BLUE ENCOUNT「Journey through the new door」インタビュー|新しい扉を開いて、さらなる未来へ

BLUE ENCOUNTが新作ミニアルバム「Journey through the new door」を2月8日にリリースした。

今春、メンバーの辻村勇太(B)は海外で音楽を学ぶために活動拠点をアメリカに移す。彼はアメリカで活動しながらブルエンのメンバーとして楽曲制作、レコーディングを継続していくという。辻村の移住前にリリースされるミニアルバムには、2022年に発表された「青」「終火」「Z.E.R.O.」に新曲「DOOR」「vendetta」を加えた全5曲を収録。未来へと続く新たな扉を開くブルエンの決意が込められた1枚だ。

音楽ナタリーでは新曲の制作経緯や2月11日に開催される東京・日本武道館公演についてメンバーにインタビュー。2拠点で活動を続けていくことを選択した4人の言葉は、ブルエンの未来への希望で満ちあふれていた。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 竹中圭樹(ARTIST PHOTO STUDIO)

ドアを開けることをためらわないでほしい

──辻村さん渡米前最後の作品「Journey through the new door」が完成しました。最新のアーティスト写真にはドアのオブジェがありますし、ラストを飾る新曲は「DOOR」というタイトルですし、このミニアルバムのタイトルにも、現在開催中のツアーのタイトルにも「door」という単語が入っています。今のBLUE ENCOUNTにとって、ドアはどのようなモチーフですか?

田邊駿一(Vo, G) ドアって開いたり閉じたりするから、ポジティブなイメージもあれば、ネガティブなイメージもあるじゃないですか。今までの僕にとってはネガティブなイメージのほうが大きかったんですけど、昨年「青」をリリースしてから、ポジティブなイメージを持てるようになったんです。ドアをくぐることは、次の場所に行くために必要なことなんだと。ドアはバンドの未来に合ったモチーフだと思いますし、このミニアルバムは2月にリリースされるから、新生活を目前にした人たちのお守りになればいいなという思いもあります。「ドアを開けることをためらわないでほしい」というメッセージをこのアルバムに込めたかったんですよね。僕らはとてつもない未来を選んだけど、だとしたら、あなたにも選べないわけはないよ、と。

──では、ミニアルバムも新曲の「DOOR」がキーになっているんでしょうか?

田邊 そうですね。主役と言ってもいいくらいです。だけどこのミニアルバムの制作は、本来は最初からいるべき主役が、ずっといなかったというところから始まっていて……。

──というと?

田邊 新曲を2曲入れようと決まったとき、「最近作った曲の中にカッコいい曲があったよね」と満場一致で収録が決まったのが「vendetta」だったんですよ。残りの1曲に関しては、ここ数年で作った曲の中からみんなにいくつか候補を挙げてもらったんですけど、僕は「どの曲もいいけど、このアルバムには合わないな」と思ってしまって。それでイチから曲を作ることにしたんです。だけど「DOOR」というタイトルだけは思いついたものの、メロディも歌詞も浮かんでこず。みんなが選んでくれた曲1つひとつに「DOOR」というタイトルを付けてみても「俺は『DOOR』じゃない!」「やめろ! 俺にそんな名前を付けるな!」と曲たちが言っているように感じて。10月になってツアーが始まってからも、地方でライブをやったら翌日の朝イチの便で帰ってきて、すぐにスタジオに入るという日々を過ごしていたんですけど、全然浮かんできませんでした。それでレコーディングを一度延期してもらったんです。俺がこんなに曲を書けなかったのって初めてだよね?

江口雄也(G) うん。ブルエンは今まで制作の期日を越えたことが一度もなくて。レコーディングを延期してもらったのは今回が初めてでした。

田邊 「曲が書けなくてレコーディングを延ばしてもらいました」ってアーティストっぽくてカッコいいなと思っていたんですけど、実際はただ苦しいだけの日々でした(笑)。で、このアルバムには入っていない別の新曲(3月31日公開の映画「映画刀剣乱舞-黎明-」主題歌「DESTINY」)を11月末にレコーディングする予定だったから、「DOOR」もその日までに間に合わせようという話になったんですけど、10月末になっても浮かんでこず……。正直あきらめかけていたんですけど、11月頭にELLEGARDENのKT Zepp Yokohamaのライブに遊びに行かせてもらって。エルレといえば自分たちの青春ですし、しかもその日は青春時代に聴いていた曲たちをめっちゃやってくれたんですよ。感動しまくっていたら、その翌日にこの曲が書けたんです。

