ナタリー PowerPush - bloodthirsty butchersトリビュート
山中さわお(the pillows)、増子直純(怒髪天)、日高央(THE STARBEMS)が明かす吉村秀樹の素顔
1986年の結成以来、際立った独創性と圧倒的な存在感によって熱狂的な支持を得てきたbloodthirsty butchers。フロントマンである吉村秀樹の急逝を受け、彼らをリスペクトするアーティストたちによるトリビュートアルバムシリーズ「Yes, We Love butchers ~Tribute to bloodthirsty butchers~」のリリースが始まった。1月29日に「Abandoned Puppy」「Mumps」の2作がリリースされ、さらに3月26日には第3弾「Night Walking」の発売も控えている。
今回ナタリーでは、トリビュートアルバムに参加した山中さわお(the pillows)、増子直純(怒髪天)、日高央(THE STARBEMS)による鼎談を企画。吉村との思い出、ブッチャーズの魅力などをたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 成瀬正規
昔はライブのときに白塗りだったんだよ
──まず、吉村さんとの出会いについて教えてもらえますか?
増子直純 俺は付き合い長いぞー。最初に会ったのは、高校のときだから。札幌のパンクムーブメントみたいなのがあって、不法集会的なライブをやってたんだよ。そのときに「留萌にすげえバンドがいる」って教えてもらって、「ぜひ出てほしい」って呼んで。とにかくバンドの数が足らなかったからね、その頃は。後輩に無理やり組ませたりして。
日高央 頭数を揃えるために(笑)。
山中さわお 無理やり組まされるって、それはパンクじゃないですね。
──確かに(笑)。
増子 「悪いヤツだったら、いいだろ」って言って、友達の弟の中学生を入れたりしてたからね、不良だって理由だけで(笑)。当然、みんな演奏なんかできないんだよ。そんな中でヨウちゃんのバンド……その頃は「畜生」っていうバンド名だったんだけど、演奏もしっかりしてて、すごい衝撃だった。ハードコアなんだけど、とにかくカッコよくて。友康(怒髪天のギタリスト・上原子友康)がギター弾いてたしね。メンバー全員、俺んちに泊まって、一緒にカレー作ったりもして。
日高 そんなノリだったんですね。その頃の映像で、すごいのが残ってるんですよ。Gジャンの袖を切って、髪をツンツンにした吉村さんが、ピョンピョンしながら歌ってるっていう。
増子 最悪だな(笑)。
日高 字面にすると最悪ですよね(笑)。俺らは「カッコいい」と思って観てたんだけど。
増子 しかもライブのときは白塗りだったんだよ。「どこまで塗ればいいんだ?」って言いながら、結局、首から上は全部白くして。すごいことになってた(笑)。
基本的に、何を言ってるかわからないんだよね
──さわおさんがブッチャーズの音楽に初めて接したのはいつですか?
山中 今の増子さんの話の2年後くらいかな。トリビュート(「Mumps」。the pillowsは「散文とブルース」をカバー)のブックレットにも書いたんだけど、1988年に札幌のUKエジソンっていうレコードショップで「Never Give Up」が流れてたんだよね。ものすごくインパクトがあったから、店員に「これ、誰ですか?」って聞いたら、「ブッチャーズっていう札幌のバンドだよ」って。身近にこんなバンドがいるんだ!っていう一方的な出会いだったんだけど、ヨウちゃんとはどんなふうに会ったのかな……。ちょっと記憶が曖昧なんだけど、とにかく当時の札幌では怒髪天、スキャナーズ(後のeastern youth)、ブッチャーズが3トップだったんだよ。俺はコインロッカー・ベイビーズというバンドをやってたんだけど、増子さんと吉野くん(eastern youthの吉野寿)はわりとすぐに「いいバンドだ」って言ってくれて。ヨウちゃんとはしばらく距離があったかな。
増子 でも「いいバンドだ」って言ってたけどね。
日高 自分から褒めるタイプじゃないですからね。
山中 そう、俺に直接は言ってくれなかったな(笑)。覚えてるのは、つぼ八か何かで飲んでるときに、当時のベースの岩田(こうじ)に向かってヨウちゃんがいきなり「ハードコア好きですか?」って聞いてきて。で、岩田が「はい、好きです」って答えたっていう。
日高 お見合いみたいだな(笑)。
増子 あんまり夜遊びしてなかったからね、ヨウちゃんは。けっこうマジメに仕事もしてたしね。俺はやってないけど。
日高 増子さんはしなさそうですね(笑)。
──(笑)。札幌時代、さわおさんと吉村さんはそんなに話してなかったんですか?
