BiSH|1人ひとりのために心を込めて届ける「LETTERS」

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、ライブやフェス、イベントが次々に中止となる中、BiSHが起こしたアクションは清掃員(BiSHファンの呼称)に向けて新しい音楽を届けることだった。BiSHは本来、この夏にタイアップの関係でシングルのリリースを予定していたが、新曲を追加して全7曲入りの“メジャー3.5th”アルバム「LETTERS」を完成させた。

さらに去る7月8日、BiSHは自身初となるベストアルバム「FOR LiVE -BiSH BEST-」を発表。これはデビュー5周年を迎えた彼女たちが、これまでの活動を支えてきた全国のライブハウスやCDショップへの感謝の気持ちを込めてリリースする作品で、エイベックスとWACKの収益は33都道府県の67軒のライブハウスに全額寄付される。

音楽ナタリーでは「LETTERS」に込められた思いを探るべく、アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、リンリンの3人にインタビュー。ライブ活動がままならない中でリリースに至った経緯や、無観客ライブ、テレビ出演時のエピソードなどを語ってもらった。

取材・文 / 田中和宏 撮影 / 中野修也

急遽決まった“3.5枚目のアルバム”構想

──ライブのできない日々が続いていますが、どんな思いで過ごしていますか?

モモコグミカンパニー BiSHはこれまでライブを活動の中心にしてきました。その活動が断たれてしまって、すごくもどかしい気持ちでした。お客さんだけじゃなくて、メンバーとも距離ができたからこそ「やっぱり人に支えられてたんだな」と再認識する時期でもあって。そういったいろんな伝えたい思いをこのアルバムに込めました。

リンリン お客さんと向き合える場所がなくなってしまったので……急に。そのありがたみが今になってすごくわかりました。ライブでの自分たちの表現や歌詞を通じて、お客さんが涙したり笑ったりしてお互いの感情をぶつけ合ってた空間だったので、それがなくなってしまったのが悲しかったです。

アイナ・ジ・エンド

アイナ・ジ・エンド BiSHはコンスタントかつ頻度高めにライブができていましたけど、それがいきなりなくなってしまって。心にぽっかり穴が開いた感じで、寂しい気持ちもすごく強かったです。でもそんな中だからこそ生まれる表現がありました。それをちゃんと歌声や振り付けに落とし込めたと思うので、無駄な時間ではなかったのかな、ここからまたやり直していくと深まるものがあるんじゃないかなと思える期間でした。

──「無駄な時間ではなかった」というのはアルバムの楽曲からも伝わってきました。でもライブができなくなった2月頃は焦りのほうが強かったのかなと。

モモコ 最初のほうは確かに焦ってました。でも事務所の社長の渡辺(淳之介)さんがいろいろなことを考えてくださって。私たちだけではなく、所属している全部のグループのことを。「どうにかしてお客さんと楽しめないか」を考えてくれてる姿勢がとても強く伝わってきたので、「WACKなら大丈夫かな」って気持ちに(笑)。自分で考えることも大事ですけど。

──では具体的にアルバムの話が出たのは?

アイナ まず2月の後半ぐらいから無観客ライブになりまして。その時期ぐらいに「ぶち抜け」「TOMORROW」あたりの曲はもうあったんです。7月くらいにCDを出すという話はその頃には聞いてました。でも形態がアルバムになると聞いたのはけっこう最近で(取材は6月下旬に実施)。

モモコ うん。ライブができなくなった期間に急遽制作した曲を追加した感じ。“3.5枚目のアルバム”を作るというのはホントに突然上がってきた話で、急に「歌詞を書いてください」と言われて。なのでこの機会がなかったら生まれなかった作品です。

音楽は人を救える

──3.5thアルバムのために追加された新曲というのは?

モモコ 「LETTERS」「ロケンロー」「スーパーヒーローミュージック」「I'm waiting for my dawn」の4曲です。

──このアルバムはBiSHにとってどんな作品になりましたか?

アイナ さっきリンリンが言ってたみたいに自粛期間中に、みんなに会えなくなって。その状況から生まれてくる思いはやっぱり「寂しい」だけど、それ以上に「音楽は人を救える」と私たちは思っていて、こういうときだからこそ出てくる言葉っていうのはなぜかポジティブでした。だから全体的に今までにないぐらいすごく素直で、ポジティブ。ストレートって言うんですかね。そういう表現が集まったアルバムになりました。

──歌詞に込められた素直な思いを伝えたいという思いから、曲より先に歌詞をファンに届けたということですね(参照:BiSH、スカパラホーンズ参加曲含む新アルバム「LETTERS」曲順とリード曲の歌詞公開)。BiSH初のベストアルバム「FOR LiVE -BiSH BEST-」に関しても、CDショップ、ライブハウスへの感謝の気持ちを込めて作った作品だということを表明してましたし(参照:BiSHが初のベストアルバムを緊急発売「1番大切なCDショップで手に取って」)。「LETTERS」という楽曲には清掃員をはじめ、音楽ファンへの思いが詰まっているなと感じました。

モモコ そうですね。清掃員への思いもあるし、BiSHのメンバー同士でさえほとんど会えてなかったから、歌詞の思いはメンバーに向けたものでもあるかもしれないと私は思っています。メンバー、スタッフさん、清掃員も含めたみんな。BiSHは単体で立ってるわけじゃないし、いろんな周りの人に支えられているので、その支えてくれているたちに向けた「ありがとう」という感謝の思いが詰まってます。

リンリン

リンリン BiSHはユニゾンあまりしないんですが、「LETTERS」ではサビで珍しく3対3で歌っていて。BiSHの6人がそろって、「このアルバムを届けたい」という気持ちがより一層出ている感じがしました。いろんな人に伝わればいいなと思います。

──BiSHのレコーディングは1人ひとり別録りですよね?

