音楽ナタリー PowerPush - THE BLUE HEARTS
ジュンスカ寺岡呼人が語るブルーハーツの魅力
この歌詞があるから古くならない
──今回ベストアルバムの初回限定盤に当時のライブ映像も収録されていますが、今観ても全然古く感じないですよね。
そうですね。
──それはなぜだと思いますか?
僕は歌詞なんじゃないかと思う。歌詞はすごく大きな要素なんじゃないかな。例えばJ-POPにはがんばれとか元気出せとか、僕がいるから大丈夫的なポジティブな曲が多いけど、それはやっぱり安易だと思うんです。難しいテーマなんです。でもブルーハーツがポジティブな言葉を歌うと、そこにちゃんとしたリアリティとか文学性があるからものすごく響いてくる。聴いたときに自分の核の部分に火が点いちゃうような感じ。そこをつかまえるような言葉を歌ってるから、やっぱり古くならないのかなって気がします。
──なるほど。
これもたぶんブルーハーツがデビューする前だと思うんですけど、一度ライブのリハーサルを観たことがあるんです。そのときヒロトくんがPAの人に「リバーブは絶対に切ってくれ」「歌はなるべくデカく上げてくれ」って注文してたんですよね。つまり伝えたいことがあるからそうやって言えるわけで。よっぽど言いたいこと、絶対伝えたい言葉っていうのがなかったら、いちいちライブハウスの人に言わないと思うんですよ。その意識の高さがあったから、僕ら1回聴いただけで歌を覚えられたのかなっていう気はしました。
──ライブで聴いても、聴き取れない言葉はほぼないですよね。
それにちょっと童謡的な感じもありますし。「リンダリンダ」も「キスしてほしい」も、一度聴いたら子供でも覚えちゃう。あれはやっぱり発明だと思いますね。パンクだけどもパンクじゃなくて、フォークじゃないけどフォークでもあって。童謡ではないんだけど童謡でもあるっていう、それが“ブルーハーツ印”なんだと思います。
誰が歌っても古くない
──今回のトリビュートアルバムについても聞かせてください。呼人さんは監修という立場で、どういう内容にしたいと思っていましたか?
僕が思う切り口は、30年経っても古くないし、誰が歌っても古くないブルーハーツのすごさ。そこをうまく表現できたらなってところです。
──ブルーハーツの曲をカバーするというのはかなり難しい仕事だと思うんですけど。
っていうか、たぶん誰がどうやっても難しいんですよ(笑)。だからまずはキャスティングですよね。この人の声でブルーハーツを聴いたら、やっぱりいい曲だって思うはず。そういう人を何人か入れたいなっていうのはありました。
──例えば?
八代亜紀さん、Ann Sallyさん。
──確かにお2人の歌唱によって、ブルーハーツの楽曲のよさが再確認できました。
「悲しいうわさ」は特に僕の中でモータウンみたいなイメージがあって。例えばエイミー・ワインハウスみたいな感じで八代さんに歌ってもらったら相当カッコいいんじゃないかって思ったんです。
──Ann Sallyさんが歌う「手紙」の美しさも特筆ものですね。
やっぱりブルーハーツの魅力である文学的な香りというか、映画のワンシーンみたいな。それがすごく出てますよね。
──若旦那さんも「TRAIN-TRAIN」を自分のものにしている印象があります。
そうですね。リスペクト感と自分らしさとこの曲の真髄みたいなことがわかった歌い方だし、ちゃんとレゲエの雰囲気も出てるし。これ湘南乃風でもやればいいのにって思っちゃいましたね。
──逆に言うとロックバンドがどういうアプローチでカバーするべきかについては、皆さん相当悩んだでしょうね。
ブルーハーツの曲がオーソドックスだからゆえの難しさがありますよね。かと言って奇をてらえばいいというわけでもないし。
──確かに奇をてらわず、皆さん歌を大事にしてカバーしています。ところで呼人さんは今回ジュンスカで参加しようとは思わなかったんですか?
ああ、まったく思わなかったですね(笑)。
「1000のバイオリン」が1つの答え
──今回のベストアルバムには計36曲が収録されています。呼人さんが特に好きな曲を挙げるとしたら?
