ぼくりりは負けた。失敗した
──改めて聞きたいのですが、ぼくりりを辞めることにした一番の理由はなんだったんですか?
ぼくりり ぼくのりりっくのぼうよみとしてこれ以上サクセスストーリーを追うことは難しいと思ったんですよね。3年くらいメジャーでやってきて、このまま真っ当なルートをたどっても大成功することはできないだろうなって。
常田 要は売り上げ?
ぼくりり 売り上げだったり、ライブの規模感だったり。とにかく「ぼくりりは負けた。失敗した」という気持ちが強かったんです。そこに関しては「大敗を喫した」ってよく言ってるんですけど、だからこそやれることがあるんじゃないかなって。そこから「失敗していくこと、ぼくりりが死んでいく様をエンタメにしてみよう」と。
常田 一歩引いて自分を見てる。それはめちゃくちゃ面白いし、斬新ですよね。人が負けて、死んでいく様を描くっていう。しかも体張ってるし。
ぼくりり 焦げ散らかしてますけどね。「うわ、身体が炭になってる!」みたいな(笑)。
常田 燃えてナンボでしょ、そこは。
ぼくりり そうなんですけど、けっこうつらかったですよ(笑)。でも、強火を体験して、耐性を付けたいという気持ちもあって。人生長いですから。
常田 すごいなと思うけど、やっぱりヘンだよね。そんなヤツはほかにいない(笑)。一連の動きがすべてコンセプトアート的になってるのも面白いし。
ぼくりり そう受け取ってもらえると大成功です。Twitterのリプライ欄を含めてアートです、みたいな。
常田 ぼくりり流の現代アートだ。
ぼくりり そうそう。マルセル・デュシャンの「泉」みたいな感じで、「ぼくりりのTwitter」という作品があるっていう(笑)。それが今月の「葬式」まで続くので、リアルタイムで映画を観てるように受け取ってもらえたらなと。
King Gnuの道はサクセスストーリー
常田 やっていることの内容は全く違うんだけど、俺らもコンセプトアートという意味では同じようなことをやってると思いますね。コンセプトに沿って何かを作って、その過程そのものをアートとして見せるっていう。俺の場合、ロックバンドのストーリーが、ヌーの群れが大きく成っていく様に似ていると思ったから、そういうコンセプトでKing Gnuを形作っていってる。
ぼくりり King Gnuは、僕がやれなかったサクセスストーリーの道を進んでると思っているんです。
──King Gnuというバンド名にも、“群れをデカくしたい”という意味が込められているわけですからね。
常田 そうですね。俺としてはデカくして自由になりたいという気持ちがあって。
ぼくりり おお!
常田 自由になるためには、デカくする必要があるからね。そういう意志を持ってバンドをやってるけどね、俺は。
──自由になることが目的の1つ?
常田 そうだったんすけど、いろいろなことも絡んできて、「デカくしたらしたで別の不自由さも生まれる」と感じてもいる。しがらみもあるし……。
ぼくりり 結局、優先順位を決めて、上位からやっていくしかないと思うんですけど、常田さんの中で一番大事なことはなんですか?
常田 うーん……逆にぼくりりくんはなんですか?
ぼくりり 僕は「2日間以内でやる」ということですね、今は。
常田 え、どういうこと?
ぼくりり 何かやろうと思ったときに、2日間以内で走り出すことが大事なのかなと。それ以上時間がかかると、やる気がなくなっちゃう(笑)。規模感によっても違うんだけどスピードは大事ですね。
常田 具体的に言うと?