アイナ 基本そうですね。「LETTERS」はリンリンが話したように3人ずつ、「スーパーヒーローミュージック」の最後は2、3人の声が重なっていて。どの曲にも重なっている部分はありますけど、ちょいちょいぐらいかな。

モモコ こういうご時世なので、みんなで一緒に録るってことはしないで1人ひとり歌って、あとで重ねていただきました。でもそのよさもありますよね。一緒に歌わず別の場所で録ってるけど、できあがった楽曲で思いを重ね合ってる感じがします。

“楽器を持たないパンクバンド”の新たなチャレンジ

──「TOMORROW」のミュージックビデオでは“楽器を持たないパンクバンド”のBiSHが、ついに“楽器を持ったパンクバンド”になりました。5年のキャリアを通して、まだ見せたことのなかったBiSHの一面がこの映像に詰まっていますね。

アイナ MV撮影に関するメールに「アユニ・D(ボーカル)、アイナ・ジ・エンド(ギター)、ハシヤスメ・アツコ(ウッドベース)、リンリン(ピアノ)、セントチヒロ・チッチ(ドラム)、モモコグミカンパニー(タンバリン)」みたいな楽器のパート名が併記されていて、そこに「楽譜もお送りします」とも書かれていて。「ん?」ってなった(笑)。

──それは驚きますね(笑)。

アイナ それで「あ、楽器を持つんだ」って知った感じです。そういう企画をいつかはやってみたいと思っていましたし。モモカンがタンバリンであっちゃん(ハシヤスメ・アツコ)がウッドベースとか意外な感じがして面白かったし、すごくよかった。

モモコ 「TOMORROW」のMVをけっこう深読みされている方もいらっしゃると思うんですけど、そんなに深い意味はないっていうか。その人がそう思うならそれが正解っていう感じで。今後、BiSHが楽器を持つっていう未来はない気がしてるんですけどね。そのMVだけでちょっと遊んでみたっていうイメージかな。

アイナ でもやっぱりBiSHは踊って体で表現したいというか。楽器を持たれてしまうと私、振り付けできなくなりますね(笑)。

──確かに。でも初めての楽器を持ってのパフォーマンスに何か発見はありましたか?

アイナ けっこうありました。楽器を持つだけでこんなに変わるんだって。例えば振りを付けるとき、普段からドラムの音は意識してるし、好きなように踊るときもギターの音くらいは感じ取るようにしてたんです。でも自分で弾いてみたら、ダウンピッキングのリズミカルな感じに「あ、これをちゃんと振りに生かしたことなかったな」と気付けたし、けっこういい経験でした。ギターってめっちゃ重いし、持ってるだけで体の動き方に制限ができる。楽器を持ってパフォーマンスしてる人は全員すごいと改めて思いました。

──モモコさんはタンバリン、リンリンさんはピアノを演奏していましたが、できれば踊りたい?

リンリン そうですね。ピアノは窮屈。

──(笑)。

リンリン 演奏以外の大きな動きだと立つことぐらいしかできなかったので。

モモコ 私はタンバリンの持ち方が最初わからなくてアイナにちょっと振り付けしてもらったり、手伝ってもらったりしました。タンバリンってちっちゃいように見えて、持つだけで体の自由が利かなくなったと感じて。全身を使って自由に表現できることはすごくありがたいことだったんだなって思いました。楽器は楽器でしかできない表現ができる利点はあるけど、私は全身を使えないという点で不利に感じて。タンバリンですらそう感じたので、やっぱりBiSHのダンスのほうがいろんなものを表現できるのかなって。

アユニはかわいい

──続く「スーパーヒーローミュージック」も疾走感のあるロックチューンです。アユニさんが書いた歌詞が、先ほど皆さんが言っていたように等身大の素直な気持ちを表現をしていると感じました。

アイナ 「匙を投げたならならすぐ拾えばいいだろ」というフレーズは、昔のアユニだったら出てこなかった表現だろうなって。アユニ自身の成長している姿を私たちは間近で見てるし、それに刺激されて私たちもがんばろうと思うので。こんな言葉が出てくるのはシンプルにすごいし、これを歌えるのがうれしいなって。個人的な意見ですけど、一緒に成長できてる感じがあります。

モモコグミカンパニー

モモコ 「スーパーヒーローミュージック」には「惑星のすみっこ」という単語が出てきて、小さい場所から広い世界を見ている感じがしました。これもこの活動自粛というか、家にいる期間が長かったからこそ出た歌詞なのかなと思っていて。部屋の中から外を見られる場所って窓しかないですよね。だから、その部屋の中でアユニが何を考えていたのかが直に伝わってくるような歌詞だと思いました。

リンリン アユニはバンド(PEDRO)をやっているし、日増しに音楽が好きになってるんだなって気持ちが伝わってくるような内容ですごいなって。私は普段BiSHっぽい楽曲をあまり聴いてないこともあって、「僕を救ってくれたスーパーヒーローは永遠に鳴り止まない音楽たち」みたいな歌詞は書けない。あとアユニはコーヒーが飲めないんです。けど歌詞に「コーヒー」が出てきてて、ちょっと大人っぽい背伸びしたワードを使うのがかわいいっていうか、アユニっぽいなって思いました。