BLACKPINK|説得力のあるサウンド、個の強さ、時代にマッチしたスタイル…ライター3人のトークで解き明かす人気の秘密

ライブでしか聴けない凄腕バンドによる巧みなアレンジ

黒田 ライブといえば、さっき絵里菜さんが「YGのライブは生バンドが付いている」とおっしゃったじゃないですか。確かに2019年の「SUMMER SONIC」でBLACKPINKのライブを観たとき、生バンドの迫力にも圧倒されました。彼らはBIGBANGのワールドツアーにも参加したThe Band Sixという凄腕集団だそうですね。「THE MOVIE」でも、バンドアレンジの「How You Like That」がめちゃめちゃカッコよくて。コード進行もガンガン変えてきて攻めまくっているんですよね。そういうところもダンス同様、ライブならではのグルーヴを大切にしているのだろうなと思いました。

BLACKPINK「THE SHOW」より。 BLACKPINK「THE SHOW」より。

宮崎 そうそう。ギターの音も太いし、繊細なコードやフレーズを弾いていても迫力があるんですよね。グルーヴもあって、演奏していることの意義を見出せるミュージシャン集団というか。「THE MOVIE」を観ていると、とにかくライブが観たくてたまらなくなっちゃいます。今はコロナ禍でなかなかライブが観られないじゃないですか。この映画は友達とライブ感覚で観に行くのにうってつけじゃないかな。きっとBLACKPINKのことをそんなに知らなくても、映像とダンスと音だけでめちゃ楽しめますし。

黒田 ちなみに「THE ALBUM -JP Ver.-」のSPECIAL EDITION初回限定盤には、映像特典として今年1月に行われたオンラインコンサート「THE SHOW」のライブ映像が完全収録されているそうです。このときの模様は「THE MOVIE」でも一部流れていましたよね。

宮崎 めっちゃカッコよかったですよね。

田中 カメラワークも演出もすごく凝っていましたね。韓国のオンラインライブ、これまでもいくつか観たのですが、モニターの前で歌うだけのものが多くて「うーん……」と思うこともあったんです(笑)。でも「THE SHOW」は曲ごとに演出や衣装、セットなどを変えていたりして観終わったときの満足感がすごいです。

宮崎 それが映像特典だとフル尺で観られるのはうれしいなあ。

BLACKPINK躍進の背景にあったもの

黒田 BLACKPINKはデビューした途端に世界中でブレイクした印象があったのですが、韓国での彼女たちの受け止められ方、売れ方はほかのK-POPグループとやっぱり違いましたか?

田中 BLACKPINKは、カムバックしたときの活動期間がほかのK-POPアーティストよりも短い印象でしたね。ほかのグループだと何週にもわたって音楽番組に出続けるところをわりとあっさり済ませてしまったり、リリース頻度も「1曲勝負」というか、それほど頻繁でなかったり。アルバムも全然出ないし、今の持ち曲も5年間の活動にしては決して多いほうではない。

宮崎 ああ、確かに。

田中 K-POPグループはデビューすると最初の1年目とか、ものすごくたくさん曲を出すし露出も多くて「とにかく顔を覚えてもらおう」という感じなのですが、BLACKPINKは1曲をじっくり売っていくスタイルですよね。しかもライブに重きを置いていて、世界ツアーにもどんどん出ていくじゃないですか。確かYouTubeの登録者数も、女性アーティスト世界1位なんですよね(BLACKPINKの公式チャンネルの登録者数は6390万人、2021年8月12日現在)。メンバーそれぞれのInstagramのフォロワーもそれぞれ4400万以上(2021年8月12日現在)。ネット上でのバズり方が、いわゆるアイドルファン、アジア圏のK-POPが好きという枠を超えて、欧米のライトなファンにも最初からリーチしていた印象があります。

JENNIE

黒田 本人たちの実力や魅力があるのは当然なのですが、そこまでのブレイクの仕方はやはり「YGからの、2NE1以来7年ぶりのガールズグループ」という期待値みたいなものも大きかったのでしょうか。

田中 その注目度はかなり高かったと思いますが、実際に蓋を開けてみたら全員に実力があったということでしょうね。日本1stシングル「DDU-DU DDU-DU」(2018年)の時点でアイドルファン以外に火がついたのは、やっぱり大きかったのかなと。それとほかのK-POPグループは世界観の作り込みがすごいんですけど、BLACKPINKはいい意味で作り込みすぎていないんですよね。ミュージックビデオももちろんかっこいいんですけどストーリーテリングしすぎていないというか。その背景や考察まで彫らなくても、ライトなファンが気軽に楽しめる。

黒田 なるほど。間口が広いというか。

宮崎 BLACKPINKはあっという間にブレイクしちゃったので、僕も黒田さんと同じように「なんでこんなに急に人気が出たんだろう?」とずっと思っていたんですよね。確かにYG期待の新人ではあったけど、ここまでのブレイクの仕方は過去になかったし、いまだにいないんじゃないでしょうか。もちろんバンタンは破格の存在ですが、彼らはファンダムの力がものすごく大きかった。

田中 確かにそうですね。

宮崎 思うにBLACKPINK躍進の背景には、アメリカの人権意識の向上も大きく影響していたのではないかと。例えば環境問題やLGBT、BLM運動などに意識的な人たち、周りにも白人以外の友人がたくさんいて、「これは自分たちの問題だ」と若い子たちがアメリカにもともとあった人権意識に違和感を持ち始めたのと、ほぼ同じタイミングでBLACKPINKが登場した。彼女たちの存在はいろんなマイノリティに刺さっているんだと思います。それでも小さくまとまってないし、もちろんマジョリティにも刺さっているところが超カッコいいと思う。