田邊駿一(Vo, G)

田邊駿一(Vo, G)

──「エルレみたいな曲だな」と思っていましたが、本当にエルレから影響を受けて生まれた曲だったんですね。

田邊 そうなんです。

──曲が書けずに苦しむ田邊さんを見て、辻村さん、高村さんはどう思いましたか?

高村佳秀(Dr) 僕は「すごくいい兆候だな」と思ってました(笑)。

辻村勇太(B) 俺も「もっと苦しめ」と思ってました(笑)。

田邊 あははは。

高村 苦しんでいるということは、それほど強く「今、この経験から曲を生み出したい」と思っているんだろうなと。それってすごくいいことだよね。

辻村 うん。田邊は「こういう曲を書いて」と言われたほうが書けるタイプで、「広い画用紙になんでも好きなものを書いていいよ」と言われたら逆に出てこない人だと思うんですよ。

田邊 そうなんですよね(笑)。僕は高校生の頃から「○○の主題歌を作るとしたら」と想像しながら曲を作っていたし、今でも全曲そういう作り方なんですけど、「青」や「DOOR」は自分たちという物語の主題歌なんですよ。今思えば「じゃあ自分たちはどんな物語を歩んでいるのか」というところがちゃんと見えていなかったのが、なかなか書けなかった原因でしょうね。自分自身と向き合って書く曲だからこそ、適当な過去曲を引っ張ってきて、適当なアルバムにすることだけは避けたかったので、「自分に向き合うということを、そんなに急いでやる必要ってある?」「クオリティの高い曲が4曲もあるのに、本当にあと1曲要る?」と自分に問うた瞬間もありました。たくさん悩んだけど、無事に「DOOR」ができて、そしてこのミニアルバムができてよかったです。

エルレに突き動かされてここまでやってきた

──サウンドやアレンジもザ・エルレという印象ですが、どのように考えていきましたか?

田邊 まさに「ザ・エルレにしようぜ」と言いながら進めました。サウンドディレクションはエモ系のアーティストをたくさん手がけてきた方にお願いしましたし、「エルレど真ん中でお願いします」と伝えましたね。「○○っぽい」と言われるのが嫌だという人もいますけど、僕らは全然そんなことなくて。むしろ「好きだけど何か?」くらいの感覚で、誇りに思っていることを表現できる方法を俺はずっと考えていたんです。そんな中で、昨年、ELLEGARDENとの距離がより近くなって。細美(武士)さんからのご指名でトリビュートアルバム(「ELLEGARDEN TRIBUTE」)に参加させていただきましたし、ライブにも遊びに行かせていただきました。細美さんは年末の「COUNTDOWN JAPAN 22/23」でも俺らのライブを袖でずっと観てくれていたんですよ。気にかけてもらえているのは、僕が長年エルレ愛を語り続けていてそれが伝わったからかなと思いつつ、だとしたら「俺らエルレ好きでっせ!」という気持ちをここで出さないとダメだと思って。

──“自分たちという物語の主題歌”だから、ルーツへの愛はなおさら出していくべきでしょうね。

田邊 俺らはエルレに突き動かされてここまでやってきたから、その愛を隠したりぼやかしたりせず、ちゃんと向き合おうと。この音が作れたからこそ、エルレに出会った高校生の頃の自分を呼び覚まして歌詞を書くことができました。

江口 田邊から最初に送られてきたデモにリードギターのフレーズが入っていたんですけど、それがもろエルレっぽかったんですよ。それを聴いて「さすがにちょっとバランスをとろうかな」と思ったので、デモにあったフレーズを生かしたエルレっぽいギターと、僕がリアレンジしたギターの2パターン出して。「どっちがいい?」と聞いたら僕が作ったほうがいいとのことだったので、今世に出ているものはエルレとブルエンの中間くらいのバランスになっています。

江口雄也(G)

江口雄也(G)

辻村 結局そういうバランスになるよね。僕がいくら高田(雄一)さんのマネをしようとしても、高田さんみたいにベースを弾くことはもちろんできないんですよ。

高村 トリビュートでは意識してエルレに寄せたんですけど、そのときも「どう足掻いてもああはなれない」と思って。だからこそ「自分の思うように叩けばいいな」というところに着地するし、逆に言うと、僕が叩いている時点で「エルレ愛はあってもちゃんとブルエンになる」という自信があるんですよね。

辻村 だから田邊がもろエルレのデモを投げてくるくらいでちょうどいいんじゃない?

