常田 ゲーム業界って、めちゃくちゃクリエイティブだからね。
ぼくりり そうなんですよ。アートの中で今一番権威があるのはゲームだと思う。
常田 PERIMETRON(King Gnuの作品のデザインなども担当するクリエイティブチーム)のディレクターが教えてくれんたんだけど、「The Last of Us」というゲームの映像がめちゃくちゃカッコよくて。ああいうものを観ると「音楽のミュージックビデオ、何やってんだ」と思う。
ぼくりり わかります。
──クリエイターとしてのぼくりりさんの今後にも期待してます。
ぼくりり あ、はい。今は「その前にやることがある」という感じなんですけどね。
常田 どういうこと?
ぼくりり アルバムの初回盤に入ってる「遺書」にも書いたんですけど、“人間”という言葉は“人”の“間”って書くじゃないですか。人と人の間に発生するのが人間であって、社会の中できちんと存在していることが人間の定義だとしたら、僕には人間になる前に、もっとやるべきことがあるだろうと。
常田 なるほど。
ぼくりり それを拾いにいってる感じですね、最近は。
ライブ情報
ぼくのりりっくのぼうよみ「通夜・葬式」
- 通夜
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- 2019年1月13日(日) 大阪府 森ノ宮ピロティホール
- 葬式~前夜祭~
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- 2019年1月28日(月) 東京都 昭和女子大学人見記念講堂
- 葬式
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- 2019年1月29日(火) 東京都 昭和女子大学人見記念講堂
- ぼくのりりっくのぼうよみ「没落」
- 2018年12月12日発売 / CONNECTONE
-
初回限定盤 [2CD+DVD]
8640円 / VIZL-1478 -
通常盤 [CD]
2700円 / VICL-65078
- CD収録曲
-
- 遺書
- あなたの手を握ってキスをした
- 二度と来ない朝
- 断罪
- 人間辞職
- 輪廻転生
- 僕はもういない
- 祈りを持たない者ども
- 曙光
- 没落
- 超克
- 初回限定盤付属CD収録曲
- aNYmORE
- each other
- blacksanta
- blacksanta pt.2
- Be Noble(re-build)
- 孤立恐怖症
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- sub/objective
- CITI
- Collapse
- サマーヌード
- shadow
- 在り処
- Be Noble(re-build)
- Liar
- Sky's the limit
- playin'
- Sunrise(re-build)
- 罠
- ぼくのりりっくのぼうよみ「人間」
- 2018年12月12日発売 / CONNECTONE
-
初回限定盤 [CD+DVD]
5184円 / VIZL-1479 -
通常盤 [CD]
2700円 / VICL-65079
- CD収録曲
-
- SKY's the limit
- Be Noble
- sub/objective
- 罠 featuring SOIL&"PIMP"SESSIONS
- パッチワーク
- 朝焼けと熱帯魚
- CITI
- Newspeak
- Sunrise(re-build)
- Noah's Ark
- つきとさなぎ
- after that
- Black Bird
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- sub/objective
- CITI
- Sunrise(re-build)
- Newspeak
- Be Noble
- after that
- SKY's the limit
- 朝焼けと熱帯魚
- 罠 featuring SOIL&"PIMP"SESSIONS
- noiseful world(acoustic live ver.)
- 在り処
- 輪廻転生
- King Gnu「Sympa」
- 2019年1月16日発売 / アリオラジャパン
-
初回限定盤 [CD+DVD]
3900円 / BVCL-928~9 -
通常盤 [CD]
2900円 / BVCL-930
- CD収録曲
-
- Sympa I
- Slumberland
- Flash!!!
- Sorrows
- Sympa II
- Hitman
- Don't Stop the Clocks
- It's a small world
- Sympa III
- Prayer X
- Bedtown
- The hole
- Sympa IV
- 初回限定盤付属DVD収録内容
-
King Gnu 1st ONE-MAN LIVE at Shibuya WWW(2018.01.28)
- Tokyo Rendez-Vous
- あなたは蜃気楼
- Vinyl
MUSIC VIDEO
- Tokyo Rendez-Vous
- McDonald Romance
- Vinyl
- あなたは蜃気楼
- Flash!!!
- Prayer X
- It's a small world
- ぼくのりりっくのぼうよみ
- 神奈川県横浜市在住の男性アーティスト。活動初期は「ぼくのりりっくのぼうよみ」「紫外線」名義で動画サイトにオリジナル曲や“歌ってみた”を投稿。トラックメーカーが作った音源にリリックとメロディを乗せていくスタイルをベースとする。高校2年生だった2014年にコンテスト「閃光ライオット2014」に応募し、ファイナリストに選ばれる。2015年12月にアルバム「hollow world」でビクターエンタテインメント内のレーベル・CONNECTONEより17歳でメジャーデビューする。映画「3月のライオン」前編主題歌、資生堂「アネッサ」CMソング、ドラマ「SR サイタマノラッパー~マイクの細道~」エンディングテーマなどタイアップ曲を手がけ注目を集める。2018年9月にぼくのりりっくのぼうよみを“辞職”することを宣言し、アーティスト活動を2019年1月で終えることを発表した。2018年12月12日に最後のオリジナルアルバム「没落」と初のベストアルバム「人間」を同時リリース。2019年1月29日に「葬式」と銘打ったラストライブを東京・昭和女子大学人見記念講堂で行う。
- King Gnu(キングヌー)
- 2015年に結成された、東京藝術大学出身のクリエイター・常田大希(Vo, G)率いるミクスチャーバンド。常田、勢喜遊(Dr, Sampler)、新井和輝(B)、井口理(Vo, Key)の4人体制になったのち、2017年5月にバンド名をSrv.VinciからKing Gnuに改名した。同年10月に1stアルバム「Tokyo Rendez-Vous」を発表し、2018年1月に初のワンマンライブを開催。同年7月には配信シングル「Flash!!!」をリリースしたほか、フジテレビ系ノイタミナ枠で放送のテレビアニメ「BANANA FISH」にエンディングテーマ「Prayer X」を提供した。2019年1月にアリオラジャパンよりメジャーデビューアルバム「Sympa」をリリースし、3月からは初の全国ツアー「King Gnu One-Man Live Tour 2019 "Sympa"」を行う。