黒田 BLACKPINKを見たときの感想ってかわいいよりもまずカッコいいなんですよね。「THE MOVIE」を観ていても、いろんな人種やジェンダー、年代のファンが付いていることがわかる。「ライトアップ・ザ・スカイ」の中でJENNIEさんが「自分たちはガーリーな売り方をしてこなかった」と言っていますが、それもファン層が広がった大きな要因かもしれない。

田中 お二人がおっしゃるように、BLACKPINKの躍進の理由はガールクラッシュ(女性が憧れる強い女性像)的な要素も大きいのかなと思います。女の子が憧れるような強さを打ち出した結果、ゲイカルチャーにも受け入れられていますし。映画でも「Sour Candy」のライブでヴォーギングっぽいダンスを取り入れていましたよね。いろんな人が好きな要素が詰まっていると思います。

JISOO
ROSÉ

時代にマッチしたポジティブなメンタリティ

宮崎 あと彼女たちはすべてにおいてやらされてる感がないのもいいですよね。本人たちのキャラクターから主体的に出てきていることを表現しているというか。

田中 そうですね。4人ともSNSの個人アカウントを持っていますし、YouTubeにもBLACKPINKとしての公式チャンネルとは別に個人のチャンネルがあって、やりたいことを自由にやっていますよね。ファッションも4人が自分の似合うものを自由に着ていて。例えばJISOOちゃんのちょっとコンサバな感じがディオールで、JENNIEちゃんはシャネル、ロックな感じのROSÉちゃんがサンローランで、パンツスーツが似合うLISAちゃんがセリーヌ。それぞれ違うハイブランドのアンバサダーになっているのもいいなと思います。音楽活動以外の面で見せるセレブ感が同世代の憧れの存在になる理由だなと思います。

黒田 それでいて地に足がついている感じもありますよね。「ライトアップ・ザ・スカイ」の中で、JENNIEさんのピラティスの先生が「(JENNIEは)浮ついたところがない」と言っているのも印象的だったんです。そういうバランス感覚は、やっぱり練習生時代から培ってきたプロ意識から来るものなのでしょうか。

LISA

田中 「K-POPはなぜ世界を熱くするのか」を書いたとき、YGでBLACKPINKの教育やプロデュースに関わっていたSINXITYさんに取材したのですが、ほかの文化への配慮というか、ハンドサインに至るまで「やってはいけないこと」などを細かく教育しているとおっしゃっていました。ダンスや歌はもちろんメンタリティや言動の1つひとつまで、とにかく手塩にかけて育て上げてきたので、デビューする頃には完成形に仕上がっているというか。「THE MOVIE」の中で、「つらいことはなかった?」と聞かれたLISAちゃんが「なかった」と答えていたのが衝撃的だったんですよ。

宮崎 俺もあれ、びっくりした(笑)。

田中 「え、ないんだ!」と思いますよね(笑)。こういうドキュメンタリー映画って本人たちの苦労している姿やつらそうなところを見せるのが定番だったりするじゃないですか。BLACKPINKのドキュメンタリーもそんな感じなのかなと勝手に思っていたんです。ところが予想していたのとはまったく違うものでした。「実はあのとき本当はつらくて……」みたいな話が全然ない(笑)。メンタルの強さにも驚かされました。

宮崎 自分たちの個性を出せるからこそ、虚像としてのアイドルと等身大の自分とのジレンマに陥りにくいのかもしれないですよね。それがまた時代にも合っている。あと、彼女たちはとにかくポジティブなのが魅力だなと「THE MOVIE」と「ライトアップ・ザ・スカイ」を観て思いました。「私たちはラッキーなんだ」と何度も言っているけど、心からそう思っているんでしょうね。自分たちのできる形でもらったものを返そうという気持ちでパフォーマンスしているからこそ、いろんな人に広く共感されるのではないかと。

黒田 「ライトアップ・ザ・スカイ」の後半、メンバーの1人が「自分たちのこの人気は、いつまで続くかわからない」と言うシーンがあるじゃないですか。練習生時代には1日14時間もレッスンして、ようやくデビューしたにもかかわらずその達観した視点ってすごいなとも思いました。だからこそ宮崎さんがおっしゃるように、「自分たちはラッキーだから今、恩返ししなければ」という思いで活動しているのかもしれないですよね。

宮崎 確かに。そして、そういう彼女たちを見ているとこちらも勇気付けられるというか。「彼女たちもがんばっているんだから、僕らもできることでがんばろう!」と思えるんですよね。

BLACKPINK「THE SHOW」より。
BLACKPINK(ブラックピンク)
BIGBANGや2NE1などを擁するYGエンターテインメントに所属するJENNIE(Vo, Rap)、LISA(Rap)、JISOO(Vo)、ROSÉ(Vo)からなる韓国の4人組ガールズグループ。2016年8月に韓国1stシングル「SQUARE ONE」の収録曲「WHISLE」「BOOMBAYAH」でデビューを果たした。2017年7月に東京・日本武道館でショーケースライブを行い、8月にミニアルバム「BLACKPINK」で日本でもデビュー。2018年10月にアメリカの名門レーベル・Interscope Recordsと契約し、グラミー賞前夜イベント「グラミー・アーティスト・ショーケース」でのパフォーマンスやアメリカ最大級の音楽フェスティバル「コーチェラ・フェスティバル 2019」への出演など、アメリカでの本格的な活動もスタートさせた。2019年1月に始まった自身初のワールドツアー「BLACKPINK 2019-2020 WORLD TOUR IN YOUR AREA」では16カ国22都市30公演を実施し、チケットはソールドアウト。本ツアーの中では東京、大阪、福岡のドーム公演も成功させている。2021年8月には、2020年発売のフルアルバム「THE ALBUM」の日本語バージョン「THE ALBUM -JP Ver.-」をリリースした。

2021年8月20日更新