BLACKPINK|説得力のあるサウンド、個の強さ、時代にマッチしたスタイル…ライター3人のトークで解き明かす人気の秘密

今や世界的な人気を誇る韓国発の4人組BLACKPINKが、初の日本フルアルバム「THE ALBUM -JP Ver.-」をリリースした。

本作には、彼女たちが昨年10月に本国でリリースした1stフルアルバム「THE ALBUM」の収録曲8曲を収録。そのうち4曲は日本語バージョンで収められている。SPECIAL EDITION初回限定盤には映像特典として、今年1月に行われたオンラインコンサート「BLACKPINK 2021『THE SHOW』」(以下「THE SHOW」)のライブ映像が完全収録されたファン垂涎の内容となっている。

デビューからわずか5年でアメリカ最大級の野外フェス「Coachella Valley Music & Arts Festival」に出演するなど、BTSと同じくグローバルな活躍を続けているBLACKPINK。その魅力はいったいどこにあるのだろうか。今回ナタリーでは、「K-POPはなぜ世界を熱くするのか」(朝日出版社)を出版するなど韓国カルチャーに造詣の深い田中絵里菜と、長年K-POPを追い続けているライターの宮崎敬太、そして最近BLACKPINKにハマり“K-POP沼”の入口に立つライター黒田隆憲による「BLACKPINK座談会」を実施。ブルピン(BLACKPINKの愛称)への熱い思いを語り合ってもらった。

文 / 黒田隆憲構成 / 清本千尋

座談会参加者プロフィール

左から黒田隆憲、田中絵里菜、宮崎敬太。
田中絵里菜
1989年生まれ。日本でグラフィックデザイナーとして勤務したのち、K-POPのクリエイティブに感銘を受け2015年に単身渡韓。最低限の日常会話だけ学び、すぐに韓国の雑誌社にてデザイン・編集担当として働き始める。並行して日本と韓国のメディアで撮影コーディネートや執筆を始める。2020年に帰国してから現在はフリーランスのデザイナーおよびライターとして活動。2021年4月に著書「K-POPはなぜ世界を熱くするのか」を刊行。
宮崎敬太
1977年神奈川県生まれ。2015年12月よりフリーランスに。オルタナティブなダンスミュージックや映画、マンガ、アニメ、ドラマ、動物が好き。2010年頃からK-POPにも興味を持ち、SHINeeをきっかけに韓国のエンタテインメントを研究するようになる。ヒップホップ分野にも明るく、ラッパーのD.O、輪入道の自伝で構成を担当。
黒田隆憲
1990年代後半にロックバンドでメジャーデビュー。その後、フリーランスのライター、エディター、カメラマンに転身。世界で唯一のMy Bloody Valentine公認カメラマン。2018年にはポール・マッカートニー、2019年にはリンゴ・スターの日本独占インタビューを務めた。著書に「メロディがひらめくとき」など。8月12日に「シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition」(共同監修)を刊行。

ライブ映像満載の「THE MOVIE」を観て

BLACKPINK「THE SHOW」より。

黒田隆憲 僕たちは8月4日に全世界同時公開されたBLACKPINKのドキュメンタリー映画「BLACKPINK THE MOVIE」(以下「THE MOVIE」)を昨日観たばかりなんですよね。未だ興奮冷めやらぬという感じですが、まずはその感想から話していきましょうか。

宮崎敬太 僕はずっとK-POPが好きで聴いてきましたが、BLACKPINKに関しては代表曲を知っている程度で、がっつり追いかけていたわけではなくて。ライブ映像を観るのも今回が初めてだったのですが、とにかくパフォーマンスのすごみに圧倒されましたね。たった4人であれだけの表現ができてしまうことも、そして「コーチェラ」のステージに立ててしまうことも、各々のレベルのすさまじさがあるからなのだなと改めて実感しました。

田中絵里菜 劇場で観ると音も大きくてライブ感がありましたよね。BLACKPINKはミュージックビデオの映像も大好きなのですが、ライブでは生バンドを起用しているじゃないですか。だから余計に臨場感を味わうことができました。それと、メンバーそれぞれのキャラクターに合わせたイメージビデオみたいなコーナーもよかったですよね。アイドルとしての彼女たちを好きなファンにもたまらない作りになっていると思いました。

黒田 この3人の中で僕がもっともBLINK(BLACKPINKファン)初心者ですが、実は数日前にNetflixで「BLACKPINK ~ライトアップ・ザ・スカイ~」(以下「ライトアップ・ザ・スカイ」)を観たばかりなんですよ。そこで彼女たちの生い立ちやそれぞれのキャラクターの魅力、結成してからコーチェラのステージに立つまでの5年間をまずおさらいしたうえで「THE MOVIE」のライブ映像を浴びたので、楽しさがさらに倍増しました。4人それぞれの魅力について、お二人はどんなふうに感じていますか?

