マーベル・スタジオ作品の最新作「ブラックパンサー」が3月1日に公開される。
「ブラックパンサー」は同名のマーベルコミックが原作となるヒーロー映画。同じくマーベル・スタジオ作品の「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」にて初登場したキャラクター、ティ・チャラ / ブラックパンサーを主人公に描いている。「クリード チャンプを継ぐ男」のライアン・クーグラーが監督したこの映画は、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)史上初めて黒人ヒーローを主人公としたアクション大作。アフリカの超文明国家ワカンダの秘密を守るべく、漆黒のヒーローと国王という2つの顔を持つ主人公、ブラックパンサー / ティ・チャラが戦いを繰り広げる。劇中の音楽や、映画にインスパイアされたアルバム「ブラックパンサー:ザ・アルバム」は、グラミー賞5冠のラッパー、ケンドリック・ラマーとアンソニー“トップ・ドッグ”ティフィスが全面プロデュースを手がけた。
本作の公開を記念して、音楽ナタリーと映画ナタリーでは特集を展開する。音楽ナタリーの特集第1弾に登場するのはラッパーのSALU。「普段、ヒーロー映画は観ない」と語る彼に、この「ブラックパンサー」という映画から何を感じ取ったのかを話してもらった。さらにケンドリック・ラマーがこの映画に与えている影響、アーティストとしての重要性についても聞いた。
取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / cherry chill will.
飽きないような仕掛けでいっぱい
──「ブラックパンサー」はどうでしたか?
すごかったですね。まさに総合芸術という感じだったな。実は僕、こういうヒーローものは全然観ないんですよ。自宅で観てても途中で飽きてやめちゃうくらい観ない(笑)。でも「ブラックパンサー」は僕のような人間が飽きないようないろんな仕掛けがあって、しかもそれが仕掛けだとわかっていても観ちゃう感じでした。
──マーベル・スタジオの映画を観るのは今回が初めてですか?
中学生くらいまではアメコミが好きだったので、映画化されたら観に行ってましたよ。「スパイダーマン」とか。でも大人になってくると徐々に楽しめなくなってきちゃって。最近はそんなに熱心には観てませんでした。
──では「ブラックパンサー」のどの部分が面白かったですか?
ストーリーが非常に現実的だったというのと、映像や美術にこだわりまくってたところですね。あと全編でヒップホップがかかってるので、僕なんかはそういうところがまず入りやすい。音もすごかったですね。アクションのシーンで流れる曲なんかでも、パンで音を四方八方に振りまくったりしててとてもよかった。とにかく情報量がすごく多い。もう1回観たいな。
──好きなシーンを教えてください。
たくさんあったけど、韓国の釜山のシーンはカッコよかった。ここ数年、フォトグラファーたちの間でアジアの近未来的な夜の街並みを美しく撮ってInstagramに投稿するのがトレンドになってたりして。釜山のシーンはまさにそういう雰囲気のビジュアルだと思いました。絵としても美しい映像と言うか。この映画はこういった最新トレンドを押さえつつ、自然の美しさも表現されてて、同時に「スター・ウォーズ」顔負けのカッコいい基地みたいなのもあって。しかも服もおしゃれで、色合いもよかった。細かいこだわりがたくさん詰まっていたと思う。
愛を描いた作品
──「ブラックパンサー」と言うと、一般的にまず思い出すのが1960~70年代に黒人民族主義運動を行っていたブラックパンサー党です。
ですよね。そういう政治や民族主義的な側面もあるんだけど、それよりもまずこの映画の根幹にあるのは愛だと思います。「ブラックパンサー」は愛を描いた映画ですよ。
──どういうことでしょうか?