ぼくりり 「没落」の広告とかいろんなクリエイティブはほとんど自分でやったんですけど、何かコンセプトを提示して、「そこは許可が必要で」みたいなことで制作に2日以上経ってしまうともう熱が冷めちゃうんです。「没落」が出たあと、へきトラハウスというYouTuberのグループに1日だけ入ったんですけど、彼らは動画をアップするスピードがすごいんですよ。昨日撮ったものを「今日アップします」みたいな。
常田 なるほど。
ぼくりり 今のエンタメの第一線は音楽じゃないと思っていて。YouTuberは最前線の1つだと思うけど、実際にやってる人たちのスピード感を目の当たりにすると「もっとがんばらないとダメだな」って思う。音楽と動画という違いはあるけど、人の時間を奪って楽しませるということは同じなので。
──音楽は制作から発表まで少し時間がかかりますよね。
常田 そうですね。ただ、“速度に乗る”ということがどんどん求められるようになってる気がします、世界の流れを見ても。作品の長さ自体も短くなってるし、トレンドが更新されるスピードも上がっているので。俺自身は「そういうところとは関係なく、違う場所で生きていきたい」と思ってるけど、かと言って今の流れを無視するわけにもいかないから。あまり知らないんだけど、YouTuberって、すごい客を集めるでしょ? 武道館ライブなんかも普通にやってるし。そういう状況を見ると「こっちもがんばらないと」と思います。
ぼくりりを盛大に破壊することだけを考えている
ぼくりり そうですよね。話は戻りますけど、そもそもKing Gnuがバンドの規模を大きくしたいっていうモチベーションはどこから来るんですか?
常田 すべて音楽に根付いているんだけど、デカい会場で鳴っている音だったり、モンスターバンドならではの熱狂が個人的に好きなんだよね。例えばOasisのライブを観ると、音楽以上の熱を孕んでるのが感じられるでしょ。そういう熱以上のものをコンセプトにして、文脈を作りながら、アートとしてきちんと見せられたらいいなと。
ぼくりり そういうところで悩んでたんですよね、僕は。去年の3、4月くらいまでは「なんで音楽をやってるのかな?」と思っていたし、今常田さんが言ったような原体験が僕にはなくて。
常田 先のビジョンがなかったということ?
ぼくりり そうですね。つまり、なんとなく音楽をやってたんですよ。その都度、課題になるものを見つけて、それと向き合ってきたんだけど、本質的にやりたいことではなかったというか。「ほかの人もやってるから、とりあえずやってみるか」みたいな感じで。
常田 そういう感じだと、音楽を続けるモチベ—ションは保てないよね。
ぼくりり そう。King Gnuには自分たちが見たい景色があるわけじゃないですか。でっかい会場でドーンと音を鳴らして、特効バーン!みたいな。僕も「そういうのも面白そうだな」と思ったこともあったけど、どこかふんわりしていたしよくわからなかったんです。そういう混乱した状態を経て、「本当は何がやりたいんだろう?」と考えた結果、「そうか、破壊したいんだな」と気付いて。
常田 自分で作り上げたものを壊してしまおうと。
ぼくりり そのことによって見ている人に衝撃を与えられたら楽しいかなって。だから今はぼくりりを盛大に破壊することだけを考えているんです。それができたら、次に来るチャンスもでっかくなると思うし。
次のページ »
テンプレ化するシーンのサバイブ法
- ぼくのりりっくのぼうよみ「没落」
- 2018年12月12日発売 / CONNECTONE
-
初回限定盤 [2CD+DVD]
8640円 / VIZL-1478 -
通常盤 [CD]
2700円 / VICL-65078
- CD収録曲
-
- 遺書
- あなたの手を握ってキスをした
- 二度と来ない朝
- 断罪
- 人間辞職
- 輪廻転生
- 僕はもういない
- 祈りを持たない者ども
- 曙光
- 没落
- 超克
- 初回限定盤付属CD収録曲
- aNYmORE
- each other
- blacksanta
- blacksanta pt.2
- Be Noble(re-build)
- 孤立恐怖症
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- sub/objective
- CITI
- Collapse
- サマーヌード
- shadow
- 在り処
- Be Noble(re-build)
- Liar
- Sky's the limit
- playin'
- Sunrise(re-build)
- 罠
- ぼくのりりっくのぼうよみ「人間」
- 2018年12月12日発売 / CONNECTONE
-
初回限定盤 [CD+DVD]
5184円 / VIZL-1479 -
通常盤 [CD]
2700円 / VICL-65079
- CD収録曲
-
- SKY's the limit
- Be Noble
- sub/objective
- 罠 featuring SOIL&"PIMP"SESSIONS
- パッチワーク
- 朝焼けと熱帯魚
- CITI
- Newspeak
- Sunrise(re-build)
- Noah's Ark
- つきとさなぎ
- after that
- Black Bird
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- sub/objective
- CITI
- Sunrise(re-build)
- Newspeak
- Be Noble
- after that
- SKY's the limit
- 朝焼けと熱帯魚
- 罠 featuring SOIL&"PIMP"SESSIONS
- noiseful world(acoustic live ver.)
