1月29日に東京・昭和女子大学人見記念講堂で行われるライブ「葬式」をもって、“辞職”することを発表しているぼくのりりっくのぼうよみ。2018年12月にラストアルバム「没落」をリリースしたあとも、YouTuberグループ・へきトラハウスに加入するも即座に脱退(参照:ぼくのりりっくのぼうよみ、方向性の違いによりYouTuberグループ・へきトラハウスを辞職)、フジテレビ系「ワイドナショー」に出演するなど(参照:何を語る?ぼくのりりっくのぼうよみが「ワイドナショー」にゲスト出演)、予想を超えたアクションを続け賛否両論を集めている。
音楽ナタリーでは、ぼくりりとアルバム「没落」にも参加したKing Gnuの常田大希(G, Vo)の対談を企画。ぼくりりに辞職を決めた理由を聞きつつ、2人のクリエイターとしてのスタンスや音楽シーンに対する思いについて語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 映美
トラックがヘンで、わけがわからなかった
──今回の対談は、ぼくりりさんの「常田さんと話したい」というリクエストで実現しました。
ぼくりり はい。常田さんには「没落」に入っている「あなたの手を握ってキスをした」に参加してもらったんですけど、今までちゃんと話したことがなかったので。
常田大希 うん。俺はめっちゃ出不精で、基本近いところにいるヤツとしか会わないんですよ。こうやって呼ばれるとうれしいというか、外の世界に出てる感じがあって(笑)。ぼくりりは以前、SOIL&"PIMP"SESSIONSと一緒に曲をやってたでしょ。SOILは俺はわりと近い先輩という感じだから、間接的にはつながりがあったんだけど。
ぼくりり 直接的にはまったく交流がなかったですからね。
常田 でも、ライブ観に来てくれたよね? 去年のフジロックのプレパーティのとき。
ぼくりり そう、渋谷CLUB QUATTROにライブを観に行って。
常田 俺は理(King Gnuの井口理)から聞いたんだけどね。「ぼくりりってヤツがいて、ライブに来てるらしいよ」って。
──ぼくりりさんは、King Gnuのどんなところに惹かれていたんですか?
ぼくりり いや、ただカッコいいなーって。それ以上は語ることがないというか、カッコいいと感じた段階で言語化できないじゃないですか。とにかくめっちゃ好きで聴いていて、一緒にやりたいなと思ってオファーしたら受けてもらえたんです。
──トラックだけではなく、メロディも常田さんが手がけたとか。
ぼくりり そうそう。送ってもらったトラックがヘンで、わけがわからなかったんです。
常田 うん(笑)。
ぼくりり 「わけがわからない」には2種類あると思っていて。単によくないからわからない場合と、自分の感性にないから「わからない」と脳が判断する場合があるんだけど、常田さんのトラックは後者だったんですよね。自分なりに曲にしてみようと試行錯誤してんだけど、やっぱりよくわからなかったから常田さんが送ってくれたメロディをそのまま使わせてもらって。今までは自分でメロを書いていたから、自分以外の人のトラックとメロディで構成するのは初めてでした。
常田 そうなんだ。ぼくりりから話をもらったときに、「こういう感じでアルバムを作ってます」というトラックを送ってもらったんですよ。
ぼくりり 「断罪」のトラックですね。
常田 それを聴いたときに「すげえ攻めてるな」と思って。いわゆるJ-POPシーンにはないサウンドだったし、そういうスタンスでやってるヤツがいることを初めて知って。とにかくカッコいいトラックだったし、シンパシーを感じたというか。すげえうれしかったんですよね。だから俺としても、売れ線ではないトラックを作ろうと思ったんです。J-POP感を加えず、自分が面白いと感じる音をそのまま出すっていう。
J-POPの“翻訳”を入れながら好きなことをする
──普段はJ-POP感を意識して作ってるんですか?
常田 うん。意図的に曲に入れるようにしてます。日本のシーンって、新しいものは求められていない気がするんですよ、基本的に。この10年くらいのチャートを見ても、実は同じような曲ばかりヒットしてる印象で。
ぼくりり 全然変わってない。
常田 そうそう(笑)。「結局、こういうメロディが求められてるんだな」って。それだけでは面白くないし、自分がやる意味もないから、できるだけチャレンジはしてますけどね。そこは俺もぼくりりも共通してるんじゃないかな。
ぼくりり そうですね。「没落」はぼくりりの最後のアルバムなんですけど、これまでとは違うコンセプトで作っていて。前作の「Fruits Decaying」は、J-POPを意識してたんですよね。今常田さんが言ったことにも関係しているんですが、チャートに入る曲にはいくつかのパターン……例えば「明るいダンスチューン」とか「泣けるバラード」とかがあって、そこに向かって全力で投げ込んだら、自分は何点取れるんだろう?ってことを知りたくて。そのときに学んだことを踏まえて、「没落」は自分が好きなこと、やりたいことを“翻訳”も加えながら作った感じなんです。
常田 翻訳というのは?
ぼくりり J-POP好きな人が聴いても、「あ、わかる」と思うような加工ですね。
常田 なるほど。思考回路は俺と似てますね。
インターネット文化に根付くぼくりりの“イマドキ”な手法
──「没落」がラストアルバムになること、ぼくりりを辞職することについて、常田さんはどう感じました?
