「そのバンドが全力で作ったものを聴きたい」だけ
──BLUE ENCOUNTの「VECTOR」、住野さんの「青くて痛くて脆い」は、両方共に新しい一歩を踏み出した作品になりましたね。
田邊 うん、そうですね。アルバムを作っているときは無欲と言うか、「前に進みたい」とすら考えてなかったんです。さっきも言いましたけど、そのときに感じていたことを嘘なく吐き出したいというだけだったので。ちょっと陳腐な言い方かもしれないけど、今の自分たちの卒業制作みたいな感覚もあるんです。だからこそメンバーが一丸になれたし、結果的に前に進めるアルバムになったんだと思います。
住野 素晴らしい。僕のことを言わせてもらうと「青くて痛くて脆い」を書いてるときは、デビューしてから一番心が荒んでいた時期だったんです。「君の膵臓をたべたい」の広がり方、受け取られ方が僕の想像を超えていたし、「『膵臓』はいいけど、ほかの作品は面白くない」という声も聞こえてきて。だから「青くて痛くて脆い」を書いてるときは「この小説で読者をぶっ飛ばしてみせる」と思っていたんですよ。
田邊 それくらい強い気持ちがあった、と。
住野 はい。過去の作品を否定するつもりはまったくありませんが、今回の作品では「『膵臓』のような清廉潔白な関係だけが正解ではない」ということも示したくて。
江口 僕らの感覚もそれに近いかもしれないですね。
田邊 同じ場所に留まっていることを気持ちいいと思わない人間ですからね、僕らも。今、住野さんは「ぶっ飛ばしたい」とおっしゃいましたけど、「青くて痛くて脆い」を読んだとき、言葉の1つひとつからバッコンバッコン殴り付けてくる感じを受けたんですよ。それが痛快だったし、最後には抱き締められるような感覚があって。「膵臓」で住野さんのファンになった読者の皆さんも「なんだこの感じ?」と思うんじゃないかな。
住野 そうなってもらえたらうれしいですね。一番伝えたいことは、実は変わってないんです。「膵臓」も今回の小説も、根底にあるのは「人は変われるはずだ」「いろいろな人がいて、それを認めよう」ということなので。表現の方法が違うということであって、読者さんを否定したいわけではないので。
田邊 僕らもそうですけど、やっぱりリスナーのことを考えているんですよね。今回のアルバムもやりたいことを思い切りやりましたけど、結局、聴いてくれる人がホッとするような作品になっていると思うので。
住野 そうですよね。ときどき友達と「好きなバンドに対して、どんな曲を作ってもらいたいと思う?」みたいな話になるんですが、僕の答えは「そのバンドが全力で作ったものを聴きたい」以外にはないんです。
江口 それ、一番いい意見です!
住野 メンバーの皆さんがカッコいいと感じている曲が、一番カッコいいはずですからね。「VECTOR」もまさにそういうアルバムだと思います。ファンの立場から言うと、ブルエンのカッコよさがまた一段階上にいった作品だなと。
田邊 ありがとうございます! 同じ志を持った方とこうやって出会えたこともすごくうれしいです。ぜひ今度飲みに行きましょう(笑)。
今回は「VECTOR」をいち早く聴き込んだ住野に、同作に収録されている14曲の中から好きな曲トップ3をその理由と共に語ってもらった。
- 「Waaaake!!!!」
- 「青くて痛くて脆い」のテーマ曲について考えていたとき、「もし新しいアルバムから使わせていただけるとしたら、この曲だな」と思っていたのが「Waaaake!!!!」なんです。歌詞の内容もピッタリだし、突破していく感じのサウンドもすごく好きで。最近はモッシュピットにめったに行かないようにしていますが(笑)、ステージの近くで聴くとめちゃくちゃカッコいいだろうなと。「VECTOR」というタイトル通り、進むべき道を指示してくれる楽曲だと思います。
- 「coffee, sugar, instant love」
- この曲を聴いたとき「新しいブルエンだ」と感じました。フロアでお酒を飲みながらゆったり揺れるのが似合いそうな曲ですが、そういうタイプの曲は今までなかったので。歌詞も素晴らしいですね。恋愛を描いていますが、この曲の主人公は完全に割り切っているわけではなくて、「こういうふうに考えよう」と自分に言い聞かせてる感じがして、そこが好きなんですよね。
- 「こたえ」
- 対談でも言いましたが、僕がブルエンを好きな理由が詰まっている曲だと思います。「僕が出したこの声は すべての人に届かない」という歌詞は本当にすごいですね。「もっと光を」もそうですが、ライブで聴いたら合唱する前に号泣してしまうでしょうね。
- BLUE ENCOUNT「VECTOR」
- 2018年3月21日発売 / Ki/oon Music
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初回限定盤 [CD+DVD]
3780円 / KSCL-3046~7 -
通常盤 [CD]
3024円 / KSCL-3048
- CD収録曲
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- 灯せ
- Waaaake!!!!
