BiSHが7月3日にメジャー3rdアルバム「CARROTS and STiCKS」をリリースした。
この作品は前作「THE GUERRiLLA BiSH」から1年8カ月ぶりの新作オリジナルアルバム。4月よりリリースに向けて「#BiSHアメトムチ」プロジェクトが企画され、渋谷駅地下コンコースにピールオフ可能なCD紙ジャケ2000枚を使った広告が掲出されたほか、時期をずらして「STiCKS」「CARROTS」というアルバムの新曲のみで構成された作品がApple Music限定で先行配信リリースされた。さらに平行して行われた「LIFE is COMEDY TOUR」で配信されたばかりの新曲がさっそく披露されるなど、多岐にわたる展開を見せた。
音楽ナタリーではアルバムの発売を記念してアイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、リンリンの3人にインタビュー。アルバム収録曲の話題を中心に話をしてもらい、進化し続けるグループの現在を探った。
取材・文 / 田中和宏 撮影 / 中野修也
汚いBiSHと綺麗で優しいBiSH
──昨年12月の千葉・幕張メッセでのワンマンライブ(参照:BiSHが最高を更新、幕張メッセ単独公演で1万7000人熱狂)の成功から約3カ月後、今年4月1日にアルバムのリリースに向けた「#BiSHアメトムチ」プロジェクトがスタートしました。アルバムの制作自体はいつ頃から始まったんですか?
セントチヒロ・チッチ 去年のうちから制作が進んでいて、私は2月から3月にかけて「MONSTER biSH」で四国を回っている時期に歌詞を書いていた記憶があります。
──「#BiSHアメトムチ」プロジェクトについて制作陣から説明を受けてどう思いました?
チッチ 1つのプロジェクトを経てアルバムを発表するのは面白いなと思いました。まず「二面性を見せる」というコンセプトがあって。アルバムにはもともと「BLACK and WHITE」という仮タイトルが付いていて、それはBiSHの汚い部分と綺麗で優しい部分を差別化して表現するという内容でした。今まで複数の要素を別々にしてBiSHを見せるということがなかったので、私たちにとってもお客さんにとっても何か新しい発見になるかもしれないと感じました。
リンリン 最初にプロジェクトのコンセプトを聞いて、「似た曲ばっかりのアルバムになっちゃうんじゃないかな」と思ったんです。でもできあがった曲はそれぞれ個性の違う内容で驚きました。
アイナ・ジ・エンド 二面性をテーマに表現できたら、等身大の自分たちを表現しやすいだろうと思ったので、楽しみにしてました。人を見ていても自分と向き合っていても思うんですけど、やっぱり日頃からワーキャーしてるだけの人はあまりいないんじゃないかなって。普段元気でも、1人でいるときとか眠る前とかに寂しくなるようなことが少しばかりはあるだろうし。どんな人でも持ち合わせているそういう二面性がテーマの作品であれば、多くの人の共感を得られる気がしました。
生々しく人間らしい作品に
──「#BiSHアメトムチ」プロジェクト開始時には、渋谷駅地下のコンコースに巨大な広告が出ました(参照:渋谷駅地下に急げ!BiSHレアCDが貼られた巨大広告登場)。2000枚のCD紙ジャケットが貼られている状態の広告を撮影しようと思って現場に急いで向かったんですが、着いた頃にはけっこうな人だかりになっていて。
アイナ あ、見ていただいてたんですね。
チッチ リハがあって私たちは見に行けなかったんですが、40分くらいで紙ジャケットは全部なくなったみたいで。反響があってうれしかったです。
──今回のアルバムは前作「THE GUERRiLLA BiSH」とは違ったベクトルで多彩な内容になっていますね。ボーカルのバリエーションもぐっと広がったように思います。
リンリン いろんな楽曲でレコーディングをして、今までやったことのない歌の表現ができるようになりました。あとアイナ象(リンリンが呼ぶアイナのあだ名)が考えた新曲の振り付けが世界観のしっかりあるものになっていて。私は今までカッコつけて睨むだけしかできない感じだったんですけど、先行配信された「STiCKS」に入っているような激しめの楽曲でも、似たり寄ったりにならない表現ができるようになりました。
