僕らの思いは届かないかもしれないけど……
住野 先ほども言いましたが「こたえ」はすごい曲だと思います。特に「僕が出したこの声は すべての人に届かない でもそれでもいいんだ あなたが笑ってくれれば」という歌詞がとにかくグッときました。
江口 このアルバムで一番伝えたいメッセージかもしれないですね。
田邊 自分の中でずっと思っていたことをようやく吐き出せたという感じです。どんなに必死でやっていても、どんなプロモーションをしても、届かないこともある。約10年バンドをやってきた実感なんですよね、それは。それでも僕らはやりたい音楽をやり、伝えたい言葉を伝えたいと思ってステージに立っているし、その尊さを改めて曲にしたいなと。だから「こたえ」の歌詞は全然ネガティブではないんです。そうじゃなくて、ファンと一緒に歩いていくための狼煙なんですよ。もしかしたら「『届かない』ってなんだよ。ふざけんな」と思う人もいるかもしれないけど……。
江口 そうだね。
田邊 でも、それを「え?」と捉えてほしくなくて。「この先のことはわからないし、引っ張れないかもしれない。だから一緒に探してくれないか?」ということですから。
住野 「こたえ」を聴くと「ブルエンの皆さんは、ただ純粋でムチャをやっている人たちではない」ということがわかるんですよね。僕はもともと、破天荒な天才よりも、ずっと思い悩んで「それでも守りたいものがあるんだ」と言うような人が一番カッコいいと思っていて。この歌詞は、まさにそのことを表していると思います。しかも、ただ熱いだけではないですからね。「熱さだけではダメだ」とわかっていながら「でも、信じなくちゃいけないものがあるはずだ」っていう。「こたえ」には、僕がブルエンを好きな理由が詰まっています。
田邊 うわ、めちゃくちゃうれしいです、今の言葉。報われたという気持ちになりました。
──今、住野さんが話してくれたことは、新刊「青くて痛くて脆い」のストーリーにもつながっているのでは?
住野 そうですね。「青くて痛くて脆い」を書き始めるときも、担当編集さんと「『純粋な人はすごい』という物語にはしたくないですね」って話をしていたんです。いろんな経験をして、いろんなことを知ってしまったけど、まだ捨てられないものがある……そういう人の物語を書きたかったので。
江口 そこがリンクしているんですね。今回の小説は今まで以上にリアルですよね。これまでの作品はファンタジーの要素があったと言うか、「現実的ではないんだけど、限りなく現実に近い」という世界観だったと思うんですが、「青くて痛くて脆い」は大学が舞台だし、登場人物もすごく身近に感じました。日常生活でも起こり得るストーリーだし、読んでいると情景が広がるんですよね。
住野 「最後の青春」を描きたかったんです。社会に出るまでのタイムリミットがある場所と言えば、やはり大学かなと。担当編集さんから「2人きりの秘密結社の話はどうでしょう?」と提案されたときは「え?」と思いましたが(笑)、その設定から物語が広がってくれて。
田邊 大学で出会った男の子と女の子が「モアイ」という秘密結社を作るところから始まって。まるでサスペンスのように先が気になるストーリーだったし、それぞれの理想がぶつかり合うところもすごくグッと来ました。今の状況を守るのが理想と考えている人もいるし、さらなる目標を達成するためなら犠牲を払ってもいいと思っている人もいる。登場人物たちの思いが渦巻いているんだけど、最後は自分自身の心の穴を埋めるような感じになるっていう。
江口 わかる。読み終わったあとも、いろんな場面を読み返したくなるんですよ。メールを盗み読むためにパスワードを解くシーンがあるんですけど、親友に「やめとけよ」と言われるところなんて、「そうだよ、やめたほうがいいよ」って思ったり(笑)。
「お前が光を届けろよ」という気にさせられる
──「青くて痛くて脆い」のテーマ曲としてBLUE ENCOUNTの「もっと光を」が使用されています。住野さんが、この曲をテーマ曲に選んだのはどうしてですか?