田邊 そうね。最終的にブルエン希釈になるんだろうなとわかっているからこそ、こっちも安心して投げられるんですよ。長年の付き合いだからこそ「いいものを持ってきてくれるだろう」という信頼があるし、僕からすれば「このままってことはないよね?」というプレッシャーをかけているところもあるし(笑)。

──面白いですね。

田邊 そういう見えない攻防もあったけど、「DOOR」は温かい楽曲だというイメージを4人が共通して持っていたから、大きくブレることはなく。江口は僕がデモに入れていたものよりもさらに温かいフレーズを作ってきてくれたし、ツジ(辻村)やよっちゃん(高村)も、より遊び心のあるフレーズを作ってきてくれましたね。

ツジの宅録レベルが上がってきている

──もう1つの新曲「vendetta」は満場一致で収録が決まったという話でしたね。

田邊 はい。「難易度マックスで行きますか」と言いながら形にしていった曲です。プリプロなんて創作料理を作っているみたいでめっちゃ楽しかったですよ。「この具材を入れたらおいしくなるかな?」という感じでいろいろなフレーズを入れるんですけど、「これは意外に合うな」という発見があったり、「あ、まずい! じゃあやめておこう」みたいなこともあったり。いろいろな音を入れてごちゃっとさせつつ、それが1つの音楽になっているような感じにしたかったんです。

──ギターがいつもより上のほうで鳴っている気がして新鮮でした。

田邊 ギターをギターとして捉えていないというか、シンセサイザーや同期のような上モノのイメージで扱っているんですよね。だからロックバンドのギターではありえないポジションで鳴っているんです。

──なるほど。

田邊 この曲は音をたくさん重ねていて、バッキングギターだけでも5、6本入れているので、正確にコピーするなら8人くらいいないと無理だと思います。ライブでは絶対に音源通りには演奏できないんですけど、レコーディングアートとして緻密に構築しつつ、ライブ感もちゃんとある曲で。

──ラップの部分ではスラップベースも効いていて、ステージにいる田邊さんと辻村さんの姿が目に浮かびます。

田邊 ツジには「俺がラップするから、バトルするイメージでフレーズを作ってほしい」と事前に伝えていたんですよ。ここだけ先に歌詞を書いて、「こういう感じでいくから」というデータも早めに共有して。

辻村 初めはもうちょっと地味だったんですけど、「この曲、武道館でやるんだよな」ということで、スーパーボウルのハーフタイムショーくらいのデカいビジョンを想像したら、今あるようなフレーズが出てきました。

田邊 うんうん。僕もそういうテンションをイメージしていました。ライブでやるのが本当に楽しみですね。

──ちなみに、前回のインタビュー(参照:BLUE ENCOUNT「Z.E.R.O.」インタビュー)では、辻村さんがアメリカにいることを想定して「青」は辻村さんのみ自宅でレコーディングしたと言っていました。そういう作り方をした曲はほかにもありましたか?

辻村 「Z.E.R.O.」以外の4曲は自宅で録りました。

──そうなんですね。違いがまったくわかりませんでした。

江口 正直僕らでもわからないし、これは誰が聴いてもわからないんじゃないんですかね。それだけツジの宅録のレベルが上がってきているということだと思うんですよ。

辻村 最近録った「vendetta」は特にクオリティ高くできたんじゃないかと自分でも思います。アメリカに行く前に試行錯誤しながらリモートでのレコーディングを試せたのはよかったですし、「辻村はアメリカに行ってもいいものを録って送ってきてくれるんじゃないか」とメンバーに対して提示できたのもよかったです。