- 在り処
- 輪廻転生
- King Gnu「Sympa」
- 2019年1月16日発売 / アリオラジャパン
-
初回限定盤 [CD+DVD]
3900円 / BVCL-928~9 -
通常盤 [CD]
2900円 / BVCL-930
- CD収録曲
-
- Sympa I
- Slumberland
- Flash!!!
- Sorrows
- Sympa II
- Hitman
- Don't Stop the Clocks
- It's a small world
- Sympa III
- Prayer X
- Bedtown
- The hole
- Sympa IV
- 初回限定盤付属DVD収録内容
-
King Gnu 1st ONE-MAN LIVE at Shibuya WWW(2018.01.28)
- Tokyo Rendez-Vous
- あなたは蜃気楼
- Vinyl
MUSIC VIDEO
- Tokyo Rendez-Vous
- McDonald Romance
- Vinyl
- あなたは蜃気楼
- Flash!!!
- Prayer X
- It's a small world
- ぼくのりりっくのぼうよみ
- 神奈川県横浜市在住の男性アーティスト。活動初期は「ぼくのりりっくのぼうよみ」「紫外線」名義で動画サイトにオリジナル曲や“歌ってみた”を投稿。トラックメーカーが作った音源にリリックとメロディを乗せていくスタイルをベースとする。高校2年生だった2014年にコンテスト「閃光ライオット2014」に応募し、ファイナリストに選ばれる。2015年12月にアルバム「hollow world」でビクターエンタテインメント内のレーベル・CONNECTONEより17歳でメジャーデビューする。映画「3月のライオン」前編主題歌、資生堂「アネッサ」CMソング、ドラマ「SR サイタマノラッパー~マイクの細道~」エンディングテーマなどタイアップ曲を手がけ注目を集める。2018年9月にぼくのりりっくのぼうよみを“辞職”することを宣言し、アーティスト活動を2019年1月で終えることを発表した。2018年12月12日に最後のオリジナルアルバム「没落」と初のベストアルバム「人間」を同時リリース。2019年1月29日に「葬式」と銘打ったラストライブを東京・昭和女子大学人見記念講堂で行う。
- King Gnu(キングヌー)
- 2015年に結成された、東京藝術大学出身のクリエイター・常田大希(Vo, G)率いるミクスチャーバンド。常田、勢喜遊(Dr, Sampler)、新井和輝(B)、井口理(Vo, Key)の4人体制になったのち、2017年5月にバンド名をSrv.VinciからKing Gnuに改名した。同年10月に1stアルバム「Tokyo Rendez-Vous」を発表し、2018年1月に初のワンマンライブを開催。同年7月には配信シングル「Flash!!!」をリリースしたほか、フジテレビ系ノイタミナ枠で放送のテレビアニメ「BANANA FISH」にエンディングテーマ「Prayer X」を提供した。2019年1月にアリオラジャパンよりメジャーデビューアルバム「Sympa」をリリースし、3月からは初の全国ツアー「King Gnu One-Man Live Tour 2019 "Sympa"」を行う。