これすごく難しいですね(笑)。もちろんいい曲いっぱいあるんですけど、でも今回このベストで改めて聴いて「1000のバイオリン」はやっぱりすごいなって思いました。本質を変えないまま変化し続けたブルーハーツの、その果てというか。1つの答えが「1000のバイオリン」なのかなって思うぐらい。グッときますね。
──歌詞も平易な言葉ですが、ストレートに胸に響きます。
抽象的な言葉って、普通は抽象的なまま通り過ぎていくことが多いんですけど、ブルーハーツ、特にマーシーが書く抽象的な言葉は引っかかってくるんですよ。例えば「夜の金網をくぐり抜け 今しか見る事ができないものやハックルベリーに会いに行く」っていうところ。普通だったら「ハックルベリー」を使うと「あ、なんか幼いな」「歌詞として軽いな」ってなってしまう。でもここにはそういう幼さがまったくない。
──そのあとに続く「台無しにした昨日は帳消しだ」というフレーズにもハッとさせられます。
つまりその音楽という芸術。映画でもなく文学でもない、3、4分の中で魅せる瞬間の芸術の中で、突き刺さるものを作ろうっていう意識がたぶんずっとあるんでしょうね。
──呼人さん自身、言葉の面でもブルーハーツの影響は受けていますか?
あると思います。ブルーハーツも(忌野)清志郎さんも、自分の青春だったものの気配はたぶん自分の中にいつもある。直接的な影響を受けてるどうかは自分でもわかんないんですけど、たぶん刷り込まれちゃってると思うんですよね。
──今もブルーハーツが自分の中にある。
再結成とかしてないのに、今もやってるような気配を感じるところがあるんですよね。だから過去じゃないってことなんです。たぶん(笑)。
- ベストアルバム「THE BLUE HEARTS 30th ANNIVERSARY ALL TIME MEMORIALS~SUPER SELECTED SONGS~」2015年2月4日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
- 生産限定盤 [CD3枚組+DVD] 6000円 / MECR-5011 / Amazon.co.jp
- 通常盤A [CD3枚組] 4800円 / MECR-4011 / Amazon.co.jp
- 通常盤B [CD2枚組] 3300円 / MECR-3034 / Amazon.co.jp
DISC 1
- 1985
- 人にやさしく
- リンダリンダ
- 君のため
- 終わらない歌
- 世界のまん中
- NO NO NO
- 少年の詩
- 未来は僕らの手の中
- 星をください
- ロクデナシ
- キスしてほしい(トゥー・トゥー・トゥー)
- ブルーハーツのテーマ
- TRAIN-TRAIN
- 僕の右手
- ラブレター
- 電光石火
- 青空
DISC 2
- 情熱の薔薇
- イメージ
- 首つり台から
- あの娘にタッチ
- 皆殺しのメロディ
- TOO MUCH PAIN
- 夢
- すてごま
- 旅人
- 台風
- 月の爆撃機
- 1000のバイオリン
- 1001のバイオリン
- 手紙
- PARTY
- 夕暮れ
- 歩く花
- もどっておくれよ
DISC 3(生産限定盤 / 通常盤A)
- チェインギャング / THE STARBEMS
- 夕暮れ / グッドモーニングアメリカ
- 終わらない歌 / 奥田民生
- 悲しいうわさ / 八代亜紀
- TOO MUCH PAIN / 銀杏BOYZ
- TRAIN-TRAIN / 若旦那
- 青空 / the LOW-ATUS(細美武士/the HIATUS・TOSHI-LOW/BRAHMAN)
- 手紙 / Ann Sally
生産限定盤DVD収録内容
- 全シングルビデオクリップ15曲
- MEET THE BLUE HEARTS U.S.A TOUR 1990
- HIGH KICK TOUR VIDEO PAMPHLET
THE BLUE HEARTS(ブルーハーツ)
甲本ヒロト(Vo)、真島昌利(G, Vo)、河口純之助(B, Cho)、梶原徹也(Dr)の4人からなるロックバンド。1985年結成。1987年にシングル「人にやさしく / ハンマー」を自主制作でリリースし、1987年にシングル「リンダリンダ」でメジャーデビュー。力強い楽曲と激しいライブパフォーマンスで人気を集め、そのスタイルは後に続く多くのアーティストに影響を与えた。1995年に解散するまで計8枚のアルバムを発表。甲本と真島はバンド解散後にTHE HIGH-LOWSを結成し2005年まで活動。2006年からはザ・クロマニヨンズで活躍している。
寺岡呼人(テラオカヨヒト)
1968年生まれ、広島県出身。1988~93年にJUN SKY WAKER(S)のベーシスト兼コンポーザーとして活躍。バンド脱退後はソロでの活動を展開するとともに、他アーティストのプロデュースも行い、これまでゆず、矢野真紀、ミドリカワ書房、植村花菜、グッドモーニングアメリカらのプロデュースを手がけている。2001年より、自身が尊敬するアーティストや親交あるアーティストをゲストに迎えコラボレーションを行うイベント「Golden Circle」を不定期に開催。2014年9月には通算14枚目となるオリジナルアルバム「Baton」をリリースした。