- コンパス
- VS
- RUN
- ...FEEL ?
- ハンプティダンプティ
- resistance
- 虹
- グッバイ。
- coffee, sugar, instant love
- 「77」
- さよなら
- こたえ
- 初回限定盤DVD収録内容
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- VS -Music Video-
- VS -Making-
- さよなら -Music Video-
- さよなら -Making-
- ブル散歩 -VECTOR完成旅行編-
- 住野よる「青くて痛くて脆い」
- 2018年3月2日発売 / KADOKAWA
ライブ情報
- BLUE ENCOUNT TOUR 2018 Choice Your「→」
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- 2018年6月9日(土) 北海道 サッポロファクトリーホール
- 2018年6月14日(木)愛知県 Zepp Nagoya
- 2018年6月15日(金)愛知県 Zepp Nagoya
- 2018年6月21日(木)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2018年6月22日(金)新潟県 NIIGATA LOTS
- 2018年6月24日(日)宮城県 SENDAI GIGS
- 2018年6月29日(金)福岡県 DRUM LOGOS
- 2018年6月30日(土)福岡県 DRUM LOGOS
- 2018年7月7日(土)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2018年7月8日(日)香川県 高松festhalle
- 2018年7月13日(金)大阪府 なんばHatch
- 2018年7月14日(土)大阪府 なんばHatch
- 2018年7月18日(水)東京都 Zepp Tokyo
- 2018年7月19日(木)東京都 Zepp Tokyo
- BLUE ENCOUNT(ブルーエンカウント)
- 田邊駿一(Vo, G)、江口雄也(G)、辻村勇太(B)、高村佳秀(Dr)の4人からなるロックバンド。2007年、田邊、江口、高村が地元熊本でバンドを結成し、2009年に3人の進学先である東京の音楽専門学校で辻村と出会い現体制となる。2010年に1stミニアルバム「the beginning of the beginning」をリリースし、この頃よりライブハウスシーンで頭角を現すように。2014年2月に初のフルアルバム「BAND OF DESTINATION」を発売した。同年9月にキューンミュージックより4曲入りCD「TIMELESS ROOKIE」でメジャーデビュー。2015年7月にメジャー1stフルアルバム「≒」を発表。2016年10月に初の東京・日本武道館単独公演を行い成功を収める。2017年1月に2ndアルバム「THE END」を発表し、本作を携えてバンド史上最大規模となる全国ツアーを開催した。2018年3月に3rdアルバム「VECTOR」をリリース。
- 住野よる(スミノヨル)
- 小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿していた「君の膵臓をたべたい」が注目を集め、同作で2015年にデビュー。2016年2月に2作目の小説となる「また、同じ夢を見ていた」、12月に「よるのばけもの」を発表する。なお「君の膵臓をたべたい」は浜辺美波と北村匠海(DISH//)のダブル主演で映画化され、2017年7月に全国公開された。2018年3月に最新小説「青くて痛くて脆い」を発表した。