住野 いろいろ理由はあるんですが、一番大きいのはライブで「もっと光を」を聴いているときの感情です。「自分に投げかけてくれている曲だ」と思うと同時に、自分の読者さんのことを思い出すんですよ。「読者に対して、お前が光を届けろよ」と言われている気がすると言うか。
江口 すごいですね、それも。
住野 去年は「君の膵臓をたべたい」が映画化されたこともあり、僕のことを知ってくれて方がすごく増えたと思っていて。「青くて痛くて脆い」に込めた思いって「その人たちにもっと光を届けたい」というものなんですよね。そんなときに「小説のPVを作りたいんですが、バンドの曲では何がいいですか?」と担当編集の方に聞かれて「もっと光を」を選ばせてもらったんです。ブルエンにとって代表曲の1つなので、ムリかもしれないと思っていたんですが、快く承諾していただいて、うれしかったですね。
江口 いえいえ、こちらこそありがとうございます。
田邊 (曲に対して)「よかったな、お前」っていう感じですよ。
江口 そうだよね。「もっと光を」はもともとタイアップが付いてなくて、ライブで育ててきた曲なんです。そういう曲を選んでいただいたのもうれしいし、「青くて痛くて脆い」とリンクしていたこともすごいなって。僕も小説を読んでいるとき「確かに合う!」と思いましたから(笑)。
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「そのバンドが全力で作ったものを聴きたい」だけ
- BLUE ENCOUNT「VECTOR」
- 2018年3月21日発売 / Ki/oon Music
-
初回限定盤 [CD+DVD]
3780円 / KSCL-3046~7 -
通常盤 [CD]
3024円 / KSCL-3048
- CD収録曲
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- 灯せ
- Waaaake!!!!
- コンパス
- VS
- RUN
- ...FEEL ?
- ハンプティダンプティ
- resistance
- 虹
- グッバイ。
- coffee, sugar, instant love
- 「77」
- さよなら
- こたえ
- 初回限定盤DVD収録内容
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- VS -Music Video-
- VS -Making-
- さよなら -Music Video-
- さよなら -Making-
- ブル散歩 -VECTOR完成旅行編-
- 住野よる「青くて痛くて脆い」
- 2018年3月2日発売 / KADOKAWA
ライブ情報
- BLUE ENCOUNT TOUR 2018 Choice Your「→」
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- 2018年6月9日(土) 北海道 サッポロファクトリーホール
- 2018年6月14日(木)愛知県 Zepp Nagoya
- 2018年6月15日(金)愛知県 Zepp Nagoya
- 2018年6月21日(木)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2018年6月22日(金)新潟県 NIIGATA LOTS
- 2018年6月24日(日)宮城県 SENDAI GIGS
- 2018年6月29日(金)福岡県 DRUM LOGOS
- 2018年6月30日(土)福岡県 DRUM LOGOS
- 2018年7月7日(土)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2018年7月8日(日)香川県 高松festhalle
- 2018年7月13日(金)大阪府 なんばHatch
- 2018年7月14日(土)大阪府 なんばHatch
- 2018年7月18日(水)東京都 Zepp Tokyo
- 2018年7月19日(木)東京都 Zepp Tokyo
- BLUE ENCOUNT(ブルーエンカウント)
- 田邊駿一(Vo, G)、江口雄也(G)、辻村勇太(B)、高村佳秀(Dr)の4人からなるロックバンド。2007年、田邊、江口、高村が地元熊本でバンドを結成し、2009年に3人の進学先である東京の音楽専門学校で辻村と出会い現体制となる。2010年に1stミニアルバム「the beginning of the beginning」をリリースし、この頃よりライブハウスシーンで頭角を現すように。2014年2月に初のフルアルバム「BAND OF DESTINATION」を発売した。同年9月にキューンミュージックより4曲入りCD「TIMELESS ROOKIE」でメジャーデビュー。2015年7月にメジャー1stフルアルバム「≒」を発表。2016年10月に初の東京・日本武道館単独公演を行い成功を収める。2017年1月に2ndアルバム「THE END」を発表し、本作を携えてバンド史上最大規模となる全国ツアーを開催した。2018年3月に3rdアルバム「VECTOR」をリリース。
- 住野よる(スミノヨル)
- 小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿していた「君の膵臓をたべたい」が注目を集め、同作で2015年にデビュー。2016年2月に2作目の小説となる「また、同じ夢を見ていた」、12月に「よるのばけもの」を発表する。なお「君の膵臓をたべたい」は浜辺美波と北村匠海(DISH//)のダブル主演で映画化され、2017年7月に全国公開された。2018年3月に最新小説「青くて痛くて脆い」を発表した。