音楽ナタリー PowerPush - ぼくのりりっくのぼうよみ
“シーン揺るがす驚愕の17歳”の素顔
トラックメーカーとのやり取り
──ご自身では楽器を演奏しないわけですが、トラック作りはどういう形で進めているのでしょうか。
最初にトラックメーカーの方にやりたいことの大枠だけ伝えます。こういう曲調で、BPMがこのくらいで、あとこの楽器は使ってほしい、とか。それで出てきたものに対して、具体的な要望を加えて完成まで持っていきます。楽器に関する知識が本当になくて、例えば最近まで「キック」という言葉も知らなかったので、「○分○秒のドンっていう音をこう変えたい」みたいな形でコミュニケーションをとっていました(笑)。
──初めから細かな設計図があるわけではないんですね。出てきたものを聴いて、それを徐々にブラッシュアップしていく。
そうですね。リクエストをうまく伝えられないときには「自分でできたら楽なのに……」って思うこともありますけど。いずれはDTMの勉強とかもやりたいなと思っています。
──楽曲を作っていくにあたって、自分の中で特に重視している要素はなんですか? 歌詞なのか、メロディなのか、自分の歌なのか、曲全体の雰囲気なのか。
うーん……全体のバランス感ですかね。曲としての音の心地よさと、自分が言いたいことのバランスです。
聴く人のクリエイティビティを刺激する存在でありたい
──「hollow world」の話に入りたいんですけど、聴かせていただいてのざっくりした感想として、ダークな雰囲気というか……。
うん、そう思います。
──最終的にそういうアルバムに仕上がったのは、ご自身のどのような部分が反映されているのでしょうか。
昔からなんですけど、ネガティブな出来事や感情にインスピレーションを受けることが多いんですよね。楽しいことを感じないとかではないんですけど、「楽しい! これを曲にしよう」ではなくて「なんかつらい……これを曲にしよう」となることが多いんです。
──ネガティブな感情と創作の経路がつながっているのはなぜなんですかね。
音楽をやり始めた中学生の頃は「人生なんとかなる! がんばろう!」みたいな歌がすごく嫌いだったんですよ。最近はそういうもののよさもわかるようになってきたんですけど、当時は「なんだこいつら」って思っていて。そういう感情がルーツかもしれないです。今思えば単なる中二病なんですけど(笑)。
──「ダーク」や「ネガティブ」という部分ともつながるんですけど、今回のアルバムは聴いていると自分がどんどん独りになっていくというか、内面に深く潜っていくような感覚を持ちました。このアルバムを聴いた方にどういう感情になってほしいとか、こういうことが伝えたいとか、考えていることはありますか?
そういうのは特になくて……。同じ曲を聴いても、人によって感じ方が違うのが面白いと思っているので。というか、こういう解釈が正解、みたいなのって超つまんなくないですか?
──そうですね。一方で、「わかってほしい」みたいな欲求を持った人が作る音楽であれば、作り手としては聴く人みんなに同じ解釈をしてもらいたいのかなとも思うんですけど。
なるほど。ただ、もし僕が本当にわかってほしいと思ったら口で説明しますよ。曲にする必要がない(笑)。なんて言ったらいいのかな、曲を聴くこと自体が一種の二次創作というか……。音楽を聴いた人が何かを感じることがある種のクリエイティビティじゃないですか。そういうのがすごく面白いというか。急に「今からクリエイティブなことをやってください」って誰かに言われても難しいと思うんですけど、何かしら刺激があればいろんなものが生まれると思うので。
──ご自身の音楽がそういう刺激とかきっかけになればいいなと。
そうですね、そうなれば面白いと思います。
──それは確かに「自分はこういうことを思っている、それをみんなに知ってほしい」というのとは決定的に……。
違いますね。真逆です。だから歌詞も抽象的な言葉が多くなっています。
今自分ができることを幅広く見せたい
──「hollow world」は全体としてダークな雰囲気がありつつ、曲ごとの音楽的なアプローチはかなり多様だなという印象があります。
1枚目のアルバムなので、今自分ができることを幅広く見せたいという気持ちがありました。あとは「どの曲も全部一緒じゃん」って思われないようにしたかったというか。
──個人的には「パッチワーク」は印象に残りました。イントロから鳴っているホーンの響きが好きです。
そのへんの細かいところはトラックを作っていただいた方(DYES IWASAKI)にやってもらっているんですけど……(笑)。この曲は、ポップな方向に寄せた曲がアルバムにあったほうがいいと思って作ったものです。
──あとは「Venus」が作品全体におけるスパイスになっていていいなと思いました。リズムの揺らいでいる感じが面白いなと。
ああ、それはすごいうれしいです! そういう位置付けになればいいなと思って作りました。トラックを作ってくださった方(Monkey_sequence.19)は昔から好きで、以前もこの方のビートでラップしたことがあります。歌詞はマンガの「魔人探偵脳噛ネウロ」にインスパイアされて書きました。
──具体的な創作物をベースに歌詞を書くことがあるんですね。
世界観全体を踏襲するようなことはあまりありませんが、単語レベルではいろいろ影響を受けています。一例を挙げると、「sub/objective」の一部は「攻殻機動隊」で使われていた表現がモチーフになっています。
──逆に言うと「自分の経験を赤裸々に言葉につづる」という感じではないんですね。
そもそもそんなに経験がないので……。男子校だし。
──そういうことですか(笑)。僕も中高6年間男子校だったんで……。
マジすか! あの環境、監獄じゃないですか?
──監獄……(笑)。いや、今振り返ると意外とあの時間もよかったなと僕は思っていますけど。
そうですかね……僕は共学で好きな女の子と一緒に帰ったりしたかったんですよ。
──でも周りの女子校の子とかと……。
違うんです、同じ教室じゃないとダメなんです。
──ああ、それはなんとなくわかる気がします。入学したてのときは何も思わないけど、中3くらいであれ?ってなるんですよね。
そうなんですよ。なんで男子しかいないんだ? どうした?って。小学校6年生でそんな決断をさせちゃいけないと思います(笑)。
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収録曲
- Black Bird
- パッチワーク
- A prisoner in the glasses
- Collapse
- CITI
- sub/objective
- Venus
- Pierrot
- Sunrise (re-build)
ぼくのりりっくのぼうよみ
神奈川県横浜市在住の男性アーティスト。活動初期は「ぼくのりりっくのぼうよみ」「紫外線」名義で動画サイトにオリジナル曲や“歌ってみた”を投稿。トラックメーカーが作った音源にリリックとメロディを乗せていくスタイルをベースとする。高校2年生だった2014年、コンテスト「閃光ライオット2014」に応募し、ファイナリストに選ばれ一躍脚光を浴びる。同年7月には電波少女のハシシが主催するidler records から4曲入り音源「Parrot' s Paranoia」を発表。2015年12月にアルバム「hollow world」でビクターエンタテインメント内のレーベル・CONNECTONEより17歳でメジャーデビューする。