愛と戦いって一見正反対のように思えるけど、大事な人や国を守るためにはまず愛を知らなきゃいけない。そして愛を突き通そうすると、どうしても戦わなくてはいけない場面、選択しなくてはいけない場面が出てくる。そのときに強くないと間違った選択をしてしまう。つまり愛と選択は不可分なんです。この映画は優しさや平等のような、温かみのある愛だけではなく、そうしたつらい愛についても話していたと思います。
──広義の愛ということですね。
そうです。主人公のティ・チャラは最初、覚悟や自覚がない。けど自分の信じる理想や守りたい人たちへの愛を貫き通すために強くなろうとする。敵として登場した(エリック・)キルモンガーは間違った選択をしてしまった人。彼はとても複雑なキャラクターで素晴らしかった。愛とは“みんな仲良く一緒に”ということだけではないと思うんです。ときに勇気を持って罪を背負わなければならないこともある。それも愛だと思う。
──キルモンガーは本当に最高のヴィランでした。
もう「大丈夫だよ」って言ってあげたくなるような感じでしたね。切ないし儚い。キャラクターと言えば、ティ・チャラの妹・シュリがめっちゃかわいかった(笑)。最初リアーナが出てきたのかと思いましたよ。「007」シリーズのQみたいに、彼女がいろんなメカを作るのも楽しかったな。
──シュリの存在感は際立ってましたね。
シュリがいないと「ブラックパンサー」はものすごく暗い映画になっちゃうと思うな。本当にいろんなバランスが計算し尽くされてますよね。シュリだけ服の色とか雰囲気が違ってて。彼女が出てくるとシーンが明るくなる。
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ケンドリック・ラマーがいなくては成り立たない
- 「ブラックパンサー」
- 2018年3月1日(木)全国公開
- ストーリー
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アフリカの秘境・超文明国家ワカンダには、ある秘密があった。それは、世界を滅ぼしてしまうほどのパワーを秘めた希少鉱石“ヴィブラニウム”の産出地であるということ。歴代のワカンダ王は、この鉱石が悪の手に渡らないよう秘密を厳守するとともに、鉱石を研究し最先端のテクノロジーを生み出していた。父を亡くした若き国王ティ・チャラは、儀式を経て国を守るヒーロー“ブラックパンサー”に即位する。しかしまだその心構えを持てず、かつての婚約者ナキアへの思いも断ち切れないティ・チャラは葛藤していた。その頃、ワカンダを狙う謎の男エリック・キルモンガーと、武器商人のユリシーズ・クロウが手を組み、大英博物館にあったヴィブラニウム製の武器を盗み出し……。
- スタッフ / キャスト
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監督:ライアン・クーグラー
脚本:ライアン・クーグラー、ジョン・ロバート・コール
出演:チャドウィック・ボーズマン、マイケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ、ダナイ・グリラ、マーティン・フリーマン、ダニエル・カルーヤ、レティーシャ・ライト、ウィンストン・デューク、アンジェラ・バセット、フォレスト・ウィテカー、アンディ・サーキスほか
©Marvel Studios 2018
- V.A.「Black Panther The Album(国内盤)」
- 2018年2月28日発売 / Interscope Records
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[CD] 2700円
UICH-1008
- 収録曲
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- Black Panther / ケンドリック・ラマー
- All The Stars / ケンドリック・ラマー、SZA
- X / スクールボーイ・Q、2チェインズ、サウディ
- The Ways / カリード、スウェイ・リー
- Opps / ヴィンス・ステープルズ、ユーゲン・ブラックロック
- I Am / ジョルジャ・スミス
- Paramedic! / SOB X RBE
- Bloody Waters / アブ・ソウル、アンダーソン・パーク、ジェイムス・ブレイク
- King's Dead / ジェイ・ロック、ケンドリック・ラマー、フューチャー、ジェイムス・ブレイク
- Redemption Interlude
- Redemption / ザカーリ、ベイブス・ウドゥモ
- Seasons / モジー、ジャヴァ、リーズン
- Big Shot / ケンドリック・ラマー、トラヴィス・スコット
- Pray For Me / The Weeknd、ケンドリック・ラマー
- SALU(サル)
- 1988年、北海道生まれのラッパー。2010年に当時はまだ無名の存在だったにもかかわらず、SEEDAが所属するSCARSの「CASH & THE CASHER」で客演ラッパーとしてフィーチャーされる。翌2011年にはSEEDA「黙る時代は終わり」、JAY'ED「ブレイブ・ハート」、SIMON「Change My Life」といった楽曲に次々とフィーチャーされ、話題の存在となった。2012年3月、BACHLOGICが立ち上げたレーベル「One Year War Music」から1stアルバム「In My Shoes」を発売。翌年6月にはミニアルバム「In My Life」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビューし、2014年5月に2ndアルバム「COMEDY」を、2016年4月にKenmochi Hidefumiや中島美嘉ら多数のゲストを迎えた3rdアルバム「Good Morning」をリリースした。2016年10月にSKY-HIとのコラボレーションアルバム「Say Hello to My Minions」を発表したのち、2017年5月に4thアルバム「INDIGO」をリリースした。
2018年3月6日更新