──「THE GUERRiLLA BiSH」のあたりからシャウトする機会が増えましたが、最近のライブではそのシャウトが以前にも増して曲に寄り添っているような印象です。
リンリン 以前までライブでシャウトするときはとにかく必死に叫ぶだけだったんですけど、今は曲によって笑いながら叫べるようになりました。ちょっとずつ変化を持たせることができるようになったかなって。
チッチ 今回はボーカルにディストーションをかけて歌うとか、レコーディング中にも新しい挑戦をしました。私の場合はストレートに歌わせてもらうことが多かったからそういう歌い方は初めてで。6人ともいろんな挑戦をしていて、それぞれ難しいところがありつつもがんばったので、思い入れのあるレコーディングになりました。「CARROTS and STiCKS」は人間っぽい生々しさを感じる作品になったと思うので、全部聴き終わったあとに人それぞれいろんな感情になると思います。
アイナ 私は「STiCKS」の曲たちがすごく好きで、特に「優しいPAiN」は渡辺(淳之介 / WACK代表)さんの歌詞が今まで以上に弱いところを言葉にしてる印象がありました。渡辺さんがここまで弱いところを見せてくれたなら、私はもっと大きく、その弱い部分を表現しないと曲に込められたメッセージが伝わらないかもしれない。だからこの曲では「壊れていく『スパーク』」(2015年発表の1stアルバム「Brand-new idol SHiT」収録曲)をイメージした振り付けにしました。もともとある曲の振り付けをいじるのが好きではなかったので、初めての挑戦ですね。その行為によって自分の内面をえぐられるような気持ちになりながら表現できるようになったので、ライブでも渡辺さんの歌詞に寄り添えるような気がしています。
重なりあって逆さまになって
──「STiCKS」の収録曲はツアー初日の神奈川・CLUB CITTA'公演でお披露目され、「遂に死」ではメンバーがステージで横たわって重なるという斬新なパフォーマンスがありました。
アイナ 「遂に死」の振り付けはお風呂で毎日考えていて、だいたい頭の中でイメージできていたんですけど、その段階では「なんか普通だな」と。観てくれる人に何か違和感を残さないといけないなとさらに考えていったら、「死体が重なってる感じだったら面白いかも」と思い付いて、お風呂上がりに部屋で横になってぬいぐるみをメンバーに見立てて体の上に乗っけていって(笑)。で、練習でメンバー同士キャーキャー言いながら合わせていったんですけど、ライブでやるたびに体が痛いんですよ(笑)。
──アイナさんは積み重なるメンバーの一番下にいますもんね。
アイナ そうです。振り付けを考えたのが私なので(笑)。本番を重ねるごとにマシになっていくかなと思ったけど、やっぱりまだ痛いです。
チッチ 勢い付いているからね。
アイナ あとアユニはその振り付けの部分で逆さまになって歌ってもらってます。どうしても逆さまになってほしかったんですよね。カッコよくないですか? 個人的にロックスターっぽいと思って。アユニならいけると思ってお願いして、実際すごいんですよ。逆さまになっても前髪が崩れない(笑)。
──初日の川崎公演ではスクリーンもあって、アユニさんが逆さまになっているときに、カメラマンの方がアユニさんの顔に合わせてカメラを逆さまにして映していました。ライブの舞台チーム、映像チームなどの連携もあって、お客さんがライブをより楽しめるような空間ができあがっているように感じました。
チッチ カメラワークすごいですよね。ずっと一緒にやってきているスタッフの皆さんががんばってくださって、本当にありがたいです。
アイナ ライブの前に全体リハがあって、メンバーから意見を出すこともありますし、スタッフさんがリハの段階でステージの様子をすべて動画で記録してくれているので、「ここはこうしたらいいんじゃないか」「この部分はこの子をフィーチャーしたらいいんじゃないか」といろいろ考えてくれているんです。ライブ制作のスタッフさんからは本当にいつも愛を感じています。