山中 ヨウちゃんって基本的に、何を言ってるかわからないんだよね(笑)。同じライブ、同じ景色を見たとしても、その後で感想を話してみると「違う世界の話みたいだな」ってことが多くて。
日高 わかるな、それは。滑舌もいいほうじゃないしね。
増子 擬音も多いからな。「あれがダーッとなってよ、その後、ガーッとなってバーン!だよ。なあ?」みたいな(笑)。後輩は大変だったと思うよ、メンドクサイもん。俺、同じ歳でよかったよ。
「なんで俺だけハゲんだ!?」って怒ってた
山中 俺、着てる服のことで何度も怒られましたからね。いまだによくわかってないんだけど、手書きで「FLIPPER」って書いてるTシャツがあって……。
日高 ハードコアバンドのFlipperだよね。
山中 あ、そういうバンドがあるんだ? 俺は「カート・コバーンが着てたヤツと同じだ」と思って買ったんだけど、それをライジングで着てたら、ヨウちゃんに「何でおまえがそれを着てるんだ!?」って怒られて。
増子・日高 ハハハハハ!(笑)
山中 「いや、売ってたから、お金を出して買いました」っていう(笑)。
増子 ライジングってことは、けっこう近年の話だな。
山中 2年くらい前ですよ。あと、亡くなる1カ月くらい前に会ったときも、まず「いつもサングラスをしている」と怒られ、白い靴を履いてることも怒られ。
増子 意味がわかんねえ(笑)。まあ、憎まれ口を言いたいんだよな。髪の毛のことは言われなかった? 「なんで俺だけハゲんだ!?」って。
日高 すごいですね(笑)。
増子 一時期、そのことを酔っ払うたびに言ってたんだよな。「知らねえよ、神様に文句言えよ」って話なんだけど(笑)。
V.A.「Yes, We Love butchers ~Tribute to bloodthirsty butchers~」
- トリビュートアルバム第1弾「Abandoned Puppy」 / 2014年1月29日発売 / 3000円 / 日本クラウン / CRCP-40357
- トリビュートアルバム第1弾「Abandoned Puppy」
収録曲
- 襟がゆれてる。 / ACIDMAN
- 2月/february / the band apart
- 散文とブルース / BRAHMAN
- ROOM / COCOBAT
- 9月/september / 八田ケンヂ
- ocean / HUSKING BEE
- JACK NICOLSON / KING BROTHERS
- ラリホー / ロマンポルシェ。
- サラバ世界君主 / The SALOVERS
- アンニュイ / SLANG
- ファウスト / SODA!
- ギタリストを殺さないで / THE STARBEMS
収録曲
- sunn / CARD
- 僕達の疾走 / cinema staff
- 襟がゆれてる。 / Climb The Mind
- I'm on fire / 怒髪天
- JACK NICOLSON / LOSTAGE
- 9月/september / LOST IN TIME
- ファウスト / LOW IQ 01
- サラバ世界君主 / MONOBRIGHT
- プールサイド / 向井秀徳
- 11月/november / THE NOVEMBERS
- 襟がゆれてる。 / perfectlife
- 散文とブルース / the pillows
- トリビュートアルバム第3弾「Night Walking」 / 2014年3月26日発売 / 3000円 / 日本クラウン / CRCP-40366
- トリビュートアルバム第3弾「Night Walking」
収録曲
- ファウスト / ART-SCHOOL
- ソレダケ / bed
- 7月/July / Co/SS/gZ
- no future / Discharming man
- Never Give Up / eastern youth
- discordman / きのこ帝国
- ロスト・イン・タイム / MO'SOME TONEBENDER
- ファウスト / 少年ナイフ
- 燃える、想い / SiNE
- ピンチ / タルトタタン
- 8月/august / ueken butchers project
bloodthirsty butchers
(ぶらっどさーすてぃぶっちゃーず)
1986年に札幌で結成されたロックバンドで、メンバーは吉村秀樹(Vo, G)、射守矢雄(B)、小松正宏(Dr)、そして2003年に加入した田渕ひさ子(G)の4人。1991年にFugaziの来日公演に出演したことを機に上京し、2度のアメリカツアーや、オリンピアで行われたフェス「YO YO A GO GO Fes.」への出演などでUSインディーシーンにも名を知らしめる。1994年にはメジャーデビューアルバム「LUKEWARM WIND」をリリース。その後「kocorono」「未完成」といったアルバムが各方面で絶賛され、90年代のオルタナシーンで確固たる地位を築く。結成20年目となった2007年には自主レーベル・391toneを設立。2011年には彼らの姿を追った長編ドキュメンタリー映画「kocorono」が全国各地で劇場公開される。2013年5月、吉村が急性心不全のため逝去。すでにマスタリングを済ませていたアルバム「youth(青春)」と、写真集「bloodthirsty butchers『青春』」が同年11月に発売される。そして念願だった「kocorono」のアナログ盤を完全限定発売。2014年にはトリビュートアルバムを数カ月にわたって複数枚リリースする「Yes, We Love butchers ~Tribute to bloodthirsty butchers~」シリーズが企画されている。
-
youth(青春)
[CD] 2013/11/14発売 3000円 キングレコード KICS-196 -
kocorono(アナログ盤)
[アナログ] 2013/11/14発売 5040円 391tone NAS-2009~10