常田 そもそもオファーを受けた時点で、俺がぼくりりのことを知らなかったので、最初はなんのこっちゃわけがわからなかったです(笑)。「初めましての彼のラストアルバムに俺は参加するのか」って状況だから。そこからぼくりりをチェックし始めた途端、ぼくりりはSNS上でどんどん炎上していった。
ぼくりり はははは(笑)。
常田 俺は今26歳なんだけど、(ぼくりりに向かって)今何歳だっけ?
ぼくりり 20歳です。
常田 彼自身のスタイル、立ち振る舞い方は「イマドキだな」と思いますね。それがうらやましいとは思わないけど(笑)、ぼくりりがやってることは新鮮で面白いですよ。
ぼくりり “辞職”を発表してからの動き方は、インターネット文化に根付いたやり方なんですよね。
常田 そうだよね。俺はインターネット文化に疎いんですよ。何をどうやれば、どんなふうに広まるのか、正直わからない。
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ぼくりりは負けた。失敗した
- ぼくのりりっくのぼうよみ「没落」
- 2018年12月12日発売 / CONNECTONE
-
初回限定盤 [2CD+DVD]
8640円 / VIZL-1478 -
通常盤 [CD]
2700円 / VICL-65078
- CD収録曲
-
- 遺書
- あなたの手を握ってキスをした
- 二度と来ない朝
- 断罪
- 人間辞職
- 輪廻転生
- 僕はもういない
- 祈りを持たない者ども
- 曙光
- 没落
- 超克
- 初回限定盤付属CD収録曲
- aNYmORE
- each other
- blacksanta
- blacksanta pt.2
- Be Noble(re-build)
- 孤立恐怖症
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- sub/objective
- CITI
- Collapse
- サマーヌード
- shadow
- 在り処
- Be Noble(re-build)
- Liar
- Sky's the limit
- playin'
- Sunrise(re-build)
- 罠
- ぼくのりりっくのぼうよみ「人間」
- 2018年12月12日発売 / CONNECTONE
-
初回限定盤 [CD+DVD]
5184円 / VIZL-1479 -
通常盤 [CD]
2700円 / VICL-65079
- CD収録曲
-
- SKY's the limit
- Be Noble
- sub/objective
- 罠 featuring SOIL&"PIMP"SESSIONS
- パッチワーク
- 朝焼けと熱帯魚
- CITI
- Newspeak
- Sunrise(re-build)
- Noah's Ark
- つきとさなぎ
- after that
- Black Bird
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- sub/objective
- CITI
- Sunrise(re-build)
- Newspeak
- Be Noble
- after that
- SKY's the limit
- 朝焼けと熱帯魚
- 罠 featuring SOIL&"PIMP"SESSIONS
- noiseful world(acoustic live ver.)
- 在り処
- 輪廻転生
- King Gnu「Sympa」
- 2019年1月16日発売 / アリオラジャパン
-
初回限定盤 [CD+DVD]
3900円 / BVCL-928~9 -
通常盤 [CD]
2900円 / BVCL-930
- CD収録曲
-
- Sympa I
- Slumberland
- Flash!!!
- Sorrows
- Sympa II
- Hitman
- Don't Stop the Clocks
- It's a small world
- Sympa III
- Prayer X
- Bedtown
- The hole
- Sympa IV
- 初回限定盤付属DVD収録内容
-
King Gnu 1st ONE-MAN LIVE at Shibuya WWW(2018.01.28)
- Tokyo Rendez-Vous
- あなたは蜃気楼
- Vinyl
MUSIC VIDEO
- Tokyo Rendez-Vous
- McDonald Romance
- Vinyl
- あなたは蜃気楼
- Flash!!!
- Prayer X
- It's a small world
- ぼくのりりっくのぼうよみ
- 神奈川県横浜市在住の男性アーティスト。活動初期は「ぼくのりりっくのぼうよみ」「紫外線」名義で動画サイトにオリジナル曲や“歌ってみた”を投稿。トラックメーカーが作った音源にリリックとメロディを乗せていくスタイルをベースとする。高校2年生だった2014年にコンテスト「閃光ライオット2014」に応募し、ファイナリストに選ばれる。2015年12月にアルバム「hollow world」でビクターエンタテインメント内のレーベル・CONNECTONEより17歳でメジャーデビューする。映画「3月のライオン」前編主題歌、資生堂「アネッサ」CMソング、ドラマ「SR サイタマノラッパー~マイクの細道~」エンディングテーマなどタイアップ曲を手がけ注目を集める。2018年9月にぼくのりりっくのぼうよみを“辞職”することを宣言し、アーティスト活動を2019年1月で終えることを発表した。2018年12月12日に最後のオリジナルアルバム「没落」と初のベストアルバム「人間」を同時リリース。2019年1月29日に「葬式」と銘打ったラストライブを東京・昭和女子大学人見記念講堂で行う。
- King Gnu(キングヌー)
- 2015年に結成された、東京藝術大学出身のクリエイター・常田大希(Vo, G)率いるミクスチャーバンド。常田、勢喜遊(Dr, Sampler)、新井和輝(B)、井口理(Vo, Key)の4人体制になったのち、2017年5月にバンド名をSrv.VinciからKing Gnuに改名した。同年10月に1stアルバム「Tokyo Rendez-Vous」を発表し、2018年1月に初のワンマンライブを開催。同年7月には配信シングル「Flash!!!」をリリースしたほか、フジテレビ系ノイタミナ枠で放送のテレビアニメ「BANANA FISH」にエンディングテーマ「Prayer X」を提供した。2019年1月にアリオラジャパンよりメジャーデビューアルバム「Sympa」をリリースし、3月からは初の全国ツアー「King Gnu One-Man Live Tour 2019 "Sympa"」を行う。