田中 最初にみんなが顔を覚えるのってLISAちゃんだと思うんです。ダンスがすごく上手で、目鼻立ちがくっきりしていて覚えやすいですし。でも、そこからメンバーそれぞれにフォーカスしていくと、全員の個性が立っていることに気付くんですよね。ROSÉちゃんは唯一無二の歌声だし、JISOOちゃんもちょっと鼻にかかったような特徴的な声。JENNIEちゃんも、ベビーフェイスなのにすごく低い声でラップする、そのギャップがすごく魅力的だと思います。

宮崎 僕は普段からヒップホップをよく聴いているんですが、JENNIEちゃんのラップには驚かされました。発声もすごいし、パフォーマンス込みで見せられる人って海外でもなかなかいない。LISAちゃんのラップも相当スキルがあるし、1つのグループにそんなメンバーが2人いるのもすごいことだなって、昨日「THE MOVIE」を観ていても改めて思いましたね。個人的にはJISOOちゃん推しですが(笑)。

黒田 ROSÉさんはギターもうまいんですよね。「ライトアップ・ザ・スカイ」の中でも演奏シーンが何度か登場しますが、彼女の倍音を含んだ声も魅力的ですし、JISOOさんのハスキーで伸びやかな歌声もものすごく特徴がある。とにかく、これだけまったく個性の違う4人が集まっているのに、その個性を生かしたままで調和が取れているのがすごいなと思います。おそらくそれは、自分たちのエゴより「グループとしてどうあるべきか」を常に考えながら行動しているからじゃないかと。「ライトアップ・ザ・スカイ」の中で、ROSÉさんが「デビューしてからは責任を強く感じるようになった」と語っていたように、彼女たちは「自己実現」よりも「同世代のロールモデル」としてどう振る舞うべきかを常に念頭に置いている。そこも今までのアイドルグループとは一線を画すところなのかもしれないですね。

LISA
JENNIE

人気を押し上げる“ライトなファン”の存在

田中 私はもともとYG所属の2NE1とBIGBANGが特に好きだったんですけど、BLACKPINKがデビューした当初は、まだ2NE1への未練が断ち切れず「認めないぞ!」みたいな気持ちもあったんです(笑)。でも、BLACKPINKの活動を追えば追うほど、2NE1やBIGBANGとはまた別の魅力を持ったグループだということがわかってきて。しかも3組ともTEDDYさんが楽曲制作に関わっているので、共通する部分も感じます。例えばBLACKPINKの「How You Like That」は、2NE1の「Come Back Home」にも通じるところがあるし、後半の展開はBIGBANGの「BANG BANG BANG」を彷彿とさせます。ちゃんと“YGの遺伝子”が受け継がれているんですよね。

JISOO

宮崎 USのトレンドのR&Bやヒップホップをすごく意識したサウンドプロダクションですよね。その時々で、最もホットなサウンドを取り込んではいるのだけど、絵里菜さんがおっしゃったように“YGの遺伝子”もすごく感じます。韓国のメロディ感とUSのサウンド感を巧みにミックスすることができる、そのバランス感覚も絶妙だなと。

黒田 TEDDYさんの作る楽曲は、インドや中近東の音階が随所にちりばめられていて、そのエキゾティックな感じはグライムスなどにも影響を与えたのかなと思いました。ちょっとボリウッドにも通じる部分がありますよね。ちなみにK-POPシーンの中で、YGはどんな位置付けにあるのですか?

宮崎 最近また潮流が変わってきていて、今はYG、JYP、SM、HYBE(前Big Hit Entertainment)がK-POPシーンの4大勢力と言われています。僕の印象だとYGはUSの不良っぽいビジュアルイメージだけど、サウンド面では韓国っぽさを大切にしていて、逆にJYPはUSのトレンドをがっつり取り入れているのだけど、ビジュアル面ではK-POPらしい作り込みをしているので、全体的にK-POPらしさを感じます。SMは完全に独自路線というか、ヨーロッパでウケるサブカルっぽいサウンド、映像作りを追求していますね。HYBEは、もはやバンタン(BTS)ですっかりお馴染みです。絵里菜さん、これで合ってますか?(笑)

田中 同感です!(笑) 中でもYG所属のグループは、いわゆるアイドルファンではなくて一般層にも人気があるイメージですね。BIGBANGが活動休止前最後のコンサートを行ったときも、幅広い層から応募が殺到したみたいですし。

ROSÉ

宮崎 日本のラッパーでも「BIGBANGは好き」だとか「このラップはすごい」と言っている人がけっこういますね。

田中 BLACKPINKもいい意味でライトなファンが多く付いていますよね。「アイドルだから好き」という人だけでなく、音楽からファンになった人も多い印象です。

黒田 ご多分に漏れず、僕も音楽とダンスからBLACKPINKのファンになりました。もともとPerfumeが大好きなのですが、彼女たちは3人が一糸乱れぬダンスをするからこそ、そこから滲み出る個性に「日本人らしい表現方式」を感じるんです。それに対してBLACKPINKは4人が思うままに踊っていて、それがシンクロする瞬間もあれば入り乱れるようなところもあり、そのダイナミズムこそが魅力だなと思ったんですよね。

田中 わかります。これまでの韓国のアイドルグループはものすごく練習を積んで、テレビの音楽番組でも正確なダンスを繰り返し踊っていたのですが、BLACKPINKはその場のグルーヴを大事にしているというか。練習した通りにそのまま踊るのではなく、随所にアレンジを入れてくるんです。それってかなり高度なテクニックなのでは?と思っていますね。テレビでのパフォーマンスにもライブを感じるというか。


2021年8月20日更新