1つのバンドみたいな感覚で(チッチ)
──チッチさんの「夜王子と月の姫」のレコーディングには、今回リーガルリリーのメンバーが参加していますね。彼女たちとはもともと交流があったんですか?
チッチ はい。ボーカルの(たかはし)ほのかちゃんと仲良しで。私自身がファンで、リーガルがすごく好きだったんで、「夜王子と月の姫」をやるって決まったときにほのかちゃんに会って「お願いします」って言ったんです。そしたら喜んで受けてくれて。
──リーガルリリーも銀杏BOYZのファンだった?
チッチ いや、リーガルは誰も銀杏を通ってないんですよ。でも私はそういう人とやりたいって思ってたから。そのほうが原曲に媚びることなく、リーガルの世界観で作れると思ったしそっちのほうがよかった。それでプリプロから一緒に作って、キーをどうするかとかも話し合って。1つのバンドみたいな感覚で作っていきました。私の好きなことも思いっきりできたし、リーガルのメンバーも自分たちのやりたいことを詰め込んで。
──ボーカルとバックバンドじゃなく一緒に作った感覚がある?
チッチ すごくありますね。プリプロだけで10時間以上やったし、こんなふうにアレンジから携わったことがなかったから全部初めてでずっとワクワクしてました。
夢が叶って楽器がたくさん入った(アイナ)
──アイナさんの「きえないで」は亀田誠治さんがプロデュースを手がけています。亀田さんとの出会いはいつ頃ですか?
アイナ 私は以前から椎名林檎さんがすごく好きで、亀田さんの姿は林檎さんのライブ映像とかで観てたんですけど、お会いしたのは5月の「VIVA LA ROCK」が最初です。亀田さんの演奏も音楽への接し方もカッコいいなって憧れていて。だから今回エイベックスの方に「亀田さんにアレンジお願いするのはどう?」って言われたときに「そんな夢みたいなことあるんですか!?」って即答でお願いしました。
──亀田さんらしい、奥行きのあるサウンドになりましたね。
アイナ この曲を作った18歳のときは曲の作り方なんて何もわからないから、Aメロ、Bメロ、サビとかそういう展開もないし、ぐちゃぐちゃで意味わからないんですよこの曲(笑)。でも「ここにベースが入ったらどうなるんだろう」とか「もしドラムが入ったらもっといいのかな」とかっていうのは考えてた。だからその夢がやっと叶って、亀田さんにいっぱいドラムとかベースとか入れてもらえてうれしいです(笑)。
──じゃあ完成形は自分が想像していた通りに?
アイナ もう想像を全然超えて手の届かないぐらい素晴らしい楽曲になったって自分では思ってます。原曲を尊重してくれながらも“亀田節”を入れてもらって、ベースヤバい!カッコいい!みたいな(笑)。もらったオケだけ聴きながらずっと家で踊ってました。だから聴いてほしいなあ、いっぱいの楽器の音。
──レコーディングで印象深いことは?
アイナ 私「きえないで」って書いた紙に毎回チューしてから歌ってたんですよ。
──それはどうして?
アイナ そこまでしないと入り込めないぐらいの曲だったので。あと最初はパートごとに分けて歌ってたんですけど、なんか違うなって思って、1曲通して歌わせてもらったりしてました。
原曲では叫ばないけど私は叫びたかった(チッチ)
──今回はどちらもBiSHとは異なる、しっとり聴かせるタイプの楽曲に仕上がりましたが、歌う上で気を配った点はありましたか?
チッチ BiSHでは松隈(ケンタ)さんがアドバイスしてくれたことを精一杯やる、みたいな感じで。それも私の本質を生かしてくれてると思うんですけど、今回は私1人で私なりに歌ってみました。ほのかちゃんの意見を聞きながら、でもあんまり考えすぎないで。
──まっすぐな歌声が印象的です。
チッチ うん、サビとかは本当にまっすぐ歌うだけ。深く考えずに曲に向き合って、うまく歌うっていうよりも私を全部出せるように歌おうって思ってたので。
──わかる気がします。チッチさんはいわゆる“上手な歌い方”もできるはずなのに、この曲では素朴な感じで歌っていますね。
チッチ 特に最初のアカペラの部分とかは、ふらふら散歩しながら口ずさんでるときみたいな気持ちで歌ってみました。自然体でいいやと思って。でも「君が星こそかなしけれ」っていう歌詞のところは、私の中で一番悲しい、切ない部分で、原曲では叫ばないんですけど私は叫びたかった。その最後のところでBiSHのセントチヒロ・チッチが表れたって感じです。
──峯田さんにはもう聴いてもらったんですか?
チッチ 聴いてくれたみたいですけど峯田さん本人とは話せてなくて。でもこの曲を録ってくださったエンジニアさんがゴイステと銀杏も担当していた人で、「人生で3回目の『夜王子と月の姫』だよ」「君の声はすごく頭に残るし、いい『夜王子と月の姫』ができたと思う」って言ってくれて、すごくうれしかった。なんか歴史の中に入り込んだ気分です(笑)。
──アイナさんの歌唱もいつもよりプライベートな雰囲気を感じます。
アイナ そうですね。私もうまく歌おうとしなかったかも。ピッチも気にしてなくて私生活の延長って感じです。それがいいかなって。
──2人ともBiSHではいつも堂々と歌い上げているのに、ソロでは「うまく歌いすぎないように」と考えてるのが面白いですね。
アイナ さっきも言ったけどこの曲は親友のために歌ったから。でも誰か1人に向けてそれだけ強い気持ちで歌った歌は、たぶん聴いてくれたほかの誰かにも届くと信じていて。絶対みんなにも突き刺さって寄り添える曲になるって思ってます。
次のページ »
自分が作ったものに独りぼっちで向き合った(アイナ)